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東方 夢幻界郷  作者: 聖海龍・ラギアクルス
一章.出会う二人と動き出す運命~紡ぐ絆と縁~
16/34

013話 平和な日々と新たな生活


家に帰る頃には既に失った左腕以外は、ほぼ完治していた。

幻月さんは、翼が完全回復しており痛みも引いたようで現在は半妖となった少女を飛びながら運んでいた。


そんな私達ですが、私以外で二人が決めた家に帰るまでのルールとして半妖の少女を交代しながら運び、家についた際に最後に半妖の少女を持っていた方がさとりと一緒に世話をするという奴である。

正直に言ってほんとどうでも良いが、幻月とルーミアが騒ぐのでそういう取り決めで収まった。


本当の理由として上げるならさとりを一人にしてしまえばまた無茶をするとの事らしく。


…この意見には流石の私でも反対しましたけど…


「当の本人には拒否権なんて無いのだ~っ!!またさとりが無茶をしたら今度こそ許さないのだ~!!だから其処で大人しくしているのだ~っ!」


「…そういって、無茶を平然とするから信じられないんだよ。全く。今の貴女には参加権なんて元から無いからっ!黙って私達の言うことを聞いてよっ!」


「……お、横暴が過ぎますね…」


「…どの口が言うのだ~!!」

「…今の貴女が言える事じゃないよっ!!」


と二人には口出しすら許して貰えず…。


…え、えぇ~。

其処まで今の私は信用出来ないんですか…??


…はぁ。ホント面倒です。


……。

……………。



…と言う感じでそんな事になってしまい、現在はルーミアさんが隣におり、幻月さんが半妖の少女を運んでいる。


因みにルーミアさんもしくは幻月さんが交代交代してまで私の隣にいる理由が、先ほど言った私が無茶をしない様にするのと私が何処かにへと消えていなくならないように見張る為である。



色々とあって、時刻は六刻を過ぎた頃、日が傾き始める時刻、ようやく家に帰ることが出来た。


…未だに背中がスースーしますけど。


…また、交代交代でついた頃には幻月さんが半妖の少女を持ってい為幻月さんが私と一緒にすむことになった。



皆さんもこんな経験ありますよね?


暫く帰っていなかったけど、急に地元に帰る事になってしまい、行くまでにその意気込みでは有るもののいざその実家の家の前に立つと、昔は平然と開ける事が出来た扉を、今では開ける事すら躊躇い、憂鬱になって立ち尽くしてしまう。…みたいな事。



それでも、入らなければ何も始まりませんし意を決して扉を開ける。


「…ただいま。…ですかね」


そろりと部屋に足を踏み入れた瞬間、何かが迫ってきて視界が塞がれ体が反転する。まるであの時のルーミアさんみたく。


「お帰りっ!さとりっ!!アタイ、信じていたよっ!生きて帰ってくるってさっ!!!」


だが、あの時とは違い体が回復しているのでその衝撃で吐血まではいかない。…でもって痛みはある。


「…っ。…痛。…お燐でしたか」


お燐さんが私をあつく出迎えてくれると同時に幻月さんも入ってくる。


エリスと夢月は幻月が入ってきた瞬間に、お燐の様に勢いよく左右から抱きついた。


「おおぅ…っ?!エリス、夢月。…ただいま。…今、帰ったよ」


「姉さん。…お帰りなさい。…ちゃんと、さとりさんを守れたんですね…。…取り敢えず入って……」


「…夢月。うん。ただいまだね。寂しかったでしょ?…うん。…それじゃ……」


幻月が夢月にただいまの挨拶を交わし中に入ろうとする…しかし。


「…幻月様ぁっ!!私、待っていましたよ!!本当に、生きて帰って来てくれて良かったですよぉ~っ!」


エリスは、幻月からなかなか離れず、その場で大号泣し始めてしまった。


「エリス。心配してくれて…ありがとうね?…て、ちょ…あぁあっ!?その…え~と、エリス。私の胸で泣きじゃくるのは構わないけどさ…そんなに大号泣されると私の身動きが…。…フフッ。ほんと、仕方無いなぁ…」


