今の物語 プロローグ
闇よりも暗いその場所は生き物の気配がなく、かといって邪気などは微塵も感じない。ただそこに静かにあり続ける。
人がそんな場所を思い浮かべたとき、最初に抱く感情は恐怖よりも寂しいという気持ちだろう。
だがそれは人だけなのだろうか?
そんな暗き場所に一つの気配が生まれる。
(きっと、彼女は選択したのだ、苦渋の決断だったのだろう)
静かでいて穏やかな声、なのに不思議とその声は暗き場所すべてに響き渡るほど強い。
(幼い身での選択は自身の心を壊れかけるほどだったであろう)
彼女の苦悩を思いながらの苦悶に満ちた響き。
(しかし、そこに小さな希望が生まれた)
僅かな歓喜を滲ませた響き。
(我は求める、その小さな希望を持つ彼女を)
それは祈りにも似た響き。
(その為に我は永遠の摂理を破ろう)
揺ぎ無い決意を抱く響き。
(そして我は孤独を終わらしたい)
凍えるような悲しい響き。
(かつて無償の愛を施してくれたあの方の絶望を払拭するために)
溢れるぐらいの慈しみを込めた響き。
(時は僅かに移ろい、時代が変わった。古の儀式を始める)
先ほどまでとは違った無機質な響き。
(我は希望の彼女に願う、どうか無償の愛を注いで欲しい。さすれば愛は愛によって返され己の心を温かく満たし癒してくれる。そう、このように…)
今まで暗闇だったその場所に光が僅かに降り注ぐ。その光は灯火のように弱く、それでも確かな暖かさを感じさせる。
僅かな得た光によって暗き場所がどういった場所なのか少しわかるようになった。
その場所には似つかわしくない三メートルほどの人工物が中央にあり、その周りを何かの塊が折り重なって鎮座していた。
そこで初めて人の声が聞こえる。
「我らが悲願叶えるために始まりの命を見守りに行きます。そしてこの場所で再び合間見えましょう」
枯れた老人のような声が聞こえたかと思うとその場所に唯一存在していた気配が動きだす。
カツ、カツ、トン。聞こえるのは靴を踏みしめる音と何かを地面に突く音。
その足音と突く音はこの場所を照らす温かい灯火へと向かっていた。
(後を頼むぞ…我の…)
憂いの響きを最後にその場所は完全な無音となった。
初めての投稿ですので暖かい目で見てやってください。
基本不定期での投稿となります。
よろしくお願いします。