31話 生と死を越するモノ
待たせました。最新の話が書き終わりました。
気紛れに書いているので不定期ではありますが、失踪はしない予定ですので心配しないでください。
紫視点…
「それで、今回は何処に連れて行くつもりですか?」
「いい加減、連れ回すのは疲れるから勘弁してほしいんだけど〜?」
隙間を通過する最中は静かだったのに、出てからはこれだ。
きっと私の答える事なんて薄々判っているでしょうけど…
「それは、ごめんなさいね?…その内こんなに連れ回す理由も後々判るようになるから安心なさい」
軽い悪戯で答えをはぐらかす。こんな感情になったのはいつぶりだろうか?
「教えてくれたって良いじゃないですか」
抑揚の無い声が後ろから、私の事をチクチクと刺す。
きっと振り返れば無表情でジト目を向けてくるでしょう。
天使の様な見た目の悪魔も喋らずとも、此方まで伝わる威圧で何となく判る。
恐らく、さとりと同じく此方をジト目で見ているのだろう。
二人揃ってジト目で見られるのは辛いモノね。
「…そんなに知りたいなら、さとりが心を読めばいいじゃない」
「YADA!」
「…だってさ」
全力で否定する始末。こう言う事は慣れっこだけどね。
何時まで自分の力を否定し続けるのだろうか。
さとり妖怪の特性上、勝手に心を読むのは制御出来ない。今、現在でもその特性は発動し続けている筈。
それなのに…
通常、『それ』を吐き出さずして自らが狂っていく様を私は何度も『視て』いる。
そんな種族な筈なのにこの『さとり妖怪』は、『それ』を吐き出さずして飲み込み、その後も狂う事なく正気を保ち続けている。
…正直言ってこれはもう『奇跡』に近い。
そんな奇跡を実現するにはその位の精神力を持っているか…あるいは。常に傍にいる仲間がいるから。その二択の内のいずれか。
私はこのような協力関係を持つその前から、監視している。
…だから、何時も傍に付いている幻月と言う悪魔の存在があってこそなのだと私はそう思っている。
一応、その幻月と言う存在についての情報も私が今まで監視してきた見識を含めて一定程度位なら言葉で説明できる。
まず、天使の様な純白の翼を持っている珍しい悪魔な事。
端から見て本当に天使じゃないかと疑う位に綺麗な翼である。
次にさとりの相棒にして半身と自分でも呼ぶ位に、一緒に行動している。
何かと困っていたら助言をしてあげたり、されたり。…時には共闘したり、相談をしてあげたり、されたりと状況によるがどれも信頼があっての行動であるのは確かな様。
無表情であまり語らず、喋らずのさとりとは正反対に感情豊かで思った事を口にしたり、考えよりも先に行動で示そうとするとか。
ただ、性格が非常に短絡みたいで見る人によっては怖がられたりするみたいだけど…基本的には人妖平等で慈悲深く、自分よりも弱いモノをどんな手を使ってでも守ろうとする心優しき悪魔みたいね。
さとりと幻月、その二人のどちらが強いのかは、判らないけど、私が見た感じ…圧倒的な強さだけと言えば、幻月一択と私は思うけど、土壇場の状況下では、幻月より遥かに超える強さを持つのがさとりだと断言出来るわね。
どっちにせよ油断出来ない…敵に回したら厄介極まりない相手って事だけは理解出来る。
話を戻すわね。
先程幻月についてを話したけど、さとりについても改めて……
さとりは、遠慮…というモノを知らない物腰、例え大妖怪と言われている人物や賢者と謳われている偉人だとしても、その肩書に一切惑わされず誰にだって中立的な態度をとる。
ただ、肩書に込められた強さを知らないだけだと思ったモノのそういうわけではない。むしろ、知っていてあえて変えない。幻月と言い、さとりと言い…二人は不思議だった。
いいえ、不思議と言ったら二人に失礼に当たるわ。
圧倒的に強い相手でもそれに臆することなく相手の本質を見抜いて関係を持っていく。
…二人の担当は違えどそれを利用しようと言ってきた私に対しては両意見合致で嫌がるどころか肯定してきた。
その言葉が二人共本心から出ていたのは間違いない。
…それだけ、ただそれだけだったのだが、私にはその純粋な理解がとても嬉しかった。
……今思えば、こう言う関係を築ける事が出来るこの子達に私は惹かれたんでしょうね。
