女子のトップカーストに入ったけど、何だかしんどい。
意味不明な所もありますが、よければ感想下さい。
人生は椅子とりゲームのようなものだ。
私はいつも、椅子取りゲームは強い方だった。
音楽が鳴り終わった時、特に何もしなくても座れたし、座れなくても直ぐに音楽がなるから大丈夫だった。
だから、椅子取りゲームで押しのけたり、何がなんでも座ろうとする人の気持ちが…分からなかったのだ。
私の家は少し貧乏な所を抜けば極々平凡な家庭であり……私はそれなりに幸せに生活していた。
「沙羅、貴女はこの中学に通って!!」
しかし母がいきなりそういってきた。
私に渡してきたパンフレットはとある私立の女子中学校であり、所謂お嬢様学校というものだ。
「お願い!!この学園は私の夢だったのよ……ねぇ、お願いよ!!」
「わ、分かった」
母の価値観は分からないが、その迫力に気圧された私は頷いた。
ぶっちゃけて言えば、この選択は間違いだった。
結果的に私は合格した。
そして合格したのはよかったのだが、最悪なことに同じく受験した友達が私を抜いて全員落ちてしまったのだ。
「沙羅ちゃん塾行ってないって言ってたじゃん!」
「いや、本当に塾は行ってなくて……」
「だったら、面接の時とか履歴書とかで顔なんじゃない?」
「顔とか関係ないんじゃ……」
「私、沙羅のそういう所が大嫌いなんだよね。余裕ぶって……可愛いからって調子に乗ってるし」
こんな風にして私は友達も失ってしまったのであった。
やたら、顔の感想が多かったと思う。
「もうやだ……」
そんなスタート時点以前から嫌な思いをしながら、入学した私は友達は作れる気がしなかった。
周りの殆どは内部生のいいとこのお嬢さんか、外部生の勉強ばかりする人といった感じで二つに別れていた。みんなは友達やグループを必死で作ろうとしていた。
椅子取りゲームで例えるならば、今は音楽がなって円状に並べられた椅子の周りをグルグルと回る時間だろう。
「私は別にいいや」
自分は貧乏だし、勉強もちょこちょこすれば別にいいだろうという上昇志向のかけらもない。椅子とりゲームなんて面倒だ。
……憂鬱だな……
そんな風に机でつっぷんし、寝てるフリでもしようかと思っていたとき……。
「よかったら、私たちと友達にならない?」
桜塚 泉のグループから誘われた。
彼女たちはクラスの中でもトップの権力を誇る有名なお嬢様たちで孤立している姿に同情したのか、私に話しかけてくれた。
椅子で例えるならば、フカフカのロイヤルな椅子だ。
「え…なんで?」
「可愛いなって思ったから」
至ってシンプルな答えが返ってきた。
成る程、容姿というのは、ある種のステイタスなのだろう。
この人たちは、私の事は知らないから容姿という手っ取り早い方法で選んでくれた。
現に他の暗そうで容姿が悪い方のリマという女の子には声がかけられていない。
これが高校とかになれば制服の着崩しやらメイクやらの採点も加えられるが中学ならば主に容姿の部分が最大なのだろう。
よかった、顔はいい方で。
「うん、よろしくね」
私はその誘いに乗り、頭を下げた。
努力も何もせず、私は椅子取りゲームで最高の椅子に座れたのである。
しかし、今思えば…私は何も分かっていなかった。
「え~!?沙羅ってば弁当なの?」
ある日の昼食、学食へ一緒に行こうと泉グループに誘われたが、弁当をもってきているので断りをいれると、泉グループの一人が信じられないという風に目を見張った。
「ってか、何この弁当すごい貧相っていうか、手抜きすぎ~沙羅ってば超可哀想~」
「本当だよね~」
卵焼きにウィンナーと白ご飯だけであるそのご飯をみて賛同する周りに居心地の悪さを感じた私は、しかしどうすることも出来なくて俯いた。
「よしなさい」
泉さんがそういって周りを黙らせた。
あぁ、庇ってくれるのだと思って少し嬉しく思っていたら何を思ったのか泉は私の弁当を取り上げて……
ッバコ
ゴミ箱の中へと入れた。
「は!?」
動揺する私を笑って泉は無邪気にいった。
「学食ぐらい私が奢ってあげるわ、一緒に食べましょう」
