016話 新たに吹く風
残っていた夏の気配も何処かに消え秋の到来を告げるかのように木々が色づき始めた。
まだ若々しい緑を残した葉と黄色に混ざっている葉の混ざり具合が丁度良い。
「ね、ねぇねぇ。…あれで良かったの?」
「…良かったとは?」
景色を見ながらゆっくりと歩いていると横にならんでいるこいしが少し不満そうに聞いてくる。
「家だよ家っ!!燃やしちゃって良かったの?」
ああ、里近くにあったあの家ですか。
「良いんですよ。どうせもう使いませんしね。妖怪の山付近に建ててある、あれこそ私達の家ですからね」
「そうなんだね…。所で、昨日の夜天狗さんが言っていた鬼さんってどんな人たちなの??」
こいしが興味無さげに嘆いた。
あの家は万が一、身の危険を感じた際の臨時の為の家。いわば仮拠点みたいなものです。あのまま放置していたら陰陽師に見つかってそれこそ私達はおしまいです。
…もちろん、その家が原因で山火事とか起きないように火の後始末はしておきましたよ。
今、私達はその家を燃やすためだけに人里近くまで降りただけで、そのあとは徒歩での帰っている途中なんです。
数時間前に家を燃やした後、ほぼずっと歩きっぱなしだ。
お燐とルーミアさんは先に飛んで先へ行ったものの、こいしはまだ上手く飛べないので歩かざる得ないのだ。
まぁ、こうして景色を見ながらのんびり行けるので全く不満は無いんですけどね。
因みに幻月や夢月、エリスに神綺さんが居ないと思った人もいますよね?
実際は来られれば良かったのですけど、今日は珍しく全員が全員、様々な理由にて来られないようでした。なので仕方なく私とこいし、ルーミアさんとお燐の四人と共に此処へと来た感じですね。
「…そうですね。…一言で纏めるなら、頭に角の生えた物凄く戦いが大好きで天狗よりも強い人達ですかね」
「…へぇ~。なんだか面白そうな人達だね?」
面白いって。鬼達は確かに面白い方ではありますが、不満を買うとすぐ力で捩じ伏せてくる危険な方ではあるんですよ…。そのせいで何度痛い目にあった事か…。主に幻月がですけど。
一方でふわふわと木の葉の様に舞いながら歩くこいし。妖怪になって体が軽く感じているのでしょう。実際には力の方が異常に発達しているからなんですけどね……
「それじゃあさ!お姉ちゃん!急ごっ!!」
「きゃぁっ!?ちょ、こ、こいし、そんなに引っ張ると……!」
そう言ってこいしが私の腕を引っ張る。何の準備もしていなかった私はそのまま彼女に引っ張られるまま空中に放り投げられる。
ただ勘違いしてほしくないことはこいしは思い切りジャンプしただけに過ぎないのだ。
そのジャンプした行動と引っ張る行為が重なったせいで何の準備もしていない私の体は引力にされるがままに空中で回転しながら木の太い枝の上に叩きつけられた。
「…うぐぅ。くぅぅ………」
「お、お姉ちゃん?」
「だ、だいじょ…痛た…。えぇ…大丈夫よ」
背中の傷みを堪えながらなんとか立ち上がった。
すると既にこいしは別の事に夢中になっていて…
「ねぇねぇ。お姉ちゃん!見てみて!!妖怪って凄いんだねっ!こんなことも出来るんだぁっ♪」
そう言ってこいしは木の枝を使いジャンプしながら進んでいく。何処かで見た事あるような進みかた……。ま、まぁ、気にしない事にするわ。
「成る程、そういう方法が有りましたね。…では、僭越ながら私もやってみましょうか」
と、私もこいしと同じ様に木と木の間をジャンプして進んで行こうと思ったけど、それこそ野暮だと思った。ジャンプして進んで行くより木と木の合間をすり抜ける様にして飛んで進んだ方が早い気がして辞めた。
現在は、木々の合間をすり抜ける様にしながらこいしの横を飛んでいる。
「お姉ちゃん。凄いね!どうやったらお姉ちゃんの様に飛べるようになるの?」
「…そうですね。今度一緒に練習しましょうか?」
こいしの体は私ととても近い。私自身の肉を食べているから当たり前ね。
そのため私が既に取得している飛んだりなんだりといった技術自体は、ある程度受け継いでいる筈だ。後は慣れていければならそれなりに力を使えると思う。
「ホント!?ありがとう!!」
どのくらい飛んでいたのだろうか?こいしが疲れたと言って地上で休憩を始めて早十分。
其処へ幻月が颯爽と現れる。
「…おやおや?誰かと思ったらさとりとこいしじゃん。どうしたのさ?こんな森のなかで」
「…見れば解るでしょう?人里から徒歩で帰っていた途中でして、今はこいしが疲れたと言われたので休んでいた所です!」
「そ、そんな怒んなくても良いじゃん。ゴメンって。…お礼になるかわからないけどさ、私も付き添ってあげるよ。…もうすぐ日も暮れるしさ?」
そう幻月が言う。
確かに既に周りが暗くなり始めていましたね。
お陰で空に浮かぶ星達も見え始めています。
仕方ありません。あの日を思い起こされますが、休憩がてら、ご飯を作りましょうか。
でもって作るって言ってもちょこっと食材を組み合わせるだけだ。火を使って調理するのは流石に出来ない。
…まぁ、幻月が居れば容易ではあるのだが、ちょっとしたご飯の為に調理までして料理するのは、流石におかしいと思う。
