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淡桜

作者: りょく

あの子、今日もいる・・。


毎日同じの学校への通学路に古い美術館があった。

そこには大きな桜の木があって、何故かいつもその下に自分と同じ位少女が立っていた。


「純!昨日塾サボったって連絡があったわよ?どう言うこと?」

「最近の模試も点数が下がってるじゃないか!つまらない事に関心を向けるくらいなら勉強しろ!!」

毎日毎日受験のはなし・・両親と教師達の威圧を感じていた。別に学生が勉強の事を言われるのは仕方ないとしても一方的な文句にイライラする。

「なぁ今日塾休みだろ?遊びに行かないか?」

「俺はいい」

「何だよ、付き合い悪いなぁ・・」

クラスメート達のちょっとしたことにもイライラする・・・なんでこんなに・・。

「クロっちょっと待って!!キャァ!」

「うわ!?・・・痛ッ・・・・」

打った頭をさすりながら、上に被さっている人物に目をやる。

「・・大丈夫か?」

「あっ・・ごめんなさい!」

急いで体の上からのいたのは、いつも美術館にいる少女だったと気づく。

「ちょっと猫を探してたから・・私、紗雪さゆきって言うの、あなたは?」

「・・・俺は純、藤本純ふじもとじゅん

紗雪は腰まである黒い髪に淡い色の着物姿。今の時代どこのお嬢さんだよ?っとは思っても口には出さない。

「そうだ!純君私と友達になって?こうして会ったのも何かの縁だし、ね?」

「・・いいけど・・」

唐突な話しだったが、あまりに優しく微笑まれたため思わず返事をしてしまった。けどそのことは俺にとっても良い暇つぶしの場所ができた。それから俺は学校や塾をさぼっては、美術館に・・紗雪に会いに行くようになった。

「紗雪、学校とかないのか?」

前から気になっていた事を聞く。

「学校に行ってないから」

「いいなぁ、俺なんて行きたくねぇのに・・」

「純君は学校嫌いなの?」

そう聞かれてもはっきり嫌いとは言えない。好き嫌いとかそんなことじゃなくてただ無意味なものみたいなものだから・・・。それ以上追及されても面倒だし・・・。

「・・ゴメン・・俺ちょっと用事あるから帰るな」

「あ!」

「ん?」

「あのね・・・私、もうすぐここを離れるんだ」

「引っ越すのか?どこに?」

「どこへかはわからないけど・・今月の10日に」

それから家に帰って、いつも通りの両親が説教を言っていたが俺の耳には届いてなかった。紗雪はあと少しでどこかに行ってしまう・・・あと少しで・・ 紗雪はいなくなる・・。


