3話
ウロボロスと名乗った少女はハンバーガーの群れをペロリと平らげて、おネムのようだった。麦茶のコップを両手で持ったままうつらうつらとしている。
まだてっぺんで睨みを利かせている太陽の発する熱は、室内と言えども耐え難いものだった。
「暑いか?」
少女は黙って麦茶をちびりと飲むと、こくりと頷いた。
冷房の電源を入れる。涼しい風が送風口から吹き出す。
「…涼しいね」
「あぁ」
彼女はそう呟いた。
そしてまた、麦茶をちびりと飲んだ。
「…帰る場所とかあるのか?」
そんな僕の無神経な質問に、彼女は動きを止めた。
今度は麦茶をぐいと飲み、僕の方に向き直した。
「私、帰るところないんだ」
「そっか…」
「ここにいてもいい?」
「………もちろん」
彼女は嬉しそうに笑い、残ったコップの麦茶を飲み干した。
________________________
外はすっかり暗くなり、どこからともなく鈴虫の声が聞こえる気がする。
百から貰ったシチューを晩御飯に食べた後、僕と彼女は机越しに向かい合っていた。
「じゃあ始めようか」
「うん、こういう事するの初めてだから緊張するな…」
彼女はほんのりと頬を染め、その場に座り直した。
「初めは誰でも緊張するものだよ、力を抜いて、リラックスして」
「うん…」
彼女はゆっくりと息を吸い、吐いた。
「じゃあそろそろ始めようか」
「わかった」
自己紹介をだぞ。何か勘違いしているやつがいるのなら大間違いだ。大間違いの大馬鹿野郎だ。
「じゃあまずは僕から。改めまして、僕の名前は白川コウ。高校生で帰宅部。えーっと…他に何か言うことあるかな?」
「そんな感じだね。わかった。……私の名前はウロボロス。えーっと……好きな事は食べる事?です!」
「ウロボロスは何かと不便だな……」
机の上に置いておいた紙に’’ウロボロス,,と書く。
「何かいい名前考えてくれる?」
「ウロボロス…ウロボロス…ウロ…虚か。虚子。虚子と書いて虚子と読む。どうだ?」
「虚子!可愛い名前!」
「よし。今日からキミは虚子だ。苗字も付けて桜川 虚子だ!」
「わーい!」
ウロボロス改め桜川 虚子は、自分の新しい名前をとても気に入っているようだ。
一通りぴょんぴょんと飛び跳ね喜んだところで、彼女は動きを止めた。
そして僕の方をゆっくりと向き、にこりと笑った。
僕は罪悪感に押しつぶされそうになりながら、にこりと笑い返した。