鬼の四天王や天狗とその長に妖精の一部、地獄の使いの一人に地獄の閻魔王の一人。…更には、幽霊に神様…そしてかぐや姫と従者に藤原家の人等々…多種多様な種族達が興味を引き、好意を寄せていると言われている妖怪達が居ると……。
私はその噂話に興味が湧いた…のは偶然だった。
でも、興味があったまではあるがそれを欲しいとまでは思わなかった。どうせ、使い魔みたいな感じだろうと思い、そこまで期待はしてなかった。…ってのもあるでしょうけど…
寧ろ、その考えが根底にあったせいで彼女達を見誤ってしまった。
すぐに誤りに気付けたのは、噂好きの妖怪が近くにいたから。その妖怪は私の知らない所で人間に退治されていたわ。…まぁ、別に深く関わりがあった訳ではないし、私には関係が無いもの。
…そんな私の裏話はどうでも良いので置いておきましょう。
私がそんな妖怪達がいると噂を耳にして少し経った頃、その噂は次第に大きく囁かれる様になり始めた。
結局、大きくなり始めた噂に疑心と興味が勝ってしまい…好奇心半分で観察し始めたのが大凡一ヶ月前。
最初の印象は…二人共々妖怪らしくない。
あの子達が何の種族かは薄々判っていた。ただ、それであれば一方はともかく、もう一方なら静かな所で過ごしたいと思うのが普通。…少なくとも、私が今まで出会った事がある覚妖怪はそうであった。
だが、彼女は自ら妖怪の輪に入っていた。それは、例え正体を隠していながらでも異常な事である。
相棒の幻月と言う悪魔が唆したのでは?と思ったり、悪魔である幻月がさとりに強制させているのではないか……と思ったりした。
勿論、そんな様子は無く寧ろ自発的に交流に行っていた。
それならばと思い二つ目の推測論として出したのはさとり自身が何かを企んでいるのではないかと言う説。だけど、これも大外れ。さとり自身が純粋に交友関係になりたい……仲良くなりたいだけであった。
二人の行う行為に次々と疑問点が浮上して推測を行うも全て外れると言う私の経験上例に見ない前代未聞の数々。
これにより興味が尽きず、その後も暫く傍観を続けた。
未だ解明されていないけど、判ったことと言えばこの子達の交友関係についてだ。いえ、この子達の交友関係すらも異常な広がりを見せている。普通の妖怪ならこのような広がりはあり得ない事である。
その時、この子達の中心…さとり。この子になら私の夢も一番に理解してくれるのではないか。…と思ったのだが、別に理解できなかった場合でも対策はあった。そう。式神だ。式にしてしまえば応否関係なく言うことを聞かせられる。…事をかなり有利に進めることが出来る。
……そう思ってさとりの家に押しかけたのが全ての始まりだった。
まさかの数日で………ここまでスムーズに事が運ぶとは…と私は振り返り少し後ろをついてくるさとりとその後ろを追うようについてくる幻月の二人を見る。
無表情でフードをかぶっているから少し不審な感じがするのだけれど、流石に見慣れてくると見た目にそぐわない大人びた雰囲気がミスマッチして可愛さを引き立てる。
一方で気怠げにさとりの後をついて行く彼女は、何も着飾らないモノの寝癖の様な髪の毛一本が妙に目立ち、それが独特な服装と組合わさって純粋な可愛さが引き立つ。
それはそれとして、さとりの顔がなんだか浮かない表情になっていたのを私は見逃さなかった。何かあったのかもしれないわね。
「初めて此処へ来たって感じがしないの?」
「何故、急にそんな事を?」
「だって、その表情をみたら一目瞭然よ?…ヤケに落ち着いているというか…それなのに違和感があるかの様に私に悟られない様に眼を動かして…判り易いわ」
「……残念ですけど、それは違います。初めて来たからどう反応すれば良いか解らないだけです。アナタなら私の気持ちも解ると思いましたのに…」
素っ気ない返事と反論が返ってくる。…それでも、一瞬動揺したのか返答に間が空き、答える際に声が裏返っていた。やはり、ここへ来たことがあるのね。なら、私しか知らない彼女の事は判るかしら。
「…はいはい。そういう事にしておきましょう。そうね。先程聞かれた質問に今、答えてあげる。…私の友人の紹介の為よ」
いつの間にか辺りが暗くなっており、道の両側に置かれた灯籠の明かりがほのかに周囲を照らしている。
そろそろ階段が見えてくる。此処まで来て少しだけ悪戯心が湧いてきた。危なくなったら助けに入れば良いんだし……そうね。やっても良いでしょう。
私の知っている友人の彼女とは違ってしまっているけども本質は同じ。
