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東方 夢幻界郷  作者: 聖海龍・ラギアクルス
二章.新たな記録と歴史
20/34

017話 酒と肴と力の奔流

最近、暑いですよね。読者さんも熱中症には注意してくださいね?

そうそう。投稿ペースは一ヶ月にゼロ~二つペースで行います。

投稿しない月もあるので気長にお待ちください。


現在、私達の拠点は先程楓君が教えてくれたのを含めると三つあることになる。


一つは私と幻月が建てた二つ目の家だ。妖怪の山から人間の里やら空やらが一望出来る開けた場所に。その場所は土地的にも場所的にもとても楽であり、徒歩で歩けばすぐ人間の里に着くし、天狗の住む場所からもすぐに行ける距離にもある。また、他の拠点へもすぐ行ける中間の距離にあるのでだいたいは其処で暮らせる。其処は最近神綺さんが改装して新しくなったので出来れば其処で、住みたいところではありますが…。


…二つ目が人間の里の中にある拠点。そこは妖怪とバレなければ非常に暮らしやすいところである。が、私達の事情を知っているヒトなら察する事が出来ると思うけど、私達は二人だけじゃない。よって私達の誰ががしくじればそれが全体にも及んで最悪、私達の特定までされてしまう。たから、出来ればあの場所で暮らすのは避けたいところであるのだ。


…三つ目がご存知、楓くんが教えてくれた旧第一拠点。天狗の里が一番近い家である。またのなを、私達の最初の家である。景色は綺麗だし、不便ではないものの、その時は天狗に知らない人物がいると警戒された記憶がある。因みにその場所には月見酒が出来る絶好のスポットがあるのだ。…まぁ、彼処で楓君と出会えなければ今の私達が無いと言っても過言じゃないでしょうね。



その楓くんが教えてくれた家へいくのはもうかれこれで年単位が経過してしまっている。

人里(ようかいのさと)がどのように変わっているのか全くわからなく不安であったが、実際に行ってみれば大して変わったところもなく私の記憶とほぼ変わらない日常がそこにあった。


「変わりませんね…」

「なになに?変わってほしかったの?」


「ち、違いますよ!これは言葉のあやってヤツです」

「あぁ、そうだよね」


私の家も傷や屋根の劣化が進んでいるがあのときのままの状態で綺麗に残っていた。

これならすぐに生活出来そうだ。

…後で神綺さんやエリスさんを呼んでおきませんと。当分、あの家には帰られなさそうなので。


ルーミアさん自身は人里(ようかいのさと)には入れないので一旦お別れ。そのまま天狗の長と何やらお話に行ってしまった。何をしに行くのかはわからない。大方ここらで住まわしてくれとでも言いに行ったのだろうか。

「立派な家だねー」



「ま、外見は立派なだけ。…なんだよ。悲しい事にさ」


こいしも来たことですし色々と追加しないといけなかったりもするが、今はこのままでも良いだろう。

それに、幻月の言う通り外見だけは立派で中は大した事ないと言う見かけ倒しなんですよね。…後で本当に家具くらい神綺さんに造って貰わないとですね。

家の中は小さな灯りが点いている。…恐らくお燐でしょう。


「ただいま」

「久しぶりに帰ってきたよー。なんてね」




「お、お邪魔しま~す…」


やや立て付けが悪くなった扉を開けて中へと入る。私に続いて幻月、こいしと順に中へと入る。それを待っていたかのように扉がひとりでに閉まっていく。


「おかえりー。随分と遅かったじゃないか」


「…神綺さんなら心配は要らないよ。前もって此方に来てくれた様だから」


と後ろから声がする。

振り返ってみると其処にはお燐と夢月の二人が立っていた。


「う、うん?…そうなんだ。なら、手間が省けて助かったよ。…どうやって伝えたのかの理由は訊かないでおくよ」


「幻月様達、なにかあったんですか?此処まで来るのにそうかからない筈ですよね?」


私達より早く着いたであろうエリスは私達に疑問を投げ掛ける。


「よく判ったね。エリス。少々旧友と会っていてね」


「隠さなくとも良いんですよ。知っての通り楓くんの家へ行っておりましてね」


こいしのコートを回収して綺麗に折り畳む。

お燐が猫の状態になり私の頭の上に乗っかる。


全く、この子は……



「この家ってお姉ちゃんが建てたの?」


「えぇ。まぁ、苦労はしましたが私だけじゃないんです。幻月さんと初めて一緒に建てた思い出深い家なんですよ」


初めてこの家を建ててから暫くした後に二つ目に建てたあの家へと移動したので、実際に数年の月日が経っていると思うと感慨深い。

たた、その数年が経っているのにまるで数ヶ月経ったかの様に少しだけ綺麗な状態だった。

私は、埃が溜まっていると思って掃除を視野にいれて着いたら数日くらいは片付けに専念しようかとでも思ったが、意外と綺麗だった為すぐにでも此処で生活が可能であるようだ。


これも、萃香さん達のお陰だろう。後でお酒を買わないと……




『そうそう。言い忘れそうになったけど思い出したから伝えておくよ。さっきなんだけどピンクの髪をした優しそうな鬼のお姉さんが来て、記念だとかなんだとか言って筍をくれたんだよ』




ビンクの髪をした優しそうな鬼のお姉さんですか。

…茨木さんですね。十中八九。…というか名前位、覚えてあげましょうよ。難しい名前だとは思いますけど。


「…華扇ちゃんだよね。それ。…私達は会わなかったし、すれ違っちゃったか~」


多分、私達が戻ってきたのを聞きつけてすっ飛ばして来たんだろう。

私が台所へと行くと其処には取ったばかりで新鮮な筍が数本置いてあった。



筍ですか……。ある程度作ったら持っていってあげましょう。





「ねぇねぇお姉ちゃん。ひとつ聞いてもいい?」


筍を整理しているとこいしが私の服の裾を引っ張ってきた。


「ん?どうしたの?」



「鬼って、やっぱり怖かったり、乱暴だったりするの?」


一瞬だけ不安そうな目を向けてくる。

そういえば、鬼って言ったら人間の感性では恐怖と畏怖の対象でしたね。


「確かにね~?鬼って言葉だけで表すと確かに怖い印象が強いよ?…でも、実際に会ってみると意外と気さくだったり、優しいんだよ。…まぁ、悪い鬼も居るとは思うよ?けど、基本的に素直で良い人達だから。少なくとも私はそう思うよ」


