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東方 夢幻界郷  作者: 聖海龍・ラギアクルス
二章.新たな記録と歴史
31/34

026話 真夏の日常の再来


「早速なんですが…ルーミアさんが居なくなりました」



「………えっ?」



昨日、ルーミアさんが目覚めたばかりと言うこともあって、こいしや夢月、お燐に幻月等…ここに住んでいる者皆驚愕している。

まぁ、そんな反応になるでしょうね。私だってさっき起こしに行こうとして部屋に入った時そんな感じの反応をしましたから。



かけておいた布団は半分ほど捲れており、窓が枠ごと消失したいた。まるで、そこの部分だけ分子レベルで分解されたかのような綺麗さだった。



「い、居なくなったって…まさか拐われた感じ!?」


驚きはしましたがそこまでのショックではないらしい。まぁ、二度と会えないって訳では無いですし…ただ、皆さんがしょんぼりとしているのは目に見えてわかる。



「いえいえ、違いました。私もその線を疑いましたが、ご丁寧に書き置きが書いてありまして、読んだ結果ルーミアさんの書いたモノだとわかりましたので」


「…で、書いた内容はなんて…?」


「…そうですね。簡単に言い表すと…」


私が纏めて話そうとしたその瞬間、その書き置きを私の隙を見て奪う影が一つ。


「…さとりに読ませると何か重要な事を隠したまま話すから嫌いなんだよね…だから、代わりに私が読むよ」


幻月が書き置きを奪い取る。


「…あ?!ちょ!?」


「…事実でしょ??…ね?」


「それは………否定できませんね」


「…。じゃ、読み上げるよ」


幻月は此方にコクりと頷いてから読み始める。


¯¯¯¯¯¯¯¯¯¯


私を助けてくれた友人へ。


判っているとは思うけど…今、読んでいる時には私はそこにはいません。何故なら、何日間も食事を取っていないせいで空腹なんです。

手紙を書いているこの瞬間も私はずっと食欲を抑えて…そう、目覚めてからずっと我慢していたんだけど…もう限界が近い…そう思うんです。

私の理性が失われるのが怖い…。救ってくれた貴女達を食べてしまいそうで物凄く怖いんです。

…なので、失礼ながら書き置きを残してこの場を去りたいと思います。本当なら理性が残っている内にちゃんと皆に事情を説明してサヨナラしたかったけど…この状態では持ちそうに無いので断念します。

…最後に私の事を助けてくれた皆に感謝を…。さとり…幻月…他にも一杯いたけど書ききれないので纏めちゃいます。本当に…本当にありがとうね?

…また、ここへ戻って来るかもしれないけど…その時は宜しくね?その時まで、元気で…

             ルーミアより。


¯¯¯¯¯¯¯¯¯¯¯¯


読み上げた文章に聞いていた一同は、呆然とする。


まぁ、書き置きを残しているにしろルーミアさんはもうこの家に居ない。それはルーミアさんと言えばしょうがない事実であり、どうしようもない。今から探しに行こうにも、今まで空腹のルーミアさんを見かけたことが無いため、理性を失ってしまったルーミアさんはどの位危険なのか…何処に向かってお腹を満たすのかがわからない状態では見つけることは不可能ですし、仮に見つけたとしても私達が襲われたりでもしたらたまったものじゃありません。また、理性が残ってあったとしても次にそうなるのはわかりきった事ですので対処法を思い付かない限りいたちごっこになり意味がありません。

どうあれば良いことやらと悩んだり悩まなかったりと…この悩みはなんのためなのでしょうか?



まぁ、そんなことはどうでもよくて、ルーミアさんの事も現状どうしようもない。


「それに、ルーミアさんは常闇…それも最初会った時とは大分違います。特に知能の面で…なので、もし天狗を頼って探そうとしてもあのルーミアさんの事ですから、意地でも見つからない様に行動しているかも…」