…少なくとも昔よりは悪ふざけせずに真面目に取り合ってくれる筈。
あの人とやり合うと判った瞬間…彼女はどうするのかしら?無性に知りたくなってしまった。
思い立ったら直ぐに行動に移った。そうでもしないともうすぐあの剣士が来てしまう。
あの人は嫌いでは無いけども…話がどうにも通じない節がある。すぐに切って掛かろうとするから危なくて仕方無い。
目の前に隙間を開き中に飛び移る。
「それじゃあ、私は先に行っているから貴方達はのんびり登ってらっしゃい」
「一人ばかりで楽しようなんてっ!!…そうは問屋が卸さないよっ!」
幻月は私が生み出した隙間に間髪入れずに飛び込んできた。
「「……え?ちょっ待っt」」
私とさとりが殆ど同じタイミングで驚いた返事を返すもそれを聞き届ける前に隙間が閉じる。
「…あのさ、やるにしてもこのタイミングは無いよね?」
幻月が私に対して冷酷な表情で問いかける。
「…だって、仕方無いわよ。あのまま決めかねて登っていたらいずれは……」
と言いかけた所で私は別の隙間を開いた。
一つは和室。もう一つは……
「ふふ…。もし、危なくなったらあの子と一緒に助けてあげるからせいぜい頑張りなさいな」
閉じた隙間の先にいるさとりに聴こえるように口を開いた。
幻月は相変わらずジト目で私の方を見ていた。
「ほら、この空間も閉じるから先に行きなさい。大丈夫よ。私も行くもの」
私がそう言うと幻月は、多少なりとも此方を見て様子を伺っていたが、溜息一つ吐くとこの空間から飛び出た。私も続くようにこの空間から飛び出した。
すると、私が来ることを予期していたのか…或いは、私だけが先に来る事が解っていたのか…部屋へ入ると既に隣の襖のが開いた後だった。
「…あら?…今日はこの子達を連れて紫が先導して先に来るかと思ったのに…先にこの子が来ちゃうなんて…想定外だわ」
「…私も想定外なんです。まさか、この子が私の読みを先読みして隙間に入って来るとは思いませんでしたから」
「それは、そうと…紫、久しぶりね」
「えぇ、久しぶりです」
髪は黒みがかった桜色のセミショート。服装は髪よりも明るい桜柄の着物に身を包んでおり、何処で手に入れたのか知らない桜の花の形をしたヘアピンを前髪に着けた女性がゆっくりと入ってくる。
「それにしても、この子…悪魔ね?魂は別物みたいだけど」
「へぇ?…判るの?」
「勿論よ。…何なら直接自己紹介しなくても…アナタなら私の名前とか…判るでしょ?」
「…至極当然ながら…だけど」
「ふふっ。紫ってば、こんな面白い子を二人も連れてくる約束だったのに…もう一人は何処に置いてきちゃったの?」
突然と私に話が振られる。
私は目の前の女性に向かって返答する。
「あら、其処まで判っちゃうの?」
「だって、見てましたもの」
何処でどう見ていたのやら…アナタ、遂に消えたりできるようになったのかしら?
そんな疑問が喉から出かかったがそれは一旦置いておきましょう。手元に開いた隙間から、さとりの様子を観察しようとする。
「……あら?…訊いてこないの?」
「なんの事?」
「私がどうやってその様子を見ていた事よ?」
「何?…訊いて欲しかった訳?」
「えぇっ!そりゃ勿論よっ!」
そんなに鼻息荒くして前のめりになって肯定しなくても…
あ、そろそろ接触の時間かしら…
「…紫。言わずとも…見せてくれるよねぇ?」
幻月が詰め寄って私が開いた隙間の窓を無理矢理にでも見ようと体を寄せてくる。
「…アナタのお気に入りで新入りの下僕の様子でも観るのかしら?」
それに便乗するように彼女も私の側に体を寄せて手元を見るように詰めてくる。
あぁ、ちょっと待ちなさい。
一気に二人も見れるような隙間になってないの。今、広げるから二人でそんなに張り合わないで。
「…下僕じゃないわよ。新しく出来た私の友人よ」
「あら、珍しい事もあるものね?紫が私以外の友達を作るなんて」
「別に、大したことじゃないわ。今だって、其処に居る幻月とも友人だと思っているし」
「あらあらあらぁ〜♪フフフッ♪アナタが、友人の事を肯定する日が来るなんて…明日は皆死ぬのかしらぁ?」
「物騒なモノの例えを止めなさいな!」
なんか、物凄い馬鹿にされた様な…いえ、本当に馬鹿にされている気がするわ。其処に居る幻月なんて笑い堪えているし、彼女に至っては平然と笑っているし…すんごくイラつくんですけど……???
