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隣の幼馴染

作者: 木嶋隆太
掲載日:2015/10/21

 私は扉の前に立ち、インターホンを押す。

 ポニーテールで縛っている髪を少し整えながら、私は少し待つ。

 すぐに、けん兄さんがやってきて私は部屋へとあげてもらう。


沙希さき、夏休みの宿題、やっぱりいっぱいあるのか?」

「毎日やっていると、そうは感じないかな」

「まじめだなぁ。俺なんて、夏休みの終わりに一気にやっちまってたからな……」


 健兄さんは思い出したのか、引きつった笑みを浮かべている。

 

「今日は、姉さんは来ないからね」


 からかうようにいうと、健兄さんは慌てて手を振る。


「……べ、別におまえの姉さん目当てじゃねぇし」


 わかりやすい。

 健兄さんの部屋に入る。


「んじゃ、いつもどおりわからないところは聞いてくれ。俺も勉強してるからな」


 健兄さんは机に向かい、私は彼の部屋にあるテーブルで勉強を始める。

 健兄さんの部屋はクーラー完備だ。

 暑い夏もへっちゃら。

 ……やっぱりちょくちょく学校を休んでいるせいで、いまいちわからないところがある。

 健兄さんにすぐに聞き、わからないところをつぶしていく。

 一時間ほどやったところで、先に健兄さんが根をあげた。


「休憩だ休憩。ジュースと麦茶どっちがよい?」

「オレンジジュースある?」

「あるよ。ちょっと待ってろ」


 健兄さんは下からコップとジュース、麦茶を持ってくる。

 私はテーブルの上の荷物を片付け、そこにお菓子と飲み物を置く。

 二人で向かい合うようにすわり、健兄さんが口を開く。


「そういえば、通知表あるんじゃねぇか? 欠席はどのくらいだ?」

「三十日くらい」

「一ヶ月まるまる休んだって感じか? ま、勉強はついていけるんだろ?」

「成績は中の中って感じ」

「なら良いのか」


 そう言うのは健兄さんと姉さんくらいだ。

 両親は私を情けないと言ってくる。……まあ、実際そうなんだけど。

 

「小学校くらい、適当にやりゃあいいんだよ」


 というのが健兄さんの持論だ。

 成績が悪くないからこその話、という前提はあるらしいけど。


「やっぱり、まだ無理か?」


 苦笑気味にいった健兄さんに、うなずいて腕を組む。

 膨らみ始めた胸が寄せられ、少し嫌な気持ちになる。

 ……私は他の子よりも成長が早く、五年生の三学期くらいから、成長し始めた。

 そのせいか、男子たちの視線は増え、運悪くクラスの人気者たちに好かれてしまった。

 それが、女子たちからすれば気に食わないようで、仲間はずれにされた。

 ……それから、少しずつ学校に行くの嫌になり、六年生になっても構わない。

 別に、一人でいることは良いのだが、嫌がらせや、男子たちの視線が……何よりも嫌だった。


「ねぇ、男ってどうしてあんなにあからさまな視線を向けるの? ばれているの気づかないの?」

「……え、わかるか?」

「健兄さんも、外に遊びにいくとよく見ているよね」

「……そりゃあ、その……あれだ」

「どれ?」

「……すんません」


 健兄さんが苦笑いとともに頭をかく。

 ……クラスの男たちは、そのくせ私が睨み返すと、むしろ私が悪者だとばかりに睨んでくることもある。

 

「まあ、男ってのはそういう生き物なの。可愛い女の子とか、綺麗な足とか、うなじとか……そういうのが見えるなら、ついつい見ちゃうんだよ」

「……え、綺麗な足? うなじ?」

「そこは拾わなくていいところだ、沙希」


 健兄さんの頬はさっきから引きつりっぱなし。

 冗談めかしていう彼に、短く嘆息する。


「ま、中学にもなれば周りも成長してくるんだ。ちやほやされるのなんて今くらいだ」

「そうだったらいいんだけど……」

「あー、でもおまえ姉さん可愛いし、沙希ももしかしたらずっと可愛いかもしれないよなぁ。そうなるとこれからもちょっと大変かも」

「……それは嫌」


 けど、ほめてもらえたことはうれしかった。



 ○


 

