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手のひら  作者: 山田木理
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家に戻るとマキがガラス戸の前で待っていた。

僕たちの姿を見つけると泣き崩れた。

完全に道に迷った僕たちが家にたどり着いたのは夕暮れだったから。

マキは車で人が行けそうなところを探しまわったか、そんな場所はそう多くはない。

結局、この家に戻り、警察に電話することもできずにマキはただただ待っていた。

泣きながらナミカに抱きついたのはマキだった。

「あんな態度取ってごめんね」

マキは自分の態度でナミカを追い詰めたと後悔していた。

12年前の態度が景子を追いこんだことを後悔したように。


ナミカは自分の本当の名前とここに至る経緯を教えてくれた。

「双子だったの…。でも、中身は全然違っていた。

妹は明るくて素直で頑張り屋で、何でも一番を取ったの。

勉強も。運動も。私はまねできないと思った。だから、わざと優しくしたの」

「わざと…?」

「子供って結構したたかなんだよね。どうやったら、自分が愛されるか考えるの。

一番簡単なんだよね。優しい振りするのって。

常ににこにこ笑って、たくさん親のお手伝いして、ほんのちょっと欲しいものを我慢する。

ただそれだけ。でも、その内、何が本当で何が嘘か分からなくなる」

本当のナミカが僕にはわからなかったけれど、ナミカ自身にも分からなかったのだ。

それから、ナミカはなぜ自分が麻薬密売にかかわったのかを僕たちに話してくれた。

そして、最後に、発砲事件のあったダムで双子の妹との再会を話してくれた。

「私は警察にも麻薬組織にも追われて、ダムに行きついた。

橋の手すりに上って死のうとした自分に、妹は手を差し伸べてくれたの」

「でも、私は、その差しのべられた手を取らずに川に落ちた…」

「どうして、手を取らなかった?」

「わからない。ただ、落ちた時、川に体を叩きつけられて、深い川底に吸い込まれそうになっても、私の意識はあった。そして、死にたくないって、強く思ったの。だから必死にもがいて、気がついたら、川の下流の岸に上がっていた」

その手を差し伸べた妹はきっと後悔しているだろう。

掴めなかった手を、命を。

でも、ナミカは生きている。

ここに生きている。

泣きながら生きている。

「死ななかったのは、たぶん、落ちる瞬間、手を差し伸べた妹が言ってくれたから…。大好きだよって…言ってくれたから…」

だから、必死で生きたのだ。

もし、あの時、僕もちゃんと気持ちを伝えられていたなら、景子も、もしかしたら、生きてくれたのだろうか。

「ナミカちゃんは返事したの?大好きだよって言ってくれた妹に返事したの?」

優しい声でマキが問いかけた。

ナミカは首を横に振った。

「じゃあ、今からでも遅くないわ」

「でも…」

「電話はしにくいよね」

マキは自分のバッグを取り上げるとノートパソコンを取り出した。

そして、固定電話のモジュラージャックを抜いてノートパソコンをつないだ。

「メールを送ったら、ちゃんと自分の帰るべく場所に帰ろうね」


ナミカが妹になんてメールしたのか僕は知らない。

でも、それは僕の知らない僕ではないきょうだいへの大切なメッセージだから、

それは、知らなくてもいいことだ。


「ねぇ、ナミカちゃん。家に戻るのは明後日にして、明日はパーティーしようよ!」

「パーティー?」

ナミカと僕は声を合わせてマキに向きなおった。

「そう!卒業式!」

「なんじゃ、そりゃ…」

「いいの。ただ、パァっと飲みたい気分なの」

「ナミカは未成年だ」

「じゃあ、甘酒でも買ってくるよ」


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