「…二人共…張り倒すわよ??」
「そういう展開はご法度よ?知らないの?」
「どういう展開よっ!?」
「何を想像しているのっ!?」
あぁ、もう。満場一致で幻月と殆ど同じタイミングで返してしまったわ。調子狂うわねぇ…
おっと、いけない。さとりの様子をみないと。
えーと、あ、早速何か話をしているみたいね
『…待て、此処から先はお嬢様の住まう所。関係者以外の立ち入りは禁ずる。お引き取り願おう』
『…あの……すみません…私は…』
…って、二人共声が小さ過ぎ…聞き取り辛いじゃないの。
もうちょっと、隙間を近付けて……。これ以上近付けたら気配で気付かれちゃうから無理ね。
『…名を名乗らずとも結構。…貴様はどうやら何かしらの事情があって此処へ来たようだな?』
『…えぇ。そうです。紫さんに連れて来られて…なので、今は急いでいるんですよ』
『…そうか。成る程な』
『そういう事なので、すみませんが此処を通らせt…』
『…だが、その話が真実を語っているとは限らない。嘘が上手い奴なんて幾らでもいる』
『…じゃあ、どうしたら?』
駄目ね。声が聞こえないわ。
音の境界を弄って、聴こえる様にしても良いけど…面倒なのよね。
それに、苦労してやっても結局は戻さないといけないし……
「えーと…『何、簡単な事だ。貴様が誰であれ真実を知る方法が一つある。私と一戦交える事…それだけだ』…まぁ、妖忌らしいわねぇ」
え?なに、口パクで判るの?何それ、訊いていないんですけど?そういうのは早く言って欲しいわ。
「それで、貴方のお友達さんは…『我が名はさとり。ただの妖怪にして紫の協力者…』」
「いやいや、絶対そんな事言ってない!」
「判ったわよ。真面目に訳してあげるから紫は熱くならないの」
誰のせいよ!?誰のっ!?
「…さっきのさとりはね、『名乗らず戦うのは苦手なので軽く自分を紹介しますね…私の名前はさとり…。苗字は省きまして、紫さんとは協力関係にあるんです。それで紫さんに幻月の二人と会わないといけないんです』…って言っていたからね?」
幻月は彼女に劣らず、口パクをしっかりと見極めなんて話していたのかを伝えてくれる。
こう言う時は幻月も頼りになる存在なんだけどね。
「……えぇーと、その、ありがとうね。…じゃあ、続けるわよ。『それを理由にしたとしても通してはくれないのでしょうか?』妖忌は『…くどい。先程も言ったが、真実は口では判らぬ、眼を凝らしても視えぬ。…ならばどうするか。…そう、斬って知り得るのだ』だそうよ」
あぁ、完全にスイッチ入っちゃっているわね。アレはもう…どうしようもないわ。大人しく様子を見て、本当に危なくなった時は止めましょうか。
「ねぇ、紫?本当にこのまま放っておいていいの?」
「面白そうだしいいんじゃない」
そう、口で言いつつも面白がって見ているじゃない。今更、止めるなんて言えないわよ。
「今度は私が訳すよ。さとりは『じゃ、私が適当に斬られたらそれでおしまいでいいんです?』んで、妖忌って人は『…まぁ、異論はあるが此処を通るだけなら斬っても斬られても構わん。…ただ、貴様が死なないのならばそれでも良い。…だが、本当に死にたくないなら、私に一太刀入れてみるのだな』…だってさ」
面白くなって来たわね。さて、貴方はどうするのかしら?…さとり。
って言うか斬って死ななければって…妖忌もまた、随分と出たわね。まぁ、普通の人がここへ来る事は基本出来ないからなんでしょうけど。
私の知っている妖忌なら、もっと口数を少なくして話す筈なのに…最近じゃ会話も多くなっているのよね。
妖忌といい彼女といい二人とも気になる所ではあるけど今はそれはさておいて…
さとりと妖忌の方だけど、あっちでは一陣の風が吹き渡った…刹那、妖忌の手元が霞みがかった様にぶれる。
一瞬の出来事な故に普通の人には何が起こったかすら解らないだろう。
私は妖忌の姿を目で追えた。
幻月も同じく妖忌の姿が見えた様ね。
ただ、隣にいる彼女は違う。動きが速すぎて妖忌の姿を目で追えず、途中で諦めて微動だにしないさとりの方を見つめ始めた。
だが、そのさとりも少しだけ遅れたものの妖忌と似たような感じなぶれ方をする。
「…ふーん。あの子の動き…とてもじゃないけど、普通の妖怪とは違う動きをするのね?」
「…気付いてたの?」
「…えぇ。其処に居る悪魔ちゃんは、私があの子の正体の事を既に知っていたのよ?」
え?何?…彼女は既にさとりの正体に気付いてた?