こいしの質問に答える前に幻月が答える。…概ね私が言おうとしたことを殆んど言われちゃいましたが。

「…幻月の言った通りです。基本的には優しいです。…ある一面を除けば親しみやすいとは思います。鬼についてどう思っているのかは判りませんが」


私と幻月の返答にこいしは頷くもこいしは不安そうな顔をする。そんなに鬼って畏れられているんですね。

改めて思います。凄いですね。鬼って。




「…こほん。話は変わりますが此処に住むなら勿論、その鬼とは付き合う事になるんですよね。なので、此処へ戻ってきた挨拶を鬼達にもしてきます。お燐。お願いします」


『はいはーい。言われずとも判っているよー。じゃ、こいしと遊んでいるから、早めに帰ってきてねー』


「…。早くなるかは、鬼達の機嫌次第ですがね。ま、出来るだけ早く終わらせますから。…それじゃ、幻月、行きますよ。」


「…はぁ。…結局、行く羽目になるのかー。まぁ、しょうがないとしようかなぁ。…んじゃね~。夢月。こいしの事、頼むよ」


「判っているよ。姉さん。お燐と私とこいしの三人で遊ぶ事にするよ。…無理しないでね?」


「大丈夫。大丈夫だから。出来るだけ無理しない様にするから。…さとり。良いよ」


「…はい。…行ってきます」














天狗の里に向かう道中…




「そう言えば、勇義さん達って今何処にいるんでしょうか」


と、私はふと思ったことを口に出す。


「い、今それを言うの??」

若干、引いた表情をして幻月は顔を曇らせる。

大方、私が言ったことに対してでしょうけど、今の言い方だと誤解を招く表現でしたね。

それに、考え込む様子。

どうやら私の言った『今何処にいるか?』を『現在、何処に居るのか?』と勘違いしているようで。


「…あ、いえ。貴女が思っている事とは違いまして」


「…んん~???じゃ、何が違うの?」


「…いえいえ、そうではなく。…私の言いたい事は現在の話ではなく、普段。いつも、あの二人。…華扇さんと勇義さんは何をしているのかが気になったんです」


「…あぁ。成る程ね。わかった。わかった。…そゆこと。…続けて~」


「…話を戻しますよ。天狗の里には萃香さんしかいない事が多いというかなんというか…。普段、勇義さんと華扇さんの二人は何処で何をしているのかが気になったもので…」



「…ん~。確かに。気にしないではいたけど、気にはなるね」



幻月も疑問に思っていましたか。


同じく私もですが、普段どこでなにをしているのか…なんて全くもって知らなかった。

宴会でよく里の方にいるような気もしますが、ずっと里、なんてこともないでしょうし……

まぁ、どっちにしろ天狗の里に行けばわかること…だといいんですがね。








里の入り口に降り立ちフードを取る。フードをつけていた方が管の露見がしにくくなるのですが、被りっぱなしだと不信感を相手に与えてしまうし視界が制限される。…改善しないといけませんね。

もしかしたら、これを機に少しずつフードを使う機会が減るかもしれませんね。

……。

………………。

…初めてフードを使った時の事を思い出します。

あの時から今に至るまでずっと、幻月は私がフードを使っている時にたまに小さく呟くんです。


『誰もそんなことで嫌ったりしないのに…もう少し堂々としてくれればこっちも気が楽なんだけどな…』


その気持ちはありがたいですが、私はさとり妖怪。心に思ったことを無意識に読み取って知らずの内に口に出してしまう妖怪。…下手して相手の機嫌を損なう事なんて考えたくないんですよ。例えそれが、幻月でも。



…話を戻しましょう。


【天狗の里】…なんて言われていますが、実際は天狗以外にも色々な種族の妖怪がいる。


あそこで鬼と話しているのは河童だし、あっちには半獣の妖怪もいる。


なかなか賑わっていますね。

幻月もあまりのヒトの多さに目を奪われていますよ。中々みないモノではありますが。


妖怪の山に住むヒト達は出入り自由にしているのでしょうね。





お目当ての人物を探しながらウロウロしていると鴉が頭の上で旋回していることに気がついた。


幻月はというと、この賑わいだからなんとかとか言って、いつの間にか何処かへと行ってしまい久しぶりの一人行動である。


そんな私は、どこかの天狗の使い魔であろう鴉は私の視線に気付き、どこかへと飛んでいく。


その動きは私を誘っているのだろうか。少し進んでは私を待ち、追い付けばまた少し進んでは私を待つという繰り返しである。

幻月がいないからその思惑等がわからないが恐らく、悪意は無いとは…思う。

幻月は【そういう系の勘が鋭い】ので居てくれるだけで大助かりなのだが…。今になって初めて幻月が居てくれればな…と思ったりする。


…。

………そうか、【私】はもうそこまでになったんだ。

気付かない内に幻月に心を許していたんだ。

私の隣にいないと落ち着かない程に…。

『私は………事。いつの間にか……に…っていたのね』




私の中に生まれた初めての感覚。

その感覚を意識し始めてから十数分。無意識に鴉を追いかけ続けていた所唐突に鴉は高度を上げて何処かへと飛んでいってしまった。


その事に気が付き、私は今まで無意識状態だった私の体へ意識を戻した。

そして、視線を前に戻すと丁度目線の先に目的の一人である彼女がいた。







「よう、さとり。久しぶりじゃないか。…ん?いつもお前さんの隣にいる悪魔の娘…今日は見当たらないんだが?どうしたんだ?」




唐突に生えたような風貌を見せる、一つの岩場に乗って朱色の酒器を掲げた女性。


爽やかな風が吹き彼女の長い髪がふわりと舞う。


お酒の匂いに混じってほのかに香る桜の香り。


「久しぶりですね。勇義さん。…あの娘は来ていますよ。ですけどこの賑わいが、余程気になったようで…一言私に言い残した後、何処かに行きました。…今は行方不明とだけ言っておきます」



