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カッパ・ビオトープの実際

作者: はくたく

不人気作品を本文からなにから、すべて書き換え。カッパのためのビオトープ作りの具体的方法を記述いたしました。いいのかこんなことして。

 カッパ(河童)ビオトープ

1.カッパの特徴

・カッパの形態

 カッパは、昔から日本人には非常に親しみ深い妖怪の一つと言えます。多くの民話に登場し、北海道から沖縄まで、日本国内で河童やその類似妖怪の伝説のない地域は、ないと言ってもいいくらいです。

 時には人間を溺れさせ尻子玉を抜いたり、馬を川へ引きずり込んだりと凶悪な面も見せますが、概ね人間に好意的で致命的な悪さはしないというのが、彼等の印象でしょう。

 主に河川や沼などの、比較的広い水域に生息し、巣も水中にあるとされますが、陸上で活動する姿を目撃されることが多いようです。地方によって、その形態も習性も様々に言い伝えられていますが、頭頂部に皿があるというのが、基本の特徴としてもっとも多く伝わっています。この皿というのは、頭のてっぺんが平らになって、無毛になっている状態を指していて、たまに童話やアニメなどで描かれるように、陶器の皿が乗っかっているわけではありません。この部分に常時水が溜まっているか、濡れていて、水がこぼれたり、乾いてしまうと力を失って弱くなってしまい、完全に乾いたり、皿そのものが割れたりすると死んでしまうとされています。

 一般的に知られているその他の形態は、体表面がカエルのごとくぬるっとしていて、口はクチバシ状であり、背中には亀のような甲羅を背負い、手足には水掻きがある姿です。

 しかし、これらは地方や伝承によって微妙に違いがあって、甲羅のないものや皿のないもの、毛が生えたり、口が獣のようになったりしたものの図絵も残っています。

 また、もう一つの特徴としては、両腕がつながっていて、片方の腕を縮めることで、もう一方の腕を伸ばす事が出来るというものがあります。この能力で遠くの物をつかんだり遠くまで攻撃したりしますが、この腕は非常にすっぽ抜けやすいようで、人間が腕を引っこ抜いたなどという伝説も残っているようです。

 これらの特徴は、伝説によって様々に描かれていて、昔の人々にとって河童が非常に身近な妖怪であったことをしのばせます。

 伝説の多くでは不用意に水辺を通りかかったり、泳いだりしている人を水中に引き込み、溺死させて「尻子玉」を抜くとされますが、これは溺死者の肛門括約筋が弛緩するため、穴が開いたように見えることから来ていて、河童は無実であると考えられます。

 おそらく、子供が不用意に水に近づくことを戒めた話がこのように伝わっているのでしょう。そもそも、尻子玉なる臓器が存在しないことも、この理由として挙げられます。


・カッパの生活

 カッパは非常に知能が高く、独自の文化を持っていると思われます。相撲が大好きで人間を相撲に誘った話や、助命の御礼として、魚や、独自の秘薬の製法を恩返しとして提供したとされる民話も数多く存在することからも、推測できます。

 また河童は、キュウリが好きであるとされます。キュウリを巻いた巻き寿司が「カッパ巻き」などと言われるのは、これに由来します。伝説の中には、キュウリ畑を荒らしたなどというものも残っていますから、そういう性質もあるのかも知れません。

 しかし一説には、どうも「キュウリ好き」というのは、体色が緑であるとされることから来ているだけとも言われています。ただ、キュウリなどウリ科の野菜は「陰の気」を持っており、人間が食べても非常によく体を冷やします。水の陰気を持つカッパがキュウリを好んだとしても、なんら不思議ではないと思われます。その他に弱点としては、「鉄などの金属」「鹿の角」「猿」を嫌うとされています。

 河童がどのようにして日本に生じたかについては西日本と東日本で異なった伝説が残っています。西日本では大陸からの渡来とされ、中国大陸から九州に渡ってきたと言われます。

