表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋さくら  作者: Ayumu M
7/9

真実

 今回は、重要な部分です。


 お気軽にお読みください♪


 気が付けば日が昇っていました。


 決心したものの、解決策が思い浮かびませんでした。


 悪戯に時間だけが過ぎていきます。


 しかし猶予はありません。


 彼は今日ここを発つと言っていました。

 今、この機会を逃せば一生会うことはできないでしょう。


 そんな時、私の脳裏を過った人は母でした。


 自分の無力さに嫌気が差します。

 誰かに助けを求めなければ何もできないのです。


 しかし立ち止まる訳にはいきません。

 もう一度彼と会う為には、鬼にさえ魂を売る覚悟でした。


 部屋へ入ると、そこには昨日と全く変わらない姿勢で煙草を愉しむ母の姿があります。


「綺麗な顔ね」


 開口一番がその言葉でした。


 殴ってやろうと本気で思います。


 デリカシーの欠片もない最低な女です。


「とんだ趣味ですね。天国のお父さんに、どこに惚れたのか聞いてやりたいです」


「案外泣き顔かもしれないわね。たとえ泣き顔であっても、怒りの顔であったとしても、心からの表情ならば綺麗と感じる。それがあいつと私なのよ」


 母が泣くところを想像しようとして、できませんでした。


「それでお前は何が聞きたいのかしら? これでも昨日はやりすぎたと反省しているの。十五分程度なら時間をあげるわ」


「どうすれば視えるようになりますか?」


 母は私の短すぎる問いを正確に理解したようです。


 間髪入れずに答えが返ってきました。


「〇を一にするという意味ならば、努力ではどうにもならないわ。あれは先天的なものが大きいから。にしても、どうして視えるお前がそんなことを聞くのかしら?」


「……知ってるくせに」


 私の言葉を聞いて、嗜虐心を満たした母は満足そうに頷きました。


「そうね、それで自業自得のお嬢様は元に戻りたいと。さっきも言ったけど、〇を一にすることは不可能よ。それでも力を取り戻したいというならば、失った時と同じことをすればいい」


「もう一度、契約すればいいと?」


「そもそも〇を一にするのではなく、一を返してもらうと考えるの。もっとも視えもしないお前がどうやって契約をするのか、差し出せるものがあるのか、よく考える必要があるわね」


「差し出せるもの」


 彼がいる場所には心当たりがありました。

 しかし、差し出せるものについては見当がつきません。


「本当に仕様もない子ね。めじめな顔も見れたことだし、今日は気分がいいわ。それにもう隠す必要がなくなったから教えてあげる。そもそも彼はお前のせいで生まれた妖なのよ」


「私のせいですか?」


「お前、小さい時に山から狐を拾ったことを覚えているかしら。死に際の狐を抱えて、可哀想だと大騒ぎしたでしょう。看病の甲斐なくあっさり死んだあいつよ、葛籠(つづら)は」


「彼があの時の狐?」


「あの阿呆はそれだけで成仏せずに、こちらに残って恩を返そうとした。ようするに善狐(ぜんこ)になった。普通ならまずあり得ないこと。でもあの時は様々な要因が絡んでいたからね。私の嫌悪する言葉で表現するなら、奇跡が起こった訳よ」


 私はかつてお父さんに教えてもらった話を思い出しました。


 善狐は妖狐の一種で、人間の願いや望みを叶えようとする妖です。

 善狐には白狐(びゃっこ)金狐(きんこ)銀狐(ぎんこ)などが存在します。


 希少な存在で、この道へ進む者でさえ滅多に出会うことはありません。


 しかし善狐も妖狐の一種。彼らには共通点もありました。

 人に化けることが好きな点はその最たる例と言えます。


「そして人に化けた彼は、葛籠として私と出会った訳ですか」


「そういうこと。あいつは人の友達を欲しがっていたお前のために、この私と契約をした。私は彼に人間としての身分を与え、一緒にお前を騙した。その見返りに、私は体のいい手駒を手に入れたという訳よ」


 決して本心を私に明かすことなく、ただ私のために、私を騙し続ける。

 私を騙すためだけに、この世に残り続ける。

 それはまるで呪いでした。


「私は本当に彼を縛り付けていたのですね」


 泣きそうになって、懸命に堪えます。


「元々お前は家業に向いてない。意欲こそが最大の適性。端からお前に継がせる気などなかったわ。そんな時、善狐という希少な優良物件が転がり込んできた。私にも渡りに船だったのよ」


 母は吸い殻を灰皿に擦り付けて、細い目で煙を追いながら言いました。


「さて、昔話はここまで。まだ彼はいる。後はお前の感覚を信じなさい」


「感覚を信じる、ですか」


 視えなくても残っている感覚。


 それは私が本来持っている力の名残で、彼にしても奪え切れなかった残り(かす)なのでしょう。


「しかし狐に恋をするなんて、お前もいい趣味してるわね」


 なるほど、そういうことになる訳ですか。


「どの口が言いますか」


「それもそうね」


「あなたと共通点があるなんて嫌になります。……でも今回だけは言っておきますね。ありがとうございました」


 結果として、私は何の代償も支払うこともなく情報を得ました。


 たとえ母の気まぐれだとしても感謝は伝えなくてはなりません。


「礼は成功してからになさい。しかし親子そろって難儀なものね」


 再び煙草に火をつけた母を尻目に、私は部屋を出ました。



 狐ってかわいいですよね。

 結構、狂暴らしいですけど。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