幻月は溜め息つきながらも笑顔でエリスの頭を撫でる。その光景に夢月もまたかという顔で口を開いた。


「…姉さん。手伝おうか?」


夢月の提案を聞いた幻月は少し悩み、そして笑顔でこう答える。


「ううん。いいよいいよ。私だけで大丈夫」


「…と言っても、なにもさせないのは少しな…う~ん。…あ、そうだねぇ、エリスの代わりにお風呂の準備をお願いできる?…久々に”両者共に羽休め”が出来そうだからさ」


幻月が何故か両者共に羽休めという言葉を強調してくる。

その言葉に夢月はうっすらと笑う。


「…了解したよ。姉さん。……さとり」


そんな事を考えていたら急に夢月から此方の事を呼ばれる。


「…?…はい。なんでしょうか?」


「…姉さんに後でちゃんとお礼。言ってね?幻月は、今回はさとりの為に全力で動いたんだから」


なんだ、そんな事ですか。大丈夫ですよ。ちゃんと後で言いますから。


「…っ。…フフッ。判りました。ちゃんとお礼。言いますから」


「…うん。あ。…コホン。…じゃあ、姉さんとエリス、さとりの分の着替えを準備してくるから、ゆっくりと居間でのんびりとしててよ。…出来たら呼ぶからさ」


と、言い残し家の奥へと消える夢月。

残された私達はと言うと…。


「…ふぅ。お燐。そろそろ良いでしょうか?」


「…あ。ご、ゴメンよ。さとり。アタイ嬉しくてつい。」


とお燐が落ち着き、離れるとその騒ぎを聞き付けた輝夜が顔をだす。


「…あら?さとり。腕はどうしたの…??」


輝夜が此方に歩みより此方の左腕を仰視する。


…まぁ、気が付きますよね。急に左腕が失くなっていたら。



「…ま、色々と有りまして…。気にせずともそのうち生えて来ますから、心配しなくても大丈夫ですよ」


それを聞いて輝夜は顔を伏せる。

何を考えているのかは大体予想ができる。それをわざわざ指摘する様な野暮ったい事はしません。


再び顔をあげるが今度は何故か顔が赤くなっている。はて?私の服があざといですか?露出はほぼないですから大丈夫の筈…。


「取り敢えず…服を着なさい」



「あ…………」


輝夜の指摘に気付いたお燐まで真っ赤になった。なんですか!?なんで二人とも年頃の男の子みたいな感情を抱くんですかっ!

たかだか背中の部分が消失したただの服なんですよっ!


ふと、幻月の方を見るとなだめられ落ち着いたエリスと幻月が私と同じ様にこちらを見る。


「…あぁ。…フフッ。大丈夫ですよ。私はこういうのを気にしませんし。…幻月様も気にはしないとは思いますが…確かに、ちょっとだけ露出していて…目のやり場に困るというか…」


笑みと苦笑が混じった顔で赤面している様である。

なんです!?貴女方も同じでしたかっ!



「…さとり。勘違いしてほしくないけど…私達は貴女が思っている程の感情は抱いていないよ。ただね?その左腕の部分が痛々し過ぎて目のやり場に困るだけなんだよ」



私が概ね幻月達もかと拗ねていた所、幻月が目を瞑りエリスと幻月がなんで赤くなっているかを説明する。

…なるほど、そう言うことでしたか。


目を当てられない程に痛々しい私の左腕を見て、心配して赤くなったんですね。


…って、納得するとでも思います?!


確かにその気持ちもあると思いますが赤くなる原因は私の今の露出に有るんですよね?!そうですよね!?