「難儀だねぇ…あたいは少し出掛けてくるよ」


「…待ちなさい」


夢月は出掛けようするお燐の尻尾を鷲掴みにして引き留めた。



「…ふぎゃっ?!む、夢月っ!前にも言ったけども尻尾を掴んで強制的に制止させるのは止めておくれよぉ…」


「あら、ごめんなさい。貴女が余りにも落ち着きがなかったからつい声をかけるのを忘れて物理的に引き留めてしまったわ」


「判ったならいいだろう?…なら、早くその尻尾を離しておくれ」


「…生憎と離すわけにはいかないわ。…貴女、今から何処へ行くつもり?」


「何処へ?…って、ちょ、ちょっとそこら辺の散歩を…」


ため息混じりの冷徹な声にお燐は、少々萎縮しながら答える。


「…こんな状況なのに、いきなり散歩するって言い出すなんて…」


「こんな状況だからこそって言うだろう?暗い気持ちになる位なら気分転換した方が前よりもよい解決策が思い付くかもしれないじゃないか」


「確かにそうね。ルーミアが居なくなったからって今でも同じところに居るよりは、幾分かマシになるかもね」


「…なら、離してくれよ。あたいは気分転換に散歩に出掛けるだけだから…」


「…嘘ね。私は姉さん程ではないけども、洞察と経験はあるの。どうせ、貴女は散歩のついでにさとりの為にルーミアの手掛かりを探そうとしたんでしょう?」

夢月は再度ため息を吐き、お燐の言葉を遮るかの様に言葉を重ねて話し出す。


「……うっ。それは…」


「…そもそも、ルーミアは人喰い妖怪。貴女の知り合いがもしも近くに居たとしても、雰囲気と妖力だけで危険を察知して一目散に逃げるでしょう」


「…なら、誰かは見ている筈だろう?ならその誰かに聞けば済むことじゃないかっ!!」


「確かに…彼女の雰囲気と妖力に当てられて逃げる奴がいるなら、その姿を見て逃げ出す奴もいるわね?」


「……彼女はお腹が空いていれば人だろうと動物だろうと無差別に襲って食らう妖怪で執拗に追い掛ける。…彼女が諦めない限り、全員食べられて骸に変わり果てる。だから、期待しても無駄よ」