「川で水を汲んで来ますので先食べていて良いですよ」
「はーい」
「ホント!?」
「幻月は私と付き添いね?」
「…ですよねぇ~」
なにしょんぼりしているんだか。私達は此処の先輩みたいなモノなんだから。後輩の為に尽くす事も必要でしょうに。
歩いて数歩の所にある川にて水を調達。こういうのはとれるときに取っておかないとですね。
一応、判っているとは思いますがこの時代に川で流れている水には有害物質なんてない天然水なんです。
気軽に喉乾いたでその辺の水を飲める位に綺麗な水なんですよ。
話がそれましたが、幻月にも水を汲んで頂きました。
幻月はなんで私にこんな量持たせるのぉ…って愚痴ってましたよ。私はこれくらいは必要なんです今後もありますので。と言い聞かせていたが実際はそんなにいらない。残りの水は持ち帰って貯水する予定ですから。
色々と短時間の間にあったが水を確保したので再びこいしの元へと戻る。薄暗くなっているので視界は不明瞭だ。
…ん?なにやらこいしの側に二人ほどの影があるのですが……。
「いつの間に此処にいてなにをやってんの?この泥棒猫達は?」
「そ、そんな風に言わなくても良いじゃないかいっ!?」
「私はまだ許した覚えはないんだけどね?」
「ゴメンよって今日も謝ったのに気がすんでないのかい!?」
「…気がすんでいるとか無いとかそういう問題じゃない。二人ともさ…。今日早めに帰るって聞いていたから神綺さん昼食とか作って待っていたんだよ?それなのに帰ってこない上に…こうやって勝手に現れて……」
「…幻月の説教はもうコリゴリですよぉ…」
幻月はお燐に対してきつめの説教をし始める。
この話は少し前だが勝手に幻月のお酒飲んだことから始まっている。今も忘れられていないとは…どれだけ執念深いんだか…。
と言っても私とて今回は同感です。庇ってやれる気はしませんよ。
「…はぁ。幻月の言う通りホントですよ。……なにをやっているんですかぁ?二人は?!」
「んーと、ご飯を食べるんだよー」
こいしに何気混ざっていたのは先に帰っている筈のお燐とルーミアさんであった。
あ、それ、私のご飯なんですけど……??
「いやーね?途中で追い抜かされるなんてねぇ?」
「予想外だったねー」
「それは貴女達が道草食ってるのが悪いんですよ」
驚いた事に先に行くって帰った筈の二人が追い付いて来たようなのだ。
…どうしてそうなったのか。と言うか、お腹すいたからお互いに戦っていたとか…理解しがたい。
戦闘したところで空腹は紛れないというのに…
「だから、あれほど食料を持って行けと言ったのに…」
「…だって1日で着くって思ったんだもん」
ルーミアさんが口を尖らせる。
その変な自信はどこから沸いて出てくるのやら…
「んじゃ、なに?食料を持ってなかったなら誰が持っていた訳?」
「そりゃ勿論、さとりだよ」
幻月はその言葉に此方を向く。
なんで無理矢理でも持たせなかったのかと言う目をしている。
「…はぁ。誤解が無いように言っておきますがね?そもそもあの子達は私が無理矢理でも持ってと言ったのに持たなかったのですよ?…そんな子達が自主的に運んでくれると思います??…そこのところどうなんなんです?」
「「うん。運ぶ気無いもん」」
と私がルーミアさん達に聞くと言わずもながら即答で運ばない宣言。
貴女達……一遍頭冷やした方がいいんじゃないんですか?かなり少ない方ですけど私はこれでもあの家にあったやつで必要なモノは全部持って来ているんです。背中と腰が重くて重くて…途中からこいしに手伝ってもらいましたけど。
…すると突然、幻月は無言で立ち上がり、二人の前に立つ。
「…問答無用で一発づつ殴らせてよ?」
「「……へ?」」
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◀◐げんこつ!!!!!!◑▶
◣ ◢
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ゴチンッ!ゴチンッ!!
と幻月は二人が有無を言わずながら頭に強烈な鉄拳を連続で二回叩き込んだ。
綺麗で鈍い音が二つ周囲に響き渡る。
「あいたたぁ……!!いきなり頭に拳骨なんて…ひどいじゃないか…」
「お燐??文句でもぉ……?」
「あ、いや、別に何も…無いです」
「ふん。当然の報いだよ」
「…ねぇー?幻月…?今の発言ってー、この私に喧嘩でも売ってる~?」
「…ルーミア?何?よく聞こえなかったなぁ~?んぅ~??聞こえるようにもう一度、大きな声で話してくれるかな~?」
「…い、言ってないのだ…なにも」
お燐とルーミアは突然殴られた事に反論を返すも幻月の一声だけでピタリと沈めた。
ただ、幻月はルーミアの先程の挑発的態度が気に入らなかったようでルーミアに対して笑いながら近づく。
「…ふぅん。そう。なら、良いけどね?じゃ、ルーミアには三回、私から拳骨のご褒美だねぇ?」
「え、えぇ~!?い、いらないのだぁ~!!」
「…いい加減過ぎるのよっ!この薄情者!!さとりに今も負担かけているのっ!!…判ったっ?!…泥棒猫は、泥棒猫らしく、私の拳骨を受けなさいな!この馬鹿者っ!!」
ゴチン!ガツン!!バゴン!!!
