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神が鎮座する町 巫女と親友とちょっと本気になられると困る話

山と海に囲まれた町、神生(かみうま)(ちょう)

その神生町に住む人々は北に位置する山を()縁山(えんやま)と呼ぶ。

標高はそこまで高くはなく全国的に有名ではないその山だが、住人は心から大切に、そして誇りに思っていた。


火縁山は我らの神が未だに鎮座なされている。

『神以て御伽噺にあらず、神以て虚言にあらず。ゆめゆめ疑うことなかれ』


信仰とは違う、遥か昔から語り継がれた事変を、そして未だ変わらない事実を住人は日常の一部として受け入れている。そしてそれはこの先も変わる事はない。


さて、実際に神が住んでいるとされているのは火縁山中腹に建てられた神社である。詳しく語ればその神社の境内に建てられた一際大きい神殿の奥、真っ赤に染められた門の先に鎮座されていると認識されていた。しかし、一般の住人がその扉を除くことは許可されていない。当然、実際に神を見たものなど住人にはいないだろう。それでも住人は神がいるのだと理解する。自身一人一人がこの町住んでいるという真実、それこそが確かな証拠なのだ。


神社では恒例行事が行われることがある。数多の神社に様々な行事があるなか、この神社では月に一度火炊き祭と呼ぶ行事が行われる。

その日も火焚き祭が行われていた。


「朝日が目にしみる、火焚き祭もやっと終わりだ」


 そう言ったのは艶のある黒い長髪を靡かせ、東の空から明ける太陽を見つめる女の子。その顔は太陽の光のせいか、それとも別の理由なのか目を細め、眉を顰めて不機嫌そうに見える。


「でも、楽しかったのです。結構参拝客も来てくれたし、お汁粉も飲めたし」


 笑顔でそう言ったのは茶髪の癖毛が印象的な女の子だ。


「こう言った古臭い儀式に関心を持つのはご年配ぐらいだろ、朝と昼間ならまだしも深夜なんて誰も来ないんだからたくさん薪を放り込んでおいて寝させろってんだ」


 二人以外存在しない境内を見渡しながら黒髪の彼女はため息を零した。どうやら呆れ半分、不機嫌半分といった状態のようだ。


 火焚き祭は二十四時間火を絶やしてはならないのが慣わしだ。ただ、若者や中年層はあまり行事に関心がないらしく深夜から明け方にかけて人が来ることはほとんどない。


「凛火がそんな事を言ったら駄目なのです。この神社で長系(ちょうけい)巫女(みこ)と呼ばれているのですよ」

 茶髪の彼女が嗜めるように言えば、黒髪の少女はさらに不機嫌さを増す。


「成りたくてなった訳じゃない。たまたま、この神社で守人をしている母が最初に産んだ子が私だっただけだ。巫女とは言っても特別な力がある訳じゃないし、所詮名だけだ」



 黒髪の少女――― 火野中凛(ひのうちりん)()()()チ神社長系巫女にして次世代の守人候補である。守人とは神を人側から支える代表の事を指す。そして同時にこの神社の後継ぎという意味合いを持つ。



「それに守人とは言っても、母さんは自分の母親に全部押し付けているから、実際に実権を握っているのはクソババアだ」


 苦いものでも吐き出したような凛火の表情を見て茶髪の彼女は笑みを深くする。


祥子(しょうこ)だって、私と知り合わなければこんな事に付き合わせられないで済んだんだからな。ババアにこき使われて悔しくないのか?」


 茶髪の少女―――祥子は本心を口にする。


「私は凛火と知り合えて良かったと思っているのですよ。黒髪長髪で姿は可憐なのに中身は男みたいなギャップ、思わず可愛いから食べちゃいたいと―」


「そんな趣味は私にない」


 即答だ。最後まで言わせなまいと必死な速度で返された。祥子は声を上げて笑い出す。こんな掛け合いをするのがお互い大好きなのだ。その証拠に不機嫌だった凛火が苦笑を浮かべている。


「さっきの言葉、後半は冗談ですからね」


「出なきゃ困る」


 そんなことを言いながらも仮に祥子が本気だった場合、彼女は拒絶などしないで本気で考えて答えを出してくれるだろう。そう確信する祥子はだから大好きなのだ、この男みたいな言動をしながらも心が脆い少女を。



 先ほどまで笑っていた祥子がまじめな表情を作る。


「最近、授業中に良く寝ていますね」


 そう言われて凛火は怪訝な表情を浮かべた。


「もしかしてまたですか?」


 その問いにようやく理解を得た凛火はゆるく首を横に振る。


「最近は見ていない。今回の寝不足は別件だ」


「別件の理由を聞いても?」


 建前上お伺いを立てているが、祥子の追及をかわすのは結構骨が折れる、こと凛火自身のことに関しては特にそうだ。


「それにしてもよく気づいたな。顔色の悪さは化粧で隠していたのに」


「逆ですよ、普段化粧しないでしょう」


「よく見ているな」


純粋に凛火を心配しているのを知っているから無碍には出来ない。


「もう、これは癖のようなものです」


 祥子にしては珍しく苦笑を浮かべて言った。


「そうか癖になるほど私は酷かったのか」


 二人が出逢ったのは凛火が酷く他人を警戒していた時期だ。他人とは一切話さない小さな凛火は周りから酷く浮いていた。教師もそんな凛火を持て余し見て見ぬ振り、そんな悪循環の中、献身的に支えてくれたのが出会ったばかりの祥子だった。


「言っておきますが、私は引きませんよ?」


 そんな理由も相まって凛火は祥子に頭が上がらないだけでなく追及をかわせたことも一度としてない。


「知っているよ、お前は昔から頑固だった」


 事実上の敗北宣言を述べて凛火は視線を焚火へ移した。


 そして口を開く。


「ここ最近、おかしな夢を見る」


 焚火の爆ぜる音が静かな境内に響いた。




事実上の一話です。


      よろしくお願いします。


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