 この一族を束ねる総大将の名は、「九千坊」と呼ばれ、筑後川を中心に活動していると言われています。この大陸から渡来したとされる一族は、エンコウ(猿猴)と呼ばれ、その性質も中国でいうところの「猴」すなわち大きなサルに似ているようです。また、熊本県には、やはり水辺に現れる、ヒョウスベという妖怪が伝わっていますが、九州北部ではカッパの神を「兵主部羅神」と呼ぶことから、ヒョウスベもこのエンコウの一族と思われます。

 これに対して、東日本では河童の由来としてまるで違う伝説が伝わっています。

 まず一つは、もともと安倍晴明の式神であり、それが元となったとする説です。安倍晴明は、小説や映画、TVなどでも題材にされた、平安時代の陰陽師です。おそらく日本で、もっとも有名な陰陽師と言えるでしょう。

 しかしこの説は、出典がはっきりとしません。おそらく、人形が変じたとする説と、安倍晴明がよく使ったとされて有名な「一条戻り橋の式神」伝説が独り歩きした結果ではないでしょうか。

 もう一つは、とある宮大工(左甚五郎とも言われる)が仕事を手伝わせる為に、木端を使って作った人形を、用無しとなったため川に捨て、それか変じて河童となったとする説です。こちらも式神同様、もともと無生物だったものが人によって生を受けた結果、河童となったということになっています。

 この他にも、水神の落ちぶれた姿とか、カッパの起源は諸説ありますが、有名なのはこの二つのようです。

 こうして見てみると、驚くべき事に西日本でも東日本でも、河童は昔からいた土着の妖怪ではなく、いわゆる「外来種」と呼ばれるものの範疇に入ると言えます。

 また一説には、日本書紀に現れる水の精「ミツチ」が河童の元祖とも言われますが、たしかに現存の方言に、河童をミツチと呼ぶ地方はあるものの、これが同一であるという証拠はどこにもありません。

 しかし、カッパと日本人との関わりの深さは、名称一つとっても各地方で様々な方言があることからも推測できます。例えば、「カッパ」からの変化と思われるものには、ガワッパ、ガワワッパ、ガラッパ(熊本県八代地方・鹿児島県川薩地方など)、カワタロウからの変化としては、ゲータロ、ガタロウ。

 この他にも、前述のエンコウ、メンドチ、メドチ、ドチガメ、シバテン等、細かく見ていけばさらに多くの方言が残っており、これほどまでに日本中で、様々な名称で言い伝えられている妖怪も少ないのではないでしょうか。


 カッパにはまた、一部地域では冬になると川から上がって山に入り、山童やまわろになるという伝説も残っています。面白いことに山に入ったカッパにまで方言が存在し、山に入ったカッパを大分県では「セコ」と呼び、和歌山県では「ケシャンボ」と呼ぶようです。

 しかし、遠く離れた地域で、似たような性質が言い伝えられていることは、非常に興味深く、もしかしたら、原型となった何者かがいたのではと想像させられます。


 また、寺院や博物館に、「河童のミイラ」や「河童の骨」等と呼ばれる物が伝えられている場合がありますが、これらのほとんどは江戸時代以前の工芸師が、エイやサル、コイ、フクロウなどいくつもの動物の死体を組み合わせて作ったものであるとされており、鬼や人魚などのミイラも同様であると言われています。

 しかしカッパに関しては、鬼や天狗と違って、比較的近代でも目撃されることがあって、いわゆる未確認生物として扱われることもあります。

 九州南部・奄美地方に伝わるケンムンや、北海道のアイヌに伝わるミンツチカムイ、それどころか、遠く離れたアメリカのフロッグマンのように、かなり離れた地域で非常に似通った性質を持つヒューマノイドの伝説や目撃例があることを考えると、大変面白いものです。

