15
そして、次の日。
僕たちは、森に繰り出した。
ざわめく森たちよ。
もう少しだけ、僕たちを隠しておいてほしい。
今日だけ。
ナミカが作ったお弁当を持って、いつもの散歩道を歩いていく。
「あ~るぅ~日、森のなぁかぁ~。はい。続けて!」
僕は二人を振り返る。
マキは僕を無視して散歩道のわきにあるちょっと小高い丘を指差して言った。
「あこにしよう!」
「くまさぁ~ん…」
僕の小さな声を無視して、ナミカがさっさとシートを引いて準備をし始める。
気を取り直して僕は叫んだ。
「さあ、お花見だ!」
「はあ?もう、秋だよ」
マキが突っ込む。
「じゃあ、遠足?」
「そうだね。まさしく遠くまで足で歩いてきているからね」
ナミカが笑った。
僕たちは水筒に入れて持ってきたコーヒーで乾杯した。
ナミカの入れたコーヒーはやっぱり美味しかった。
愛されたくてお手伝いを頑張ったとナミカは言ったけれど、それだけで料理もうまくなれないし、美味しいコーヒーも入れられない。
「才能だよな。このコーヒーは」
「コーヒーは地獄のごとく黒く、死のごとく強く、恋のごとく甘くあるべし」
笑いながらマキは言った。
どこかで聞いたような言葉だが、僕には思いだせなかった。
「何?それ?」
「トルコのことわざだよ。コーヒーは深~いって意味。甲斐にはわかんないよ。
それより、サンドイッチも美味しいね」
口いっぱいにサンドイッチをほおばったマキになんとなく失礼な事を言われたような気がしたが、まぁ、いいだろう。
目の前に通り過ぎた赤い木の葉を手のひらで受け止め、僕は空を見上げる。
突然、ナミカが立ち上がった。
そして、叫んだ。
「ば~~~~か~~~~~~~~~~~」
「おい。おい。まだ言うか?」
「違うよ。自分に言ったの。だってバカと言う奴がバカなんだよね」
それを聞いてマキが立ち上がった。
「ばぁぁ~~かぁぁ~~~~~~~~~~~~~~。マキのばぁぁぁ~~か~~~」
そして、立ち上がった二人が僕を見下ろす。
はい。はい。さっきは僕の森のくまさんをバカにしたのにね。
僕は大きく息を吸い込んだ。
「バァァカァァァァ~~」
森に向かって叫んだ。
僕の叫び声は森に消えていく。
僕たちは、悲しい生き物だ。
答えの見えない未来に進んで生きていく。
それでも、進まなければ、答えを見つけられない。
僕の答えはここにはない。
それがわかっただけでも、僕は前に進めたのかもしれない。