どうやって?
そんな疑問が頭の中を駆け巡る。
此処までに彼女にはさとりの情報は与えていない。
更に言えば、さとりが扱う隠蔽能力の精度は目を見張るモノがあり、それこそ彼女はさとりの正体が妖怪だと見抜けないと私が自信を持って言える程だ。
…この私ですら気付けない気配の消し方。本当に素晴らしいモノである。
例え妖怪退治屋ですら彼女の正体が妖怪だ…なんて気付かれない程に隠し方が完璧であると言える。
それなのに、彼女は既に隠蔽能力を看破してさとりの正体が何なのかを知り得ている。
これは一本取られたわ。
自慢気に話して彼女の反応をみようと思ったけど、逆に私が驚いて純粋な反応を見せちゃったじゃないの。
恐らく、妖忌は相手が妖怪だと雰囲気で判った上で、斬ると言ったのだろう。そうでなければ、あの妖忌が一戦交えて斬るだなんて言わないもの。
そうこうしている内に一瞬、二人の真ん中で火花が散る。
その途端、幻月が目の色を変える。
「…本気?…大丈夫だよね…」
不安そうな声で呟く。
それもそうだ。
先程とは動きが変わり、妖忌の姿は完全に見えなくなる。それこそ、私でも眼で追えなくなる程。
私は動体視力を上げて妖忌を追尾する。
「…えーと『ほう?見込み通り。…あの一撃を完全に防ぐとはな…』んで、さとりの方は…『我が爆r……』」
「息を吸うように嘘言わないの」
私は軽く扇子で彼女の頭を叩いた。
ペチンッ!
そんな軽い音がして、扇子が反動で跳ね上がる。
「いったぁい!」
「大袈裟ねぇ。そんな力入れていないのに…」
「………っ。…まだ、本調子でもないのに…全く」
そんな事をしていると隣の幻月の独り言が聞こえてくる。…どうやら、さとりの肩辺りで鮮血が舞った様だ。
少し遅れて肉が引き裂かれる音と、妖忌が刀を鞘に収めた音が響き渡る。
二人の周辺にある石段と灯籠が赤く染まっていく…。流石、妖忌といった所だろうか。さとりの切り口はほぼ真っ直ぐに……まるでガラス板の様な滑らかさを持って斬られていた。
「ちょっと!?連れの子斬られているわよ?!」
「うん?…あぁ、そうね。…心配するのも頷けるけど、あれくらいならば大丈夫よ」
隣で大声を出されても耳が痛いわ。でも、此処まで困惑している彼女を見れたのは久しぶりな気がするわ。少しだけ優越感が湧く。
ドサッ!…と音がして意識を隙間に戻す。
見れば、斬られた左肩から腕にかけてを捨てた様だ。いとも簡単に切り捨てていく。……正気なのかどうかは、この際は置いておきましょうか。隣の彼女はおかしいんじゃないの…とか言っているけど気にしない。
あんなのは見慣れたモノではあるけど…妖怪全てがああなのは否定するわ。でも、要らない部位を切り落とすなんて事をする子が多いのも事実よ。
流石の妖忌も斬られた腕を棄てるなんてしたさとりの意図が読めず困惑してる。
まぁ、あの子の事だから意図なんて無いのかもしれない。…あったとしてもどうしようもない事とか、理解出来ない事が多い。
現状、幻月はあの子を見てまたか…と項垂れていた事だし、意図なしにあの行為を行ったとしか思えないわ。
「…どっちにしても妖忌は戦意喪失ね」
「ま、まぁ、皆無事…とはいかないけども何事も無くて安心したわ」
「妖忌さんに至っては一回でも斬ったからこれ以上は戦う意思なんて無い気もするけどね」