 もし、見間違いだとしても、何か水辺に共通の自然現象や動物の行動があるのかも知れませんし、もしかしたら、そういった生物が実在するのかも知れません。


2.カッパ・ビオトープの実際

 カッパの生活には、新鮮な水と緑、そしてなにより「人間の存在」が欠かせません。そういう意味で、まさしく由緒正しき、里地・里山ビオトープの妖怪と言って差し支えないと思われます。

 同様に有名な妖怪の中でも、神霊的な傾向の強い天狗や龍と違って、特に生物としての特徴が細かく語り継がれており、妖怪の中でも、もっとも実在の生物に近い存在のひとつであるといえます。


・環境条件

 陰陽五行説において、カッパは「水」気の性質を持つ妖怪です。

 よって、カッパの生息には、池でも流れでも良いですが、まずは水辺が絶対必要条件となります。

 しかし、学校ビオトープ池などによく見られるような、深さ数十cm、広さも数m四方程度の小さな水域では、とてもカッパの生息空間とはなりません。

 井戸や湧き水のような、非常に小さな水域に単独で生息したとされる例も知られますし、ほんの小さな水たまりに何十匹ものカッパが潜んでいたというような伝説もありますが、これらはあくまで例外と思われます。

 通常は中小河川やそういった河川の淵、または城のお堀、山間部のため池や沼などに、家族単位や部族単位の復数匹で生息するものと思われます。

 このため、カッパ・ビオトープ予定地に人工池や人工河川を造成する場合は、最深部は最低でも1m程度として、可能な限り深くとり、水面も500m2は確保したいものです。

 この数値目標は、人間大の生物が、完全に姿を隠せる水深、広さを想定しています。もしこれ以下の広さ、水深しか確保できなくても、カッパが安心して身を隠せる条件が整えば、それで良いといえます。

 また、池であれば既存の流水を引き込むなどして、水の出入り口を作らなくてはいけません。この場合、用水路などの小水路であっても良いので、年間を通して水が枯れない水路でなくてはいけません。水涸れはカッパの生活に危機的状況をもたらすので、充分に留意したい点です。

 新鮮な水が常時供給されることで、カッパの生活用水として有効なだけでなく、巣であるビオトープ池から魚介類などのエサを採りに、地区内の水域に水路を通じてカッパが出て行ける事が大事なのです。

 元々ヒューマノイドタイプのカッパですから、陸上移動は可能です。

 だから水が繋がっていなければ、陸上を歩いていけば良さそうなものだし、実際に水域が分断されてしまってそうせざるを得ない生息地も各地で見られます。

 しかし、それはカッパにとっては大変な危険を伴う行為です。

 頭頂部が乾くと致命的な状態になってしまう事を考えると、本来、彼等はほとんど水から離れることはないものと思われるからです。

 こうした行き来が出来るように配慮した道を、「コリドー」といいます。

 これに生物の意味を冠した「ビオコリドー」とは、「生態的回廊」などと訳されますが、要するに、ビオトープとその他の生息域とを、生き物が安心して行き来が出来るように設定された通路です。

 この場合は、カッパという妖怪のための通路ですから、さしずめ「妖怪コリドー」とでもいう事になります。

 地域における水系の連絡が無くなってきて、大きな段差などでの水域の分断が目立つようになってきたことも、今日、カッパが生息域を狭めてきた原因の一つと言えるのかもしれません。

 年間を通じてと書きましたが、冬期は水が止まる農業用水が多くあります。こういった水路を水源として利用する場合には、水涸れしてもカッパが冬期間、安全に冬眠できるように池の水深や広さを、より大きく確保しておく必要があります。

 また、池の構造については、カッパは水中に横穴を掘って冬眠しますので、池の護岸をコンクリートや石ではなく、土にしておく必要もあります。

 ただもし、山のふもとや山間にビオトープを設置するのであれば、カッパは冬期間にはヤマワロ(山童、ケシャンボともいう)に形態を変化させて山に入りますので、この限りではありません。

