005話 山を支配する者達との会合
時刻:夕方…
昨日、白狼天狗の犬走 颯さんが訊ねて来てから殆ど同じ時刻。
「…何だか、私の事を噂している気が…」
「―それ、今更言う事?昨日も訊いたじゃん。白狼天狗の…白狼天狗のぉ…え~と??走畑 希さん??」
―ふざけてる???
「誰ですかっ!??…コホン。犬走 颯さんです。昨日、立ち会わせましたよね?それで、私達はこの妖怪の山に立ち入る為だけの許可を貰ったから颯爽とこの人間の里に移り住んだんですよ?覚えてますよね?」
「うん。…あ、でも、肝心の犬…林…楓さん?の事は全く持って印象無いんだよね~ただでさえ、月見酒の気分が損なうような事をされたんだもん。私ね、嫌な事を綺麗サッパリ忘れるタイプだからさ…」
間違うにしても限度があるのでは…??
私は少々イラついております。
…が、滅多な事では怒りませんし何しろこの様な芸風にはすっかり慣れちゃいましたしね。
「…犬走 颯さん。―もう。それ、ワザとやってます?嫌な事を忘れるって…嘘でも加減がありますし大体、ここ数年近く一緒に住んでいて、貴女の事なんて聞かれれば完璧に答えられる自信だってあるんですから」
「…バレた?」
「はい。もうバレバレです」
「そうか~…今度はもっとバレない嘘でも考えないと…」
…おい。
「あぁ、ゴメンね?…そんな事よりも…」
「(なぁ、オマエさん方、ふざけてないで真面目になってよ。ホラ。昨日来たお客様だ。)」
と、お燐がドアの向こう側をアイコンタクトで教えてくれる。
「ありがとうお燐」
「(良いって事よ。それよりも、アタイはもしかしなくてもお邪魔な感じかね?…それなら少々ここで待っている事にするよ)」
と、場の雰囲気を察したのかそそくさにお燐は奥へと消えていく。
「ふぅ。…どうぞ~」
そう幻月が声を掛けると扉から現れたのは昨日会った白狼天狗の颯さんだ
「あ、昨日の、犬、じゃなかった」
若干、此方に殺気を感じたがそれも一瞬の事で
「…犬走だ。全く。…突然で済まないがついて来い。」
ありゃりゃ…その後ろには昨日よりも少し多い7人程度の護衛が。
恐らく昨日の幻月の殺気が原因で何かあったらヤバいと思ったのだろう。
「大丈夫ですよ。幻月だって、昨日は悪気があった訳じゃ無いので」
「仕方ないな~付いていってあげるよ。」
そう私達は大人しく連行される事に…
ただ、流石にここでは飛べない。…幻月は良いとして私なら例外だ。
理由は人間の里にて霍青娥と神子の協力をした際に大騒ぎをしてしまったので完全にお尋ね者である。
バレればただでは済まない。
そんな雰囲気を悟ったのか、周りの白狼天狗達も飛ばずに人間の里からかなり離れてから飛ぶように配してくれた様だ。
―でもって、空気が重い。重過ぎる。
この空気は流石に笑えない。
「え~と?犬走 颯さん?お互い、きちんとした自己紹介がまだでしたね?…私は古明地さとりと言います。」
「私は幻月。…上の名前も無いしがない悪魔だよ?」
「…犬走と普通に呼ばれてはいるが…正式な名前がさっき言った颯だ。まぁ、そっちが呼びやすい名前で呼んでくれ」
「判りました。…それこそ、今、何処へ向かっているんでしょう?」
「…実際に行けば判る。何しろこの妖怪の山を支配していると過言ではない奴だ。私達天狗は勿論、この妖怪の山に住んでいる奴は皆、そいつの支配下さ。上司よりも上な存在なんでな、くれぐれも無礼な真似はするなよ?」
颯さんが先程よりも緊迫した雰囲気になる。
「―妖怪の山…昔…支配下…恐れを抱く人物…天狗…あ。…そういう事ね」
幻月が判ったかのような表情をする。
「え?もしかして判ったんですか?」
「え?うん。…東方の知識を理解しているならもう答えなんてでているものでしょ??」
確かに…
純粋な東方プレイヤーなら先程の発言から判るのだが…
何せ前世知識が今回何処にも当てはまらない。
何がそんな脅威存在となっている事すら…
「…確かに言われれば一理ありますが、私にはさっぱり」
「…。これで判る?今の時代。幻想郷が出来る前、そして極め付けに妖怪の山を今支配している種族は??…これだけきけばもう判るよね?」
…あ、そうか。
鬼か。
天狗が最も恐れを抱く存在。
あの鴉天狗ですら鬼の伊吹萃香に逆らえない上司的存在だ。
こうして話している内に、目的の場所まで着いた。
「ここが目的の場所だ。くれぐれも粗相が無い様にな」
と言い颯さんは無言で立ち去る。
「ちょっ!?まだ何も説明も―」
そう幻月が言い切ろうとしたその時
「説明なら…代わりにこの私がしてやる事もないぞ?」
と声のする方向へ目を向けると…
「へぇ~。此奴等が噂の中心にいる二人ねぇ…?中々面白いじゃん??」
小柄な姿をしており如何にも子供な見た目だがその頭には捻じ曲がった角が二本生えている。
その腰には瓢箪がぶら下がっており腕には鎖が、おまけに片足にも鎖が付いている。
「…鬼。ですか。」
「おうおう。相変わらず勘が鋭いねぇ~♪それとも~??お前が持つ第三の目って奴が訊いているのかなぁ~??」
…お見通しなわけですか…なら。
隠す必要も無いか…
「…その通りです。伊吹萃香さん」
自然と口走ったのを後悔してしまう。
「…あ。」
その言葉を境に相手の雰囲気が一気に変わる
「…へぇ??まだ、私から名乗っていない筈なんだけどなぁ~??どうして私の名前を知っているんだい???」
マズイ。
一番やってはいけない事をしてしまったー!?
