邂逅
鼻の奥を青臭いにおいが刺激し、視界を緑が覆い尽くす。
どうやら森の奥に転移したようだ。
「まさか、森の中につながっているとは、、、」
多種多様な動物の鳴き声に囲まれながら、彼はそっと嘆息する。
森は嫌いだ。
この青臭さに加え、人工物が一つもない空間は気分を悪くする。
「扉」は最初に開いた時にどこに繋がるかわからないのが難点だ。
ひどいときには開いた瞬間に何かに食われることもある。
「おや?これは...」
彼が一人落胆していたところ、遠くから何かの声が聞こえてきた。
ただの獣の声ではない。何かに追われる悲鳴のような声だ。
その声の正体に気づいた彼はその口を三日月状に歪める。
「こんなに好都合なことがあるとは、この能力も捨てたものではないな」
思い通りにならないこの力も今回ばかりは良しとしよう。
なんせ、近くで困っているニンゲンの声がするのだから。
「彼方からかな?」
彼はその声の方向へ悠然と歩いて行くのだった。
◇◇◇
大きな木の下で少年は地面に膝をついていた。息は荒く、胸が苦しい。
喉は助けを呼ぶために使い、かれている。
(こんなことになるのなら母さんの話をちゃんと聞いておくべきだったなぁ)
少年は後悔からか苦笑いを浮かべる。
そんな少年の様子を嘲笑うかのように、目の前の茂みがガサガサと音を鳴らすと、ゆっくりと一匹のオオカミが姿を現した。
「ああ、もう最悪。」
そのオオカミは少年のつぶやきを聞いてか聞かずかその大きな牙を少年の細い首へと伸ばす。
少年が数秒後の自身に起きるであろう惨劇を想像し、目をぎゅっと閉じる。
その瞬間、どこからか声が聞こえてきた。
「繧?≠縲∽サ頑律縺ッ縺?>螟ゥ豌励〒縺吶」
少年は顔を上げた。
オオカミも突然の事態に動きを止める。
聞き覚えのない、けれどどこか明るくて軽やかな声。
音のする方を振り返ると、そこには、一人の男が立っていた。
背は高く、服はどこかの貴族のようにも見え、森には不似合いな大きなシルクハットを被っていおり、手には大きな鞄のようなものをぶら下げている。
「縺?d縺√?√h縺九▲縺溘h縺九▲縺溘?」
男はそう言って片手を挙げて笑いうと、オオカミに向かって指をパチンと鳴らす。
「えっ?」
意味も理由もわからないが、気づくとオオカミの姿はかき消えていた。
あまりに突然のことに、少年は息を詰めたまま大きく見開いた目を男に向ける。
「縺雁?豌励°縺ェ?」
まるで旅先で出会った旧友に話しかけるような、どこか安心感を覚えるくだけた調子。
彼はひと呼吸おくと、少年のほうへと歩いてくる。足音は軽く、ゆったりとしていた。しゃがみ込むと、シルクハットからこちらを飲み込むような暗く深い瞳が見えた。
その瞳に一抹の不安を感じたが、ずっと座っているのも失礼だと思い、腰を上げようとする。
しかしうまくいかない。
どうやら腰を抜かしてしまったようだ。
そんな少年の様子を見かねたのか、男はにこりと笑い、ゆっくりと手を差し出してきた。
少年は戸惑いながらも、その手を見つめ、小さく息を飲みこむ。
──そして、そっと、その手を握った。
その瞬間だった。
「はへっ?」
不意に立とうとしていた足がもつれる。
視界の端がかすみ、音が遠のき、森の色がぼやけてゆく。何か異物が入ってくるような感覚が体の自由を奪っていく。
「繧医@縲、これで伝わるかな?」
薄れゆく意識の中、最後に聞こえたのはそんな男のつぶやきだった。
*あとがき*
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