ルーミアに問答無用で3つの鉄拳が落ちた。
相当頭に来ていた様で幻月の怒りは冷める事はなかった。
「いっ。ぐぅ…。…ぅ。わ、判ったのだぁ……!…さとりの荷物を運ぶから許してくれなのだぁ…っ!」
「お燐もお燐だよ。どうするの?こういう時は??」
「…へ?ぁあ、あの、その、それは…ちゃんと謝ってさとり様の荷物を運びますよぉ…!!」
「…途中で投げ出さないよねぇ?」
「…そ、それは勿論ですよ!!破ったら幻月から拳骨を貰っちゃいますのでぇっ!!」
と涙目になり怯えながら幻月の言うことを聞いてくれる二人。
「二人ともありがとう~。でもさ、二人とも運んじゃったらさ誰が戦うの?」
「…私が戦うよ。こう見えてもさとりとは共に死線を潜り抜けて来ているからね?…主にさとりがだけど?まぁ、さとりは戦闘するというより意外な所で何度も死にかけているから実質、私と共に死線を潜り抜けて来ているって事で異論は無いで良いかな?」
………。
…………………。
「……ん?どうしました?皆私を見つめて」
気がついたら話が止まり私のことを凝視していた。
それを溜め息をついてこいしは声をかける。
「…えーと?お姉ちゃん。お話ちゃんと聞いていた?」
「え、えーと、聞いていませんでした…けど、それが今の流れとどう繋がるんです??」
「お姉ちゃん!ちゃんと聞いていてよっ!!さっきのお話を纏めればお姉ちゃんと幻月さんが一緒にぃ…しせん?…というものを潜り抜けた仲だよね?…って、聞いているの。でお姉ちゃんはどうなの?違うの?」
「………。…え?えぇぇぇーっ!??普通ここで私に降りますか?!ここでっ!?」
「いいから答えて。私とさとりは死線を乗り越えた仲だよね??」
「そ、そうですね。確かに死線を乗り越えた仲では有りますね。ただ、ハッキリといえば八割は私がって所でしょう。幻月さんが二割で私が八割ですね」
死線ってどういう意味なのか。
ハッキリと言えば、死地に立たされた事があって尚且つ死にかけて無事生還したという意味合いですね。
この場合、どちらもし死地には立ってはいますね。
ただ死にかけた度合いで言えば私の方が上になるでしょう。
…概ね私が持つ宿命と因果の二つのせいで行く先々で私が最初に死にかけているんだろう
「そ、其処まで自分を貶さなくても…。ま、事実ではあるけどさ…主に戦闘面以外で死にかけていることが多いんだけどさ…?」
「…所でさっきから何の話をしていたんです?私は、途中から聞いていたので話の理解が追い付かないのですけど…」
幻月はハッと我にかえる。
「…そうだ、そうだよ。話がずれていたよ。私が戦うよって話だよ。…さとりは後方で支援するに徹する頭脳派だから…ね?そうだもんね?」
なんかそれ、私の事を遠回しに戦えないって言っていません?私だって戦えますよ!心理戦で……
え?体を動かしてないじゃんって?そりゃそうですけど、幻月ほど体巧みに動かせないんですよ。なんたって何の取り柄もないさとり妖怪ですよ?そんな妖怪が物理戦で戦うって酷じゃないと思いません?魔法があるなら魔法とか妖術で遠距離でチマチマ攻撃していた方が大分有意義だと思いません?
…あ、でも、今の私まだ妖力の扱いがまだ慣れていませんでした。
……。
わ、私は何も喋っていない……。良いわね??
「……そういえば、さ?…さとり、それに幻月」
急に声のトーンを落としたルーミアさん。何か大事な話みたいですね。
「さっき判った事なんだけど…幻月はともかくさとり。いつから神力がついたの??…なにかあったの?」
え?神力??
どうしてそんなものが…今更?
いえ、心当たりはありますが…あれこそ相当昔の事です。
何がなんだか分からない人の為に私が経験したあの時の話を簡単にまとめて話します。
要は、聖徳太子…いえ、豊郷耳神子さんと初めて出会ってその際に合間みえた青蛾さんとの協力の元、色々とありましたよ。その時に僅かながら神の威光を浴びてしまったんですよ。
その時の記憶は朧気ではありましたが確かに記憶には存在してます…非情にも疲れた覚えしか無い嫌な記憶ですがね。
当然ながらあれ以降は思い当たる記憶がありません。…でも、なんで今になって出てくるのか…そんなものでは無かった筈。
「お姉ちゃん?どうしたの?」
こいしが何処か遠くを見つめているのに気付き声をかけてきた。
「え?いえ、気にしなくても良いわよ…」
「心当たりはあるのかい?」
「一応はあるわよ。でも、それは百年以上前なのよ」
まだ決まった訳ではありませんが今になってあのことがでてくるとは…
「何のこと?さとり。私にわかるように説明して」
ルーミアさんが私に詰め寄ってくる。どうして其処までして聞きたがるんでしょうか。
心を読んで真意を読み解く。
神が嫌い?
