007話 常闇の晩餐と八百万の秋の姉妹
常闇の晩餐と八百万の秋の姉妹
秋が終わるのも早いものですね…
あの大戦闘の最中に何事かと華扇さんが駆けつけてくれた様で、そのお陰で大事になる前に収められたのは私として、友人しても一安心でしたから。
まぁ、幻月さんと萃香さんはあの後しっかりと華扇さんに絞られました。
事実、あの妖怪の山付近ではかなりの轟音と地震が頻発して起こっていましたから。
そうそう。私達の事は鬼の萃香さんに免じて許しを得られましたよ。
それも強力な後ろ盾が二人も。
その後、華扇さんが何でスペル宣言を知っていたかと言うと中二っぽくて好き…との事。
あの真面目で生徒会会長、もしくは学級委員長の様な華扇さんが意外な一面だったと言葉にするのは流石に申し訳ないと思い口にはしませんでしたが。
私達は夕日が落ちる中、颯爽と私達の現在の家へと帰っていた。
「今日の夕飯はどうします?」
「そうだなぁ…無難に秋の料理でも食べたいかなぁ~。知っているならば…なんだけど…」
「…確かに、今の季節はそうですよね。」
現在、多分『中秋の名月』で彼方の世界を参考に換算すれば9月の後半から10月の中盤と言った所だろうか…
実際、今日この日に至るまでにお酒の用意もしていた。
月が綺麗に見える日だから今日はそれにちなんで趣のある夕食にする予定だった。
「判りました。では、帰るその道中で出来るだけたくさんの秋の幸でも探しましょうか?」
「うんうん。…あ、でもその前にちょっと厄介な事になりそうな予感がするよ」
…はい?
それはどういう…その瞬間辺りが暗くなる。
「…あれ?もう暗くなるんですか?おかしいですね。日が落ちるまでまだ時間はある筈では??」
そう思うのも束の間幻月の言葉にハッとする。
―厄介な事になるよ。―
こういう時の幻月の勘は侮れない。
ほぼ未来予知なんじゃないかと思う程正確に当てる事が出来る。
「お前、食べても良いのかぁ~??」
「―っ!?」
暗闇から突如として声が聞こえる。
その瞬間、思い切り私の腕が引っ張られた。
それはもう車で引きずられるかの如くの凄まじい勢いで吸い寄せられた。
冗談抜きで本気で焦った。
それこそ、引っ張られるがままにすれば最悪骸になって死ぬんではないかと思う位に対象の殺意が高かった訳だ。
「くっ、やめ、やめて下さいっ!??」
引き寄せられる腕を思い付く限りの弾幕を使い振り払う。
―も、それだけでは意味は無く暗闇から抜けても後ろから急接近して追いかけてきた。
「さとりっ!?大丈夫っ!!」
幻月が心配して駆け寄ってくる。
「はい。ですが、お相手はそう簡単に逃がしてはくれなさそうですね…」
暗闇を纏い何処までも追いかけてくる…流石に振り切れるとは思いません。
…ここは―
「は、話を聞いてください!!ルーミアさん!!」
と話しかけると追跡がピタッと止む。
その後ルーミアは、さっきよりも殺気が増した声にて問いかけた。
「へぇ~??私、まだ、自己紹介もしてない筈なんだけどなぁ~?どうして知ってる訳?心を読む妖怪さん?その隣にいる白い翼の生えた悪魔さん?」
「…私達の事、知っているんだ。」
「そりゃそうよね~。貴方達の見た目と噂は耳に入っているから。嫌でも知っているわよ。…それで、噂の妖怪コンビさんは一体何をしようとこんな場所まで来たの~??」
私達の動向までご存じな様ですね。
「そうですね。一言に纏めればこの山のお偉いさんに呼ばれて先程終わったから丁度夕ご飯の為の野菜やら果物やらを取りに向かおうとしていた所なのですよ。」
「そ~なのか~。…んぅ~?という事は~お腹が空いているから何かを食べる為に探そうとしていたのか~」
「まぁ、そんなとこよね」
「なら…早く言って欲しかったのだぁ~。出来れば私も同行したいなぁ~なんて…」
…。
お腹が空いたから、夕飯も食べたいなぁ~。
そうすれば、人間を探して食べなくてもよくなりそう~
優しいお姉さん達だから、誘っても断らなさそうだからなぁ~
……。
…そういう事ですか。
要するに、一緒に食べたいから同行したいという魂胆ですね。
「…はぁ。一緒にご飯食べたいなら先に言ってくださいよ」
「だって…私がそう言っても断られていたんだもん。」
「そりゃ、断りもしますよ!?いきなり話しかけられて『あなた、食べても良いのか?』な~んて聞かれれば人間なんて断る処か怯えて逃げもしますよ!先の私の様に!!」
「そうだったのかぁ~。それはそうと、これからどうすれば良いのだ~?」
そう言えば、そうでした。
「幻月さん。ルーミアさん。夕飯の食材ですが、主に食べられる茸や果物、山菜に野菜。兎に角色々な物を集めて来て欲しいのです。」
「了解したのだ~♪取り敢えず食べられるモノなら何でも持ってくるから楽しみにしておくのだ~♪」
と言い残し、何処かへとフラフラと飛んで行ってしまった。
「あ、ルーミアに私達の家でも教えれば良かったですね…」
「考えてもしょうがないでしょう??…今は、夜になって月が出て来る前に秋の味覚でも集めなきゃね。」
「それも、そうですね。」
そう言い残し、私達は山の中腹にて山菜やら茸やらを取ろうと山中へと向かうのだった。
―妖怪の山 山道―
さてさて、私が知っている中での山菜は、主に…ノビルに山葵、胡桃と菊芋…サルナシ、食べ頃があるなら銀杏とヤマノイモも取っておきたいですね。
そう思い前に自生していたと思われた最初の山菜としてノビルを取ろうと、する…??