 また、どうしても十分な水利が得られない場所もあると思われます。

 しかし、はっきり言ってそういう場所はカッパの「水気」を拒んでいるわけですので、そこはカッパにとって相応しい住みかではないと考えましょう。心配せずとも、その地に適した妖怪は必ずいますので、改めて妖怪選定をし直すか、どうしてもカッパにこだわるのであれば、場所を変更した方がよろしいでしょう。


・ビオトープの全体構成

 カッパ・ビオトープの計画の際にもっとも重要なのは、水際のエコトーンであると言えます。水際のエコトーンとはつまり、水域と陸域の境目のことであると考えて頂ければいいでしょう。

 水域や陸域といった、ビオトープを構成する生息地の種類の単位は「ハビタット」と呼ばれています。そして水域と陸域だけでなく、林と草地、砂地と草地のように、違った種類の生息環境の境目を、ビオトープ用語で「エコトーン」と呼ぶのです。

 複数の種類の生息地(=ハビタット)をつなぐ境目(=エコトーン)は多くの水中と陸上の両方を行き来する生物種の生活に非常に重要な役割を果たしています。

 例えば幼虫が水中に住み、水辺でサナギになって、茂みの周りを飛翔するゲンジボタルなどは、もっとも特徴的な例です。ゲンジボタルにとって、このエコトーンの構造が適していないと、陸上に産卵された卵が孵化しても幼虫が水中に行けなかったり、逆に羽化するために陸上に出られなかったりするため、生息できなくなってしまうことがあります。

 この例に漏れず、カッパもまた水際の構造に留意しなくてはならないわけです。

 通常のビオトープであれば、多くの生物に利用されるように、水際はなだらかな水深変化にしてアシやガマ、ミクリなどの抽水生植物を水深に応じて生えてくるように配し、更に沈水性植物や浮標性植物が生えられる環境を作ってやることで十分なのですが、カッパ・ビオトープの場合はこれだけでは完全とは言えません。

 ポイントとしては、彼らは基本的に知能の高い妖怪であって


・遊び好き、いたずら好きである。


・用心深く、隠棲傾向が強い


・複数で社会生活している


 これらの点を考慮して、エコトーンを整備しなくてはいけません。

 まず彼等が非常に活発で遊び好きであるという点からは、よく直接水中に飛び込む習性があるため、岸から急深になるエコトーン部分が必要といえます。特に岸辺には大きな自然石や倒木を配して、いわゆる飛び込み台や滑り台のように作ってやると良いようで、夜間に群れで飛び込み遊びをする姿も観察できるかも知れません。また、もちろん飛び込む場所は底で怪我をしないように、障害物がないように深く作ってやる必要があります。

 しかしもちろん、すべての岸を急深にしなくてはいけないわけではありません。

 むしろカッパが上陸しやすいように、またその他の生物多様性の向上のためにも、抽水生植物の生える、なだらかな水深変化の部分も作っておきたいものです。

 これにより、水深に応じた植生が形成され、水生植物の多様性が確保できると同時に、カッパの餌となる魚類やその他水生生物の避難場所や、産卵場所としても機能するからです。

 また、更に重要なのが円形の裸地である「相撲取り場」の設定です。カッパが相撲を取る習性はよく知られていますが、草むらや繁みばかりでは相撲を取れないのです。

 裸地であっても、砂利や石ころだらけではこれまた相撲を取るには不都合です。よって、直径3~5mの円形の土地を相撲取り場として計画し、そこから石や草、倒木を取り除き、堅く付き固めて、表面に山砂を撒き土俵にしてやるといいでしょう。

 必要なのは、子供が相撲を取れるくらいの広さですが、少し大きめに作成しておけば、相撲を取っていない順番待ちのカッパが見物するにも都合が良いでしょう。

 相撲取り場は、すぐに草などが生えてこないように、大木の枝の下などの日陰に設定するのが良いでしょう。また、水中にすぐ逃げ込めるようになるべく池の近くがいいと思われます。飛び込んで逃げることを考えれば、先ほどの飛び込み場の近くがよいでしょう。