幻月の言う事も一理あるわね。
妖忌は斬った後に相手に興味を持つ事をされるまたは自分の考えとは明らかに違う行動をして自分の推測を大いに外れた行為をした時だけ戦闘継続する事を拒む傾向があるのよ。
先程、さとりのあの行動は妖忌の予測を大きく外した行為だった。その為、そのまま切り捨てる…なんて妖忌はしたくないのかもね。そのような行為に至った思考が知りたくなったのだろう。
もしくは、妖忌自身にもかしているモノではあるが…自分が口で言った約束は絶対に守るみたいでさとりと交える前に斬る事さえ叶えば通すと言った事を守ったとも捉える事が出来る。
…その事すら、もしかしたらさとりは読んでいたのかしら?
…もし、そうだとすればかなり面白いわ。
諺にある【肉を斬らせて骨を断つ】…実際にやってのけるとは……
二人の前に隙間を開き、二人を手招きする。
本来なら、このまま登ってきてほしかったのだけれど…怪我人に登るの事を強要する程、鬼じゃないわ。
「…貴様達、今の今まで見ていたな?」
「何?…悪かったかしら?」
なんで、妖忌に私だけが睨まれないきゃいけないのかしら?
睨むならこれを仕掛けられた本人であるさとりの方でしょう?
なのに、当の本人と言えば……
「さとり?…ま〜た腕の一本を無駄に棄てちゃって…少しは考えて動いてよ。これを見守る私の身にもなってよぉ……」
「幻月……すみませんね。あの状況下では。これが、最善だと思ったので…そんな事より…私の服の替えってありますよね?紫さん。…流石に無いとは…言いませんよね?」
幻月の説教を軽くあしらい、さとりは私に向かって困惑した表情を浮かべながら問いかける。
確かに言いたい事では有るけども。…流石にこの状況ではズレ過ぎでしょ?もっと空気読みなさいって。
ほら、もっとこう。他に言うべきことがあるんじゃないの?それとも、既にこうなることを分かっていて敢えて責めていないって事?
「…………え〜と。…そんな深読み思考だとは思いませんでした。でも、そうですね。…こんなになりましたけど、別に紫さんを責める理由なんてないじゃないですか?…違います?」
「あら?もしかしなくても、心を読んだ?」
「…不本意ですけどね。…だって、ほら。…眼…でちゃってますから」
と、さとりは右手で左腕があった箇所を指して教える。
そう言われて、指先を見ると確かに赤色の眼球が此方を見つめていた。
ただ、それ以上に目を引いたのは左腕があった箇所の……傷口だった。
「…もう、回復が始まっているのね」
刀により綺麗に斬られた断面は、既に新しい組織が生まれ伸び始めていた。
「…相変わらず、さとりのその異常過ぎる自己再生能力は凄まじいね」
「見世物じゃないです。…貴方のせいか知らないですけど…最近、この自己再生能力がやけに速く他の妖怪からは妖怪らしからぬ超再生って言われているんですけど…?」
「あっはは〜♪…ほんと、誰だろうねぇ〜??」
「…流石、不死身の超妖怪と呼ばれるだけあるな」
「その呼び名はあまり好きじゃないです。それに、その程度だったら、半霊さん程ではないじゃないですか」
そう言って、さとりは苦笑いする。普段から無表情だからなのかぎこちない笑いになってしまっているが寧ろ微笑ましい。
「ハハハッ!!妖忌で良い」
なんか、急にこの二人が仲良くなっていないかしら?
