スペア
二股かけたってあなたは私を非難するけど、逆に聞きたい
試験に向うのにペンケースに鉛筆一本だけで行く?
ダカールラリーにスペアタイヤ無しで参加する?
この苛酷な世の中を生きるのにどんなものにもスペアは必要でしょう
「わかりました真梨恵さん」
「あなたにとって僕は達彦さんのスペアだったんですね」
「それはそうですよね」
「営業部の花形の達彦さんと、庶務の僕では…」
「きっとこの広い世の中にはあなたの考えを理解する人もいるでしょう」
「スペアにはそういう人を探して下さい」
「真梨恵さん、今日でお別れです」
「僕は会社に明日辞表を出します」
「知ってしまった以上今までのように達彦さんやあなたと顔を合わせるのが辛い」
「故郷に帰って父親の会社に入ります」
「…と言っても家の不動産を管理するだけの小さな会社ですが」
「ああ、家は代々の地主なのです」
「そういえば実家の話をしたことがありませんでしたね」
「あなたに聞かれたこともなかったし…僕はスペアでしたから興味がなかったんですよね」
「結婚を意識したこともなかったでしょうし…」
「不動産賃貸業といえば人は羨ましがりますがそんなにいいものではありません」
「五千万近い固定資産税を払うのにどれだけ効率よく土地やビルに稼がせるかを考えるのは本当に大変なのです」
「特にリーマンショック以降はどのビルも空き部屋が増えて」
「父親は質素を旨とし一枚のポロシャツをボロボロになるまで着ています」
「時々職務質問も受けているようです」
「まあ、母親はジャラジャラ宝石をつけて遊び歩いてますが…」
「父は本社の常務が若い頃、私の地元に赴任した時知り合いになり、そのコネで私はここに入社したのです」
「…あなたには関係のない話でした」
「あなたのようなきれいな人とお付き合いできて幸せでした」
「が、僕は実力のない負けず嫌いなのです」
「真梨恵さんのように達彦さんの彼女のスペアでいられる寛容さはない」
「アレッ、ご存知ありませんでしたか」
「達彦さんが来春常務のお嬢さんと結婚するのを…」
「どうしました真梨恵さん」
「顔色悪いですよ」
「すみません…僕は今嘘をつきました」
「二股かけられていたのが悔しくて」
「達彦さんが結婚するのは常務のお嬢さんではなく、あなたの同期の総務の三田さんです」




