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変な二人組

「あ、これ美味しいね、ラナ」

「ん、まあ・・・そこそこだな」


 本当に素直じゃないなぁと、ルカと名乗った少年が呆れたような顔をするが、ラナと呼ばれた青年はふんっとそっぽを向いて食事を続ける。


 ・・・いったいなんで、こんなことに???


 サーシャはいまいち現状が受け入れられずにいた。

 市場の近くにある宿屋の一室で、なぜか仕事を失敗した相手と一緒に食事をしている。


「サーシャ、早く食べないとラナに全部食べられちゃうよ?」

「あ、うん・・・」


 ルカに促されて鶏を揚げてスープがかけられた料理を口に運ぶ。


 あの後、覚悟したサーシャは、半ばやけくそになって「役人に突き出すなりなんなり好きにすれば?」と言った。


 それを聞いて、なぜか二人は面食らったような顔をして、ルカのほうはあからさまに困ったような表情で。


「ラナ、どうしよう?」

「そうだな・・・」


 じろりとラナがサーシャを見る。

 視線が敵意に満ちていて怖い。


 ルカは全然そんなことはないのに、ラナという青年からはあからさまな敵意や嫌悪と言った、嫌な感情が溢れている。

 それを隠そうとしていないのが、逆に恐い。


 こんな仕事をしていれば、時には人から蔑みや嘲り、嫌悪や怒りの感情を向けられることはある。

 けれど、なにかそういうのとは根本的に違う敵意を感じる。

 こんな理由もわからずに人から向けられる敵意は初めてだった。


「・・・ちょうどいいかもしれねぇな。役人に突き出す代わりに少し付き合ってもらおうぜ」


 意味がわからない、こんな恐い男とは一時も一緒に居たくないと思って、とっさに首を横に振ろうとしたが。


「うん、それ賛成!」


 ルカが嬉しそうな声を上げてびっくりして否定の言葉を呑んでしまう。


「君も、役人に捕まるよりいいよね」


 ラナとは対照的な好意に満ちた眼差しに、驚いて思わずうなずいてしまう。


「僕はルカ、こっちはラナ。君は?」


 なんなのこの二人組み。


「サーシャ・・・」


 頭が混乱したまま、つい応えていた。


「サーシャ、よろしくね」


 掴まれていた腕を放されて、かわりにちゃんと手が握られる。

 ルカの無邪気な笑顔にちょっとほっとする。

 じゃあ、こっち・・・と、連れてこられた場所がこの宿屋。

 二人が宿にしている所で、食堂もあるけど二人は部屋の方が話しやすいからと、ちょうど昼近かったのもあって部屋で食事をとることに。


 サーシャは宿屋に入る前に逃げようかと思ったが、近くにいるラナにその隙が全くなくて、諦めた。

 良く観察すれば、ただの少年にしか見えなかったルカも身のこなしが機敏で、隙がなかった。


 なんで、こんな二人に目をつけちゃったかな~。


 やっぱり浮かれて仕事に取り掛かったのがまずかったか。

 こっそり反省していると、じっとこちらをみているルカの視線を感じる。


「なあに?」

「あ、ごめん。なんでもないよ」


 ごまかすような笑顔。

 とりあえず、食事を続けるけれど感じるのは興味津々といった気配。


 なんなんだろう、ホントに・・・。


 ラナは敵意むき出しで、ルカは好意とも思える好奇心が溢れている。

 そのなんともいえない雰囲気にサーシャは限界になって聞いた。


「それで、わたしをここに連れてきた理由ってなに?」

「あ、・・・それは」


 ルカが口を開くが、ちょっと迷ったように口ごもる。

 首を傾げて言葉を待っていると。

 それまでサーシャにまともに声をかけなかったラナが口を開いた。


「俺たちは人を探してんだよ。・・・そういう情報に心当たりねぇか?」

「情報?」


 きょとんとして二人を見る。


 人探しの情報なら、普通に街の役人とかに相談した方が手っ取り早いんじゃ・・・と、思って、さっきの二人の様子に思い当たる。

 役人に突き出せと言ったときの反応。

 わからないけれど、二人は役人とかに関わりたくないのだとわかった。

 サーシャ自身、脛に傷持つ身だから、気持ちもわからなくない。

 それに、情報にも心当たりがあった。


「ふーん、情報ね・・・」


 ニッと笑って、サーシャはテーブルに片肘をついて、手の甲にあごを乗せた。


「・・・いいけど、高いわよ」

「え?」


 ルカが目をパチクリと瞬かせる。


「あ゛・・・?」


 と、ラナが凄みの効いた声を発した。

 サーシャは反射的にびくっとなって身を起こす。


「っ、ジョーダンよ、冗談。恐い声ださないでよ。

 てゆーか、なんでそんな敵意むき出しなわけ?

 そりゃお金取ろうとしたのは悪かったけど、けっきょく失敗だったし。

 わたし、そんなうらまれる覚えないんだけど??」


 恐い目つきを跳ね返すように睨み返す。


 これでも、今まで一人で生き抜くためにそれなり修羅場を潜り抜けてきた。

 ラナには逆らわない方が賢明というのは、なんとなく本能のような直感でわかるから、逆らう気はない。

 でも、なんでも言うなりになる気もさらさらなかった。


 じっと睨み返すと、ラナはちょっと眉間に皺を寄せて目を逸らした。

 でも、理由を語る気はないらしい。


 なんなのよ・・・。


 ぷっと頬を膨らませると、ハラハラとこちらを見ていたルカがとりなす様な声を上げた。


「ごめんね。ラナは人間嫌いなんだ。・・・ちょっと態度悪いけど、危険はないから・・・」


 そうかもしれないけど、やっぱり理由のわからない敵意は居心地が悪い。


 いけ好かないヤツ。


 たった数十分で、サーシャはラナをそう結論付けた。


「・・・ごめんね」


 ルカが自分のことのように謝る。

 それに引き換え、こちらをうかがうルカはなんか小動物のようで可愛い。


 ちょっと年下の男の子。

 弟がいたら、こんな感じかもしれないと思った。


「ルカが謝ることないわよ」


 サーシャは苦笑して、ルカの髪の毛をを混ぜっ返す。


「サ、サーシャ・・・?」


 頭を抑えるルカにニッと笑みを向けて。


「ラナは気に入らないけど、ルカはなんか可愛いから、人探し手伝ってあげる」

「ホント? サーシャ」


 ルカが嬉しそうに顔を輝かせる。

 やっぱり、素直で可愛い。


「・・・手伝いってなんだ? そんなこと頼んだ覚えねぇぞ」


「あんたの手伝いするなんていってないわ。それに、お望みの情報は、ちゃんと教えてあげるわよ」


 サーシャは腕組をして、ラナの嫌そうな視線を正面から受け止めた。


「じゃ、食事が済んだら出るわよ」




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