転生神の記録
神界歴〇〇〇〇年▽月□日
受け付けた魂 34個
転生させた魂 33個
備考
この日、おかしな魂が現れた。
普通、転生を待つ魂はねっとしょうせつ?ってやつの影響で固定技能を与えれば、直ぐに転生しようとするのに、その魂は技術を磨きたいと言い出した。
理由は転生後に簡単に死なないためとまともな内容だったが、それでも珍しい。
戦闘に特化した神々に押し付けたから彼が望むように武術の修行が出来るだろう。
もっとも、最近の魂は軟弱なので、厳しい武神や剣神、盾神などの修行に耐えられるか分らない。
精々三日坊主にならないことを祈る。
軟弱な人を鍛えて苛ついた後の武神の絡み酒はうっとおしい・・・
この報告書という名の日記を書いている間、実質的に私の休憩時間なため、彼の行動をたまに見て書き留めておこうと思う。
そうすれば、私の休憩時間増えてサボれゲフンゲフン報告書作成の練習になるだろう。
なお、これから記述する時間は人間を基準にすることにする。我々を基準にすれば、気付けば既にいなくなっていたなどということになりかねない。
基本武闘派どもは堅物だが、一部の暇な神々なら、快く修行に付き合ってくれるかもしれない。
神々にとって暇は天敵である。
神界歴〇〇〇〇年@月◇日
受け付けた魂 25個
転生させた魂 25個
備考
あの珍しい魂が現れてから、10日たち、今は盾神の元で修行をしている。
意外なことに、何度打ちのめされようと、立ち上がって挑んでいった。
盾神はとても気難しい。
彼女は自分が気に入った人以外には加護すらも与えない堅物だ。
何度拒絶しても何度もアタックしてくる彼にうっとおしくなったのか、とりあえず一度手合わせてボコボコにしたらしい。
どうやら、彼はこの瞬間に今の自分の異常性に気づいたらしい。
この神界には様々な神々がいる。元々肉体を持つ者や、精神が主体の存在、そもそも肉体が主体か精神が主体かが曖昧な存在もいる。それでも、神界にいる神々は均一して肉体を持つ。
つまり、神界では精神のみの魂だけでも必ず肉体を得られるということだ。
ついでにいうと、この神界は魂が中継する都合上、輪廻の輪の法則からは外れているかなりイレギュラーな場所だ。故に、本来ならば死ぬはずの重症も、疲労も全て無視して修行出来る(というか、その特性を利用して戦闘系の神々はここで実戦の修行をする)。彼は、その特性を利用し、まるでゾンビのように何度も盾神に挑み続けた。
・・・少し彼に興味がわいたため、私の加護を少し与えて助けようと思う。
加護をは元々神々が持つ特権の中から任意に自分の力の一部を分け与える能力で、私は仕事の都合上Fantasy、Weather、Xanadu、Zoneそして地上に降りた際の保険としてMetalとViolenceを持つ。
今回私はMetalを与えたから、大分打たれ強くなるだろう。
後々武闘派の神々にいろいろ言われそうだが、これも打ちのめされる彼を見るのが楽し・・・失礼、若者の成長を促進させるためだ。
神界歴〇〇△◇年●月■日
受け付けた魂 37個
転生させた魂 37個
備考
彼が現れてから20年が経った。
最近、色々な世界で災害が起きたため、仕事に駆り出されてあまり彼を観察できていなかった。
我々にとって10年は短い期間だが、人にとっては大分長い期間のはずだ。
てっきり、既にいないと思っていたが未だに修行をしていて驚いた。
しかも、この10年の間に盾神だけでなく、武神や投擲神、棒神の元で修行し、加護までもらい、現在剣神の元で修行中らしい。
貰った加護はそれぞれ、VirusにShout、Through、Almightyをもらっていた。
盾神は、盾にまつわる技だけではなく、護身術から魔力を操った防御技まで多種多様の技をバスターしている。要は、『防ぐ』という概念の神様だ。同じように武神はボカスカ殴る方法だけでなく、『徒手空拳』という概念、同じように投擲神は『投擲物』という概念を、棒神は『長柄武器』という概念を司っている。
武闘派の神々の傾向として、本気で自身が気にいるか自身の技術を覚えて免許皆伝しなければ加護など与えない。
彼が加護を持つということはつまり、彼らが教えられる全てをマスターしたということだ。
言っちゃなんだが、気難しい彼らがぽっと出の新人(しかもいろんな神々に弟子入りしている節操なし)を気に入るとは思えないので、その可能性の方が高いだろう。
4つもの神々に弟子入りし、免許皆伝されるなど、驚異的な吸収能力である。
ついでにいうと、(私も含めて)神々は酒好きが多い。
彼は弟子という立場上、師匠に宴会に付き合わされる。
どうやら生前に大分もみくちゃにされたようで、絡み酒や泣き上戸で面倒くさい酒神や海神をかなり上手に対処していた。
両者からも気に入られていたため、その二人からも加護を得ている可能性が高い。
神界歴〇〇@□年〇月@日
受け付けた魂 21個
転生させた魂 21個
備考
彼が現れてから70年ほどたった。
正確な数は数えていないが、彼はさらに10人ほどの神々の元で修行し、大方の武器の使い方や応用法もマスターしたらしい。勿論、取得した加護の数は既に30を超えている。ここ10年程彼は剣神のもとで修業をしている。
剣神は神々のなかでもかなり広範囲な概念を司っている。