・・・・・・・・・・・・・・・・・


二つ名 妖怪の山の怪力乱神

名前 星熊勇義

能力 怪力乱神を持つ程度の能力


特殊能力 究極的直感(マスターセンス)

直感が計り知れない程に鋭い。幻月が元々持つ直感よりも遥かに上をいく直感を持ち、駆け引きでは誰にも負けない。また、相手の癖や行動等を素早く見極める事が可能である為、臨機応変に対応も可能である。


勇義のステータス


耐久力 SS-

筋力 SSS+

防御力 A-

魔力F-

速力 S-


・・・・・・・・・・・・・・






私自身、鬼とは接点が薄い気もしますが、なぜか向こうは私を覚えていることが多い。


…これは、余談ですが…私の偏見が強いよって幻月に何回も言われていたんです。まさかのルーミアさんも反論として『さとりの偏見が偏り過ぎているよ。普通は、貴女みたいな変わった妖怪の事なんて忘れる訳ないじゃない』と返されてしまいました。


常識が間違っているのって、私だけなんでしょうか??


まぁ、そんな感じに彼女も私の偏見の中の一人であった。

…私のなかでの鬼とは戦いに目がなく興味がなくなれば忘れる。…そんな感じでした。


…あ、いえ、別に悪いって言っている訳じゃない。寧ろ、覚えていてくれることはありがたいのだ。




「…そうか。そうか。アハハッ!!アイツも来ているのか。…こりゃ、肴を楽しむ前に面白い戦いも出来そうだね。…そう言えば、お前さん。…確か、都に行ったそうじゃないか?なんか酒の席で楽しめそうな話とか聞かせてくれよ」



「…。早速それですか。…相変わらずですね」


周りに気付かれない程度に小さく溜め息を吐いた。


鬼ってどうしてこう酒と一緒なんでしょうか。ただ単に私のタイミングが悪いせいなのでしょうか。

こうなるなら、私も幻月と一緒に回れば良かったのでしょうか?


「ハハッ!鬼から酒を取ったら、ただの暴れん坊しか残らないじゃないか」




「鬼である貴女がそれを言いますか?!…せめて、暴れん坊だけじゃなく、優しさ位も残ってて下さいよ」




「アハハ。そりゃ、確かに正論だな。さとり、そんなところで突っ立ってないでこっちこい。…立ち話もなんだ。私の隣へ座れ。…私の酒を注いでやるぞ。……ほら、飲めよ」



とヒトの意見も聞かずに話が進み、私の分のお酒が注がれた。




「…いやいや、飲めませんって。…私、前に言いましたよね?度数が高いお酒がダメだって。…勇義さんのそれ、既に度数が60入ってますよね!?そんなの無理なんですって…そもそもの話、勇義さん。もうそこまで酔っているんですか…早すぎです」





勇義さんはお酒にかなり強い。

度数が低いお酒では何杯飲んだ所で酔うなんてことはまずあり得ない。少なくとも度数は60を越えるお酒を酒樽10個積み上げて漸く、酔うか酔わないかの境界の淵に立つ位の酒豪である。

そして、勇義さんは相手の気持ちに寄り添う人柄な為、お酒に酔っていなければヒトに進めるなんて真似は絶対にしないのだ。

つまり、今の状態は既に相当酔っているという事になる。




「良いじゃねぇか!!馴染みなんだから」





これ、あれですね。

かなり厄介な事になってきましたよ。

このままいたら、強制的に酒を飲まされる羽目に…そしたらまた幻月にあのときのような醜態を……。


は、早めに退散することにしましょう。幻月を見つけ次第、即刻退散です。えぇ。それが一番です。


周りにいた天狗達がざわつき始めた。


そりゃ、何処と無く現れた10代前半の少女が山を取り仕切っている長と親しい仲のように話しているのだから。



「ところで、茨木さんと萃香さんは?」


「茨木は多分…あっち。そうそう茨木…じゃなくて、ちゃんと華扇とでも呼んでやれ。その方がアイツの気が休まるだろう。んで、萃香の奴は…大江山に戻っているよ。…驚くだろうな…お前さんが帰ってきてる。な~んて事を知ったら……」




・・・・・・・・・・・・・・・

【さとりの妄想の中の萃香の言葉】


「おいおい、さとり。帰って来ていたなんて…馴染みなのに付き合い悪いぞぉ~??…んじゃ、此処へ戻ってきた記念に一つ…。私なりのもてなしだ。勿論、喧嘩さ。…さぁ、手加減してやるから本気で私を楽しませてくれよ」


・・・・・・・・・・・・・・・・


…………。

秒速で喧嘩しようぜと言ってくる未来しか見えないのですが…こればかりは苦笑せざる得ない。


茨木さんの所にでも行くとしよう。

勇義さんの指を指した方向に向かって歩き出そうとす……



「おいおい、待てよ」



突然の勇義さんの制止の言葉で私は足を止める。…いや、止めないと命の危険があったからだ。


それほどまでに私へ向けられる殺気が凄まじかった。

首に冷たいモノが当てられた時と同じ感覚が脊髄に伝わる。



「華扇の奴に行く前に一つ。私と勝負…といこうじゃないか」





「……そう言えば、貴方とは一度も拳を交えた事が無かったですね」



……する気が無いんですけど。

私は、取り敢えずの言葉を相手に返した。

…しかし、その言葉がすぐに後悔するモノになるのだった。


「…良いねぇ、良いねぇ!!ノリが良いねぇ!!…私も久しぶりに滾ってきたよ。やろうか?今すぐやろうか?!」



予想を大きく外れて先程と比べてやる気に!?

ねぇ~!!なんでこう鬼ってバトルジャンキーなの~?!私は平穏に暮らせればいいなぁ~程度にしか思っていません!それに私は強くない!強くないんですから!!絶対に望むような戦いは起きませんって!!それにこういうのなら幻月にしてください!

…て、今いないんだった。

あぁー!もう、私のバカ!!どうもこう上手くいかないんですかねぇ!!?