あれ?ここに自生していた筈のノビルが先に刈られていた。
ルーミアさんかな?
そう思い次の場所へと向かおうとするも幻月が頭を悩ませていた。
「はぁ…あ、さとり。そっちはあった?」
「いいえ。なかったわ。誰かに採られちゃっているみたいで…」
「そうなんだよね~。私推しのアケビの実とサルナシの実も先に採られちゃっていたよ。あれ、果物みたいで美味しいし今日の為に残しておいたのにぃ~」
幻月は悔しい感情を露わにして地団駄を踏む。
「幻月さんはそんな事微塵も思って居ませんよね?ただ美味しいしお酒にも合うから欲しかっただけですよね?」
「あはは…バレバレだよね~?」
「そういう茶番はおいておいて、一体だれがこんなことを…」
そう幻月がボケてくるもそんな余裕は無い。
そんな時、後ろから甘い匂いが漂ってくる。
「あれ?貴方達?こんな所でどうしたの?」
「もしかして、山菜でも取りに来た感じかしら?」
「ありゃりゃ…それは、残念だったね。ここら辺に自生していた秋の山菜は全て私達が収穫しちゃったよ。ゴメンねー?…でも、許してね?私達それらが無いと次の秋が来るまで生きていけないの…冬眠みたいな備えとしてね?」
後ろから大人しめで優しい声と陽気で気さくな高い声が此方に向けて発せられる。
私達は後ろを向いてその声の正体を目の当たりにする。
金髪の少女二人がそれぞれ手に持つ籠に秋の山菜やら収穫シーズンを迎えた作物がびっしりと詰まっていた。
二人の内、片方の服装は片方が赤色のグラデーションで下に向かうと黄色のグラデーションになっているワンピースの様な服。
もう片方は、…もう、言葉で説明できない位何とも凄い服。
なんというか…欧州の民族衣装にありそうでない服なのだが…まぁ、そうですね。…端的に言ったら、豊作物の飾りが凄く付いている。
その姿は、まるで…
「秋姉妹…」
そう二人の姿から思わず当てはめた姿と酷似していたのでそう口走ってしまった。
まぁ、確かに今の季節は秋だし…いるんじゃないかな?
―って思ってはいましたよ?
幻月さんも
《―たまに八百万の神が発する神格の様なオーラが感じ取られるんだけど…まだあっていないし…あってみたいなぁ~なんて。》
と言っていたくらいだし。
神様とお会いするのは本当にレアなケースだと思うけどね。
そう思いに耽っていたのも束の間
突然、妹の方が此方にすっ飛んできた。
「なんだ!知っているのね!!やったわ!やっぱり私達存在感あったってばっ!!」
とファン顔負けする程の熱い握手。…と可愛い笑顔。
幻月の方を見ると若干引かれておりますね…うん。
「ちょっと?いくら私達が影薄いからって言ってもいきなり信仰者さんに熱い握手をしたりでもしたら、引かれちゃうわよ?現にそこに居る悪魔のお姉さんも引いているんだから…少し落ち着きなさい。」
と正論を言われて妹の方も少しは熱も冷めてきたようだが、未だに握手したままなのは遺憾だ。
「ええ。お姉さんの言う通りだと思いますよ?秋穣子さん?」
そう私が答えると二人は驚くような顔になった。
まぁ、誰だって初対面な筈なのに片方だけ苗字も名前も判っていたら流石に驚きますよね…。
幻月の方は少し溜息を吐いて、此方にゆっくりと歩み寄って来る。
「誰だって初対面なのに名前を知って居たら驚くよね?秋静葉さん?」
―いや、幻月さん?私に注意しているのと明らかに行動が矛盾しておりますよ?
