討伐-TŌBATSU-
正朱の波動の光は、辺りを朱に染め上げていく。
その力は炎のように熱く、私は不思議と汗をかいていた。
あの石は、こんなに力を秘めていたのか。
「よし!技も使えそう、あの感覚だ!」
鈴ちゃんが刀を構える。
日々の特訓もあってか、とても様になっている。
って、体もだんだん治っていってない!?
覚醒していくような鈴ちゃんとは裏腹に、ロボットは正朱の波動にあてられて、興奮しているようだ。
周りのありとあらゆる人工物を破壊しながら、どんどん腕が伸びていき、また攻撃体制に入る。
「危ない!!」
ロボットの腕が鈴ちゃんの顔面に目掛けて殴りかかってくる。
が、今の鈴ちゃんはなんてことないかの様に攻撃をかわす。
ロボットが対応できる訳もなく、その隙をついて…大振りの一撃!
鈴ちゃんは壁をうまく利用して、ガラ空きの胸に刀を翳した。
やった…!
さっきまでは刃が立たなかったのに、ロボットの胸には、まるで紙の折り目の様な、目立った傷跡がついた。
アルミに似たロボットのボディからは、装置のケーブルが露出している。
すると一撃を喰らったロボットは、感情もないくせに怒り狂った様に暴れ出し始めた。
そんなロボットを鈴ちゃんは軽くあしらうかのように、また刀を構える。
今の鈴ちゃんは、さっきまでのボロボロの鈴ちゃんじゃない。
敵に立ち向かい戦う勇敢な戦士だ。
けれど私は、この戦いを遠くから眺めることしかできない。
のこのこついてきたくせに、何一つ成していない。
そんな私の不甲斐なさに少し腹が立つ。
いつしか私は、ロボットを睨むようになってしまった。
私が思い悩んでいる間に、鈴ちゃんたちの戦いはデットヒートする。
私以外の一般人は避難しただろうか。
もはやすることが無くなったかのように、別にどうでもいいことを考え始める。
いつしか私は砂煙の中の二人の戦いに、集中しなくなっていた。
「おい、あぶねーぞ!逃げるカァー!」
不意に聞こえたおまめちゃんの声。
それは私に向けられた言葉だった。
…え?
気づけば、ロボットが視界にいない。
どこだ、どこいった!?
私は耳を頼りにロボットを探しつつ、逃げようとする。
が、ロボットは私の頭上にいたのだ。
そして、私を覆うように落ちてくるのが見えた。
瞬間私は、死を悟った。
と言うより、生きることを諦めたのかもしれない。
あーあ。
他人の心配してる場合じゃなかったな。
はあ…早いうちに逃げておけばよかったのに…。
……隼
路地裏に、海風のような鋭い突風が吹いた事を肌に感じた後のことを私はよく覚えていない。
キー!!キー!!キー!!!
だけど辛うじて、鳥の鳴き声が、聞こえたような気がした。
「おい、大丈夫か!」
声が…聞こえる、鈴ちゃんの声だ。
鈴ちゃんの声で安心しきったのか、徐々に徐々に、意識を取り戻していく。
ぼやけていた視界が晴れて、やっと私はまだ死んでいない事に気がついた。
私…どれだけ気絶していたんだろう…。
そこは先ほどまでの路地裏で、ロボットの気配はない。
けれど、やはり戦っていたのであろう刀の切り傷がそこら中の壁に残っていて、やっぱりすべて現実だったのだと認識した。
「わ、私は無事…なの?」
「見たところ目立った外傷はなさそうだ…よかった。先程のロボットは、”俺”の技でなんとか倒すことができたが、しかしこんな狭いところで戦ったせいで、思いもよらぬ方向にロボットが飛び上がってしまった。…すべて俺のミスだ。怖い思いをさせてすまなかった。」
深々と頭を下げる鈴ちゃんと、その頭の上に乗っかるおまめちゃん。
私はもう、何が何だかわからなくなっていた。
だけど確かに、私の望んでいた退屈を吹き飛ばすような出来事だったなと、そう思ってしまった。
討伐-TŌBATSU- 御終




