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陽子が14歳になった、あの日。
大事件が起こった。
外出できない寂しさを少しでも晴らせるように、普段から陽子には屋敷内を自由に行動させていた。
今、思えば、それが大きな間違いだった。
使用人の1人が血相を変えて、私のところへやって来た。
私は彼の案内で屋敷の1階の小さな部屋へと向かった。
部屋に入るなり、むせかえるような血の匂いが鼻を突いた。
部屋の中央に私を案内してきた使用人とは別の使用人が倒れている。
まだ若い使用人だ。
大きな血溜まりが青年の身体の下に広がっていた。
そして、青年の上には。
陽子が居た。
四つん這いで青年の首に噛みついている。
一心不乱にアゴを動かしている陽子が顔を上げ、私たちを見た。
いつの間に生えたのか、陽子の口にはギザギザの鋭い歯が並んでいた。
鮮血が口から、したたり落ちる。
陽子の両眼は、まるで爬虫類のようになっていた。
感情の読み取れない瞳だ。
「グゲゲッ!」
陽子が声を発した。
いや、鳴いた。