『・・離れる前にここの桜・・最後に見たかったけど・・』


「藤本君こんな成績で志望校に行けると思ってるの?藤本君?」

「・・・先生・・桜っていつ頃咲くの?」

いきなりの質問に担任は不思議な顔をしたが、少し考えてから答えてくれる。

「桜・・そうね・・3月末位じゃないかしら?」

それを聞くと純は立ち上がり教室を出て行った。

「っちょっと藤本君!!」

俺の頭の中は紗雪にどうしたら桜を見せれるかでいっぱいだった。

「3月末なんて絶対間に合わない・・どうしたら・・」


「あれ?純君今日は早いんだね?」

「あぁ・・今日は昼まで授業なんだ」

「どうしたの?具合悪い??」

いつもと違う様子だと思ったのか、気がついたのか紗雪が心配そうに顔を覗き込んでくる。

「あぁ・・また、親に怒られてむかついてるだけ!」

「そう?」

「・・紗雪・・」

「何?」

「桜、咲かないな」

「それはそうよ、でも蕾は増えてきたね」


「やっぱりまだ桜咲かないよね・・・」

怒られながら急に俺が言った見当違いな事に、両親は変な顔をしたが俺の頭の中は桜のことばかりだった。


どう考えてもあの桜を咲かすなんて無理だ・・あの桜は咲かない・・。


両親には今の成績でいける普通の高校へ行くと言うと、両親は俺になにも言わなくなった。


町中を走り回ったけど・・造花はあるけど、本物の桜なんてない。

「そうだ・・」


美術館に着いた頃は午前12時前・・明日は紗雪がいなくなる日。

「・・純君?どうしたの?」

「どうしたのってこっちの台詞!」

まさかこんな遅くまでいるなんて・・そりゃいてくれて良かったけど・・。

「何?・・その包み・・」

純が持つ大きな袋に包んだものを紗雪は不思議そうに見つめる。

「これ?・・・・ゴメン!桜見せるって言ったのに・・結局見せることできなくて・・」

謝りながら布で包んだものを差し出す。

「?・・・・・・純君これ!」

受け取った紗雪がそれの布を取ると、そこには一枚の絵があり、その絵には満開の桜が描かれていた。

「下手だけど・・ここの桜を描いた絵なんだ・・・」

それは小さい頃、両親とも仲が良くて一緒に父親とここの桜を描いたものだった。紗雪はじっとその絵を見つめて顔を上げると・・。

「ううん、すっごく綺麗・・・純君・・ありがとう」

紗雪の足元でクロも嬉しそうににゃーと鳴くと、首輪がチリンと揺れた。

「クロ!・・・そうだ純君、お礼に美術館を案内するわ」

「え?」

紗雪に招かれ入った美術館の中は大きな窓が月明かりにてらされ、静寂の空気と幻想的な空間を作っていた。

楽しそうに絵の紹介をする紗雪は本当に嬉しそうだった。

「紗雪、あの絵は?」

一番すみに飾られた絵には何も描かれていない真っ白な絵だった。

「あれはいいの・・さっ純君こっち」

っと紗雪は言ったが気になりしばらく見ていると、その絵は古いものらしく端などが傷んでいるようだった。

「純君ほんとに桜見せてくれてありがとう!私とっても嬉しかった」

何か色々言いたいこととかあったけど紗雪の嬉しそうな頬笑みを見るとそれだけですごく満たされた気がした。


紗雪と別れ帰ってきたそのまま珍しくぐっすりと眠ることができた。こんなにすっきりとした気持ちは久しぶりだった。

「あら、おはよう・・そうそう美術館今日壊されるらしいわよ・・ほらあの昔行った・・」

「母さん!それほんと!?」

あの美術館がなくなるなんて知らなかった・・無我夢中で走り美術館に着くと大きなトラックが美術館の荷物を運び出しているところだった。

そっとトラックに近づくと何枚もの絵が並び、昨夜紗雪に紹介してもらった絵達だ・・。

ガタっと音がした方を覗くとトラックの荷台から一枚の絵が落ちたので、拾うとそこに描かれていたのは・・・。

「こら!勝手にみちゃいけないだろ!!」

「コレで荷物全部です!出発しまーす」

手に持っていた絵を返すと、トラックは走り去ってしまった。

「・・・・さっきの絵・・・」

絵に描かれていたのは、黒髪で着物をきた少女が手に桜を持ち微笑む表情と、よりそうように傍らに座っている黒猫の姿だった。


『・・・チリン』


鈴の音の方へ行くとまだ咲くには早いはずなのに、桜の枝には淡い色の桜の花が咲き乱れていた・・その一つの枝には、クロがしていた首輪の鈴が風に揺られて鳴っている。

後から知ったことだけど、その美術館は昔有名な絵描きが建てたもので早くに亡くした娘が好きだった桜の木を植えたそうだ・・・。

町の人達が歴史的建造物だと言ったが、美術館は結果的には老朽化というのもあり壊すことになったが、桜の木だけはその場に残されることになったそうだ。

これが恋と言えるのかはわからないけど・・。 確かに俺の中に温かいものが広がってる気がした。


「また会えたらいいな・・・・・」


もうすぐこの街に春が来る・・・。



>>>Fin

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