軽く能力を使っただけではこれくらいが限界だ。もっと深くまで知りたいが今は遠慮しておこう。
「えっと…飛鳥に都があった時にちょっと色々とありまして」
あまり細かく話すことはしない。
私の主観で細かく語っても彼女にはあまり意味がないし彼女は神力を持った原因を知りたいだけだ。このくらいで十分だろう。…正直これであっていることすらわからないのだけど……
「ふぅん。…そうなんだ」
ホッとしたようにルーミアさんは胸を撫で下ろした。
「ねぇ、ルーミア?良ければだけど…何があったのかを教えてくれない?」
「う~んと、まぁ簡単に言っちゃえば…昔色々とあってね?ちょっとって言えないかも知れないけど友人と神と色々とで戦ってさ…とてもじゃないけど…神って付くモノに無意識で拒絶反応を起こしちゃうのよ」
あまり覗かないほうが良さそうなものですね。
それにしても神力ですか…使い方わからないですし私自身も指摘されるまで気付かなかった訳ですからあってもほとんど使わないでしょうね。
つかうかどうか考えるより先に使えるかどうかも怪しいですからね。
「お姉ちゃん。神になったの?」
「あー。えと、まあ広いくくりで言えばそうなるのですかね」
正式に言えば神では無いですけど神力があるって事は神として崇められている訳で…うん。詳しくは秋姉妹にでも後で聞きましょうか。丁度この時期なら妖怪の山で冬越のための準備とか諸々やっているでしょうから。
「ふぅん。…じゃあ、願いを叶えられるの?」
「あ、それは無理です」
「こいしちゃん?夢を壊す様で申し訳ないけど、神様だからと言って願いを叶えてくれるのなんてお伽噺とかしかないんだよ?」
「え?そうなの?…じゃ神様って何をしてくれるの?」
「あ、その、ごめん。私も神力を持っているけど、か正真正銘の神様じゃないから判らないよ…」
「えぇ~!?じゃ、神様は願いを叶えてくれないなんて嘘かも知れないじゃん??」
「あのだから、こいし。その話は、後で知り合いの神様に聞いてみますから」
神が皆が食事を食べ終えた所で荷物をまとめる。休憩も終わったことですしさっさとこの場から離れましょう。
……私はご飯を食べられなかったのですけど。
幻月が心配しそうな気もするが、私自身には影響をまだ及ばさない程度なのでどうでもよいことにする。
今の、優先は私の妹のこいしだ。
現在こいしは眠たくなってきたようでうつらうつらとなり歩き方もたどたどしくなっていた。仕方がないので私がおんぶすることに。
ただそのおんぶで両手に荷物を持てなくなったので、先程幻月にボコされたお燐達に持たせることにしましょう。
お燐達は私が言うよりも先に率先して荷物を持ちに来てくれてとても助かりましたよ。
…若干後ろに怯えながらではなければ完璧だと思いますが。
「…囲まれているね」
「まぁ、あれだね派手騒いで休憩でもしていたら嫌でも寄ってきますよ」
ここら辺を縄張りにしている奴等がわらわらと集まってきた。
面倒な事になったなぁ…
そんな心境とは別に幻月は久しぶりの狩りの時間だと目を輝かせていますね。同じくルーミアさんもそんなこと全く気にしてないようです。曲がりなりにでも大妖怪ですね。
「私は参加できないので先に行きます!二人とも、後は任せましたよ!!お燐、行きますよ!」
「あ、うん。判ったよ。お二人さん!殿の方をよろしく頼むよ!」
お燐は若干何かを心配しながらもその場を後にしようとする。
刹那何かの衝撃波が何処かから襲う。
「さとり!!」
キンッ!!