 また、冬期間は水底の横穴に穴を掘って冬眠するため、池は水中部、陸上部ともに、礫の少ない柔らかい土質で構成することが望ましいと思われます。造成しなくてはならない場合は、この点に特に留意したいものです。もちろん、コンクリート護岸などは論外ですが、もともと、砂利や礫石の多い場所の場合は、部分的に丁寧に取り除くか、どうしても難しければ、客土した方が良いかも知れません。

 ただ、その場合もなるべく近くから持ってくるようにして、あまり遠方から客土しないようにしましょう。これは生態系を乱さない意味と、土着の神霊への配慮の二つの意味を持ちます。


・植栽について

 カッパ・ビオトープに生えて欲しい植物については、いわゆる沈水生植物~抽水生植物による水際の植生、小低木の薮、よく繁った中高木によるブラインドつまり目隠しが必要といえるでしょう。木克土の考え方からも、可能な限りこれらを密生させて、相撲取り場以外での、むき出しの土面を無くした方が、水気の属性であるカッパにとってはよい場所となるでしょう。

 ブラインドを形成するほど中高木を密植する理由は、主に夜行性のカッパではありますが、日光浴などのために昼間陸上に出てくる場合がよくあるためです。

 この時に、水辺が開けすぎていてもし周囲から視認できたりすると、落ち着いて生活できません。

 だからといって、あまりに植物が密生してしまう状況ですと、人間がまったく観察できませんし、メンテナンスにも入れないなど、管理運営上の問題が生じたりもします。

 そういった、うっそうとした場所は防犯上の問題が生じたりもするので、全体に密植するのではなく、あくまで部分的に水辺周りに植物の密生地帯を作り出すのが望ましいと思われます。

 また、カッパの食性については、キュウリが好きと言われるように、魚介類だけでなく木の実や山菜も食べる雑食性と考えられています。

 ですから、樹種の選定に関しては、いわゆる里山・里地の豊富な植物種を保全、再生してやることで、よりカッパの生息に適した空間を創造することが出来ると思われます。

 具体的には下記にあるような植物で、付近に自生しているものを粗放的管理で密度を高める形が理想的です。表1で紹介している植物の中でも、スダジイはアクが少なく、実の利用価値は高いものです。また常緑樹なので、幼木のころには前述のブラインドとしての効果も望め、大木になれば相撲取り場に日陰を提供します。木としての寿命も長く、大木になってシンボル化できるメリットもあるので、効果的な植栽と言えるでしょう。

 分布域も広く、東北地方以南であれば、近縁種のコジイ、オキナワジイを含めれば、どこでも入手できます。

 カッパの生活に重要な植物種としては、このほかに大きな葉を持つフキ、ホオノキ、トチノキなどがあります。独自の文化を持つカッパは、食器や敷物として、これらの植物を利用することが観察されているからです。またこれらの植物は乾燥に弱く、特に土壌の湿度が高い場所を好む種であるので、 カッパの生活圏にも適していると言えます。

 よく庭などにも植えられるホトトギスは、植物体全体からキュウリ臭がするので、カッパ・ビオトープには非常に相応しい植物種と言えます。ただ、ホトトギスには園芸種が多く出回っていますが、ビオトープの観点からも、霊的な意味からも、特に地元の自生種にこだわりたいものです。

 この他にも、ここに紹介した植物種だけでなく、地域に自生している植物を植栽すべきですが、妖怪ビオトープである以上は、本来の地域生態系を守るという観点からも、遠距離からの移植は厳に慎みたいものです。

 移植よりもむしろ、下草刈りや枝払いを充分に行うことで、埋土種子などから多くの林床植物が発芽して、里山らしくなった状態をカッパ自身も好むものです。

 また、この際に絶対にやってはいけないのは、クリやカキ、イチジクなどの果樹を購入して植栽し、実のなる植物の密度を上げすぎることです。こうすると、カッパだけでなくサル、クマ、イノシシなどの野生動物を誘引する結果となり、味を覚えて田畑に害を及ぼしたり、人に危害を加えたりするようになる可能性があります。

