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看板

作者: 岡田孝

「黙祷」

と、校長先生がおっしゃいますと、周りの生徒は皆目をつぶって、なにかを考えるような姿勢をおとりになりました。

私もまた、名前も知らない、顔を見たこともない、挨拶すら交わ したことのない方に向かって黙祷を捧げました。とはいえ、きっとこれが正しいことなのでございます。黙祷とは、その字面からして、黙って捧げるもの。もしその人と何らかの関わりがある人なら、黙ってなんていられずに、泣きわめいてしまうでしょうから。

あぁ、ほらやはり。黙祷を捧げていない生徒がちらほらと。

ああやってにやけ面を浮かべていなければ、きっと耐えられないのでしょうね、と私は思い、その人たちの心がいつか砕けてしまわぬことも、ついでにお祈りいたしました。

その後、教頭先生がのこのこと現れて、長々とお話をされました。件の生徒は交通事故で亡くなったこと(教頭先生は、わかりやすく死んだ、とおっしゃいました)、このような事件はもう二度と起こらぬよう、注意すること等を私たちにお喋りになりました。ほんとうに、お喋りなのでございます。けっして、スピーチではございませんでした。


その日の帰り道で、私はふととある看板を見つけました。客引きの看板ではなく、いえ、客引きであっているのかもしれませんが、〝交通事故に注意!〟という看板でした。

もしかして、ここで彼は(彼女は)亡くなったのかしらと思い、辺りを見てみると、オニユリのように黒く変色した百合の花が、コンクリートブロックに突き刺さり、風でゆらゆらと揺れていました。

それならきっと、ここで亡くなったのは別の人なんだわ、と思い、横断歩道をわたっている最中にふと思ったのです。

なぜ私は、いままであの看板に気が付かなかったのかしら、と。

そして、私はなぜ、ここで亡くなった彼に黙祷を捧げなかったのかしら、と。


そうして立ち止まってしまった私を、車がはねたのです。

とても、痛かったです。私も彼らと同様、黙祷を捧げられてしまうのかしら、と思うと、辛かったです。


ですから皆さんも、死者への供物は入念にお願いしますね?

私への黙祷は、横断歩道を渡りきってからにしてください。

さもなければ…………ね?

読んでくださって、ありがとうございました。

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