そういって泉は動揺する私をお構いなしに手をひっぱり、学食の方へと足を運ばせた。
抗議の声をあげようとする前に、泉はニッコリと笑って言う。
「分かってるわ、あんな弁当恥ずかしいでしょ?大丈夫よ。私がご馳走するわ」
「泉ちゃん超優し~」
「ちゃんとありがとうっていいなよ」
周りに促され、弁当を捨てられたという事実を悲しみながらも、私はひとまず礼をいえば、泉は満足気にクスリと笑った。
☆☆学食☆☆
「沙羅ちゃんはAランチね」
「え、ちょ……」
学食につき勝手に一番高いものを勝手に選ばれ勿論お金を払えない私は居心地の悪さを感じて、少しだけ食べ、残りはタッパーに詰めようとした。
「ぇえ!?沙羅ってば何タッパーに詰め込んでんの?超ウケる~」
「えっと……夕飯にしようと思ってて……今、ちょっとキツいから……」
無茶な私立の入学金で家計はキツいので詰められるとこは切り詰めようという考えなのだが……
お嬢様暮らしをしている泉らにとっては信じられないことなのだったのだろう。
「沙羅ちゃん……本当にお金がないのね……可哀想」
泉は優しげながらも、何処か嘲笑めいた笑みを浮かべていた。
☆☆☆
スクールカーストで一位のグループに入ったものの、私の居心地はあまりいいものでは無かった。
カラオケやボーリングにエステ等によく誘われるが、私の経済状況では出せなくて困ってる姿を周りからクスクスと笑われる。
「仕方ないわね沙羅ちゃんは、私が出してあげるわ。気にしなくていいわよ?沙羅ちゃんはニコニコと可愛く笑っていれば」
困った様子の私をみては、楽しそうに泉がお金をだすのが通例になり、周りにクスクスと笑われるのも通例であった。
「ほら、お礼いいなよ~泉さん超優しいでしょ?」
「うん……ありがと」
口ではお礼をいうものの、酷く苦しいものだった。
バカにされ、嘲笑される関係に不満は感じるが、立場の弱い自分は何もいえない。
まるで、ずっと音楽の鳴らない、立つことや動くことを許されない椅子とりゲームのようだ。
しかし、文句も不満も言わなかった為か泉の行動はエスカレートしていった。
「服あげるから汚い服は捨ててね靴も同じよ」
「そのヘアピンは捨てて、私が代わりに可愛いのを買ってあげるわ」
「こんなに優しくしてあげてるんだから、私たちのグループ以外と付き合い厳禁よ?」
「何も気にしなくていいわ、沙羅ちゃんは可愛く笑っていればいいの」
泉の行動はエスカレートしていった。
私とお揃いを強制するようになり、行動を束縛するようになっていき、プライバシーでも介入することとなった。
それでも、私はそれを受け入れようと努力した。
確かに価値観は合わないが、これが彼女の友情なら受け入れよう……というかお金を出して貰っている時点で何か文句をいうことはできない。
しかし、余りにも苦痛だった。
まるで、ペットの扱いのようなそれに……苦しかったのだ。
☆☆☆☆
「そうだわ!みんなで一緒に旅行に行かないかしら?ドイツで花火大会があって私のホテルから見えますの」
ある日、泉が周りにそう提案した。
あまりにブルジョアな話だが同じ金持ちのお嬢様たちは全員肯定を示し、外国で遊ぶ内容を決めていた。
「あ……あの……」
「あぁ、沙羅ちゃんはお金ないから易々と行けないよね」
「可哀想……クスクス」
私が発言しようとすると、周りはクスクスと笑い始めてまた居心地が悪くなる。
「大丈夫よ、旅費は全部私が出すわ。可愛い沙羅を一人にするわけないでしょ」
そして、お決まりの如く泉がそういった。
「浴衣もオーダーメイドで発注して……もちろんお揃いに……」
やはり、こんなのは可笑しい。
お金の友情など…やはり友情ではない。
椅子とりゲームの音楽を鳴らさないなら……勝手に下りてやる。
「あの……奢らなくていいから!」
「え?」
「旅費は払わなくていい…そこには行かない、行けない。今まで貰ったものも全部返す」
そう言うと周りはしらけた様にシーンとなった。
「空気読めよ…」
「別にお前なんてどうでもいいんだからな…勘違い女」
「ぶっちゃけ顔以外取り得が無いくせに」