流石に鈍感すぎだろこの私!!
「…その。風の噂で―」
そう言い切ろうとすると途端に萃香さんから果てしない威圧が掛かる。
「―ねぇ?鬼に嘘はいけないよ??鬼はね?嘘が大嫌いなんだ。あんまりにも虚言が過ぎると…殺すよ?」
と、釘を刺されてしまう。
「伊吹萃香さんの名前を教えたの私ですよ。…私、こう見えても情報通何です。妖怪の山と言えば山の四天王がいるとされる名所ですから。」
と幻月がそう言うと萃香は、含み笑いをした後此方に向かって口を開いた。
「…へぇ。…まぁ、本当なら『そのような理由』で嘘を付く真似を私は許さないんだけど…今回はその『里の女神様』の言い分に免じて見逃してやる…けど―」
先程とは一変し、幻月をも超える様な殺気と威圧で続きを話し続ける萃香は、怒りを堪えるような言い草で口を動かした。
「…次やったら、例え里や村の女神様と謳われる奴でも容赦なく殺すからね?それだけは肝に銘じておきなよ?少なくとも私ともう一人ならともかくだが…」
「私の知り合いの一人にこのような嘘を付いたとしたら、よっぽどの実力じゃなければ、半殺し程度じゃ済まないかもよ?死にたく無ければ私の忠告をよ~く、覚えておきなっ!!」
と、念押し気味に強く忠告されたのだった。
萃香はその話の後がらりと雰囲気が変わって
「…おっとと、忘れる所だったよ。お前達…私の事で幻月がフォローしていて、『妖怪の山のと言えば山の四天王』と言ってはいたけどさ…?大体、私がそんなに有名になっているのなら、『妖怪の山には鬼の四天王と言う最強の妖が存在している』と言う風の噂が私の耳にも届いている筈なんだよね~?」
「それに?そんな噂話が広まっていたのなら、人間にとって私達『鬼』は完全なる脅威だと思うからね?多分、真っ先に陰陽師に潰されていたか、ここ妖怪の山に陰陽師達が乗りこんで、潰し合う大戦争にも発展してしまうだろうからね」
「…つまる所、どんな言い訳だったとしてもお前達の嘘はお見通しだった訳さ」
と、萃香は、軽く溜息をつきながらも歩み寄ってくる。
「お前さん達…あれだろ?『私達のこれからの道』を知っている所からきた…要するに、『何かしらが原因でこの世界へと生まれ付いた』あるいは、『遥か未来からやって来たか…』もしくは、『前世の知識を持って生まれた希有な存在』のどれかだ。違うか?」
と、萃香の推測は、私達の境遇にどれも引っかかる為違うと言い難かった。
「えっと…そのこん―」
「『鬼の勘』って奴だよ。あくまで『勘』だから、予測に過ぎないけどね…でも、私達の鬼の勘は人間よりも鋭く、嘘を付いているか否かも一目瞭然ってな訳だな。―で、どうだ?私の勘。強ち間違ってもいないだろ?」
私の訊きたい事も鋭く当ててくる。
これはさとりの境地にも入っているのでは?
「なぁに、お前さん程じゃないぞ?そうそう。お前の事は天狗達から一部だけだが、聞いていた。だからその情報から察っするだけだが、お前さんは、さとり妖怪って奴なんだろうさ」
「―そして、その情報が確立したのはさっきの『お前の心を私が読んだ事』に対してのお前さんの表情だ。常に無表情な顔なお前が、多少なり驚愕した顔になっていたしな。」
私の心を読む上種族まで感づかれるなんて…
「…そんな事より、だ。どうやら私の予測は当たっていた様だ。何、深く問い詰めたりしない。寧ろ俄然興味が湧いた。特に其処の悪魔。『里の女神』…『陰陽師達を意図も容易く退けた強者』…その筋書き通りなら鬼の私の血が滾る。是非とも手合わせして欲しい。」
「…ど~しようかなぁ…鬼だしなぁ…」
そんな嫌々な幻月を見て萃香は
「…そうだな。先程の無礼は私と一戦してくれたら不問にしてやるぞ?勿論、お前さんたちのサポートも天狗達にさせるし、何かあった時の後ろ盾に私達もなってやる。それにお前さんが私を満足させてくれたのなら、更に良待遇としてこれからも付き合ってやる。…悪くない提案だろ?」
…確かに萃香さんの言う事も一理ある。
これからの事を考えるとこういったサポートは本当に有りがたい。
「…はぁ。仕方ない。どのみち選択権はなさそうだし…これを断ったら今度こそ終わりな気がするし…良いよ。受けて立つよ。私の方も手加減しないから本気で掛かってきなさい!!」
その強気な姿勢を前に萃香は
「はっはっはっ!!!鬼の四天王の一人にそんな威勢の良い口調で煽り立てえるとは…気に入ったぞぉ??お望み通り私の本気を見せてやる。…私を本気にさせるんだから、そっちも私を殺す気で掛かってきなっ!!じゃないと…死ぬのはお前さんになるかもねぇ!!!」
その会話を最後に悪魔と鬼が激しくぶつかり合うのだった…