別に、構わないのだけれど……
「…早くしなさいな。置いていくわよ?」
なかなか隙間の方に来てくれないので、少しだけ急かす。
「なんで、紫さんは不機嫌なんですか?それを見て幻月は笑わないで下さい。今、私は怪我人なんですよ?せめて、腕の再生位は待って下さいって。それだけの時間はあるでしょう?…それと……替えの服も用意して下さいね?これじゃ、みっともないですから」
そう言いながらその場で上着を脱ぎ始めた。
こらこら。幾らなんでも下に服を着ているからって…こんな所で着替えなんて始めちゃ駄目よ。血生臭いのなんて誰も気にしないんだから。
「ねぇ、妖忌。何処に行くのかしら?去るのなら 最低限…この隣にいる子に自己紹介して去っていきなさい」
「これはこれは紫殿。それでは…改めまして。其処に居る悪魔の彼女様。…私の名前は魂魄妖忌。単に斬る事しか取り柄のないただの老いぼれの剣士でございます。どうかお見知りおき下さいませ」
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肩書 天下無双の剣聖
名前 魂魄妖忌
能力 妖刀を扱える程度の能力
身体能力
体力 SS
筋力 SS
妖力 SSS
速力 SS
説明
初代魂魄家当主。
西行寺家に仕え、当主である西行寺家のお嬢様に剣術を教える先生でもある。
剣聖と言う名前で知られている有名人であると同時に侵入者は問答無用で切り捨てる恐ろしい人物としても知れ渡っている超危険人物である。
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「それでは、このような華が咲く所に不躾な男は不要であります故、お暇させてもらいます」
そう言い残して走り去ってしまう。
なんだったのかしら?時々、妖忌の行動がよく解らない。彼女に訊いても時々ああなってしまうとのこと。不思議ね。
「……彼にも色々と思う所はあるのですよ」
さとりは走り去る妖忌の背を見てそう呟く。
「…そう。やっぱり半霊の考える事は判らないわ」
「いんや、そうとも限らないかもよ?…案外、紫もいずれは経験することも………あるんじゃ、ない…かな?」
幻月の言葉が耳にはいる。
そちらを向くと、顔をみられたくないのかすぐに顔を隠すようにそっぽを向いた。
…どういう事?
こういう事もさとりは答えてくれるかと思ったのだが、これだけ答えてくれなかった。
さて、この話は一旦置いときまして。
そんなところで突っ立っているっていうのもアレよ。早く入るわよ。
無事だったもう片方の手を掴み強引に隙間に引き込む。
一瞬の浮遊感。さとりが通過する僅か数秒だけ引っ張っている感覚が消え去る。
そして、再び戻る。
「あら、やっと連れてきたのね。のんびりしているから私も行こうかと思っちゃったわよ」
部屋に戻るなり早速さとりに近寄っていく。
それを片手で必死に追い払おうとするさとりが妙に可笑しかった。
そんなに近付かれたくないのかしら?
「や、やめてください!幽々子さん!!色々と見えちゃいますからっ!」
あら?この子も彼女……幽々子の事を知ってるのね。波長的に能力を施行した感じはしなかったし、そもそもサードアイは服で上手く隠れて見えない筈。
なら、なんでこの子も幽々子の事を?
私の考えは読めないように視界を弄っているのだけれど……まさか、幻月から予め?
「あら?貴方も私の事をご存知?有名になったものねぇ?」
「有名って……幽々子さん、既に私達の事を判って弄ってます??西行さんの娘なんだし知ってて当然ですよ。…それに貴方の事情も私達は大体は理解しています。なので、取り繕わなくても良いです。…だから、離してくださいって!!」
「……そう。なら、話は早いわ。…この体勢で失礼するわね。私の名前は幽々子。西行寺幽々子。…こんな身なりだけど一応、貴方達と同じ魂と志を持つモノよ。…これからよろしくするわ〜」
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肩書 幽玄霊嬢の転生者
名前 西行寺幽々子
能力 霊魂を操る程度の能力(自称)
死を操る程度の能力
身体能力
体力 S
筋力 C
妖力 ∞
速力 SS
説明
西行寺家のお嬢様。
付き人として妖忌と言う初代魂魄家当主を侍らせている。
また、剣術を教わっている身であり、この身なりで剣を扱える。…ただし、腕は未だに初心者同然である。
…幽々子を装ってはいるが、中身は全くの別人らしい。…その真意は不明。
能力は霊魂を操る程度の能力と本人は自称しているがそれは自分を知らない人物を混乱させない為である。本当の能力は死を操る程度の能力である。
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さとりの話は一見、的を射る発言のように聞こえるのだけれど、実はそうではない。
そもそもの話、幽々子自体が顕界した事が無い。
…顕界って言葉が判らない人に判りやすく言えば、冥界の外…生者が生きている世界に此処に住んでいる人が降り立つ事をそういうのよ。
話を戻すけど、顕界した事が無い幽々子は生きている人とは認識が無く、あの御阿礼の子さえ知らない筈。…御阿礼の子って言うのは…そうね。稗田阿求…って言っても判らないわよね。
まぁ輪廻転生を閻魔様から許されている存在の事をそう呼んでいるのよ。
…私みたいな妖怪とか一部の人物からはかなり知られていて…知識に関しては誰にも勝てないとされる有名人物よ。
そんな人物ですら西行寺家の事を知らないのだから有名になっている筈もなし。
「コホン。と言う事で…早速だけど隣の部屋に行かない?私が着替えさせて上げるから」
「何がと言う事で…ですか!?やめてくださいって!後で水饅頭なるものを作ってあげますからそれだけは勘弁してくださいっ!!」
水饅頭?…なんか聞き慣れない言葉ね。食べ物かしら?
