手加減なしの模擬戦
いつもの場所についた俺達は早速準備を始めた。
ライラはブロードソードサイズの木刀を、俺はショートソードサイズの木刀と魔法を正面から受けても耐えられるよう金属性の盾を装備している。
魔法を使うライラは魔力伝導率の高い物質を使った武器の方が魔法を発動しやすいが、そんなことをすれば俺があっさり詰んでしまうので、自重して杖なしで発動している。初めて杖を使用して魔法を使った時はいつもより圧倒的に魔法が発動しやすくて戸惑ったとかなんとか。
最も、そんだけ大きいハンデを与えてくれていながら、実際の所俺は正面から魔法を受ければ吹き飛ばされてしまうためあまり関係ない気もするが・・・
本人曰く、魔法を早く正確に発動する訓練や威力調整の練習にもなるから悪い訓練じゃないとの事で、俺としても空中迎撃の練習となるのでこの打ち合いをお互いに止めない。
俺は、盾を正面に、木刀を上部に構え、正面から見据える。
対するライラは木刀を腰に添え居合術の構えをした。
お互い、何を開始の合図にするかは指定していない。
いつも自分達の好きなタイミングで始めていた。
「manzksode・・・」
俺は、音もたてずにライラへと接近を開始する。
恐らく、この速度には瞬動スキルが働いているのだろう。
今後は瞬動スキルで統一することにする。
「azmskdj 砂槍 zmaksjdw・・・」
魔法を発動し、3本の砂の槍を俺に投げつけた瞬間、次の魔法の詠唱を始める。
これは、詠唱補助スキルだろう。
教会で呼んだ本によると、スキルの内容は名前の通り詠唱の補助と、簡単な詠唱の省略だ。
魔法使いにとっては喉から手が出る程とは言わないまでも、かなり取得するのに苦労するスキルだ。
今までの訓練でスキルの大方の使い方を理解しているのか、スキルの概要を先ほど知ったばかりのはずなのに、見事に使いこなしている。
加えて、俺はソフィアの修行を受けていないため、詠唱によって次に発動する魔法が何か全然分からない。
俺は瞬動スキルを連続使用して、ライラの濃い弾幕をかいくぐる。
対するライラは縦横無尽に動き回りながら、一度も詠唱を失敗せずに魔法の連続使用をしてくる。
「snamzkdooreq 鎌鼬 zanmshsajbsnbxvkpqwurydmc,ah 大気砲 anzmspqowtf・・・」
視認の難しい空気の刃が辺り一面を切り裂き始める。
当たれば重症になりかねないため、大きな動きをやめ、なんとか見切って回避を試みる。
回避しきれないやつは盾で受け流した。
しかし、盾で受けたわずかな隙をついて空気の塊が構えていた盾に直撃し、後方へ大きく吹き飛ばされた。
「amzkshf.qsj,te 追い風」
俺が空中で体制を崩している間に、強化魔法を発動したライラが接近を始める。
ライラの背中へ風が集まって体を押しているその光景は、さながら現代のジェットパックだ。
何とかライラが接近するよりも早く地面へ着地した俺は直ぐに体制を立て直し、盾を構えて防御の姿勢をする。
「はぁ!!」
居合スキルを発動させ、ライラが俺の右腹を打とうと接近してくる。
ライラが居合をスキルとして得ているということは、今までに何度も使用していたということ。
必然的にライラと何度も相対してきた俺も居合への対処がしやすくなっている。
剣の軌道を先読みした俺は、盾を構えた左手を右腹の前に突き出す。
盾に剣が打ち付けられた瞬間、体を回転させて刃を滑らせるようにいなした。
「っ!gdfakzpqlem・・・」
上手く受け流せたのか、ライラはまるで大砲の弾丸のように近くの木々へ突っ込んでいった。
急遽風魔法で体制を整わせて着地を試みるも、空中で体を回す際に致命的な隙が発生してしまった。
当然、訓練とはいえ戦闘において俺は一切容赦しないので盾を正面に突き出してライラへ接近する。
ライラと違って、俺は瞬動スキルを所持しているために、一瞬でライラへ接近をした。
風魔法を使って姿勢を整えているライラは、俺への接近へ魔法で対処できずに正面から俺の盾で吹き飛ばされた。
「クハッ!?」
俺は地面へ転がったライラの喉元へ木刀を突き立てた。
「・・・」
「・・・」
互いに何も言わない無言の空間が形成される。
どちらも出せる力を精いっぱい出していたので既にへとへとだ。
やがて、ポツリとライラが呟く。
「絶対・・・フィンが・・・器用貧乏・・・なんて・・・嘘だよ・・・」
そう言ったライラはだるそうに身を起こした。
