◇クイテーノ 共通① 怪盗バクテリアンあらわる
私は糸翼カンナ。
中学の頃から料理を専門に学べる学校に通っていて、最近高校に上がった。
選考は審査科、料理は人並みだ。
審査員となって、調理科の作った料理を食べるのが私の役目。
もちろん私の他にも審査員を志望する人はいる。
今日はデザートの味をみる日だ。
最初に一年生の作ったシンプルなチーズケーキを食べた。
私は審査【食感】を担当する。
これといって突出した能力はないが、ここが丁度開いていたのだ。
「食感はいいよ」
風味や見た目は、別の審査員が見るので、どんな料理も食感を重視するようにしている。
「味は微妙だ」
【味】を担当するのが、味舌田・塘六・フリーデア。
鋭い味覚を持っていて、味に厳しい。
彼は常に、味は料理の基本だと言っている。
両親が高級ホテルを経営している生まれながらの御曹司で、母親は海外の貴族らしい。
「臭い」
【薫】を担当するのは、薫川戀雨。
風味、香味、に敏感で調香師に匹敵する嗅覚を持つと表されている。
彼の父親は茶道家、母親は香水メーカーの社長だという。
ちなみに彼はほぼ、滅多に出された食べ物の匂いを嗅いで、良いとは言わない。
「見た目は普通です。
よく出せたものですね」
【彩】を担当するのは無神彩色。
彼には有名な陶芸家の父親と洋画家の母親がいるらしい。
子供の頃から芸術を見慣れてきたのであろう。
色や形の良し悪しをよくわかっている。
芸術的素人の私から見ても、このケーキに対する印象は同じなので、納得した。
料理を作った者は、最後に発表される。
この料理を作ったのは、最近転校してきた一年生の“鳥津艷矢”君だった。
彼は悔しそうに去っていく。
「次の料理を…」
次に出されたのは、一見普通のパイ。
全体が薄い茶色で地味だという印象。
切ってみると、中に熱々のリンゴ、ブルーベリー、ママレード、ストロベリーのジャムが、綺麗な層になっている。
「あ、サクサクしておいしい」
食感もよくて、味もいい。
今まで、食感ばかりに気をとられていた。
このパイを作ったのは誰なのだろう。
「これは…上手いな」
「悪くない」
味舌田くんが、薫川くんがいつになく好評価だ。
「味は好みの問題ですから…見た目は良いですね」
甘いものが苦手なのか、彼には合わなかったようだ。
審査員にも好みがあるし、万人が好きという料理はない。
けれど、見た目は良いと彼が言うなら、評価の基準値は満たしているんだろう。
「皆さん、僕の料理はどうでした?」
料理を作った人が、現れた。
「あ…あなたは!」
「フロジェ=プリンシバリディ!」
彼はこの学園の卒業生で、宮廷専属の料理人だ。
「どうして貴方がここに!?」
同じく学園の卒業生で神クラスの才能を持つとされる審査員と争ったという伝説がある。
彼の料理を食べられるなんて、なんてラッキーなのだろう。
「実は……」
―――――
「なんで俺達……」
「城に来てるのおおおお!?」
一流シェフでもなければこんなすごいところへ来られない。
シェフ科ならまだしも、私たちは審査員科なのに、一体なにをさせようというのだろう。
「実は、君たちを呼び出したのはある理由があってね」
「はあ……」
「君たちは怪盗バクテリアンを知っているか?」
「たしか、毎年開かれる料理大会を中止にさせようとする迷惑な奴ですよね?」
「ああ、そして今年も奴がくる!
君たちにはその怪盗バクテリアンを止めてもらいたいんだ」
「ええ!?」
「僕達が!?」
◆
「なんだか大変なことになっちゃったね」
まさか料理大会の審査員に選ばれた上に、怪盗を捕まえないとならないなんて――――――