私は恐る恐るながら勇義さんにある提案をする。


「…えっと、茨…いえ、華扇さんに挨拶してからじゃダメですか?」



「なんだい?なんだい??私との勝負を放棄して逃げるって言うのかい!?」



勇義さんの大きな声が響き渡る。

周りにいた天狗や河童が後退していく。此処からは本気でやればいいんでしょうね。



「逃げれたら逃げますよ。そもそも、私は妖怪の中でも弱い部類に入るんですから」

…正直勝てる筈もありませんし。

そもそも、私は戦いたくないです。

なのでこの場所から、本気で逃げようと思いますが。




フードを深くかぶる。


踵を返しその場から立ち去ろうとした瞬間、理解するよりも早く私の体が回転していた。


すぐ目の前を青みがかった球体が通り過ぎていくのがブレながら映る。


「……あのですね。私の一瞬の隙を狙うなんて…ズルくないですか?」



「…私のアレを避けておいて自分は弱いです。なんて、言えないんじゃないのか?」



どうやら逃がしてくれないようだ。


勇義さんの姿が視界から消えかける。動体視力が追い付かないみたいだ。


すぐ真横で殺気。…反射的に身をよじらせる。


「お前さんの勝利条件は私が持っている杯を落とすこと。そして、私の勝利条件はお前さんが動けなくなるまで徹底的に潰すこと。ホラ、簡単だろ?」


「いやいや、勝利条件なんて、聞いてませんしそもそも、あなたの勝利条件、もはや私を殺めようとしてますよね!?それは!!」


こうして話している一瞬で私の体があった空間を膝蹴りが通りすぎていく。


そのルールは鬼しか無理ですって。

他の妖怪からすれば、確実に死にますって!!


-ブンッ!!

と安心して雑念を抱いているような暇はない。すぐに拳程の結界を、顔の前に展開。


―カシャリンッ!!

直後にものすごい質量がぶつかる音がして結界が砕け散る。

一歩遅ければ、勇義さんの拳を顔面に食らうところでした。



何もない空間を蹴飛ばし勇義さんとの距離を取る。

すぐに詰められる距離ではないと考えたのか盃を片手に勇義さんが弾幕を放つ。


「鬼符『怪力乱神』っ!」

「スペルカード宣言?!」


相手に反撃の隙を与えない連続攻撃、しかも中近距離を素早く切り替えて攻撃をしてくる。…流石、鬼の四天王。普通に戦っても勝てない。

さらには相手はスペルカード宣言をした。この時点で私の勝利は無くなってしまった。真正面から正直に行ったら本当に死にます。

幻月なら互角に戦えそうな気もしますけどね。


私は弾幕を回避しながら策を練る。良くて引き分けってところでしょうか。あまり体に無理をさせることは出来ませんし。…まぁ、多少の傷ならどうにでもなるからいいや。


お返しとばかりに妖力弾をいくつか撃ち出す。一発一発の威力はかなり低い。


だが、簡易的な誘導が行えるようにはなっている。




「ッチィ…」




誘導弾だと気付いた勇義さんは攻撃を中断して回避に専念する。

高度な誘導は出来ないので割と簡単に避けられてしまった。

そのままぶん殴って衝撃を与えてくれれば良かったのですけれども。そしたら、スタングレネード…。日本語訳すると感光爆弾。ようは目眩ましさせることが出来たのに…


地面を思い切り蹴飛ばし一気に加速。勇義さんの懐に突っ込む。


刹那、右腕が持ってかれそうな感覚に陥る。


弾幕のせいで姿勢が安定しない状態にもかかわらず勇義さんは、拳を出してきたようだ。


回避は出来たものの右腕に当たった様だ。一瞬にして感覚が消え去る。


まあ、構う時間も無いのでそのまま勇義さんに向けて蹴りを敢行。




「…へぇ?!…少しは頭が回る様だな?…ハハッ!面白いっ!この私を相手にこれだけやるのに…よくもまぁ、そんなに弱い弱いと言える。お前さんのその根性だけは凄く気に入ったよっ!!…ホラッ、ありがたく受け取りなっ!」


私の蹴りは勇義さんの左腕によって軽々と弾かれた。


まるで鉄の塊を蹴ったみたいに右足が痺れる。


さっきの私の蹴りのお返しとばかりに二段蹴りが飛んでくる。


体をエルロンロールの要領で回し緊急回避。私の紫の髪の毛が数本空中に舞う。


「お褒めにあずかり光栄ですどうも!」


こう私は返したのだが実際は心底怖かった。

だってですよ?


このヒト、私の頭を平然と狙って蹴りを入れてきたんですよ!?本当に殺そうとしてますからね!?


その蹴りを避けた時に遅れて衝撃波が飛んできて体を揺さぶられる。


その隙を逃さずに私はほぼゼロ距離で妖弾を発射。


数発は勇義さんの足元や肩に着弾。





「良いねぇ!その返しを待っていたんだよ!!やられるがままの状態で仕留めるのは流石の私でもしてはいけない禁忌の一つだったからさ。…ホラ!もっと激しいのでも構わないさ。どんどん来なっ!!」



「どんどん……って、そんなに私には余裕が無いんですけどぉ!?」


「…へぇ?そうかい。そうかい。…なら、コイツで終いになるか…。お前のことを試してやる。…耐え抜いて見せろっ!…四天王奥義『三歩必殺』!!」


あまり聞いていないそぶりで勇義さんは、私の言葉を鵜呑みにしようとせず笑い飛ばす。

…途端に勇義さんはスペルカード宣言をした。


同時に何かの構えを取る。

刹那、溢れ出ていた妖気の量が爆発的に増加したのであった。



・・・・・・・・・・・・・・


「やっほー。幻月だよ~♪今日は、君達に現在さとり達が暮らす世界における勇義のスペルの一つ。四天王奥義、三歩必殺の脅威について少し教えるよ♪皆、ちゃんとついてきてね?」


・・・・・・・・・・・・・


【講座その1 スペルとは?】



「さて、まずは四天王奥義の話からではなく皆も知っている初歩の初歩【スペルカード】とその【宣言】についてだよ」



「こほん。まずはスペルカード。縮めてスペルと皆が読んでいる奴について」


「スペルとは、簡単に言っちゃえば名付けたヒトだけが使える必殺技みたいなモノだよ」


「そうそう。スペル『カード』って言う理由も教えるね。」


「なんでそういうかと言うと基本的なスペルカードって言うのは、◯符『◯◯◯◯』と言われているんだよ。符って聞くと『お札』って印象が思い浮かぶよね?そうすると必然的にそれがカードというイメージに繋がる訳だね」