 一週間後。宿題はほとんど終わったが、勉強がしたいという理由で家を出てきた。

 私は一つの決意を胸に抱き、健兄さんの家のインターホンを押した。

 いつものように挨拶をして、部屋へとあがる。

 勉強道具をテーブルに並べながら、私は健兄さんのほうを見やる。


「……お姉ちゃん、告白するって」

「ああ、そうなんだ」


 ……やけにあっさりとした反応だった。


「もっと驚くと思った」

「ま、別にな。あいつ綺麗だし、いつかは誰かと付き合うと思っていたし……ショックはあるけど、あ、来たんだなって感じ」

「やけにあっさりだね。健兄さんは告白とかしないの?」

「俺は……いいよ」

「……情けない顔」

「う、うっせぇよ! おまえな、俺の学校での立場知っているか?」

「平凡な運動能力、成績だよね。あと、酷いくらいのアニメオタク」

「ざ、ざくっと言うな! ……そうだよ。あいつは生徒会にも入っているし、テニス部でも活躍しているって話だ」

「……どこで聞くの? ストーカー?」

「学校でたまにくらい話すんだよ! 一年で生徒会に入るってどんだけか知っているか?」

「わからないけど、普通は二年生なんだっけ?」

「そ。それだけの人気者ってことだ。俺じゃないやつのほうがいいってことさ」


 だから、諦めが早かったようだ。

 これならば、好都合だ。


 私は縛っていた髪留めをはずし、姉のようなロングにする。

 それから、近くに座っていた健兄さんへとゆっくりと近づく。


「ねぇ、健兄さん。私、お姉ちゃんに似ているでしょ」

「髪下ろすとそっくりだな。けど、沙希はちょっと冷静って感じがある」

「……そうかな?」


 健兄さんはのんびりとあくびをしながらこっちを見ている。

 だから私は、彼へとにじり寄る。

 さすがに少し警戒したようだ。


「どうしたんだ?」


 今しかないと思うから、私は思いをはきだす。


「……私、健兄さんのことが好き。だから、私と付き合って」

「……お、おい本気か?」


 健兄さんは眉間にしわを作る。

 冗談だと思っているのだろうか、それは少し酷い。


「本当にすきなの。私、お姉ちゃんみたいでしょ? お姉ちゃんみたいだと思って、付き合ってもいいから」

「……」


 そういった瞬間、健兄さんの表情があからさまに険しくなった。

 立ち上がった彼はベッドへと移動し、それから嘆息する。


「今の言葉、俺は嫌いだ」

「……」

「おまえにはおまえの良いところがあって、おまえの姉ちゃんにもある。……自分のことを誰かの代わりみたいに言うな。俺はおまえか姉ちゃんどっちかいなくなっても、どっちかで代わりが務まるとは思わない。そんなこといわれると、悲しくなる」


 健兄さんの厳しい目に、私はしょんぼりと頭をさげる。


「……ごめん」

「……まあ、おまえが告白してきたのは、うん。うれしいよ。けど、俺はやっぱりおまえの姉ちゃんのことが好きだから、断るよ。ごめんな」

「ま、わかっていたけど」


 私はなるべく気にしないように、髪をとめなおす。

 しっかりと私と姉を別に見てくれて、うれしかった。両親からは、姉のように立派になれと散々に言われていたから。

 そのとき、インターホンの音が家に響く。


「ちょっと行ってくる」


 健兄さんが立ち上がり、部屋の扉がぱたんと閉じた。

 私は玄関のほうを見て、嘆息する。

 私の告白は、失敗、か。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一途な思いは素敵です。 [一言]  誰かの代わりになるのは厳しいです。人にはそれぞれの個性があります。
2015/10/21 21:17 退会済み
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