2.Who am I
夢を見る。
長い長い夢。
終わりがないようでいて、必ず終わる夢。
人が存在しなくなった時、この夢から私は醒めるのだろう。
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意識がはっきりしないながらも、周りを見回す。
そこは暗闇だった。
いや、実際に暗闇なのではなく、単に像が結ばないだけなのかもしれない。
とにかく、何も見えなかった。
ただ、体を包む暖かい何かが心地よくて、そのまま眠りに落ちた。
次に目が覚めると、幾分周りが見えるようになった。
ぼんやりとだが、遠くに人の影らしきものが見える。
だがその人は、こちらが起きた事に全く気付いていない様子だった。
いざ声を出してみようとすると、「だー」とか、「びぁー」とかの意味を成さない音ばかりだ。
びぁーって何だよ、びぁーって。
どうやら、舌の機能がうまく働いていないらしい。
麻酔でもかけられているのか?
それなら頭がはっきりしないのも、納得がいく。
手足も先ほどから自由に動かず、寝返りをうつ事すら困難だ。
きっと、麻酔がとけていないせいなのだろうと思った。
今度は手を意識して、目の前に持ってこようとしてみる。
何せ、早く体の自由を取り戻したかったのだ。
体のコントロールのきかない状態は、自分をひどく落ち着かなくさせる。
その不安を少しでも取り除きたくて、ちょっとした努力を試みる。
神経を上腕部に集中して、ゆっくりと腕を持ち上げる。
やっとの事で持ち上げた、その腕の先に付いている手を見て私は驚いた。
それはどこからどう見ても、赤子の手であったのだ。
しばらくその手を見るともなしに見つめて、ゆっくりと下した。
いやいや、ありえないから。
強く頭を振った。
実際は多少揺れただけであったが。
確か自分は、18才前後だったと思う。
思うというのは、頭がぼんやりしていてはっきり思い出せないからだ。
自分は致命傷を負っていて、あれ?
それからどうしたんだったか。
そこから先が思い出せない。
なんだか色々思い出せない事が多い。
これも麻酔のせいなのか。
ふむ、軽く腕を組もうとして、動かない事を思い出した。
「はぅぃー…」
思わず音に出してしまった言葉にふと、そういえばそんな技術、まだ発見されてなかったなぁ、などと考えた。
まだ?
そして、ハッとした。
そう、麻酔という技術がないのに、麻酔という言葉を知っているという矛盾。
姿が赤子であるのに、年齢が18才であるという矛盾。
それらの事に疑問を抱きながらも、それら全てを受け入れようとしている矛盾。
一体…
そこまで思い至ったところで、割れる様な頭痛が襲う。
身もだえしようにも体が動かない。
あまりの痛みに、意識が混濁し、消失した。
そして、全ての記憶を取り戻した。