「で、ですよね…」


夢月はようやくお燐の尻尾を離す。

私の言おうとしていた事を半分ほど言われちゃいましたが、大体は伝えたかった事なので黙っておく。

お燐は俯いてうーんと唸る。


「…まぁ、夢月の主張もお燐の主張も一理あるわ。…なら、駄目元でも試すだけは試して見ましょう。…幻月は言わずもながらだから…こいし、久しぶりに一緒に来る?」


「…ねぇ~。私の扱いが雑すぎない?」


「…いえ、いつもの事なので聞かなくても大丈夫じゃないかと思いましたので」

「いつものことじゃん。気にしないの~」

「当然じゃないかい?」

「気にする方がおかしいと思いますよ?姉さん」

「幻月様が気にする様な事では無いとは思いますね」

「幻月ちゃんはさとりちゃんにとって遠回しに相棒って言われているのよ?良かったじゃない~♪」


「…ねぇ、冗談で言っただけだけじゃん。聞き流してくれて結構なのに…何で皆そんな…本音(マジレス)で返すの?酷いよぉ…」


幻月の冗談に皆が本音(マジレス)で返すヒトが多く心が折れてしまい泣き崩れてしまう。



「え、姉さん?!…す、すみません。配慮が足りてなかったですから…その、落ち着いて…」


「げ、幻月様っ?!ごめんなさい!!そんなつもりは一切ありませんでした……っ!」



妹の夢月と従者のエリスは突然と泣き崩れる幻月を必死に宥める。


…その、一向に話が進みません。…ので早く立ち直ってくれると有りがたいのですが……。


少し時間が経ち、幻月はしょぼくれていた。


「…幻月は強いですからすぐに立ち直ってくれると信じています。…気を取り直して、こいし。もう一度聞きますよ?私と一緒に来ますか?」


「天狗のところ?もちろん行くよ!」


よし、決まりですね。後は…


「…うん。わかっているから。いくいく…。……エリス。…一緒に来るかな?」


「…はい。勿論ですとも!」


「姉さん。私は…?」


「夢月。貴女は神綺さんの手伝いをお願い出来る?正直ちょっと心配なんだよね。…今日は天気も良いから買い物しに出掛けるって言っていたし…」


「…そう。なら、わかった。姉さん。気を付けてね?」


幻月の方を見ると私が言わずともついてくるらしい。何時も通りエリスを連れていくのは相変わらずではあるが。

…それよりも神綺さんの方向音痴の方が心配になってきた。

あっちはあっちで準備を進めている一方で此方も準備を進めようと用意をしだすといつの間にか猫の姿をした此方にすり寄って来た。


「(何だかあたいだけ仲間外れ感が…)」



「帰ってきたら、鮎の甘露煮を作ってあげますから」


「(よしっ!さっさと帰って来て下さいね!!帰って来ない様なら、此方から行きますよっ!!!)」



お燐……露骨な反応をされると逆に神綺さんよりもお燐の方が心配になってきますから。



なんでそこまで素早く気が変わるのでしょうか…。



「お姉ちゃん達ぃ~!何しているのぉ?早く行こ~よぉ~!!」


「こいしちゃんったら…」


「アハハ…」


ほら、こいしが急かすのをみて幻月達は若干呆れ笑いが出てますって。

ルーミアさんの事を早く忘れたいからって急かすのは止めてください。まだ、準備が有るんですから。


あと、あの山は私が少し行き辛いので…もうちょっとだけ行くかどうかを考えさせて……


なんて、誘った私が躊躇するなんてらしくないですよね。





よし、行きましょうか。

駄目だったら駄目で帰ればいいだけですし、もしもの場合は幻月達に頼ればいいんですから。










「それで、天狗の誰に探索を頼むの?」



山に入って暫くしたあとにこいしが聞いてきた。


…確かに。

今の私では、普通に天狗に頼んでもさとり妖怪だと言うことがバレて居るため私の願いなどそう簡単に聞き入れてくれそうにない。


恐らく、頭ではわかっているのでしょうけど心理的に何処か私を信じる事が出来ないのでしょうね。


まぁ、一方的に情報を握られてしまうようでは向こうは圧倒的不利な状態からのスタートなんですから…そもそも今の状態でも奇跡に等しいと言うのに…これ以上向こうに何を望むと言うのやら…



「うーん。…誰にしようか?…情報収集なら鴉天狗の中でも自由に動けてかつ天魔と近い紋さん…?もしくはその娘の射名丸文…。会えることをかけるなら一番偉い天魔が有力だけど……」


「天魔と会うことはそもそも難しいと思いますし…でもって天魔と近しい紋さんは天狗の里にいること自体、が珍しいので会えるかわからない。その娘の文さんも同様なので……」


「要するに私達の知っている天狗達は皆会えないって事だよねぇ…」



えぇまぁ…。天魔が私達の事を友人として認めてくれたのはあくまでもあの場だけであって外ではまだ天魔の事を友人とは見てくれていない。

例外として天狗の里中全体で天魔の事を友人だと認めているのが紋さん一人だけだから何かあるにしろまず紋さんを連れてこなければ追い返されるのがオチである。

そして、問題の射名丸家は二人の性格が難癖であり、いざ頼ろうとして見つけようとしても、探し回って結局見つからない事が多く、更には時間がかかる為急ぎの私達には不向きで却下となる。



「と、なると一人位しかいなさそうだけど?」


「なんだかんだ言っても良い人ですからね。…仏頂面なのは…まぁ…ですけど」


「さとりさんがそれを言います?」

「…ブーメランって言葉を知ってる…??」

「そんなこと言ったら、お姉ちゃんだって同じだよ?年中無表情だし…」



三人とも…それ以上は言わないで。私のメンタルが壊れちゃう…私だって。私だって気にしているんだから…。







「……事情はわかった」



楓君の家は前に来たときよりも増改築されていた。


どうやら、この前の戦いで一部が壊されてしまった為、修繕ついでに広くしたのだとか。


応接間にて非番で暇を持て余していた楓君に事情を説明する事十分。



こいし達と一緒に居た筈だがいつの間にか三人共に居なくなっていた。外からは椛とこいし、幻月とエリスの声が聞こえる。楽しそうに会話する様子であるため一応、退屈しのぎにはなっているのだろう。