幻月が何処かからの不意打ちの攻撃を間一髪で防ぎきる。
その何かに弾かれる様な音かして、私は後ろを見る。
其処には幻月に対面する形で一人、見掛けない妖怪がいたのであった。
「へぇ?珍しい妖怪の気配がすると思ったら私と同族か、それともはぐれモノか…どっちにしたって、面白い展開だよ。イシッ!楽しめそうだぁね。…ニシシッ!」
目の前に突然現れた彼女は、不気味な笑いを見せる。
恐らく、彼女も同じく火車ですね。
ただ、お燐と違って服装が兎に角派手。
お燐の赤色に対して此方はピンク色。
あっちのほうが若干お燐よりも体が大きく、服はド派手なピンク色でwelcome.hellと書かれている。
まるで何処かのへんなTシャツ野郎みたいですね。
それにあの妖怪は、かなりのお洒落さんだという事が窺えた。
彼女の右耳にはピアス、左後頭部右耳辺りには赤色のリボンが一つ結われている。
爪にはネイルのように色がぬられていてどこぞのギャルを匂わせている。
極めつけには靴も濃いピンク色の動きやすそうなシューズを履いている。
…いや、そこだけ普通なんですけど…
それはおいといて、いきなり現れた彼女はこちらをじっと見つめる。
「い、いきなりなんです?私たちはただここを通っただけで」
「通っただけぇ?…それにしては随分とのんびりと歩いていたんだね?私ー。騒がしくて休めようにも休めなかったんだよね~?」
…くっ。既にバレているようです。そのせいで殺気が駄々漏れしてすぐにでも動きだそうとしています。
…ここは大人しくしましょうか。
「…すみません。私達は急いでいるです。ここを縄張りにしていたら方なら謝りますし、何かしてほしいなら出来る限りの事でしたらなんでもしますので」
目の前の妖怪はその事を聞くと、なぜか突然と慌てた。
「あ、あぁ、いや、良いよ良いって。私、そんな気を使わせるために攻撃した訳じゃないし?…私、実を言えば結構暇でさ?…其処へ私の縄張りに勝手に入るものがいるじゃない。…だから勝手に入らない様にするための警告の的な感じでちょっかいかけただけ~って、言うかぁ~?…すこぉ~しでも良いから、私の話を聞いて欲しかっただけだった的な~?…まぁつまるところそう言うことなんだわ」
…つまりはただのかまってさんか。
なら、心配して損しました。
「…そうですか。…なら、今は見逃して下さい。また此処へと来るかと思いますので。今日のお詫びと言うことで訪ねますので…あ、最後に名前だけでも聞かせてくれませんか?」
目の前の彼女は苦笑いでアハハって、良いよ良いよ。と言い照れ隠しで何処かへもいなくなりそうだったので、せめて最後にと思い私は名前を聞いた。
「…おぉっと、忘れていたよ。私の名前は炎鼎桜。地獄と言う場所に住んでいて毎日地上へと遊びに来ているお気楽な妖怪なのさ。…もし次、会う時にはもう少し柔らかい言葉使いでオーケーだよ。ようはタメ口でオーケーって意味さ。」
・・・・・・・・・・・
肩書き 愉快で痛快な地獄の火車
名前 炎鼎桜
種族 火車
能力 衝撃波を操る程度の能力
特殊能力 衝動天地
・目をつけた相手が何処に居ようと逃げようと、対象の歩く、もしくは走る際の振動を瞬間的に見極めその場所へと急行することが可能である。また、自分自ら起こす衝撃波で大地を揺らしたり、空気を振動させて相手を動けなくしたり吹き飛ばしたり自らの飛ぶ速度を変えたりと天と地における振動を自由に扱える能力でありその使用は記述した以外にも様々あるようだ。
桜のステータス
耐久力 C-
筋力 S+
防御力 A+
魔力 A
速力 S
・・・・・・・・・・・・
桜と名乗る火車。
その説明を聞いていた所またも不意打ちの攻撃が私の元に迫る。
「くっ。油断しました」
私は目を瞑り、くるべき痛みに備える。…も、攻撃がくることは無かった。
シュンッ!!
音速に近い空気圧が、目を瞑っている私の目の前を通りすぎた。……気がする。なにせ目を瞑っているのだから。
…いつまでも痛みがこない事と、先程の音の二つを不思議に思い私は目を開けた。
其処には奇襲を仕掛けてきたであろう獣の姿があった。
今にも襲いかかりそうな目前で停止しているに不思議に思い、私は右手をその獣の顔に近付けようとした。
刹那、その体は時が動き出すか如く砕け散る様に五体分離して下へと落ちていったのだった。
「……えっ?!」
呆気にとられている私を前に後ろでその攻撃をしたでろう人物が嘆く。
「…まだ、私が自己紹介をしているっていうのに、行儀が悪い獣さんだね?…全く」
「さとりって言ったけ?さっさと行きなよ。ここの獣達は私が相手をするさ。あんたたちは追ってきた獣に対処する事に専念することだね」
「え、い、良いのですか?」
「…良いんだよ。それにこれはあんた達の行く手を阻んでしまったせめての趣旨返しさ。迷惑をかけた分だと思ってもいいよ。兎に角早く行きなっ!しっかりと此処で私がこいつらの足止めをしてあげるから!」
「す、すみません!後は頼みます!!」
私は、その言葉を背に急いでその場を離れるのだった。
途中、私の後ろで此方側に向けての声が聞こえる。
「そういえば、此処等は私の縄張りさっ!。次来るときは十分気を付ける事よっ!!」
その忠告後、激しい戦闘音が後ろから鳴り響くのだった。
山間から明るい太陽が顔を覗かせようとし始める普通ならここで妖怪や霊の時間は終わる。
まあ実際はそんなことはなく昼間から暴れる妖怪はたくさんいるんですがね。
「涼しいね!やっぱり空を飛ぶって気持ちいいんだなあ~♪」
「楽しいでしょ~?」
「うんうんっ!幻月お姉ちゃんもそう思うよねっ!お姉ちゃんはどう思うの?」
「…私も同じく、楽しいですよ」
「だよね!だよねぇっ!!」
幻月の回答に嬉しく思ったこいしは私にも質問を振ってきた。
勿論、心から私も楽しいって思っていますよ。
特にこいしがいるからですけどね。
私の言葉に更に嬉しくなったのか途中、足をバタバタさせて嬉しさをアピールする。
私はそれをみて『あんまり暴れるとバランスが崩れて途中で落下しちゃいますよ?気をつけてくださいね?』と一言。
