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サーシャの仕事

続編ですが、単体でも読めるつもりです。

 白い石造りの建物が並び、夏の始まりの日差しをきらきらと反射している。

 その日、街はいつもどおりの活気で、色とりどりの天幕が張られた市場には人がごった返していた。

 王都に続く街道沿いのこの街は人と物の出入りが激しい。

 遠い場所から行商人が運んでくる荷物、それを売り買いする人。

 旅人も多いし、それを目当てに土産物や食事を振舞う店や宿屋など、とにかく活気と熱気がうずまいている。


 サーシャはそんな市場を歩きながら物色していた。


 いつもと同じように、足取りも軽く人々の間を縫っていく。

 初夏の涼しい風が吹いて気持ちがいい、熱気がこもるような人の群れの中でもサーシャの服装は、膝上丈のキュロットと膝下まであるやわらかい皮製のロングブーツに上は肩に近いところまでの半そでという、動きやすく身軽な格好なのですごしやすい。

 髪もサイドを短めカットして、長く残した後ろ髪は綺麗に編みこんで背中におろしているので、じゃまにならなく涼しい。

 荷物は腰にベルトで留めた小ぶりで皮製のカバンに入っていて、手が自由に動くのも楽で、最近はこんな格好で街を歩くのが日常だった。


 さあ、今日もお仕事しましょうか。


 鼻歌でも歌いそうなくらいご機嫌な様子で歩いていく。

 というのも、昨日の仕事がすごく良くて、久しぶりにかなり稼げたからだった。


 さて、今日はどの人にしようかな~。


 歩きながら人々を見る。

 でも、一人をじっと見たりはしない、視線を流しながら仕事になりそうな人を探す。


 ふと、目を引く人を見つける。

 薄手のマントを着た二人組み。

 大柄の青年と小柄な少年の二人は旅人のようだった。

 青年は中途半端な長さの後ろ髪をうなじあたりで細く結んでいて、少年は頭の形に切りそろえられた髪型で、二人ともこの辺りではちょっと珍しいくらい真っ黒な髪が目を引いた。


 近くの店を覘きこんでいた二人はただのひやかしだったのか、なにかを買ったふうもなく店から離れてこちらの方へ歩いてくる。


 正面から顔を見て、表情には出さずに驚く。

 ちょっと見ないくらいに綺麗な顔立ちだった。

 髪と同じ、真っ黒な瞳にすっと通った鼻梁。

 青年は少し目つきが鋭くて一見怖そうだけど、やっぱり美形の部類だ。

 少年の方もまだ子供のあどけなさを感じるけれど、端正な顔立ちだった。


 おっしいな~、あともうちょっと歳が上だったらなぁ。

 すっごい好みなんだけど。


 心の中で落胆して、サーシャは仕事に戻る。

 近くの店をひやかす振りで、横目で二人を確認する。


 二人は話しながら人ごみの中を少しずつこちらに近づいてくる。

 薄手のマントの下には護身用なのか、剣を腰に佩いているのが見えた。

 青年の体格を見れば剣士といってもおかしくない感じだ。

 でも、少年の方は・・・たぶん飾りかなにかだろう。

 一応の脅し程度にしか思えなかった。


 歩くたびに動くマントの下で、少年の腰にくくりつけられた袋が見える。


 あれって・・・!


 サーシャは直感でわかった。

 思わず、笑みがこぼれる。


 昨日に引き続き、私ってツイてる。


 やっぱり若い頃に苦労すると、いつかは報われるのかしらね。

 鼻歌でも歌いそうなくらいサーシャは上機嫌になった。

 かくゆうサーシャもまだ17になったばかりで、決して若い頃は・・・なんていう歳でもないのだが。


 今まで苦労して一人で生きてきたんだから、神様もたまにはいいことしてくれるってことよね。


 と、一人で納得して、いつもどおり仕事をはじめた。


「ねーちゃん、なんか買うのかい?」


 ひやかしていた店の店主に声をかけられて、「ああ、ごめんなさい」と謝ってから二人のほうへと足を向ける。


 二人との間はまだ人が5・6人は居る。

 急にサーシャは何かを思い出したかのように少し駆け足になって、その人たちの間をすり抜ける。

 人が不審に思わないスピードで進み、二人に近づくとちょっとごめんなさいと小さく言葉を発しながら、二人の間を通り過ぎようとした。


 通り過ぎながらいつもどおり仕事をする。

 少しだけ少年に肩が当たるが、この人ごみでは日常茶飯事レベルだから、不審がるはずもない。


 ちょろいわね。


 心の中でほくそ笑んだそのとき。

 ぎゅっと腕を掴まれて、進む勢いがそのまま反動で後ろに返って体勢を崩す。


「きゃ!?」


 びっくりして口から声が出るのと、腰が抱きとめられて支えられるのが同時だった。

 何が起こったのか一瞬わからずぼうっとしたあと、はっとなって掴まれた腕を見る。

 掴んでいたのは、今まさに仕事をした少年。

 そして、自分を支えたのはその連れの青年だと気づいて青ざめる。


「えっと・・・」


 少年がどこか困ったみたいに小さく首を傾げて。


「それ、僕の財布なんだけど・・・」


 言い難そうにサーシャの手の中の袋を指差す。

 サーシャは失敗したことが信じられなくて声が出ない。


 そして、危うく転びそうだったサーシャを抱きとめた青年の腕は、そのままがっちりと腰を掴んだまま。

 腕を掴む少年の手ももちろん放されてはいない。

 こんな、絶体絶命のピンチなんて今までなかった。


 言葉も出ずにだらだらと脂汗を流していると。


「ねえ、ラナ・・・これってスリってやつかな?」


 なぜか少年はどこか楽しそうな様子で、腰を掴む青年が思いっきり溜め息をついた。


「そうだな・・・たくっ、まためんどうくせぇのに巻き込まれやがって」


 心底嫌そうなラナと呼ばれた青年の声と、なぜか楽しげな少年。

 意味がわからなくて、サーシャは気が遠くなった。



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