「はぁ、結局また勝てなかった・・・」
「仕方ないさ。さっきも言った通り俺はいくつもの戦闘系のスキルを持っている。逆に、今まで俺が勝てたのはスキルの恩恵が強かっただけさ。」
「ム~・・・絶対いつか勝つんだから~!」
「おうがんばれ。さて、そろそろ帰ろうぜ。帰るのが遅れるとまたおじさんに殴られる。」
「俺の愛娘を夜遊びに誘いやがって!!」とかいって手加減なしに殴ってくるんだよなぁ、あの人・・・
「はいはい。ちょっと待ってて。」
そう言って、ライラはポッケから回復薬を取り出し、腰に手を当てて一気飲みした。
先の戦闘において壊れないのか?と思う人もいるだろう。
しかし、どういう訳かこの世界ではポッケの中に入れたアイテムは外部からの衝撃などによって破損しないのだ。
時間を止めて状態を固定化している訳ではないので、乾燥したり腐敗したりはするが、少なくとも俺やライラがポッケに入れたアイテムはポッケそのものを壊すような攻撃を受けない限り破損することはなかった。
今回の模擬戦で俺達は木刀と盾を使った打撃しかしていのでポッケに攻撃を加えても中の回復薬は破損しなかった(因みに、ポッケの口はボタンでしっかり結んでいたので回復薬を落とすことはなかった)。
「プハァ!生き返った!!」
まるで一仕事終えてビールを一杯飲んだ後のオヤジみたいなセリフを発っしたライラ。
すると、俺との戦闘で生じた内出血がまるで逆再生のように治っていった。
俺達の戦闘訓練において怪我をしないことはほぼないので、回復役は必須だ。
最初はソフィアに治してもらったのだが、タイミング悪く大怪我した状態をブーマに見られて。危ない事をしていたと勘違いでもされたのか、いきなり横なぎに木刀を振られた結果さらに怪我が悪化した(なお、壁に当たった俺だが、そこで止まることはなく、そのまま突き抜けて外に突き刺していた木の杭を砕いて4回ほど地面をバウンドした)。
それ以降、前述の「ポッケに入れたアイテムは破壊されにくい」という特徴を利用して訓練で怪我をするたびに回復薬で治すということが当たり前になった。
「それじゃ、暗くなる前にさっさと戻ろう。歩けるか?」
身体的には全快しても何故か動けないということがある。
これは、恐らくだが精神的疲労が原因なのだと思われるが、俺は医者じゃないので詳しいことは分からない。
訓練で慣れている俺たちでも大怪我した後に急激に回復すると肉体の状態と感覚が追いつかず、最低でも15分ほどは肉体が動かしずらい。
感覚としては眠っている間に腕の上に頭を乗っけてしまい、目が覚めた時に腕の感覚がなくなるあれに近い。
他に近い感覚としては長時間正座して痺れた脚と言えば分かりやすいだろうか?
一応、内出血程度ではそのようなことにはならないことは経験から知っていたが、一応聞いておく。
「うん、問題ないよ。この程度で運んでもらってまたフィンに迷惑が掛かってほしくないからね。」
過去にちょっとした怪我でライラが「歩けない~」っと駄々をこねた時があった。
その時はまだライラは子供だったので仕方ないと背負ってライラの家まで運んだところ、その瞬間をブーマに見られて(ry
「助かるよ。出来れば、もっと自重してほしいものだね。打たれるこっちの身にもなれってんだ。」
「そういうフィンも私にあまり関わらなければ痛い目に合わないんじゃないの?」
「それは出来れば避けたいね。ボッチは御免だ。」
家へ帰る間に俺達は少しおしゃべりを始めた。
実は、俺は村の中で同年代の知り合いがライラ以外全くいない。
手伝いで村の年配の人たちとの交流はかなりあるが、昔にちょっかいをかけてきた悪ガキを軽くお仕置きしたら、それ以降村のちびっ子たちから畏敬の念で見られてしまい、ライラ以外の当時の知り合いからも遠慮されてしまった。
寂しさを誤魔化すために剣術の修行に専念したのが悪かったのか、俺の同年代コミュニティを狭くするのに拍車をかけ、ついには同年代ではライラ以外友人がいない人となってしまった。
ま、まだボッチじゃないから大丈夫だよ、うん!ここから友達100人作って巻き返すんだ!!
・・・言ってて悲しくなってきた・・・
「ふふっ、フィンのそういう優しい所、好きだよ。」
「ありがとう。そろそろ分岐に近くなってきたから今日はここまでだな。また明日。」
「は~い。バイバ~イ」
俺達はライラの家の近くの分岐で別れた。
ライラの家の窓からブーマの鋭い視線を感じたが、全力でスルーした。




