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手のひら  作者: 山田木理
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「ナミカ!出て来い!バカ!」

木々の隙間から見える空に向って叫んだ。

森の木々に僕の声が飲みこまれる。


「バカはお兄ちゃんでしょ!」

森の遠いどこかでナミカの叫び声が聞こえた。

周りを見てもナミカの姿は見えない。

声が森の木々に共鳴し方向が掴めなかった。

「バカっていうやつが、バカなんだ。バァーカァー」

僕はそう言いながら、必死で耳を澄ました。

どこだ?

どこから声が聞こえた?

早く、早く返事しろ!

その時、だった。

「バカバカ。バーーカァァァーーー」

来た!ナミカの声だ!

僕は声が聞こえた方向に走り出した。

「お兄ちゃんの方がバカだもん!」

ナミカの声が森の木々のすき間から響く。

「マキさんがかわいそうだよ。12年間も待たすなんて!」

ナミカが僕たちのことをどこまで知っているのかはわからない。

でも、それは本当のことだった。

「お前は、どうなんだよ!待っているやつがいるんじゃないのか?」

僕は声がする方向にまっすぐに突き進んだ。

森は全て平地ではない。

藪に邪魔されながら、小さな窪地に躓きながら、僕は声のする方向に徐々に近づいた。

「いないよ!何も知らないくせに!」

方向に間違いはない。

だが、まだ姿が見えない。

「だったら、教えろよ!」

背丈ぐらいの崖をよじ登ると、そこにナミカが膝を抱いたままこっちを見ていた。

「知ったら、知らなかったときには戻れないよ…」

泥だらけの顔で僕を見ていた。

そして、目に涙を一杯溜めて僕に言った。

「バカ…。なんで来るの」

僕はそっとナミカの肩に手を置いた。

その肩は冷え切っていた。

僕は来ていたジャケットをその肩にかけ、ゆっくりとナミカを抱きしめた。

「バカ…。妹だからに決まっているだろう」

差しのべられた手をちゃんと掴みたかった。

今度こそ。


木々の隙間からキラキラと光が降り注いできた。

そして、僕たちを包み込んだ。

柔らかな光で。


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