…と言うか、どうして幽々子が好きな食べ物を知っているのかしら?幾らあの場でさとりが心を読んでいたとしても妖忌がそんな事を思う筈がない。
覚妖怪の力は相手が通常状態の場合は考えていることしか読み取れない筈だ。あの時、妖忌に能力をフルで使った形跡は無い。…謎ね。
「へぇ〜♪水饅頭を作れるの?ホントに?」
「ホントですよ。なんなら、作っている所…見せましょうか?」
「え?良いの?嬉しいわ〜♪」
「ちょっと待ちなさい。…第一幽々子が知っていても私が知らないの。…何なのかを教えなさい」
「え~と。水饅頭って言うのは、饅頭ですよ?」
「いやいや、聞いている答えになってないし……」
幻月とさとり、幽々子の会話を聞いている内に色々と考えている私が馬鹿らしくなって来たわ。
…まぁ、悪気とかこの世を壊そうとかしている訳では無いし、根は優しいでしょうから大丈夫でしょう。いざとなれば、私が手をかける前に幻月や妹さん達がなんとかしてくれるでしょう。
そうと決まれば、さとりをちゃんと見ておかないといけないわね。
幻月を含めて私の始めての妖怪友達だもの。
一方…妖怪の山付近のこいし達は………
「本当に行くのかい!?」
「うん!行ってくるっ!」
心配しているあたいとは反対に元気な声が返ってくる。確かに椛さんとはたて、紋さんと豊姫さんの精鋭四人が随伴するから大丈夫な筈なんだけど…
「…やっぱ、あたいも行った方がいいんじゃ…」
「お燐まで来ちゃったら、お姉ちゃんはどうするのさ?」
「あ、いや…それは、そうだけど……」
「…なら、私達二人が」
「夢月もお燐と一緒。アナタが来ちゃったら幻月お姉ちゃんはどうするの?」
「っ。確かに…」
「エリスちゃんだって同じだよ。幻月お姉ちゃんに頼まれているんでしょ?夢月と一緒に行動するように。…って」
「……それは、そうですけどぉ〜」
二人も駄目か…。
でも、確かにこいしの言う事は的を射っている。
此処まで来る時に幻月から二人一組で行動する様にと言われていたもんな。
いや、だとしても不安だわ。…主にこいしの行動が原因で起こりそうなトラブルが…
二人もそれを心配して駆けつけて来たというのに。
「大丈夫だって。すぐに帰って来るからさ」
そう言ってこいしは親指を立ててくる。
「フラグ立てちゃっているから!!」
「気にしない!気にしない!!」
「まぁ、こいしがフラグを見事圧し折ってくれることに期待しましょう」
「…そうだね。…でも、少しは安心出来る言葉を言ってくれたら気は楽になるんだけどさ」
…遠回しに少しは気にかけてって言っているようだ。勿論、あたいも同じさ。少しは気にしてほしいよ。
何かあったら責められるのはあたいとこの二人なんだから。さとりと幻月も黙っちゃいないと思うと…怖い。
……でも、少しはこいしの言う事を信じてみますか。
この決断が本当に後悔しない展開になればいいんだけど……
次の話も同じくゆっくりと待っていただければ幸いです。