その概念の内容は『刃物』。つまりは、長剣や両手剣、短剣だけでなく、他の神々と一部被るが、薙刀やサイス、ハルバードや投剣、果ては木刀まで様々な分野に上るため彼の元で修行をするのは他の神々と違ってかなり年月がかかるだろう。
今更だが、彼が、神々から得た加護を使っている記憶がない自身の肉体に起こる変化に気づいていないのかもしれない。もっとも、例え加護が一切使われなかろうと一度生まれ変わればその魂は既に地上の魂という扱いなので、神々は介入不可能なとなる。そのため、魂の生き方に口答えは出来ない。よって、気付いていようと気付いていまいと些細な事だろう。
神界歴〇〇@□年〇月@日
受け付けた魂 14個
転生させた魂 15個
備考
彼が来てから100年ほどがたった。
大方全ての神々から教われることを全て教わった彼は、お世話になった神々に対し、挨拶をしながら廻った。
彼は大抵の武器であれば問題なく扱えるようになっていた。
加護の数は40を超え、正確な内容はどこの誰も把握していない(というか、どの加護を与えたのか把握している人が少ない)。
他の神々の話を聞いたところ、彼は盾神と最も相性が良かったようだ。
冷静に考えればかなり強力な能力である。
毒で蝕みながら、自分は高い防御力で防ぐ。
加えると、私が与えたMetalは防御力を上昇させる能力だ。
加護ゆえにずば抜けた強化をすることはあっても、対処不可能な強化をするわけではない。しかし、私だけがMetalを与えたとは思いにくい。むしろ、重複している可能性の方が高い。
幾つもの神々にみっちりしごかれた彼の肉体はこの世界での肉体故に転生すれば、彼は今の肉体を失うが、精神力とスキル、及び加護は転生した肉体に受け継がれる。
しかし、加護がいくつも重複した場合、相乗効果で効果が高まる。
1つ2つならばともかく、下手をすれば破壊不能な硬度を誇るものが生まれかねない。
この物質は、無理矢理全力を出した神々でないと貫けないため転生してすぐ亡くなるなどということはないだろう。
果たして、今の彼を貫ける存在が我々神々以外で存在するのだろうか?
おっと、そろそろ彼が来る。転生の準備をしなければ。
「久しぶりだね。」
「お久しぶりです、転生神様。」
初めて会った時とは口調が違う。
私は、基本遠くから眺めるか宴会の席で彼の話を耳にする程度だったので、彼と最後に直接合ったのは100年以上前だ。
「てっきり、三日坊主で転生するかと思ったけど。大分立派になったんだね。」
「はい、おかげさまで。」
彼が修行したての頃に私がMetalを与えた事は知らないだろう。
十中八九、Metalは他の神々も与えているだろうから、私と関係の低いMetalを私が与えた事など露ほども思わないはずだ。
「それでも、100年も頑張ったのは君の努力さ。というか何?普通神様の弟子って一生かけてその技術を磨くのに、何で君はたった100年で20以上もの神々に弟子入りして免許皆伝されている訳?」
「え?手数は多いほうがいいのでは?それに、みなさん親切でしたよ。」
それは単なる暇つぶしの様な気も・・・
「ま、とにかく転生させますね。既に他の神々から知らされていると思いますが、一応説明いたします。転生先で今のあなたのような肉体の防御力を得られるとは思わないでください。むしろ、ただの子供なのですから。続いて、あなたの記憶は基本的にそのまま受け継がせます。生まれ変わればあなたは地上の人間、それ以上我々が介入することはありませぬので、ご注意ください。」
私はマニュアルに書かれている通りに転生後の大雑把な注意点を教えた。
「はい。お世話になりました。」
最後にそう言って、彼は光の柱に包まれた。
転生は完了した。
明日になれば、みんな彼のことなど忘れて新しい楽しみを見つけるかもしれない。
神々は暇人なのだ。
いつも通り、次の魂を転生させようとした私のところへ、なぜか盾神が現れた。
「あら?もう彼行っちゃった?」
「ええ、既に転生済みよ。何か伝えたいことでもあった?」
「いや、どうやら誰も加護の使い方を教えていなかったらしくてね、みんな最初の師匠の私が教えたとばかり思っていたみたいなんだ。能動的なMetal意外は与えた所で使い方が分からん状況らしいわ。」
考えてみれば、修行などMetalで強化された肉体があれば、十分出来る。わざわざ他の加護を使う機会もなかったのだろう。
ついでにいうと、私たちの加護は人の眼には基本的に見えない。固定技能などとは比べ物にならない位格の高い純粋な『概念』の力なため、それがスキルとして認識されないのだ。
「・・・ま、いいんじゃない?私はまだ仕事があるから、好きにすれば。」
先ほど神々は地上にあまり干渉しないといったが、実際はちょくちょく干渉している。ただし、その内容は肉体を持っての地上調査か、夢枕に立つだけで、人々の生活や営みに直接干渉は出来ない。
私は別に彼の保護者でもないので、加護の解説は師匠に丸投げすることにした。
「ええ分かったわ。」
もっとも、彼女たちの事だ。自分の暇つぶしに熱中しすぎて教えることを忘れるかもしれんが、それは彼の人選ミスだ。
今回主人公が取得した加護ですが、残念ながら本編で出る予定はございません。
彼のアイデンティティはあくまで毒なのです。