 なにより、前述のようにカッパの苦手とするサル、シカがよくあらわれる場所には、まずカッパは住み着くようなことはないのでこの点には充分気をつけて頂きたいと思います。

 雑食とはいえ、カッパの餌は、基本的に魚介類であることを認識しておきましょう。


カッパ・ビオトープの植栽植物例


高木になるもの

 スダジイ、ブナ、ヤマナシ、オニグルミ、ホオノキ、トチノキ、クヌギ、コナラ


高木、灌木

 ツノハシバミ、グミ類、ナナカマド、ズミ、ガマズミ、ウグイスカグラ、ヒサカキ、サンショウ


蔓植物

 エビヅル、サンカクヅル、ヤマブドウ、アケビ、ミツバアケビ


草本類

 フキ、ツワブキ、ホトトギス、カタクリ、ニリンソウ、オウレン、ツルニンジン、シシガシラ、ワラビ


水生植物

 ヨシ、ツルヨシ、ガマ、コガマ、ヒメガマ、ショウブ、マコモ、アサザ、ヒツジグサ、クロモ、ヒルムシロ、ササバモ、コウホネ、セリ、


・生息を期待したい生物種

 前述のように、カッパの主食は魚介類です。よって生息しているのがメダカやドジョウ、水生昆虫だけではカッパの生息地として不適当です。

 しかし、カッパ・ビオトープは広くて水深もある水域を作るのが基本なので、通常のビオトープ池には大型すぎて不向きとされるコイやナマズ、ウグイ、フナなどであっても充分に生息できますし、逆にそういった大型魚の生息が難しいような水域であれば、カッパ・ビオトープには不向きと言えます。

 またもし、設置場所が山中で、渓流や清流を模した空間を創出するならば、イワナやヤマメ、アマゴ、アブラハヤ、カジカ、アユといった流水性の魚類が生育できる環境作りも有効です。ただ、いずれの場合も自然に魚介類が供給されるような状況を作らなくては、カッパが食べ尽くすたびに、いちいち魚を放流しなくてはならないことになります。

 よって、これも前述しましたが、池であっても流れであっても、可能な限り自然水系と接続して、水生生物が自由に行き来できるようにしてやることが重要です。

 もちろん、たくさん増えて入手しやすいからといって、ブラックバスやブルーギル、アメリカナマズ、ウシガエルなどを放逐してはいけません。外来生物は土地本来の生物ではないため、その地域の生態系や自然環境に根ざす妖怪の存在とは相容れないものなのです。また当然の事ながら、ビオトープの理念にも反します。

 なにより、そもそもこれらの種は特定外来生物法で規制されており、生体の移動が禁じられていますので、生きたものを移動するだけで犯罪行為となってしまいます。

 渓流型のビオトープにおいても、ニジマス、ブラウントラウト、ブルックトラウトなどは特定外来生物に指定されてはいませんが、やはりカッパ・ビオトープに適したものではありませんので、放逐することは避けるべきでしょう。

 魚類以外では、甲殻類としてサワガニやモクズガニ、北海道などではニホンザリガニといったものも、カッパの餌としては有効でしょう。

 この場合も、本来ならアメリカザリガニの侵入は避けたいのですが、カッパ・ビオトープの特性上、どうしても地域の水域と接続しなくてはいけないので、これは至難の業と思われます。

 この他、カッパが利用するしないにかかわらず、カッパ・ビオトープで観察できるようになると思われる生き物を下記にまとめてみました。

 もちろん、これらがすべて見られるというわけではなく、地域によって、またビオトープタイプによっても、見られないものもあります。ここに挙げた以外にも、さまざまな生物がやってくる可能性があります。


