何を求める?
「ここは・・・?」
気が付くと、辺り一面真っ白な空間にいた。
「どううことだ?てっきり俺は死んだと思ったんだが・・・」
「お答えしましょう。」
「のわぁ!?」
急に後ろから声を掛けられたため、驚いて奇声を上げてしまった。
「その反応は少し傷つきますね・・・」
「いきなり真白から聞き覚えのない声で返答されれば誰でも驚くもんだろ・・・」
「あら、意外と冷静なのですね。」
「で、あんたは一体誰なんだ?」
「おっと、はじめまして。私は転生神、不幸な死者の人生をやり直すチャンスを与える存在です。」
「そうですか。」
非常にあっさりとした反応である。疑う訳でも、崇める訳でもなく、単純にそうなんだと彼自身が思っただけである。
「・・・珍しいですね。」
「何が?」
「普通の人は真っ先に疑うか崇めるか怒鳴り始めるものですけど・・・」
「怒鳴るなんてあんのか?」
「ええ。自分の死が私たちの過失だと一方的に思って責任とれよとか言い散らしますね。やっと納得して頂いてもチートくれチートくれ五月蠅くて・・・貴方みたいにあっさりした反応は基本長生きした人から向けられる事が多いですね。」
「その手の人の弱みに付け込んだ商売や私は神だとか叫ぶカルト教団は何度も目にしたからな。今更本物の神様が現れた所で、別に特別な反応をする意味もないだろう。」
「ドライですねぇ・・・さて、今は私の愚痴を話す時間ではなく、あなたの話です。生前も恵まれず、不幸な事故で無くなってしまったあなたは、来世へ転生し、人生をやり直すチャンスがございます。」
「やけに都合のいいシステムだな。」
「魂というものは、生前の精神状態に引っ張られるため、前世で不幸だった魂はあの世で怨霊となって、全く関係のない周囲の魂まで悪影響を及ぼします。下手をすれば、それ以上の転生をさせるのは危険と判断され、その場で消滅させられます。一つの魂を作るのも楽ではないので、あなたのように不幸ばかりの人生の人々は来世で幸せになってもらうチャンスを与えるのです。」
「ん?ちょっと待て、さっき俺の事を不幸な事故っつったよな?過労死は事故って扱いになるのか?」
「はい?過労死?・・・ここには食中毒死になっておりますが?」
「食中毒ぅ?」
「ええはい。あなたの住む・・・失礼、住んでいた世界にはムネサキタケなる茸がございますよね。この茸の外見が俗にいうマッシュルームに非常に酷似していたため、栽培場所でも別の茸が混ざっていたことに気付かず、あなたが最初で最後の犠牲者となりました。死後、異変を察知したケイサツなる自警団組織の一人が解剖を依頼し、中毒死と分かったようですよ。あ、毒茸はあなたの死後にすべて処分されたのであなたの他に被害者はいませんよ。」
何てこった・・・外見が似ている毒キノコを食っちまうとか、つくづく運がねぇな・・・
しかも、死因が過労死で信じて疑わなかったから、つい先ほど見た走馬灯が単なる自意識過剰に思えてきた・・・
「さて、話を戻しますが、転生先であっさり死なれてもこちらとしても困りますので、転生者には一つだけ固定技能が与えられます。どの様なスキルが良いですか?」
「スキル?技術の事か?」
「ま、そのようなものですね。」
「あ、じゃあ毒物食っても死なないスキルで。」
「ええ分かりました毒を操るスキルですね。」
「え?普通に毒無効とかでいいけど・・・」
「ええはい分かってますよ。男の子ですものね。チートしてヒャッハー!!したいえすよね。」
「ヒャッハー?何だそりゃ?」
転生神とやらは、こちらの質問をまともに聞かず、手元の本を弄り、一方的にスキルを選択させた。
「固定技能毒操者です。名前の通り、毒を操れます。」
へ~ま、これで同じ轍を踏むことは無くなったあろう。
「・・・もっと驚かないの?」
「いやだって・・・いきなり選ばれただけでどんなのか全く分からんし・・・あ、一つ質問していい?」
「はいなんでしょう?」
「この、スキル?っていうのを選んだら、もうすぐに転生しなくちゃいけないのか?出来ればもう少し待って欲しいんだが。」
「構いませんがなぜ?」
「単純に強くなるためにある程度鍛えたい。さっき、あんたが弄ていた本の中に竜を滅するなんちゃらや矛盾なんたらというのがちらっと見えた。そんな明らか必殺技みたいな名前のがあるてことは、逆にいうとそんなものでも使用しないと倒せないナニかがいるってことだろ?なら、予備知識などを色々と調べておきたい。」
もう、情報不足で痛い目をみるのは御免だ。
清がそう息巻いている間、転生神は転生神で驚愕していた。
「驚いましたね。まさか、あの一瞬でそこまで考えるなんて・・・本当に、運が良ければ大成したでしょうに・・・」
「過ぎたことを悔やんでも何も変わらん。大事なのは今と未来だ。という訳で、早速修行をしたい。場所空いてるかね?」
「あ、それなら、丁度いい人たちがいますよ。」
「?誰だ?」
「剣神や武神などの戦闘系の神々です。彼らなら、丁度いい師匠になるのではないでしょうか?」
「そりゃいいな。紹介してくれ。」
「ハイハイ。」
転生神が両手をパンパンと叩くと、どこからともなく、光が集まって人の形を模し始めた。どことなく外見が転生神に似ている。
「武神たちのいる場所へ案内してあげてください。彼らなら、きっと彼を気にいるでしょうから。」
光の人が僅かにうなずき、清を案内する。
空間が歪んでいるのか、壁が大分遠くに見えたのに一瞬で端までたどり着け、視界が光って先ほどまでいた場所がフェードアウトした。
「ま、最近の若い人は厳しいのが苦手らしいので三日坊主にならないように精々頑張って下さいね。」
清が空間からい無くなった途端、転生神は辛辣な悪口を言い、次の転生候補の魂の対応を始めた。
決して清の相手が面倒になって武闘派に押し付けた訳ではない。