「さて、その概念がわかった所で話を戻すよ?」


「例えば作ったスペルを『A』とするならその『A』は本人しか使えないし使いこなせない。…まぁ、理由はもっと簡単で、作った本人しか作り出せない攻撃しか含まれてないからだよ」


「…だって、ほら魔法使いが作った必殺技を剣士が再現するのなんてそもそもの理論で無理じゃない?」


「…え?同じ魔法使いなら大丈夫じゃないか?…って?う~ん。可能といえば可能だけど…そういう次元ではないんだよね…」


「…何が言いたいのかと言うとスペルは必殺技ではあるけど真似できる次元に存在してないって事だよ」


「君達の言いたいことも一理あるけど、ひとまずはおいておいて、次だよ」


・・・・・・・・・・・・・・・


【講座その2 宣言とは?】


「次が宣言。簡単に言えば、これからこういう必殺技を使いますよ~!って予め予告しておくことだね」



「ここで重要なのが、宣言した必殺技の名前を連想出来そうな攻撃を使うこと。そして、その後に出す技は必ず決まった形の攻撃にしないといけない。…以上の二つがないとスペルカードとは呼べないんだよ」



「そして、さっきおいておいたあの疑問もこれで判るでしょ~?うん。そうだよ。上の重要なことの一つの技を使う時は必ず決まった形の攻撃にしないといけないが引っ掛かるんだよ」



「誰が使うにしろその本人だけが持つ技の癖すらも完璧に真似ることが出来ないと使えない。それがスペルカード。スペルって言うものだよ」


【以上の二つのまとめ】


「……まぁ、作品によるけどね?そういうものは。早い話、この世界ではこういうルールが基本だから覚えてね?」


「…一つ、スペルは、基本的に作った本人しか使えない。二つ、スペル攻撃をする際はどんな状況であれ決まった形の攻撃をする事。3つ、その必殺技の名前だけである程度は連想出来る攻撃をしないといけないこと。」


・・・・・・・・・・・・・・


「さぁて、君達おまちかねの講座だよ。四天王奥義、三歩必殺についてだ~♪」


・・・・・・・・・・・・・



【講座その3 三歩必殺について】



「星熊勇義の必殺スペル、四天王奥義の三歩必殺は名前通りの攻撃だよ」


「相手へと素早く近付いてから大きく踏み出して一歩、二歩と差し迫り三歩目で渾身の一撃を相手の懐へと叩き込む大技だよ」


「この技は以前、私と萃香が戦ったときに萃香が使っていた奥義と似ているかなぁ。……まぁ、本家はこっちだから間違えないでね?」



「本家のこの技の特徴は、相手を逃がさない為に、目にも留まらない速さで相手の懐へと踏み込み素早く相手を殴り飛ばす事だけだよ」




「その速さは音も光も、更には存在すらも置いていく程である為、回避出来るヒトなんて殆んどいないんだってさ。…ま、私は回避できちゃったんだけどね?」


「目に見えないから三歩って呼べないらしいんだけど、『私からみて』ちゃんと、『三歩』踏み込んだ上に攻撃をしているからスペルルールには引っ掛からない訳なんだよ」


「と言うことで、即席のスペルカードとその宣言、そして勇義が使う三歩必殺についての講座でした~♪」


「では、続きをお楽しみくださいな~」



・・・・・・・・・・・・・・・



……このスペル、かなり危険だ。



本能的にも幻月から聞いた勇義さんのスペルの強さを思い出すにしても二重にヤバイと感じとり、素早く勇義さんから離れた。


「隙だらけだよっ!!」

意識せずとも私の体勢が大きく崩れる。その隙を逃す勇義さんではない。

「…っ!」

私は、その行動に対応しようとするも、そうはさせまいと勇義さんは素早く私の懐へと迫り、あっという間にねじ伏せられ地面に叩きつけられた。


「―なっ?!…がはっ!」


肺に入っていた空気が叩き出され、呼吸困難に陥る。

視界右側に拳が迫っているのが一瞬見える。結界が間に合い直撃は避けられた。


だが、衝撃波までは防ぎきれず肋骨にヒビが入る。さらに二発目が飛んでくる。


「…くっ。仕方ありません…ねっ!!」



結界では間に合わない。そう判断した私はとっさに脚を折り曲げ真上に足の裏を晒す。


バゴーンッ!!


「…なっ!?コイツぁ…?!」


轟音の様な音と共に衝撃波があたりの木を揺さぶり折り曲げた膝が圧壊しそうな音をあげる。


まさか足で拳を受け止めるだなんて予想外だったのだろう。彼女に動揺が走る。


「今っ!」


すぐに腕を振り上げ地面を転がるようにして離脱。勇義さんと真正面から向かい合う。



「さっきのは驚いた。まさか私の拳を脚で受け止められる日がくるとはねぇ…にしてもあれでも全力で殴った筈だったつもりだったんだが…?…ハハッ!楽しませてくれるじゃないか」



心の底から楽しんでいるのだろう。満面の笑みを浮かべている。


少しだけ時間が稼げそうなので今のうちに腕の再生度合いを見る。



表面の傷はまだ残っているが砕けた骨などは既に修復済みである。もう少しすれば戦闘でも使えるようになるだろう。



「……あのですねえ」


「…ん?…本来、勝負中は敵の言葉には耳を傾けないようにしているんだ。だが、先程の行動は私の予想を遥かに越えたお陰で久々に楽しめそうだ。だから少しだけお前の話を聞いてやる」




「…貴方、私を殺そうとしてますよね?…そこのところどうなんです??」



「…まさか。そんな事なんて一つも思っていないよ。…お前さんが持つ力があるなら私の手加減なんて不要だろう?…ようは私が大丈夫だと、そう思ったからこうしているだけだよ」


「…そんな、適当な事」


「私達、鬼の直感はよく当たる。特に私は他のよりも数段格上だよ。必ずと言っても過言じゃない。それに、もし適当抜かしているのなら、私は相手を全力で殴ったりなんてしないよ」