その一方で楓君の方の襖の奥から聞きなれた声が一人と見知らぬ声が一つ聞こえてくる。




「此方も、表立っては動けないが……部下にも頼んで探してみる」


意外にも快く承諾してくれた。業務に支障が出る事なので嫌がるかと思ったのですが…


「……ありがとうございます」



「困った時はお互い様だろ?それに美味しいものを貰っているからな」


…やっぱり楓君は優しい。仏頂面で言われると怖いのですけど。

まぁ、無表情な私がこの事を口に出して言えば楓君も皆と同じく『それはお前にも言えた事じゃないか?』とブーメランが絶対に帰ってくるので思うことだけにしましょう。


「今、変なことを考えて無かったか?」


「いえいえ、なんでもないですよ」



「それはそうと、さとり。お前に紹介したい奴がいるだが…」


はて?この展開、何処かで……


「紹介したいとは?一体誰を?」


「お前は知っているとは思うが、私が名家の犬走の当主であって現在、射名丸家の紋と近縁の仲で互いに情報を交換している事なんだが…」


あぁ、楓君と紋さんとは腐れ縁の仲だって言ってましたもんね。それが後に文さんと椛さんの関係に繋がってますしね。


「それで、拗れるような何かがあったんですか?」


私がそう訊ねると首を横にふる。


「あの襲撃の後、私達名家は新たにもう一つの名家と交渉して手を結んだ。今日はその日だったんだが…一応、彼女にも我々の関係に深く関わる事だから、さとりの事を紹介したい。…いいか?」


成る程、そういうことですか。なら、喜んで顔をあわせましょう。(えん)が増える事は別に悪いことでは無いですしね。



私が頷くと、楓君はハンドサインを出す。

あれは…出てこい。…でしたっけ?


すると、楓君の方の襖が開いた。


其所には、紋さんともう一人見知らぬ鴉天狗が居た。



「さとりちゃん。こんな所で会うなんて奇遇ね。因みに先程の話は聞いていたわよ。勿論、私もさとりちゃんに協力するわ。ただ、今すぐは無理ね。楓達と話し合って順次動くから…よろしくね?」


紋さんは笑みを浮かべる。

そんな笑顔をする紋さんの隣には、髪をサイドにまとめた鴉天狗が居心地悪そうに私を眺めていた。


「………よろしく」


「ねぇ、あかね。さっきまで饒舌に喋っていたじゃん!さっきのノリで話そうよ!ねっ!!」


「ちょっ!紋!肩をそんなに揺らさないの!それに、こうやって話せるようになったのは、貴女が無理やりじゃれてきて仕方なく対応している内に慣れただけで、初対面のヒトと話すのはやっぱり慣れないんだって!」


「そんな消極的にならなくても…」


「なってもないし、これが平常運転!!」


二人でなにやら盛り上がり始めちゃいました…。

あのノリは初めて幻月と会った時を思い出しますね。

じゃれあいがなければこうして幻月と共に暮らす事も無かったんじゃないかと思ってしまいますね…


二人の様子を見てあの頃の自分たちと重ね合わせて思いに耽っていると楓君がごほんと一つ咳払いをする。

途端に二人はじゃれあいをピタリと止める。


「…お前達。馴れ合うのは結構だが、あんまり客人に迷惑をかけるのは控えてくれると助かる。それに、今はそんな時間を設けようと呼んだ訳ではない。それを忘れるんじゃないぞ」


「はいはい。判った、判ったわよっ!やればいいんでしょ?」


大きいため息を付いた後、此方に向き直る。


「あんたがこの妖怪の山を救ってくれた救世主ね?…初めまして。私は姫海堂あかね。此方にいる射名丸紋とは幼馴染な訳。宜しく頼むわ」




・・・・・・・・・


肩書き 初代花念報新聞記者

名前 姫海堂あかね

能力 特定の範囲を指定出来る程度の能力

特殊能力 画角記録縮小拡大術(レコーディングクローズアップ)

・範囲内のモノを正確に絵にする事が可能な能力。特に戦闘などの攻撃面には使えないモノではあるが、指定した範囲の全ての殺傷性があるモノを中心に絵にして消してしまう、まさに防御面に優れた能力である。


現在の身体ステータス


耐久力 D-

体力 E+

筋力 C-

魔力 SSS

速力 SSS+



・・・・・・・・・・・



姫海堂。まさかの人物が此処で登場しますか…

それもはたてじゃなくあかね。


神主が作ったこの姫海堂はたてと言う名前は海産物であるホタテを文字って作られたみたいですが…。

そもそも私のいるこの世界にその人物の親が存在する時点で、私の前世常識が既に覆っておりますが。

まぁ、それはともかくメタい話、その母親も海産物に起因してつけられているのでしょうか?


あかね……起因……海産物……ホタテ……。

うーん。

私がこの名前で思い当たる節を言うと、やっぱり語呂が似ているワカメ…でしょうか?


