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手のひら  作者: 山田木理
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僕たちは同じ美術部だった。

僕と彼女がお互いに惹かれ合うのに時間はかからなかった。

運動が得意ではない僕が美術部に入ったのは、単純に絵が得意だったからだ。

将来、画家を目指していたわけではない。

でも、彼女は違った。

本気で絵を勉強し、将来は美大への進学も考えていた。

そして、美術部には3人の部員しかいなかったから、僕たちはいつも一緒だった。

僕とマキと、そして、彼女の3人だけだった。




僕の肩にそっと手の感触があり、僕は振り返った。

するとマキの人差し指が僕の頬に突き刺さった。

僕の頬に人差し指を突き刺したままマキが僕を見て呟く。

「ば~か~」

「…知っている」

「寒いよ」

「…知っている」

僕たち二人は朝食を終え、森に散歩に来ていた。

「家に残ったナミカちゃんは賢いね。こんな寒い朝に散歩に出るなんて。本当におバカ。夏はとっくに終わっているんだよ」

「だったら、マキも来なければよかっただろう?」

「私もバカなの」

そういうと僕たちはまた黙って森の中を歩きだした。

森の中のいつもの散歩コース。

遊歩道などない。

このいつもの散歩コースを外れると5年以上森に通う僕でも遭難するだろう。

僕とマキの足音が森に響く。

風が森を揺らす。

遠くで鳥のさえずりがする。

いつもと同じはず。

だが、やっぱり何か騒がしいような気がする。

日に日に騒がしくなっているような気がする。

「最近。描いてないんじゃない?」

マキが少し後ろからぽつりと呟いた。

「そうかも…」

ナミカが来てから描いてない。

描く気がわかないのだ。

働いていたのは生きるためだ。

でも、描くのは生きるためではない。

描かなくても生きていける。

なぜ描いていたのか…

暇つぶしだろう。

他に何もすることなどないのだから。

僕は暇つぶしに来る日も来る日も森の絵を描いていた。

その行為に意味などない。

「ねぇ…」

マキから小さな声が聞こえた。

「もう十分でしょう?」

「……」

「もう許してあげなよ。自分を…」

僕は振り返らずに歩き続けた。

「早くため息つくのをやめてよ…。まだ残っているから…。幸せ…」

網膜の残像には彼女の手のひらが焼き付いている。

僕を許してくれるのか?

彼女の手のひらをつかめなかった僕を許してくれるのか?




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