「…ホントなんですか?それ」



私が次の言葉を言おうと口を開くが、それよりも早く勇義さんがこれ以上の問答は不要とばかりに間合いを詰めてきた。

「なっ?!話はまだ……あぁもぅっ!!」


とっさに腕をクロスさせ妖力を回して強化防御姿勢を取る。



「っオラァ!!」



ほぼ同時にクロスさせた腕が殴りつけられる。急所への直撃は回避できたものの間髪入れずに二発目が腕にぶつかる。防げても衝撃を完全に殺すことはできない。

「くっ。かはぁっ!?」


私の身体は強力な運動エネルギーを受けて軽々と後ろに吹き飛んだ。


だが、吹き飛ばされたエネルギーを利用し、すぐに空中に飛び上がる。間髪いれずに後ろから弾幕の嵐そして殺気の塊が追いかけてくる。正直言って目を離さなければ良かったと思う。


弾幕を展開、追ってくる勇義さんの動きを制限させる。私は妖力量が少ない。なので普通の弾幕と言うより殺傷能力ゼロの……当たった所で痛くない、泡が弾けた程度のモノを発射している。


なのであれの突破口は簡単。自らぶつかっていけばいいのだ。


まぁ、常識的に考えてみんなアレを避けたがるんですけどね?

幻月はその強さを軸に普通に強行突破してくるので、私の戦略は通用しないんですけど……。


ただ、私の攻撃は泡程度だろうが盃をひっくり返せる程の威力は持っているので当たったら盃が無事なのかは定かではありませんが。



卑怯だとかなんだとか言われるかもしれませんし現に今だって、下にいるヒト達からは卑怯だって言っているヒトもいますしね。

ですけど、私は鬼じゃないですし、戦闘狂の幻月でもなし。

そもそも勇義さんとは正々堂々と戦う気なんて元からありませんよ。


私の貧弱な身体であの強者の鑑と言われている勇義さんに正面から打ち勝てと?無理無理!だってそれこそ生身でVF-31と戦うようなモノですから。


例えが判り辛い?そうですね。想像しやすいようにしますと…生身で貨物列車に突っ込んで止めようとするようなモノですね。


身近にあるもので例えるなら、蟻一匹が生身の人間に立ち向かって倒す…。


簡単に言って絶望的に正面からではまず打ち勝てないモノなのです。


今の状況にて勝つ方法を挙げるならば卑怯な戦法で賢く勝つ。


生身で貨物列車に突っ込むよりは色々な物を使って、効率的に止める。


蟻が一匹よりも複数、いえ何千、何万、何十万もの大群で攻めれば生身の人間なんて手も足も出ずに倒せる。


そんな感じです。




ある程度は距離を取った所で反転、上下がひっくり返り頭が真下を向く。体に過重がかかり息苦しい状態がしばらく続く。



反転して突っ込んでくる私をみて迎え撃とうと勇義さんも突っ込んでくる。


思いっきり地面を蹴飛ばしてジャンプしたせいか地面が陥没してる。あれを直すのはどうやって直すのだろうか…?


兎に角、妖弾を連射しまくる。私の間合いに入るまでは攻撃はさせない方針で。…ついでに盃に掠ってくれないかなぁ…。



まぁ、そんな都合のいいことは起きず私と勇義さんの距離は一気に縮まる。


回復したばかりの右手に妖力を込める。




勇義さんの右腕が視界から消える。だが焦る必要はない。五感など元から頼りにしていない。



ほぼ勘任せで右腕を振りかざす。




肉体同士がぶつかる鈍い音がする。同時に身体中を揺さぶるような衝撃に揉まれる。


右腕の骨が縦に潰れるような感覚が走る。


ようやく追い付いた視界には、私の拳と勇義さんの拳がぶつかりあい、私の細い腕が割れるように血を流していた。





幻月からも心配されていた右腕を…。

折角治った筈の右腕をまた壊してしまうとは…




体の力を抜いて自由落下に移る。私の力が抜けたのをみて勇義さんもゆっくりと地面へ降りる。


さっきの衝撃で盃の酒は半分以上は溢れているようだ。でもまぁ、勇義さんの言った条件には全く達していないので負けではあるんがね。


「……やっぱり敵わなかったですね。…はい、降参です」


だがこれ以上続けられても私が不利になるだけだ。それに私はそこまで戦勝ちにこだわっていない。



「なんだ?もうなのかい?張り合いがないねぇ…」



「いやいや、無理矢理に戦いに持ち込んだのは何処の誰なんですか??…少なくとも私は拒否しましたからね!!それだけは言っておきます」



私の唐突な降参にいつの間にか集まっていたギャラリー達も不満の声が上がる。


「…それよりも、天狗さん達はいつの間に集まったんですか?」


少なくとも私達の戦いに巻き込まれないように遠くからみていた奴らとは違い完全に観戦モードになっていた数人に声をかける。



「勇義の姉御が戦いを始めるあたりから!」


「出来れば幻月の奴も来ていればより激しい戦いがみられたのですが…」


「私は勇義の姉御と幻月の奴が来るかもしれないと期待を寄せてみていました!」


殆んど最初ならじゃないですか…


と言うより、私より幻月の事をみたいってヒトが大半ですよね。

どこで隠れてみていたんだか…



「ちぃ。んじゃ、引き分けだなあ。この勝負」




「なんでです?私は完全に負けですよ?少なくど勇義さんの提示した条件には満たされている気もしますが?」



「アハハッ!馬鹿言うんじゃないよ。あれはあくまでもとっさにおける例えだよ。残念ながら私もお前さんも、勝利条件を満たすことが出来なかったからな」



そういえば勇義さんの勝利条件ってなんだったのでしょうか?あらかた戦って叩き潰すだった筈でしょうに。



時間にして数分くらいしか戦っていないが物凄く疲れた。

今頃、幻月はなにをしているのでしょうか?

屋台を見回って美味しいものを食べ歩きしているのでしょうか?