…って、よく見ると髪の巻き方がワカメのイメージのままになっておりますね。

また、サイドテールとなっている髪飾りは綺麗な紅色のリボンですし。




「はい。宜しくお願いしますね。あかねさん」


「え、えぇ。宜しく…」


自己紹介が一通り終わった所で紋さんとあかねさんは話し合う事が残っていると言い再び襖の奥へと戻っていく。暫くして紋さんとあかねさんの真剣な話し合いが始まる。

…二人とも根は真面目なんですね。





二人の乱入が合ったがそれが終わり、私達はもう一度向き合う。


少し談笑していると静かに襖が開いた。


どうやら椛がお茶を汲んできてくれた様ですね。多少は温度が低くなっていますが…まあ、それは私達の話を優先して待ってくれたせいでもありますししょうがないでしょう。

それに普段は哨戒時の時の姿しか見てませんでしたから、驚きましたよ。



「……ごゆっくりどうぞ」






なんだか椛の対応がよそよそしい。別に嫌悪している訳じゃなさそうだが、どうも落ち着いてない。


私に対してではないと思うのだが…万が一の為に、椛の仕草や目線の先を本人にバレない様に観察する。



最初に椛が見たのは私ではなく……父親ですかね?


…表情的に察すると…邪魔?ではなく…面倒?…居なくなって欲しい…まではいかずとも多少は嫌がった表情を見せてます。


思考はどうでしょう。

…ふむ、『父さんがいると居心地が悪いなぁ…。早くどっか行って欲しいのだけど…今は我慢。…だってさとりさんと父さんとの大事な話だから、邪魔しちゃ……』

…おっと、ここまでにしておきましょう。


どうやら、私が覚妖怪だからと言う訳ではなく…父である楓君の方が原因の様ですね。




これは…その、家族関係…と言うか、そう言う年頃なんでしょうね。…俗に言う『思春期』…なのでしょう。

こういう感情は、私にはわかりません。

別に親がいるからだとか、親になった経験があるからだとか…そう言うモノを含んだとしても、私には到底理解出来ないモノなんでしょうね。

判ったとしてもどうするべきなのかはなんて的確に言える筈も無いですし。

…まぁ、映姫さんや最近知り合った侑さんなら出来るでしょうけど、それはプライベートな問題なので私から口を出すのはやめておきましょう。



一応、楓君もその点は察している様ですけど、私と同じくどうしたらいいかわからない様ですし……



って…いやいや、楓君。苦笑いで済む話では無いんですよ?君は椛の父親なのでしょう?だったらちゃんと向き合って下さいって。


「椛?何してるのぉ~~??」


「こいしちゃん?!待ってよぉ~!」



不意に襖が開いてこいしが入ってくる。それに続いてエリスがこいしを追いかける様に入る。



一声掛けようかと思ったものの、それよりも早く椛の手を掴んだこいしはエリスと共に部屋の外へと駆け出して行ってしまう。


「エリスは子供だなぁ…。まぁ、悪いことではないんだけどさ」

遅れてその襖から幻月が呆れ笑いをしながら出てきた。



「お前達も大変なんだな」



「それはお互いでしょう?椛もああいう年頃なんですよ」


「私の場合、どっちかと言えば私に忠実な従者であって子供じゃないんだけどね…」



「ははは!確かにな…。…さてと、時に聞くが二人共。久しぶりに…一手指してみないか?」



そう言って、楓君は木の板を奥の押し入れから取り出してきた。

…見たところ長方形で碁盤の目のように線が彫られている。



「懲りないなぁ…楓。また、将棋?」


「…あぁ。前回の借りは此処で返す。…だが、その前にさとり。この将棋と言うモノを知っているか?」


「…え?まぁ、一応知識は有りますが…」


少ない娯楽のうちの一つなのだろうが、私で楓の望む相手になるのだろうか?

まぁ、それは向こうも百も承知の様ですしそこまで気にする事も無いですね。






「それなら、話は早い。…やるか?」


「…じゃあ、一局だけ」



「…実は、既に幻月と一局交えているのだ。…結果は私の敗北だったんだがな。…実に有意義な時間ではあったんだぞ。幻月の話によればこの将棋と言うモノは戦を盤面上に表したモノらしい。そして、戦況に応じて攻めに入るか守りに徹するかを瞬時に見極め、その都度切り替えなくてはいけない。…私達白狼天狗に取ってはこの将棋こそ遊びで戦略が広がる…まさに知識の宝庫と言っても過言ではないモノなんだ。前回は彼女の策に見事にハマリ逆転勝ちされてしまったんだがな…」


将棋の準備の最中、前回の将棋の結果とその様子を楓君が退屈しのぎに話してくれた。






ただ、その後一息つくのに数時間かかってしまい、気付けばこいしと椛、エリスが隣で対局を実況し始める事態となってしまった。


と言うかこいし……実況できてない。…ほとんどの解説を椛かエリスにやらせてますよね?



