異世界女子アナ 〜異世界に転生した人向けのニュース番組で女子アナしてます〜
登場する人物、事柄に関しては一切のフィクションです。
「続いてのニュースです。金の価格が高騰していて、なんかもう、すっごいです。その理由はお知らせのあとで」
なんて発言が女子アナから飛び出たら、このニュース番組は如何なものか。などというクレームが届くこと必至であろう。けれど、この番組に至っては、そのような心配はない。何故なら――。
「はい、CM入りましたー。紫苑さーん、もう少し砕けたほうが親近感が湧きますよー。異世界の勇者たちはね、故郷のニュースを面白おかしく見たいのです。どうせ、娯楽ですので」
スケッチブックを持っていたスタッフが、そう声をかけてくる。テレビ関係どころか、畑違いの高校を卒業したばかりの私を気遣っているのだろう。フロアディレクターという肩書の彼は、ある意味スタジオの主であった。
私がアナウンサーを務めるこの番組、『ニュースゴーランク』は、異世界に転生した人たちに贈られる、故郷を感じられる番組である。異世界に転生した人たちがどのようにしてこの番組を観ているかは不明だが、制作会社の社長を務める神様によると、なんかすんごいパワーで観ているらしい。転生って不思議だ。
「紫苑ちゃん、お疲れー。次の話題はセクハラのニュースだから、ちょっと実演しちゃわない?」
「エロ親父、腐れ外道が恥をしれ」
「辛辣な俳句をありがとう」
などという司会者は、ナイスミドルでイケメンだ。どこぞのモデル事務所をスキャンダルでクビになった人らしいが、そのスキャンダルというのが立ちションをしていたというから笑えない。
「なんで立ちションなんてしたんです?」
「え、いま訊くの? 自分が所有する山の中で立ちションしていただけなのに勝手に写真撮られて捏造されてマスコミを恨んだ苦労話をそんなにあっさり訊くの?」
「すみません」
自分で振っておいてあれだけど、うら若き乙女を前にしてそんなに立ちションの話をしないでほしい。
「はい、CM明けまーす。三、二、一」
フロアディレクターの掛け声とともに、キャッチーな音楽が流れ、カメラが一斉に動き出す。
「では、金の話をしましょう。世界的な情勢が関わっていると聞きますが、田中さん、ご存じですか?」
そう司会者に話を振る。
「俺、斎藤」
「え、配当?」
「いや、急に株の話を始めないで。今は金の話だから」
「いやー、数年前のウイルス騒動は大変でしたね。ワクチンって本当に効果があるのでしょうか」
「いや、ウイルスと菌は違うから。それに、ワクチンは基本的は効果はあります」
「それで、なんで立ちションなんてしたんです?」
「ワク“チン”だけにか!?」
私の会話運びに、コメンテーターからも笑いが起こった。
「それではコメンテーターの方にもお話を伺いましょう。元政治家で、現経済評論家のウラガネさん」
「いや、私は浦木です」
「政党の内情を暴露して、身内を裏切った浦木さんですね」
「なんでこの子はこんなに辛辣なの!?」
社会経験のない未成年なので。
「もう一方。モデルでアパレルショップ経営のトレースさんです」
「……そうです。デザインのトレースが発覚して、情報番組を降板させられた戸倉です」
「自分で言っていて恥ずかしくないんですか?」
「いや、絶対にあんたが誘導したでしょ!? 私だってこんなことを自分から言いたくはなかったわよ」
「でも、経営自体は続けていけているからいいじゃないですか。ムードチェンジャー、でしたっけ?」
「それは前の名前! 今はトーキメイクライク。名前を変えなきゃやってられなかったのよ!」
「ブランド名を付ける際に、やたらめったら商標登録をして批判を浴びたそうですが」
そのせいで名称の変更を余儀なくされた駄菓子があるらしい。
「以上、キャリアが崩壊するほど株が暴落したお金に色々あるコメンテーター陣で、金の話をしていきます」
そんな落ちをつけて、私はスタッフが運んできたパネルに書かれていた情報を読んでいく。正直、ここからの話はあまり視聴率がよろしくないらしい。他人の不幸話を面白おかしく話していく。それが、異世界の勇者たちに人気があるらしいから。
自分とは全く別の世界にいる不幸話ほど、興味深い娯楽はない。ということなのだろうか。私も、異世界の勇者たちの不幸話を聞いてみたいものだ。