私がそういう風な目で幻月達を見ると、二人は苦笑しながらで顔を伏せた。


…やっばりそうでしたか。……全く。

…まぁ、私自身は既に自覚はしていましたからそんなに慌てはしないですけどね。そりゃ、左腕がないから右腕に引っ掛かっている分で前を覆い隠しているに過ぎませんがね。


「……取り敢えず…さとり。中に入ろっか」


お燐が顔を赤くしたままで、私の右手を掴み、中に入る様に手を引いた。

エリスと幻月も同じく中へと入る。


気付けば永琳が私達の一部始終を覗いていた。

その永琳と思わず目が合ってしまう。

一瞬、殺気を向けられるかと思ったが、私の予想は外れた。


此方に無言で近付き、私の身体を調べるように目で確認すると一言。


「…暫くは安静にしてなさい。さとり」


「はい。判っていますよ」


そう私は答えると永琳はなにも言わずに通りすぎる。

なにを思ったのだろう。

私はそう考えたが、お燐から呼ばれる声が聞こえたので一旦保留にしてお燐の元へゆっくりと歩いていった。











「……貴女も無事だったのね?」


永琳はさとりと何か話した後に此方に歩いてきた。


「…なにかなぁ?…その言動。まるで私が死んだ方が良かったな~。って思って言っているの??」


私に対する言葉第一声がまずそれなの??


そこは心配したわ。…からで良いじゃん。遠回しに言うとしても言葉数が少なすぎるんだよ。…もう。


「だ、駄目ですよっ!?幻月様!え、永琳さんに喧嘩を仕掛けるような返しかたは…?!」


そうエリスが永琳が怒るかもしれないと焦ってその場を仲裁しようと中に入る。


と永琳はエリスに優しく語りかけた。


「…エリス。大丈夫よ。…でも、私と幻月の仲を取り持ってくれようとしたのよね?…立派よ。でも、安心しなさい。決して仲が悪いとかじゃ無いの。心配なら傍で聞いていなさい」


その言葉を聞くとエリスは、は、はい!…って言い、私達二人の会話を静かに見守り始める。


……話しづらいなぁ。…まぁ、エリスが此処に住み始めた時からこんなだから…久しぶりの何時もの日常が帰って来たって思えば軽いかな?


「……じ、じゃあ、話を続けるけど…永琳。どんな話だだっけ?」


「…貴女が私に対してその言葉は失礼じゃないの?って反論した所ね。…そうね。それは失礼したわ。ごめんなさい」


「なんか、ペース乱されるなぁ…永琳がこうも謝られると…ね?」


「…あら?貴女も存外心外な言葉を吐くのね??意外だったわ。…でも、これでお互い様ね?」


「…まぁね。それより、本題に戻すけど、永琳。…貴女が来るって事は、私になにか頼みたいことがあってきたんでしょ?」


永琳が此処に直接くる事は滅多にない。つまりは、私になにかようがあるということだ。

そして、その様とはあの時永琳に頼んだ誰にも私が居なくなった事を伝えないで。って事である。

なのでその借りていた借りを返すのではと思ったからだ。


「…そうね。単刀直入に言えばそういうことになるわ。だけど、そんなに難しいことじゃない筈よ」


永琳の言動には難があって読み取るのには難しいのだけど、慣れれば何を伝えたいのかが判るので心配無用である。


「ふーん?…で、貴女は何を頼もうとしてるの?流石に人体実験に付き合ってくれとか、被験者になってとかは無理だからね??」


私がそう言うと永琳は珍しく笑って答える。

「フフフッ。確かにね。その発想は無かったわね。私らしくて良いかも知れないわねぇ??」


は、はぁっ?!

じ、冗談じゃないよっ!?


「は、はぁ!??そ、そんな相談をしに来たなら無駄だよっ!割に合わないよぉ!?」


「…あら?さっき、貴女は私に借りがある筈よね??…常識的に考えて、貸したんだから返すのは当然だと思うわよ?…それに、貴女には拒否権はない筈よ」


「…うぐ。…で、でも…」


「…貴女はあの時に言うことを聞く代わりに、さとりが行きそうな場所とさとりから気配を悟られない距離を教えてあげたのに。…其処のところどうなのかしら?」


「…あ、くぅ……うぅぅ~っ!!!」



正直反論ができない。…全て本当の事だから。

…唸る声が響く。


唸る私の様子を暫く楽しんだ永琳は、大笑いの後に口を開く


「フフフッ!!いいものを見せて貰ったわよ。…此処まで追い込んで悪いけど、さっきの話の流れは全て私の冗談に決まっているじゃない?」


なっ!?……え、永琳~!!騙したなぁっ!!