こいしは『はーい』と返事をして足をバタバタするのをやめる。…も数刻の後には忘れたかのようにパタパタし始めたのであった。
それはともかく、話は変わるが妖怪の山って言う場所は、何処から何処までが妖怪の山なのか?という明確な定義はないそうだ。
一応、天狗の支配区域と言えばそれまでなのだが支配地域周辺にも多くの妖怪が住んでおり区分とか定義とかなんかが曖昧なことになっている。
私が目を離している内にこいしの姿が消えていた。
心中焦るも其処には幻月が付き添っており、私は一安心する。
「ねぇねぇ、あそこの木の実とか美味しそうなんだけど…食べちゃおうよぉ~」
「駄目だよ。こいしちゃん。勝手に取るとここら辺を縄張りにしているヒトから怒られるから」
「先日、その件で痛い目に逢いそうになりましたけどね……」
先日とは言っても、三時間前の出来事で桜さんから忠告をもらったばかりですしね。
こいしの手を軽く繋ぎながら説得している幻月。
こいし自身は浮かび上がることは出来ていたので飛べない訳ではない。バランスを保つのが出来ないだけなようだ。ただ、それも数分前。今となっては、少し長い間だけだがバランスを保てるようにはなれた。しかしまだ私達の様に自由にとはいかないので、こうしてどちらか近い方がこいしの手を握ることである程度はバランスを保って上げていると言うわけです。
こうなったのもこれまた数分前。
私の背中でこいしが寝ていたのだが、起きた所で唐突に飛びたいと言い出したのがきっかけなんです。幻月の反対もあったが私の無理矢理に仕方なく折れて協力してくれることに。
別に悪いわけでもないが良いわけでもない。私自身、色々と考えてしまい心配ではありますが、同時に嬉しくも思いまして。心の中が少し荒れております。
「おい!これ以上の侵入は許可がないと入れないぞ!」
私の変な思考は、唐突に飛び出してきた二人の白狼天狗によって遮られた。いきなりの乱入者に先程まで幻月の側にいたはずのこいしが私にしがみついてくる。
急に現れて高圧的に言い放ってくるのは止してほしい。こいしが怯えちゃっているじゃないですか。
幻月はその様子を見て失礼なその白狼天狗を睨み付けていた。
「貴女達の縄張りを荒らすつもりはないので通してもらっても?」
「ダメに決まっているだろう!!」
そう言い放って着剣する二匹の白狼天狗。
剣を構えられたのことにこいしが縮み上がる。ここまで殺気を向けられたことが無いのだろう。
「…穏便に済ませるべく出来るだけ私は押さえてきたけど…あの娘の様子を見ていてもうぅ…限界…っ!!…こいしちゃんを怖がらせた罪は思いよ…?覚悟、出来ているよねぇ??」
幻月はこいしを怯えさせたことに激怒し、前に見た黒い形状の剣を右手に召喚し、今にも斬りかかる寸前で威嚇している。
「侵入者の癖して思い上がるなよっ!!此方に手を出せばただではおかないぞ!」
「はんっ!所詮は其方二人だけでは相手に出来ないと踏んで仲間を呼ぶぞと脅す真似。…その程度の脅しで私が怯むと思っているなら大間違いだよ。火に油を注ぐ真似だと知った方が良いよ。今更遅いけどね?」
「…そうですね。私は無益な戦いは避けたいですけど…幻月さんが…うーん」
さて、どうしますか…。楓さんから貰った通行証はお燐達に渡しちゃいましたし…一応、私か幻月の名前を出せば通してもらえると思うのですけど…
因みに五人で一気に押し込んじゃうと向こうを警戒させてしまいますから、お燐達には別ルートから山に入って貰うようにしています。勿論、お燐がエスコートしていますよ。
「…ふん。そうか。其方がその気なら良いだろう。望み通りの結果にしてやる。そこの妖怪もそっちのワケわからない妖怪と同じく立ち去らないって言うならそれ相応の覚悟は出来ているんだよな?」
おっと、ちんたらしていたら幻月と白狼天狗達二人と衝突しかねない状況になっていましたね。
お陰で怒らせてしまいましたよ。
私が悪いわけでは無いのですが。
「あーもぅ!!仕方ないですね。犬走楓さんに古明地さとりと幻月が通してほしいって言っていると伝えてください。それと幻月。無駄な争いは止めてください。気持ちは嬉しいですから」
「………。…あ。う。ご、ゴメン…。少し、頭に血が上り過ぎていたよ…」
「判ればいいんです」
幻月は正気を取り戻し此方に謝り、そして二匹の白狼天狗にも謝罪をする。
「……了解した。…それとすまない。其処の妖怪。私の方こそ…。仕事が仕事なんだ。そっちの気が回らなかったようだ。それに関しては本当にすまぬ」
二匹の内の一匹の白狼天狗が剣を納め代表として謝罪をしてきた。その後、もう一匹の白狼天狗と目線で会話をする。…暫くし一匹が反転して山奥に消えていくのだった。
もう一匹は私達の監視らしい。
「……お、お姉ちゃん?」
「大丈夫よ。こいし。高圧的なのは仕方ないけど悪い妖怪ではないから」
怯えきったこいしを見た白狼天狗の一匹はなにやら思うところがあったらしく剣を納めて謝ってきた。
「えっと、すまんな。お嬢ちゃん。こっちも仕事だからな」
「仕事でももう少し気を使って欲しいよ。…こんな風になるんだからさ…」
「…それに関しては本当にすまない。後で上司にも解決策を相談することにするよ」
「いえいえ、そうしてくれるなら私達以外でも嬉しい限りです。……それにしても、態度が急に変わりましたね?」
「え、ま、まあな。あの人。…楓の名前を出してくる奴なら、悪いやつじゃねぇからな」
「そんなに楓さんを信頼しているんてすか?」
「そうだなぁ。あの人は自分の身内と心から信頼している人以外には自分の名前を言わない性格なんだよ。だから、お前さんの言うことが正しいならば、嫌でも通してやんないといけないってもんよ」
「簡単に言えば楓さんは易々と他人に名前を言わないって事ですか?」
「そうだな。其処に付け加えるとするなら、信頼しているヒトには自分の名前を明かすって事くらいか」
…どちらにしたって、楓さんが知らないって言えば速攻で殺りに来るって事ですよね?
