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すきとおるし3



 この炎天下、黒ずくめのふたりが歩いていたら、よく目立つ。


 これからどこへ何をしに行くのかは明白。全身を黒ずくめにしなくてはいけない場所に行くのだ。


 でもこの黒い服を着て、地元よりずっと気温が高い場所を歩くのはつらい。

 ファンデーションは汗でどんどん流れ落ち、それを拭ったハンカチがうすだいだい色に染まった。


 毎年こうだ。だから今年はハンカチもデオドラントシートも少し多めに持って来たけれど、それでも足りない気がしてきた。


 ニュースで「今年は昨年よりも暑い」という情報を得ていたから、覚悟はして来たけれど、今年も去年も一昨年も、特に差はなく総じて暑い。東北で生まれ育ったわたしにとっては、以南の地はサウナも同然なのだ。


 ふうっと息を吐くと、見兼ねた彼が「タクシー拾うか?」と言ったけれど、わたしは首を横に振る。


「荷物持ってやろうか」


 もう一度首を横に振ると、彼はわたしが吐いたよりもずっと大きな息を吐いた。


「おまえさぁ、まだ怒ってんの? いいじゃねぇか、来たんだから。おまえはネチネチ引き摺り過ぎなんだよ。そんなんじゃ、一生恋人できねぇぞ」


「そうかもね」


「なんだよ、食ってかかって来いよ。昔はすぐ揚げ足取って喧嘩してたのに。年取って丸くなったか?」


「そうかもね」


「おい、イチ、いいかげんにしろ」


 会ってからずっと不機嫌が持続していた彼は、ついにイライラの限界を迎えたようで、その感情をぶつけるよう、わたしの腕を強く掴んだ、が。

 彼の手もわたしの腕も、汗でびしょ濡れだったので、あまりの不快さに「うわぁ……」と声を漏らして、互いの手を払ったのだった。



「おまえ、腕も拭いとけよ……」


「ゆんもね。ハンカチ持って来た?」


「忘れた」


 今朝、急遽礼服を引っ張り出し、スマートフォンと財布だけをポケットに入れ、上着をネクタイを持って家を出たらしい彼に、多めに持って来たハンカチを一枚差し出し、わたしもびしょ濡れの腕と、ついでに首も拭いた。


「イチ、おまえ、本当に丸くなったな」


 わたしのハンカチで手のひらを拭いた彼は、それをスラックスのポケットに突っ込みながら言う。


「昔はこんなんじゃなかったろ。何か言うとすぐ食ってかかって来て、喧嘩ばっかしてたろ、俺たち。この一年で、何かあったか?」


 彼の言葉に、わたしは心の中で首を横に振り、違うよ、と否定する。

 この一年で、何かが変わったわけではない。むしろ、変わっていないのだ。


 二年前からわたしは、一歩も進めず、同じ場所に立ち尽くしているのだ。


 何か変わったことがあるとすれば、髪が少し伸びたことと、化粧が少し薄くなったことくらいだ。


 言おうと思ったけれど、目的地が見えて来たから、黙って足を動かした。




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