純粋に信じた私が馬鹿じゃないっ!!



「…ひ、酷いぃ~。これからどうしよう…って本気に考えていたのにそれを…もぉ~っ!!」


…不思議と涙が出てきて止まらない。

止めようとしても感情が収まらず…あぁ。

どうしよう。



「…あらあら。泣かないで。私でも流石にやり過ぎたって反省しているから」


「…ち、違うの。…と、止まらないの。泣いているんじゃないのぉ~!!」


「それを泣いているって事でしょう?…全く、カッコいいと思った幻月にもこんな一面があるなんてね…仕方無いわね」


永琳は此方に歩き私の頭を撫でる。

…優しく。


「…う、うぐぅぅ~!!く、悔しいぃ~っ!!!」


悔しさと安心、色々な感情が混ざり感情的に叫んだ。


……。

…………。

少しの時間が経つ。


永琳は私が落ち着いたのを確認すると一度目を閉じて、ゆっくりと開いた。


「…これ以上、話を長く…時間もかけて…更にはややこしくまではしたくないわね。…そろそろ良いと思うけどそろそろここら辺で、貴女に私の本当の頼みを聞いてもらおうかしらね?」



「……流石に私が泣いている姿を見せたくないし、心配させるのも嫌だから…早く、お願いね?」


「判っているわよ。…時間は取らせないから」


そして、永琳からある約束をしたのだった。












私は幻月さんがつれてきた半妖を布団へと寝かせる。

幻月は?…と言うと私の後に暫くして永琳と一緒についてきた。

私は幻月は何をしていたのかをエリスに聞いてみたが

「すみませんけど、それは秘密です」

…と返されてしまった。

まぁ、いずれなにかが判るでしょう。


そんな事よりも、私を囲むように皆が集まっていた。

出迎えにきたお燐と輝夜、永琳にエリスをはじめとして、さっき準備しに行った筈の夢月や、「先休んでおくわ~」って言って何処か行った筈のルーミアさん。幻月さんはと言うと、珍しく離れた位置にいる。



「……あのねぇ?さとり」


「申し上げにくいんですけど…」


「…わざと?わざとなの??…ねぇ?…私達に貴女の事を突っ込んで欲しくてボケてるの?……それとも本当に気付かない馬鹿なの?」


「まぁまぁ、夢月。押さえて押さえて。…コホン。…そのね?さとり達の話をするその前に…だよ」


「…あの時、私が言った言葉を覚えているかしら?…まさか、忘れたと言わせないわよ?」


幻月、エリス、夢月、お燐、輝夜の順に綺麗に会話が連なる。


直後、エリスに夢月、お燐と輝夜の他、幻月と永琳さんにも何かを言いたげに睨まれた。


「……えーと。なんでしょう??無理をし過ぎた事は謝りますけど…」


確かに無理をしたのは反省している。幻月とルーミアさんからもの凄く心配された事で、自覚は持てたが、お燐達が言いたいことはそういうことじゃ無いみたいだ。


「い、いや。そのことは良いんだよ。次気をつけてくれればさ」


「…ええ。だけどね?」


どうしたのでしょうか?また、顔が赤くなっていますけど?うん?

えーとなにか悪いものでも食べましたかね?

「皆、何かあったんですか?」


「「ちゃんと服を着ろぉーー!!」」


「ちゃんと服を着なさいっ!!」


「ちゃんと服を着て下さいよぉ~!!」


「「今だけでもちゃんと服を着て下さいっ!」」





と怒濤の四連同時に声を上げる六人。


上から順に、お燐と幻月、輝夜、エリス、そして永琳と夢月の六人である。


ルーミアさんはと言うと、いつの間にか寝ていた。




「え?というか、私は着ていますよ?…ほら。これのどこが服を着てないって言うんですか!」


と胸を見せるように動くと一部は、ため息を吐き、一部は駄目だこりゃ。と呟く始末。



「…その、ですね?さとりさん?タオル一枚を体に巻いただけじゃ、服を着たって言いませんよぉ~?!」


エリスが恥ずかしがりながら私に反論を説く。


えーと、はい?