確認を取った時に楓さんがボケて知らないって言われた日には、冗談ではすまない仕打ちが反って来ることが目に見えて判るので、絶対にそのような可能性になって欲しくないと心から願っていた。
そうこうしているうちに伝令に行った天狗が帰って来た。結構急いでいますね?なんか言われたのでしょうか?
「…うむ。…わかった。古明地さとりと幻月…そう言ったな?」
「……ええ」
「許可がおりたぞ。そうだな…楓が家まで連れてきて欲しいって言っていたが…」
「…ふぅん。それだけ重要な話なのかな?…ま、案内頼むよ」
「……承知」
色々と隠している部分が多い為か二匹ともまだ警戒している。でもさっきみたいに怒鳴られるとかそういうのはなかった。
うん。最初のあれさえなければもっと穏便になったんですけどね。なんかこう、白狼天狗は血の気が多いと言いますか…余所者に厳しいと言いますか…。
まぁ、仕方ないっちゃ仕方無いとは思います。最新の東方でも厳しいとは思うも、何だかんだ融通はきくとは思うのでこの時代の妖怪の山は特に厳しかったのではと私は思いましたね。…このときに。
「こいし。怖かったらフードをかぶってなさい。多少は落ち着くわよ」
「フード?…それはかぶるモノじゃないけど?」
「…それは、食物!」
「あぁ、水の上を漕いで進む奴だよね?わかっているよ」
「それは、船!馬鹿にしているのかしら?」
「ごめんって。板だったよね?」
「それは、盤上!!ふざけているの!?」
「あはは、雰囲気も大切だったよね?」
「それは、雰囲気です!…あのですねぇ、幻月?ボケるのもツッコませるのも、今じゃな…」
「裸?魅せる訳ないじゃん?」
「それは、裸よ!!も~!誰に魅せるですって!?…全く、ふざけて無いで真面目に―」
「ゴメン、ゴメン。三分待つ奴だよね?」
「それは即席麺!…じゃなくて、私は一体何をしているのかしら?!…もぅっ!!…こほん。幻月、今はふざけてないで真面目になさい!!」
「アハハッ!ちょっと張り詰めた空気だったしちょっとね?」
「ちょっと…。じゃないわよっ!!」
「……クスッ」
こいしがしょうもない私達の会話で笑ってくれた。
今はそれだけで十分だ。
こいしに、悲しみの顔なんてさせられないもの。
「わかった。そして、お姉ちゃん。幻月お姉ちゃん?…喧嘩はそこまでにしよ?…ね?」
「…わかった。こいしちゃん。…もし、怖かったらフードかぶって良いからね?」
「うん。ありがと」
そういって、こいしはフードを深くかぶって顔を隠してしまった。
案内の二匹は天狗の里をフライパスし奥へと向かっていく。
天狗の里って言うくらいだからそこに家があるかと思ってましたけど…
「…ん?ねぇききたいんだけどさ?貴女達白狼天狗の家って此処にはないの?」
「無いな。此処に住むのは烏天狗や大天狗様だけだ」
「我等白狼天狗の家の者は此処等を囲むように…いや、位置を悟られる訳にも行かないから、この周辺の各地に点在させているんだ」
「ふむ。様は万が一の防衛のために目立たなくしている。と言うわけですね?」
「そう言うことだ」
一瞬だが、こいしを見たときにこいし自身からも此方を射抜いた。
…こう言うときの視線は大体が構って欲しいかなにかを言いたい時、もしくは睨んでいるだけの三つね。
でも、おおよそ予想はつくわ。これは、構って欲しい時の顔ね。
「………こいし?どうしたのかしら?」
「あの犬耳、撫でてみたい!」
こいしは私と白狼天狗達を交互に見ながらそんな爆弾発言を発する。
「ちょっと!?こいし!あれは犬耳じゃなくて、狼耳です!!」
「いや、狼耳って聞かないんだけど…」
「……あはは。流石に…触らせは出来ないな」
物凄く苦笑いされた。
それも私とこいしを見てだ。
物凄く失礼過ぎません?…ホント。
たかだか表現の違いですよ?それだけで引きます?