もし、そうだったら本当に羨ましい限りです。

後で幻月にここの屋台の道案内をお願いしましょうか。

私のこの腕も使い物にならないし…。

まぁ、幻月待ちも兼ねて一旦休むかとその場に腰を下ろす。




と、私が腰を下ろした時周りに集まっていた天狗達がまたガヤガヤしだす。

はぁ、聞いているだけでも今の私は疲れる。


さっさと解散してどっかに行ってほしいのですけど…疲れすぎていて追っ払う気もおきない。








「お疲れ様」


「さとり!ナイスファイトだったよ~っ♪」



私の前に、人影が二つ現れる。一つはいつも一緒にいたから判る。二枚の白い翼と薄いピンク色をしたワンピースの服をきた少女の幻月。


もうひとつは、みたことある服装をしており聞いたことある優しくも少し冷たい声。同時に私の首根っこを掴まれて持ち上げられる。




「幻月に、茨…華扇さん。お久しぶりです」




持ち上げられてちょうどの高さの一致した顔に、微笑みを浮かべた茨木華扇さんが映る。



・・・・・・・・・・・・・


二つ名 茨木童子

名前 茨木華扇

能力 霧を操る程度の能力

特殊能力

身体の部位を変化させる能力

部位毎に分けて変化させることが可能。変化出来るモノは多種多様でありそれを用いて攻撃に転用したり防御に徹したり等、色々と出来る様である。ただし、変化出来るとしても一つの部位が限界である為、万能であって万能でないとか言われているそうだ。



華扇のステータス


耐久力 A+

筋力 SS+

防御力 A-

魔力 A

速力 SS


・・・・・・・・・・・・・



「やっぱり隠したままなのね?」



「まぁ、言うべきものでもないですから」



「それはそうとして、さとり?また無理しちゃったんだね?…でも、今回は私が側にいてあげられなかった私の落ち度でもあるから…」


「幻月のことはどうでも良いわ。そんな事よりも、また、やってしまったわねぇ?見ていて痛々しいわ」



垂れ下がった右腕を見ながら茨木さんが呟く。痛々しい?放っておけば治るのに痛々しいなんて感情起こるわけないじゃないですか。



「放っておいても治るので…大丈夫です。それで、貴女は何の用です?勇義さんみたく戦えだったらお断りですよ」


一瞬、幻月の視線が此方に鋭く刺さったのを感じて幻月の方を向く。

すると、此方に視線が向いたのを感じたのか幻月は、はぁ。と溜め息を一つ吐き此方と目を合わせない様に視線を外した。

何を思ったのでしょうか?

だけど、今はそんなことは気にしていられない。

華扇さんは、此方の様子を見てから一呼吸おいて口を開く。

「な訳無いでしょう?私は知り合いが戻ってきたから一緒に飲みたいだけよ。あの鬼みたいに扱わないでくれる?」


「…まぁ、そっちにその気があるのなら喜んで相手をするけど…?でも、その傷の具合と貴女の性格上戦えって言われて戦わない主義なんでしょう」


「おっしゃるとおり、よくお分かりで。戦えはしませんが、せめて華扇さんのお酒の付き合いはしますよ」



「おいおい、私は駄目でなんで華扇だけ酒を飲もうとするんだ?ズルいぞ?私も混ぜろ!」


「あんたは少し強引過ぎるのよ!それにさっきまでずっも飲んでいたでしょうがっ!?」


「それはそれでそれはこれだぞ?」


「この状況で今使う言葉じゃないわよっ!!」



話においていかれている幻月を横目に私はこう思った。



全く。私が思う以上に…変わらないモノですね。













「ここが天狗の里か~♪なんか、凄いね♪」


「くれぐれも暴れたり正体が露見するような事がないようにしてくださいよ?今回、夢月とエリスにも同行してもらっているんですから!」


「私達の事はお気になさらずに。そうでなくとも結構目立つ格好をしているんですから。特にエリスは」


「…私、今からでも帰って待っていようかなぁ…。でも心配だし…」


「……心にもないことを言ったわ。ごめん」


「え?ううん。気にしないでよ。気にしてないから」


「あ、そう?ならそうするわね」


「お二人共、静かに!私達の格好を含めてかなり目立つのにこれ以上、騒がれたらもう色々と面倒なんですよ…」


「ごめんなさい」


「すみません」


「兎に角、こいし?目立つようなことはしないでくださいよ?」




結局、好奇心に負けたこいしはお燐、それに同行した夢月とエリスと一緒にこっそりと姉達の後をついてきていたようだ。


人間だった時にみた建物とは全く違う作りの家や役人所。


背中に羽を生やしオーラだかなんだかよくわからないモノを感じさせるヒト達。


全てが彼女にとっては新鮮なモノだった。




「判っているよ。お燐に夢月お姉ちゃんにエリスお姉ちゃん。ホント心配性だなぁ…」


「そりゃ、さとりがあれだけ無茶したり、突発的な事をしでかしたりと危なっかしくて見てられないからね」


「それに関しては私達も同意です。姉さんは言っても訊かない傍若無人な方ですので」


「うんうん。空気が読めないって言うか…肝心なところで鈍感なんだよね…あのヒトは…。でも、そこが私達が惹かれるポイントでもあるんですよ」



こいしの護衛を名目についてきたお燐。だが彼女自身も里までは入ったことはなく、天狗がたくさんいるこの状況に戸惑いかけている。

夢月は華扇の家て修行を積むために何度か訪れている経験があるためなにも動じないが、エリスは、この状況すら初めてで、何故か夢月の裾を子供っぽく掴み始めた。


「ちょっ??エリス?流石に歩きづらいんだけど?」


「ご、ごめんなさい。ですけど、ちょっとこの状況に慣れていなくて…」


「…そう。なら、好きなだけ掴んでいなさい。くれぐれもはぐれない様にね?」


「…不甲斐なくてすみません」


「……良いのよ。それよりも…」


「ねぇねぇ、お姉ちゃんは何処にいるのかなぁ…?」


「そうだねぇ…多分、茨木って言う鬼の所へ行っているんじゃないかい?」



「へぇー……お、鬼のところかぁー」



一瞬だけ、こいしの表情が曇ったのをお燐は見逃さない。


こいし自身、鬼というモノがどういうものか全く判らない。ただ、よく言われていたのがかなり危なくて危険な存在だという事。今になっては偏見に過ぎないのだろうが、こいしにとってはその偏見を直すための経験をしてきていないので不安の塊であったのだった。