…そ、そうなんですか??それは初耳です。


「…その、言い訳ではありませんけど、服がこれしか有りませんでしたし…。あるとしても妖怪として目覚めた時に着ていた服一着だけなんですし。…そもそもあの服は目立つんです!それも良くっ!!」


「…じゅ、十分言い訳じゃん」


幻月がツッコむも今は無視しましょう。反論の途中ですし。


「…だから、着ろと言われてもこのタオルしななかったんです!!仕方ないじゃないですか。これでも、前だけを前を隠す為に巻いたんじゃなくて前側を隠す様につけているだけなんですから!!」


と声を上げると夢月が私の反論を返す。


「余計にタチが悪いですっ…!」


「あぁ。もぅっ!あたいの服貸してあげますからぁっ!…ちょっとこっちに……来てくださいっ!!」


「え、あ。ちょっと…??」

立ち上がったお燐に引っ張られて奥の部屋に退場させられる。


去り際に、輝夜と永琳が呟くのが聞こえる。


「私が言えた事じゃないけど、ホント彼女の頭の中、どうかしていると思うわ…」


「…同感です。非常におもしろ…いえ、興味深いと思います。姫様」


あの、永琳さん…今さっき非常に面白いって言いかけていましたよねっ!?


その言葉、忘れませんからね!




私はそう思いながらもお燐と共に部屋から退場したのだった。









数分後…。

お燐用の一回り大きい服を着せられた私はようやく話を始める事が出来た。


「えっとですね。…一応、月の人は帰っちゃったわけですし…これで万事解決ですかね?」


「…そうね。色々と問題はあるけど、一応は解決したわ」

そう答えたのは輝夜ではなく永琳だった。愛用の弓を膝の上に置いて綺麗に座っている。これだけで絵になりそうなくらい美人だ。

そう言えば、ある程度は沈黙していましたが…その時はなにを考えていたんでしょうか?


「で…一番の問題が隠れ家をどうするのか…ですね」


私がそう言うとそれを待っていましたと言わないばかりに輝夜さんが自慢げに口を挟む。


「それは大丈夫よ。ある程度なら、私が見当をつけてあるわ」


輝夜さん意外ですね。引きこもっているだけかと思ったら以外と準備していたのですね…。


「…なら、安心ね。では早速、準備をしてください。姫様」


素っ気なく永琳が帰り支度兼、移動支度を始めた。


「ちょ、ちょっと永琳!いきなり過ぎないかしらっ!?」


流石に輝夜もびっくりするでしょう。と言うかなにも話していないような…いや、一応話した事に入るのかな?


「今回の件に関しては感謝しているわ。でも、だからと言ってこれ以上貴女達に迷惑は掛けられないわ」


あらら…。かなり突っかかる言い方ですね…まぁ、永琳さんなりの気の使い方なのでしょう。



それにしてもまじまじと私をみてどうかしたのでしょうか?

お燐にエリスさんも不思議がっていますよ…。


「それにしても、あなた。……そうね。今に至るまで…幻月に会わなかったらずっとそうするつもりだったようね。…今は私がそんな心配はするだけ無用ね。…でも、私からの慈悲として貴女に言ってあげる。……もう、溜め込む様な真似は止しなさい。良いかしら?」


まさか見抜いたのですか…流石は永琳さんです。

まぁ、自覚がなかった訳ではない。なんとか理性で押さえつけていたのだが…あの時を切っ掛けに私が抱えるそれを時々皆が知らない時に幻月さんに打ち明けて負担を軽くして貰ってはいる。

幻月さんも元はと言えば私と同じ人間。同じ境遇から此処まで付き合って来たばかりに今では居なくてはならない半身と化している。


あれ?…前もこの事をいいましたっけ?