え?どっちで良い?……そうですか。
楓さんの家は木々の中に隠れる様にして建てられていた。他の家と比べて遠くからパッと見ただけでは分からない。かなり良い位置に有るのだろう。
「お邪魔しまーす」
案内の白狼天狗に続いて入る。
小さな家ではあるが機能性としては抜群だ。優秀な人に設計してもらったのだろう。
「久しぶりだな?幻月、さとり。四ヶ月前に会ったばかりではあるが、災息であったか?」
「うん。久しぶりだね。勿論、元気にやっていたよ」
「えぇ。ご無沙汰していますよ。楓さん」
「いい加減、私の事もさん付けじゃなくて呼び捨てや君付けでも構わぬのだぞ?」
「いえいえ、流石に気高い白狼天狗の一人を気軽に読んでは尊厳と言うものが失われる気もして…少し躊躇いますよ…」
「いいんだ。私がお前達だけに許可しよう。私が良いって言えば部活も納得してくれる様になるからな」
「…さとり。楓が良いって言うんだし、さとりも読んでみては?」
幻月?
貴女は力が強いってわかっているお陰で前々から呼び捨てで読んではいるけど私はそんな力がないの。
…でも、かなり怖いけど楓さんが良いなら……
「…わかりました。楓君。…これで良いんですよね?」
「…まぁ、良いだろう。お前らしい呼び方ならそれでよいさ」
前に見たときによりも少しだけ大きくなったなぁ。なんて感慨にふける。
その親しく話す私達を見てこいしは訳がわからずぽかーんとし始める。
そういえば、この娘の事をちゃんと紹介していませんでしたね。
「…なぁ、さとりに幻月よ。お前達の後ろにいる子は誰なんだ?以前は名前も訊かずにさってしまい少々心残りではあったんだがな」
心残りあったんかい。
あの時は助かりましたが、あれをして後悔していたんですね。
顔に感情に出てなかったから悔いはないとは思ってましたが。
改めて紹介しないとですね。
「えーと、まあ…色々とありまして」
「…いや、言わずとも判るさ。お前さん。…さとりの半妖…なんだろう?」
「……え?あの、なんでわかったん、ですか?」
何も知らないこいしが急に知らない人物から自分の素性を明かされた事に驚きを隠せず、楓さんに恐る恐る質問をしていた。
「…怖がらなくても良いぞ。私は、犬走楓だ。宜しくな。…良かったら君の名前を教えてくれるか?」
こいしを、怖がらせないようにゆっくりと歩みよりこいしの手を軽く握った。
その後、優しさを感じさせる笑顔で語りかける楓にこいしの表情が明るくなる。
「こ、こいし。古明地こいしです!!よ、宜しく…」
「…ん?なんか楓の対応が前よりも違って優しすぎない?…イメチェンした?」
失言の連発ですよ?!幻月さん!?
でも、確かにそうですね。
前に会った時とは明らかに対応が違いすぎますね。あと、そんな感じに笑えたんですね?意外です。
「失礼だな?幻月。誰だって親になったら子供を持つことになるだろう?…すると必然的に優しくなるものさ」
……………は?
「よし、楓くん。そこを動かないで下さいよ?じゃないと一撃で決められませんから」
「こらこら、落ち着けってさとり」
「気持ちは判るけど今は抑えて、抑えて!リア獣爆発させるのはもうちょっとあとだからっ!!」
「お、お姉ちゃん?…どうしたの?いきなり?!そんなに取り乱して…大丈夫??」
「……っ。…な、なんでもないわ。…取り乱してすみません」
きゅ、急にどうしたのでしょうか…私の身体。いきなり暴れようとするなんて…うーん。
「…取り敢えず、おめでとうってところかな?…それで、いつ頃??」
「…さぁな。多分、もうすぐなんじゃないかな?」
へぇ、喜ばしい事です。
「…なら、私達はこれで失礼します。夫婦水入らずにお楽しみ下さいね?」
「あぁ。そうだな。言い忘れるところだったが、お前達が昔作った家なんだが、それは鬼が色々と手を回て残してあった筈だ。後でも構わないから挨拶でもしておけよ」
萃香さん達ですね?…全く、そういうのはしなくても良いのに…。
でも、ちょっとだけ嬉しいと言うか、覚えてくれていたんだなぁ…と思ったりなんだり…。
「…え?お姉ちゃん。鬼と知り合いなの?」
「まぁ、一応、友人ですね」
殴りあって殺しあいをした仲ではありますね。
あとでこいしも連れて顔を出しますか。
「それじゃ…新居にいきますか」
私達にとっては新居ではなく、幻月と最初に出会って作った家なのですけど、こいしにとっては初めての土地だ。慣れないうちから連れまわすのも悪いてすし…
「うん!早く家を見てみたいなぁ…」
「こらこら!?こいしちゃん。みたいからって急に走らないのぉ~!」
全く、こいしは無邪気なんですから。…その無邪気さが時に自らを傷つけてしまうのですよ…。だから、気をつけて下さい。そして、幻月さんもどうか……。




