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掌編小説-Ⅰ  作者: 幸田 玲
5/7

驚きの車内編

台詞は大阪弁で、軽いタッチのコメデイ風に掌編を描いてみました。

異色作品です。

 平日の午後の車内は、春の陽気を思わせるような、暖かさがあった。

「あんたぁ! なんやのん」

 非難する、女性の声が聞こえた。

 座席でまどろんでいた私はびっくりして、思わず顔を上げた。

 向いの座席側に、黒い眼鏡をかけた小太りの中年女性が立ち、女子大生と思える女性と睨み合っている。確か、若い女性は脚が長くスタイル抜群で、脚を組んで座り、スマートフォンを熱心にいじっていたはずだ。

「脚だして、通行の邪魔になるやんか」

 どうやら、投げ出した脚のつま先が、中年女性の持っていたトートバッグに当たったらしい。

「あやまりもせんと、嫌な顔して。あんた、なんやのん」

 中年女性は、怒りに燃えているようだ。若い女性は唇をゆがませ、不満げなまなざしで、中年女性を見上げている。

 中年女性はため息をつくと、その場から離れて行った。

「うるさい、ババア」

 若い女性の声があがった。

 その声が聞こえたのか、中年女性は(きびす)を返してもどってきた。

「なんやてぇ。もう一回、言うてみィ」

 腹の底から湧きあがるような、ドスの効いた声が飛んだ。中年女性の握りしめたこぶしが、怒りでわなわなとふるえている。

 若い女性も負けてはいない。般若を連想させるほどおぞましい顔つきになり、中年女性を、掬い上げるようにねめつける。

 二人は睨みあったまま、一歩も譲ろうとはしなかった。

 電車が駅に停車して、乗降が始まった。

 若い女はとっさに顔色を変え、ふいに両手で顔をおおった。

 そのとき、若い男が近づいてきた。彼氏のようだ。

「千里、どうしてん?」

「あっ、たっくん。この人、怖いの」

 千里は、甘えた声をだしてむせび泣き、彼氏の腕に縋り付いた。

 たっくんは中年女性を睨みつけ、千里を連れて、別の車両へと移って行った。

 その後姿を呆然と見送る中年女性のトートバッグには、汚れがはっきりと付いていた。


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