 期待される主な生物種

 哺乳類

 ウサギ、イタチ、アカネズミ、カヤネズミ、ハタネズミ、

 ※サル、シカが来る場所は不適


 鳥類

 ダイサギ、チュウサギ、コサギ、ゴイサギ、アオザギ、ヨシゴイ、カワセミ、ヤマセミ、カルガモ、マガモ、オシドリ、カイツブリ


 爬虫類

 イシガメ、スッポン、クサガメ、アオダイショウ、シマヘビ、ヤマカガシ、ニホンカナヘビ、ニホントカゲ


 両生類

 ニホンイモリ、ヒキガエル類、アカガエル類、カジカガエル

 ※カジカガエル、ナガレヒキガエル、ナガレタゴガエルは渓流の場合のみ。


 魚類

 コイ、ギンブナ、ナマズ、ウグイ、オイカワ、カワムツ、モツゴ、タモロコ、タナゴ類、メダカ、ドジョウ、ウナギ、ヨシノボリ類

 ※イワナ、アマゴ、ヤマメ、アユ、カジカ等の渓流魚は、渓流型のビオトープの場合のみ。


 甲殻類

 モクズガニ、サワガニ、ヌマエビ、スジエビ、テナガエビ

 ※アメリカザリガニ、シナモクズガニは駆除対象とする。


 昆虫

 ゲンゴロウ類、タガメ、ミズカマキリ、ギンヤンマなどのトンボ類

 ※渓流型の場合には、多種のカゲロウ類やトビケラ類などが発生する。


 軟体動物

 タニシ類、モノアラガイ、カワニナ、カラスガイ、マツカサガイ

 ※淡水貝類も重要な構成種



・祠の祀り方

 全国には、カッパを祀った祠や神社が数多く存在します。

 有名どころでは、東京浅草の河童大明神は、禅寺である曹源寺の中に、河童を祀った小さな神社が併設されています。お堂の中には、河童の手のミイラとされているものが収められていて、その真偽の程は定かではありません。

 また、福岡県久留米市にある水天宮は、全国の水天宮の総本山であり、球磨川に住み着いて悪事を働いていた、九千坊を頭領とする河童一族が、水天宮のご神徳で水天宮のお使いになったという伝承が残っています。

 佐賀県では戸田神社に祀られたガラッパドンがあります。川内川上流部に戸田ヶ淵という淵があって、その崖の上小さな祠として祀られています。

 青森県、津軽の岩木川流域には、各集落に河童の姿をしたいくつもの「しっこ様(水虎様)」があって、地域住民の信仰を集めてきました。水虎信仰は、木造町実相寺から始まったようです。

 岩手県の遠野市では、河童淵近くの、頭に皿を残した河童狛犬があります。河童淵に棲むカッパが火事にあい、常堅寺に逃れて助けてもらったので、狛犬に変身し寺を守っているといいます。

 また、茨城県小美玉市の「手接神社」には手形付きの絵馬や手袋が奉納されており、手の病気に霊験あるといわれています。室町時代、芹沢俊幹が、七郎河童が死んで流れ着いた橋のたもとに、祠を建てたのが「手接神社」だといわれています。


 こうした例や文献を参考にして、カッパ・ビオトープにおける祀りかたを簡単に考察してみます。

 まず、柳田国男の妖怪談義によると、カッパはもともとその性質から、水を司るものとして祀られてきた経緯があります。それゆえに、伝説でも農業と深いつながりを持って語られており、お祭りも田植えと収穫祭の二回が通例のようです。

 お供え物としては、もちろん、キュウリが良いのでしょうが、そうなるとキュウリの収穫時期に合わせてお祭りをする必要があります。

 現在では、温室栽培などのおかげで季節感が薄いですが、本来キュウリの収穫時期は夏から晩夏にかけてですから、お盆などの行事と組み合わせても良いでしょう。


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[一言] ……歌ってみました 笑いが止まりません。 特にヘクソカズラ……www
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