小さな声でにらむ様にみんなに言われた。
そして泉はというと…
「……ふーん」
無表情でそう言っただけで終わった。
で、結論を言えば……彼女たちは私の価値観が理解できなかったらしく…私はクラスから孤立することとなった。
椅子取りゲームで自分から下りたのだから当たり前だろう。
普通に接してくれたクラスメイトも泉のお気に入りというブランドが無くなった私を見下すようになった。
所詮私の地位は泉に引っ付いて出来た地位なのだ…。あの素晴らしい椅子に座れていたのは、彼女が用意してくれただけなのだ。
「貧乏人の癖に…空気読めよ」
「顔がいいってだけで、泉さんにあれだけ良くして貰ったくせに…」
「その癖ハブられちゃって…痛い女ププ…顔しか取り得ない癖に」
雑音が煩くなった。というか、顔の感想が多い、
一人ハブられて、連絡も私に来ない。影で悪口を言われて笑われる。
けれど…これですべて終わったのだ。後悔はない。
強いていうなら……最初から孤立していた方が……周りの雑音が少なかっただろうという後悔はある。
「頭…痛いな…」
単独行動と孤立って…似ているようで違うんだなと、この時知った。
いつか……終わるだろう。
☆☆
学校を休むことは出来なかった。長期で休めば、私は母に泣かれるので仕方なしに学校に行っていた。
何時かはどうにかなるだろうと思っていた学校状況は…改善されないまま。
「無視されるのって…ハブられるのって…案外キツイ…」
コレ程とは思わなかった。いない存在として扱われるのがこんなにもキツイだなんて知らなかった。
弁当を一人で食べるのがこんなにも恥ずかしいなんて…知りたくも無かった。
休み時間を寝て過ごすのがこんなにも屈辱的だったなんて…。
絶対的な支配者のいない中学の時は、やっかまれても誰かは話しかけてくれたから、こんな思いはしなくてすんだのに……。
「大丈夫~?」
休み時間を寝ていると、りまに声をかけられた。
彼女は、新しく泉のグループに入った女の子だ。顔は平凡…よりちょっと下程度。ソバカスとニキビが酷い子だった。
入学当初は本当に暗くてブスだったから誰にも相手にされなくて、私が目にかけて優しくしてあげてたのだが……泉のグループに入ってからは、彼女はメイクやファッションを覚えて可愛くなった。
そして、イジられキャラというか面白くて可愛いキャラになり、勉強も頑張り、スポーツも頑張り、泉たちを大きく持ち上げる子になった。
「あぁ…うん…ありがとう」
いつしか…目にかけて優しくしたあげてた子は、逆に私に優しくしだした。
とは言っても、休み時間を少し過ごすだけなのだが、それでも大いに助かっている。
「最近暗いぞ!そんなんじゃ一生一人だぞ☆」
少しイラッと来た。
けれど、彼女は友達で…離れてほしくない。
もう、誰にも嫌われたくなくてグッと堪えて我慢する。こんな奴に気を使わなくてはならないなんて。
どうせ、もう泉には嫌われているのだから。
コレは椅子取りゲームなのだ。
すでに私の椅子は取られて、音楽は止まっている。椅子に座れない私は音楽をかけてもらうのをジッとまつしかない。
「何かあったら言ってね~」
一つ二つ喋った後、彼女は手をヒラヒラさせながら、泉たちのグループへと戻っていった。
「もうやだな…」
自分から椅子を降りた私には、『座らせて』と発言する権利はない。
また音楽が鳴るのを待って、ソワソワと『いつ音楽なるかな?』と立つだけ……それを皆は指をさして笑うのだ。
☆☆☆
昼食時になって、私は不本意ながらも学食に居た。
本当は居たくなかったのだが、母親が弁当を作るのを忘れたので500円玉を渡された。500円で買えるものなんてカロリーメイトくらいだ。それ買って食べよう。
「わぁ~!お花の席だ!座ろう~!」
学食の中で、はしゃぐ声が聞こえた。泉たちだ。
何だろうと見てみると、どうやら今日は学食の真ん中で花に囲まれた、それは綺麗でおしゃれなテーブルと椅子があった。
定員は5名。泉グループも5名だし、何より権力があるから座るのは当たり前だろう。
「アレ…沙羅だよ」