先程の私と全く同じ事していて困らせているじゃないですか…。
現に二人とも先程より驚愕の顔をしちゃっているし…まさに驚きを隠せないと言わないばかりに。
「…マジでっ!??やったよ!お姉ちゃん!!名前まで知っている人が二人も!」
「……もしや、貴女方は私達が祀られていた頃を知っているの?」
当然ながら聞いてくる質問だった。
因みに、秋姉妹は八百万の神の内一番存在感が薄い神らしい。
その為、熱心な信者を獲得するために毎日奮闘している頑張り屋な女神様なんですよ。
改めて彼女達の名前を伝えておくけど、秋姉妹の二人の苗字と名前は《秋穣子》と《秋静葉》であり、前者の方は豊穣を司る象徴で、後者の方は紅葉を司る象徴の神様である。…一応、あんな身なりでも神様ですから。
「ううん。少なくとも私達は其処まで生きていないし生まれてもいないから。」
「判り易く言うなら…そうですね、風の噂で訊いたが正しいでしょうか?」
「噂、ねぇ…噂、私達の噂…が……ふふふ…」
あ…静葉さんが壊れた。
…じゃなくて、なんか笑い始めた。なんか、怖いよ?色々と。
「…コホン。そういえば、秋の山菜は全て収穫したって聞いたんだけど…それ全部備えに使うの?」
幻月がそう質問すると、穣子が答えた。
「うん、私達って秋の神様だからこの時期に蓄えないと…次の秋までに倒れちゃうからさ」
「えぇ。だから、本当なら貴方達にも採る権利はある筈だけど、こっちの生活にも事情があるの。ゴメンね。」
と秋姉妹が丁寧に謝る。
…そうですよね。秋姉妹にも生活がかかっているんですもの
「…残念だな。今日もしもその食材を分けてくれたらここにいる料理上手な娘が美味しい物を造ってくれるのになぁ…はぁ。」
と幻月が深いため息で悲しそうな表情をすると秋穣子さんが幻月さんの方へと向かって行き
「…仕方が無いなぁ。良いよ。私達が集めた秋の山菜を分けてあげるから。その代わり私達も同席しても良いかなぁ?」
「ちょっと?穣子?」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん。いざとなったら私達の責任を取って貰う事にするからさ?」
勝手に話を進めないで欲しいのですが…まぁ、良いでしょう。その程度なら。幻月さんのお陰で今日の月見は楽しく出来そうですし。
「えぇ。山菜を提供してくれたなら腕を掛けて作らせて頂きますから。」
「―そう。じゃ迷惑にならない程度にお邪魔させて頂こうかしら?」
「良ければ、私達も料理手伝おうか?」
「はい、大丈夫ですよ。宜しければ其方の料理の知識も貸して頂けば嬉しいのですが…」
「いやいや、喜んで貸すよ。私達の集めた山菜達がどのようになるのか楽しみだね?お姉ちゃん?」
「…え、えぇ。」
秋静葉さんの反応が多少遅れる。
何かあったのだろうか?
「…あ、あの、…その…食べるのも良いけど…景色は楽しんでいるかしら?」
そういう事。
さっきから気まずい雰囲気だったのは妹に対抗心を燃やしていたからなのか…。
さっき言った通り秋姉妹は仲が良い姉妹なんですが、時にはこうやって双方に判らない様に振舞いながら信者なのかどうかを確かめようとするんですよね。
妹の方がかなり里では有名で姉の方はあんまり評判になる程有名じゃないので、妹に嫉妬して今みたいに楽し気な雰囲気から一変してしまう事もあるとかないとか…
「はい。楽しんでいますし、現に今日の月見で思いきり楽しむ予定ですよ」
そう答えてあげると静葉さんの表情が多少だが緩む。
表情にはでては居なかったが相当嬉しかったのだろう。
「それでは、向かいますか。」
忘れてはいけない。
ルーミアの存在の事も。そう思いつつ八百万の秋の神様の二人を引き連れて私達がたまに許可を取って住んでいる仮住居(第2拠点)へと向かうのだった。