いつの間にか、お燐や夢月までいますね。…そう言えば、もうすぐ夕食の時間でしたっけ?神綺さんを心配させては行けませんので、そろそろ帰りましょうか。


因みに一局終わった後、幻月とも楓君は将棋をした。幻月が最初は優勢だったモノの、後半に行くにつれ徐々に楓君に押され始める。

…しかし、幻月は此処だと言うばかりに有るところに飛車を指すと一気に形勢が逆転。防御に転ずる得なくなり、最終的に72手で幻月がギリギリ勝利。楓君はそう言う使い方も合ったな。と呟き幻月の事を誉めていた。




少し経ち、盛り上がりが冷めた所で楓君が私に向き直る。


「本当に…眼を隠せば心が読めないのだな」


「あれ?信じて無かったんですか?」


「…まぁ、信じて無いと言えば嘘になるが…若干はさとりを信じていたのは事実だぞ。ただ、ブラフな動きをしているなとは思っていたな」


「つまり、信じられないと?」


まあ、信じろって方が無理ですよね。相手の心を読んでしまう、種族ゆえに相手を騙しているのではないかと疑われるのは当たり前…


もしかしたら、私も心を読めているのではないか…何処かでは思っていたでしょうね。…別にその考え自体は悪くは無いですよ。寧ろ、その姿勢の方がよっぽど自然で、この世では正しい動きなのですから。


「……すまない」



「別に気にしてませんよ。もう過ぎた事です。こんな扱いを受けるのは私に取っては日常茶飯事ですから。それに、私だって心を読んでいないと証明したいと思う時は有りますよ?…ですけど、そんな証を示すなんて当然無理に決まっているんです。…言葉で信じて貰う他無いじゃないですか」


ふと見れば、椛もバツが悪そうにしている。



でも、どうして判ったんですかね。


私は証明不能なこの問いに対しての答えは用意していないと思いますけど……



「さとりの駒の動かし方だよ。普段なら心を読んで先読みする行動が先程の一局だけ一切無かったからね」


成る程。幻月が言うなら一理ありますね。ですけど、それすらフェイクだったらどうするんですか?




「それを言い出したら終わらないだろ?それに…そんな巧妙な手を使うのならまず目に出るんだ」


本人曰くポーカーフェイスをしていても目の動きで大体分かってしまうんだとか。

幻月が言うにこれの総称を『コールドリーディング』と呼ぶらしい。相手への行動と洞察だけで大体の思考は分かってしまえるらしい。

私の場合は最初に合った時からずっと目で真偽を測っていたそうだ。

ついでに言えば、幻月の事も目の動きで真偽を測っていた様だが、私と違い楓君の行動は既に読まれていたらしく、初めて将棋を指した際に聞かれたんだとか。


ただ、その真相が本当か嘘かは私には判別出来ませんのでこれ以上追及しても無駄ですね。



「それに、心優しくて可愛いさとりがそんな事出来る筈無いだろう?」


か、可愛いって……楓君。……その、恥ずかしいです。


どんどんと私の顔が赤くなる。そんな私とは対称に『何で?』とはてなマークを浮かべる楓君。

「…す、凄い、これが、天然…」


「……楓君?…ちょっと、自覚を持とうかなぁ~?」


「ふひゃ~。無自覚で口説きをしちゃうなんてぇ…♪」


「父上……母上に報告しておきます」



も、椛…顔が怖いです。それに幻月も……



「……解せぬ」



「「解しなさい」」


「解しなよ」


「解す事です」


「解す事だね」


「解したまえ」





問答無用でその場にいた全員から冷たい眼を向けられる楓君。


『あれ?なんかやっちゃいましたぁ?』的な感じのノリで主人公補正がかかって、無自覚で女子を口説いて即刻惚れさせるなんて……今すぐにでも爆発してしまえっ!!


私はそう思いつつも椛達に見守られ、私達は帰路に帰ったのであった。

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