「相変わらず、顔だけはいいよね」
「本当だね…顔はやっぱいいよね…性格もそんなに悪くは…」
泉のグループの女の子たちに見つかり、例の如くコソコソと影口を言われた。
普段と性質が違ったのは…きっと気のせいだろう。
「ねえ皆!座ろう!」
一人、影口に参加していないリマは花のテーブルを指差して笑っていた。
泉たちは返事はしないものの、その席へと座っていく。
上下関係があるので、一番下であろうリマは最後に残った席へと座ろうとしたが…。
「ちょっと待って」
泉がニコリと笑って静止した。
当たり前に座れると思っていたらしいリマは、え?硬直する。
椅子取りゲーム音楽が…鳴った気がした。
いや、泉が鳴らしたのだ。
泉は硬直するリマを放って、こちらへと近寄り…。
「一緒に…ご飯食べないかしら?勿論おごりよ?」
私に向かってそんな事を言ってきた。
とても綺麗な笑みを浮かべて、まるで許してあげると言わんばかりに。
「綺麗なお花の席なの…丁度、一席あるし…どうかしら?」
そこはリマの席ではないのか。リマは青褪めてトレーを持った腕が震えている。
「なんで…私に?」
「だって…やっぱり沙羅は可愛いじゃない。服とか、アクセサリーとか本当に可愛い子にあげたいし…遊びも可愛い子がいいじゃない?」
さも当然に彼女はそういった。
ふと、テーブルの方を見てみると、他の女の子たちも同意した笑みを浮かべている。座っていいよと、許してあげるよと。
私の価値は……顔しかないのか。
「どう?嫌なら…別にいいのだけれど」
悲しそうに、けれど愉快そうな笑みを浮かべて彼女は、堂々とした足取りでテーブルへと向かい、一番いい椅子に座る。
音楽の終演が近づく。
「…ぁ…」
リマは硬直から解けたように、テーブルへと向かっていった。
『お前が行かないなら……私に譲れと』
リマは私の大事な友達だ。ハブられた私を気にかけて話しかけてくれた。それに彼女は努力した。可愛くなろうと、面白くなろうと…だから…その椅子に座れるのは当たり前。
私の価値は顔しかない。努力も何もせずに産まれ持っている……この顔しか。
だからだからだからだからでもだからまただから孤立だからやだだから嫌だから折角だからだからだからだから友達だからあの空間だからだからだからだからだからだからだから
ゴメン、その席は譲れない。
「え…っちょ…」
ガシャン…
気がつけば、私はリマを押し退けてテーブルにいた。
「あの…また…なかよくして…ください。この間は……ごめんなさい」
息も耐え絶えにいうと、泉たちは笑った。嘲笑ではない、友好的な笑みを浮かべて。
「いいよ~!また仲良くしよ~やっぱ可愛いね沙羅って」
「今まで意地悪してごめんね~。沙羅って綺麗な肌してるけど何やってんの?」
「やっぱ可愛い子いないとね~」
友好的に接してくれる。もう嘲笑されない。もう陰口を言われることはない。恥ずかしい思いもしなくていい。指を刺されてバカにされることもない。
それに安堵しつつ、リマが気になってチラリと後ろを見た。
「…っ…」
リマは、私に押し退けられたせいでトレーをヒックリ返し、上からもろに料理を被っていた。メイクは崩れ、髪はボロボロ。
それを周りの子達に笑われ…いないものとして扱われる。
そんなリマは…泣きそうな顔をしながら歪に笑っていたが……目は私を睨み付ける。
「沙羅…気にする事はないわ…座りなさい」
「うん」
泉にそう微笑まれ…私は後ろをみないことにして…ペタンと…椅子に座った。
音楽が終わった。
「そうだわ、今度着て欲しい服があるの。あげるわね」
「うん……ありがとう」
沙羅
この物語の主人公。
あまり取り柄のない子だが、顔だけは異常に整っており、大体そのお陰で人生を楽に過ごしていた。しかし、その顔のせいで泉たちに目を付けられる。
普段はマイペースなだけの性格だが、追い詰められると打算的になる。
桜塚 泉
大きな企業の社長令嬢。学園内でトップの権力を誇るお嬢様。可愛いものが大好きで、好みの沙羅を見付けて偏愛する。
基本的に自分の手を汚さないタイプで、計算高い。