そんな心中を察したお燐は静かにこいしの手を握る。


「……ぇ?…ど、どうしたの?お燐?」


すると、合いの手をかけるようにエリスが口を開いた。


「…手を繋ごうって言っているんだよ?…ねっ♪」


エリスはこいしに微笑みをかけた。

お燐は、それに頷きを返す。

するととたんにこいしは笑顔に変わった。周りが妖怪ばかりで怖かったのだろう。


向けられた純粋な笑顔にお燐の心は跳ね上がる。どうして跳ね上がったのかはわからない。だが、さとりか幻月あたりなら近くにいたのですぐに原因が分かるだろう。




因みに私ことエリスなんですが、その笑顔の後に何故か体が動かなかったんです。

夢月がこいしとお燐の二人を制止させまして、暫くの間私が目覚めるまでずっと呼び掛けていたらしいんです。


ホントお恥ずかしい限りなんですけど。


なので読者さん達?さとりさんと幻月様のお二人には絶対に内緒ですからね?約束ですよ?

こっそりとメッセージにばらしたら色々と不味いので…!!




そんなことはひとまずおいておいて、暫く四人で歩いていると何やら妖怪達が集まっている一角が目に入る。


遠目に見ているとどうやら鬼と余所者の妖怪が戦っているのだとか?余所者と聞いて心当たりがあった四人はその集団の中に入り込む。


「あれが…お姉ちゃん?」


「んひゃああ……!?物凄いスピードで戦っていますうぅ~?!」


かなり離れた位置で戦っているようだがその特徴的な髪の色は此処からでもはっきりと見えた。


「エリスの気持ちも判るよ。あたいも本格的に戦っているさとりは初めてみるかなぁ…」


鬼と互角な事に驚きを隠せない三人。夢月の方は、ふぅんと一言洩らし呟いていた。


それもその筈、何たって相手は鬼の四天王と呼ばれる代表格の一人。恐れ抱く存在であるからだ。

実際に見ると本当にヤバいのだが…



「って言うか、鬼に会いに行くとか言っていたよね?」


「鬼に会いに行くってやっぱり戦うって事なんだねぇ。さとりったらそんなに戦うのが好きだったんですか?」



あらぬ誤解だった。


しかし、その発言に反応したのが一人いた。


「……そんな訳無いでしょう?あれは恐らく巻き込まれた感じですね。見えないと思いますけど、あの顔は嫌悪している表情ですので、好き好んで戦っていませんね」


「…え。そうなのかい?となるとなんで…?」


「無理矢理…じゃないです?鬼の皆さんは優しいですが少し喧嘩好きな訳なので…さとりさんの事です。概ね、多分、逃げようとして鬼のヒトから喧嘩を仕掛けられてそれに応戦した発展した感じじゃないですか?」


「ふぅん。つまり、お姉ちゃんは好きで戦っていないわけなのね?あくまで正当防衛なんだ…。大丈夫かなぁ…」


こいしは再び不安な表情になった。


「…大丈夫ですって。こいしちゃんのお姉さんは必ず生きて帰って来ますから」


エリスは不安がるこいしに声をかけた。


「う、うん。……ありがとう。エリスお姉ちゃん…」



一瞬だがこいしに笑顔が戻った気がした。





一方で姉対鬼の戦いは過激を極めつつあった。


不意に視界がぶれた。こいしは目にゴミでも入ってしまったかと思ったが違うようだ。どこかに行ってしまった姉と鬼を探してキョロキョロと辺りを見渡す。


「え。…あれ?…いない?…ううん。いる。…でも、あれれ?」


「…こいしちゃん?もしかして見えないの?」


「え、あ、うん。なんでだろうね…?」


「…それは、二人が物凄いスピードで戦っているからだよ。…見えなくて当然ね」



夢月に言われた事を踏まえてこいしはもう一度目で追おうとする。するとさっきよりはマシになり時々、金髪の様なモノとさとりの紫がかった色がなんとなく打ち合っているのが分かるようになった。が、未だに本人達を捉えることが出来なかった。




「凄い…すごいぃ…追いきれない…!!」


ふと、こいしは周りがどうなっているのかが気になり周囲を見渡した。

周りの妖怪達もさとりと勇義の戦闘をしっかりと見ることは出来ていないようだ。


「エリスお姉ちゃんや夢月お姉ちゃんは見ることが出来ているみたいだけど…お燐は?お燐はどうなの?ちゃんと見れてる??」


「い、いや~。そんな期待の眼差しされても困りますよ…。あたいだってこいしと同じくみえないんですから…」


「そ、そうなのね……(よ、よかったぁ…私だけ見えてなかったら仲間外れみたいで悲しかったから…)」




落胆半分、安堵半分の返答を返したこいしだった。


正直、お燐も気分がハイになっているならば見れたのかもしれないが、お燐自身がハイになる事なんて滅多な事が起きない限り絶対にあり得ない。せいぜいが燃えるシチュエーションでの戦闘くらいであろう。



その後も戦っていたようだが遂に決着がついたようだ。


二人が地面へと降り立つ。


すぐ近くまで寄っていた天狗達が騒ぎだし、それにつられて周りの妖怪も歓声をあげたりしている。


「終わったのかなぁ…?」


「そのようですね。なにやらパッとしない終わりかたではありましたけど」


「それにしても、さとりさんは頑張っていましたね~。結果はあれですけどかなりの短い時間で手の込んだ策略を見せていましたし」


そんな会話をする四人の前を一瞬なにかが二つ、通り過ぎた。


こいしだけは気付かなかったが他の三人は、隣を横切る妖気をしっかりと確認していた。


それもその筈。つい数時間前にも感じたモノと全く同じ妖気だったからだ。また、もう一つは二人には馴染みある幻月の妖気であったからだ。寧ろ気づかない方が無理な話だ。



「あ……淫乱ピンク」



「こいし!?何を言っているんだい?!」


「た、確かにそう呼ばれる事もありますけど…!?」


「エリスはなに納得しているの?!早く訂正しなさい!」

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