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明日の色  作者: 砂たこ
5/5

カラーレス・カラフル

 思うように使えない松葉杖に苛つきながら、リハビリ訓練を続けて4日が過ぎた。

 土曜日以降、コーシの顔を見ていない。後悔と反省で送ったLINEも、既読が付いた切り、今日に至る。忙しいことは分かっているし、謝っておきながら返事の催促なんか出来る筈もない。


 もやもやした気持ちを抱えたまま、歩行訓練を兼ねてフリールームへ行く。広いテラス風の窓があり、テーブルやソファ、自販機、レンジ等が並んでいる。入院患者の息抜きや、見舞い客との気兼ねない談笑に利用されている。


 私は自販機で温かいココアの缶を買って、窓辺のソファでチビチビ啜った。窓の向こうは、高速道路が走っていた。物流のトラックが次々に駆け抜ける。忙しない季節を前に、陽だまりの院内は、毎日同じことの繰り返し。たった10日程度の入院とはいえ、日常から切り離された「置いてけぼり感」を育むには十分だ。焦るなという方が無理。リハビリも。仕事も。コーシとのことも。


-*-*-*-


 病室に戻ると、カーテンの中、コーシが丸椅子に腰掛けていた。くたびれてシワの付いた紺色のスーツで。


「あの……ごめんなさい、私、あの時」


「うん。僕も、ちゃんと聞こうとしなかった」


 口をついた言い訳を、彼は最後まで言わせなかった。私をベッドに座らせて、手から松葉杖を受け取ると、丁寧に壁に立て掛けてくれた。


「それと――ずっと、話しそびれていたことがある」


 いつものフワフワした雰囲気とはちょっと違い、見下ろす眼差しは固い。


「若奈が大変な時だけど――ううん、こんな時だから……聞いて欲しい」


 丸椅子を示すと、大人しく腰を下ろす。それでも、彼の眼差しは真剣で。


「来月、新店舗が開店するって話、したよね」


「うん」


「そこ、任されたんだ、僕」


「――え」


「だから、マネージャーじゃなく、店長」


 突然の出世。喜んでいい筈なのに、彼の緊張感に飲み込まれ――どちらともなく、ゴクリと喉が動いた。


-*-*-*-


「今のアパートから新店舗に通うのは、正直、キツい。だから、引っ越そうと思うんだ」


 驚いたままの私の手――両手を、彼はギュッと握る。


「退院したら、一緒に住んでくれないか。もちろん、僕も家事するから」


「――は? ええええっ?!」


 二の句が継げない私の前で、彼は紙袋から灰色の包みを取り出した。ぎこちない手付きで包みを解き、弁当箱の蓋を開ける。半分白米、残る空間にはゆで玉子と赤ウィンナー、1cmはある分厚いキュウリの輪切りが並ぶ。

 この不細工な弁当を、一生懸命に作る姿を想像すると――胸の奥がキュンとした。


「朝起きて、真っ白なシーツは嫌だよ。若奈がいないと寂しいんだ。生活から色が消えるって、多分、こういうことなんだと思う」


 誰かがいて、何かに遭遇して、積み重なって。日常は、カラフルに彩られていく。私はずっと、必死になって色を集め、何度も何度も塗り重ねてきた。


 ――でも。


 スケジュールもキャリアも、しばらく空白になるけれど。未だ見ぬ色を1つずつ、彼と一緒に見つけていけたら――。


「白から始めるのも、悪くないわね」


 私は微笑んで、温かな彼の手を握り返した。


【了】


拙作をご高覧いただき、ありがとうございます。



この話は「目覚めたら、白」というテーマで書きました。ですが、「起きたら」「気が付けば」という展開のスタートにはしたくありませんでした。


日常を彩る、という表現があります。また、悲しみをブルーと表現するように、今回の話では、色を比喩的に扱いました。


エピソードのタイトルは、物語の発端、事故の現場で空から()降る(・・)(カラフル←駄洒落)から始まり、色が混ざった後の色(=白)で終わります。


色を混ぜることを混色といいます。

ディスプレイの光でも用いられている「色の加法混色」では、基本の青、赤、緑を混ぜると「白」になります。(反対に減法混色では黒になります)


主人公と母親との関係は、ブルー

彼氏との関係は、赤(ちょっと薄いですがピンク)。

仕事(同僚)との関係は、緑。

ちなみに、「グリーン・アイド・モンスター」とは、「妬む」という意味の慣用句です。


全部混ざって、ぐちゃぐちゃになった果てに、「白」からリスタートする――というお話でした。


彼女が退院後に向き合う、仕事、彼との関係は、楽観出来ない気がします。

けれども、心機一転、新しく鮮やかな日々を送ることが出来そうな予感を、滲ませることが出来たのではないでしょうか。



あとがきまでお付き合いいただき、ありがとうございます。

また、別の話でご縁がありましたら、よろしくお願いします。



2020.3.15.

砂たこ 拝


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― 新着の感想 ―
[一言] 生活には色がある。 普段は意識することないけれど、何か物足りないと感じたときに、無意識に慣れ親しんだ色を探してしまうことってありますよね。 人生どんなところで真っ白になるかわかりません。 事…
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