13
「ナミカ!出て来い!バカ!」
木々の隙間から見える空に向って叫んだ。
森の木々に僕の声が飲みこまれる。
「バカはお兄ちゃんでしょ!」
森の遠いどこかでナミカの叫び声が聞こえた。
周りを見てもナミカの姿は見えない。
声が森の木々に共鳴し方向が掴めなかった。
「バカっていうやつが、バカなんだ。バァーカァー」
僕はそう言いながら、必死で耳を澄ました。
どこだ?
どこから声が聞こえた?
早く、早く返事しろ!
その時、だった。
「バカバカ。バーーカァァァーーー」
来た!ナミカの声だ!
僕は声が聞こえた方向に走り出した。
「お兄ちゃんの方がバカだもん!」
ナミカの声が森の木々のすき間から響く。
「マキさんがかわいそうだよ。12年間も待たすなんて!」
ナミカが僕たちのことをどこまで知っているのかはわからない。
でも、それは本当のことだった。
「お前は、どうなんだよ!待っているやつがいるんじゃないのか?」
僕は声がする方向にまっすぐに突き進んだ。
森は全て平地ではない。
藪に邪魔されながら、小さな窪地に躓きながら、僕は声のする方向に徐々に近づいた。
「いないよ!何も知らないくせに!」
方向に間違いはない。
だが、まだ姿が見えない。
「だったら、教えろよ!」
背丈ぐらいの崖をよじ登ると、そこにナミカが膝を抱いたままこっちを見ていた。
「知ったら、知らなかったときには戻れないよ…」
泥だらけの顔で僕を見ていた。
そして、目に涙を一杯溜めて僕に言った。
「バカ…。なんで来るの」
僕はそっとナミカの肩に手を置いた。
その肩は冷え切っていた。
僕は来ていたジャケットをその肩にかけ、ゆっくりとナミカを抱きしめた。
「バカ…。妹だからに決まっているだろう」
差しのべられた手をちゃんと掴みたかった。
今度こそ。
木々の隙間からキラキラと光が降り注いできた。
そして、僕たちを包み込んだ。
柔らかな光で。