…そもそも、私は人間としての精神が少なくとも50年以上だけど、それは人としてのもの。ルーミアさんみたいな妖怪としての精神を持っているかと聞かれれば持っていないのも同然。そう、まだ私は妖怪としては子供なのだ。


こんな状態も、今の状況に一役買っているんですよね。自覚はしていてもどうしたら良いのかわからないので幻月さんにお願いして私のそれを少しは減らして貰ってはいるが、実際に効果があるのかは不明なのでそのままの対処法で解消する予定ではありますがね。


「…そうですね。それは心得ていますよ。…それよりも永琳さん。流石です、私の今のその状態を見極めるなんて…」


「当たり前に決まっているじゃない。私は医者なのよ?患者が目の前にいて放っておける訳無いじゃない。それに…」


「…《その驚異的な再生力を是非とも調べてみたい》……ですか?…気持ちは判りますが」



恐ろしい事を考えていますね…。ただ、人体実験はごめんです。



「………冗談よ」


ものすごい間が空いてからぼそりと呟いた。


「嘘だっ!!」

「嘘じゃんっ!!」



この場にいる私と幻月が同時に声を上げる。

だって思いっきり目が泳いでいますし、完全に心の中では解剖してみたいって思いが強いんですけど!


「え・い・り・んっ!!!いきなりレ◯は止めなさいよ!心臓に悪いわ!!」


輝夜が食いぎみで永琳の言葉に文句を言った。


ん?…え!?まって?…まさかこのネタがあったの!?本当に!?心臓に悪いって、輝夜…一体??



「…あ、アハハ…。アタイはちょいとお湯の様子を確認してくるよ。…夢月、ちょいと手伝っておくれ。…それにエリスも頼むよ」


あ、お燐が逃げましたね?

って逃げたわけでは無いんですがね。


「…解りました。姉さん。行って来ますね?」


「幻月様。行って参りますね」


「…うん。頼んだよ。夢月にエリス」


二人は幻月に見送られながらお燐の後についていき席を外した。



三人が席を外し、残るは四人位となった。



「ま、まぁ、今日くらいはここに泊まっていきませんか?」


お茶を濁すついでに旅支度をしている二人をなんとなくではあるが引き止める。なんだかここで引き止めておかないとまた厄介ごとに巻き込まれそうな気がするから…主に輝夜達が。


「…そうね。是非ともそうしたいわ。今日はなんやかんやあって疲れたし」


「……断る理由は無いし私は姫に従うわ」


二人ともすんなりと泊まってくれることにしてくれた。なにかしら思うところでもあったんでしょうか?


ま、私の知るところではないのでどうでもよいです。


其処へ幻月が近寄る。

「十分に月の民に抵抗はしたんだし、もう一度来るなんて事は…流石に無いと願いたいけど。…輝夜はどう思う?」



珍しく推測で終わらせる幻月が輝夜に質問を投げ掛ける。

「…そうね。可能性としては零に等しいとは思うけど…もう一度攻めてくる事が無いとは言い切れないわ。…もしもまた攻めてくるとしたら今回の戦いで地上の戦力は既に確認済み。…私を本気で捕らえに来るなら次こそ地上は終わりね。…抵抗を示したところで今度の今度こそは殲滅且つ皆殺しでしょうね。私と永琳は月の兵器を使ったところで死には無いでしょうし…私達を巻き込む前提で地上を終わらせに来るでしょう」


まぁ、そうでしょうね。と私は納得する。

幻月も頷き、いつの間にかいた夢月やエリスも確かに。と呟いた。

同じく其処にいたお燐は、この話についていけずこう質問をした。

「…ん?要は…どういうことだい??…話がややこしすぎてついていけないよ」


「…お燐。私が判りやすく簡潔にしますと《今度は着陸する前に月の兵器で地上を焼き払い、満を持しして輝夜を捕らえにくるよ》って言ってますね」


私が説明したのにピンと来ていないようで首を傾げている。…なので再度お燐に簡潔にした説明をする。


「…えーと、簡単にして《次来たら地上が終わる》って事です」


「なにそれ。こわい」


話の区切りが良かったので、私は一旦席を外す。

せっかくの来客ですからある程度は世話を焼いても良いですよね?


…駄目って言われたら悲しくて泣きますよ。


「ふふーん。一応用意しておいたのですよね~」

勝手口から裏の表側に回る。

だいぶ前から放置しちゃっていたが大丈夫だろうか?

だが、そんな心配は無用であった。エリスや夢月が丁寧に掃除をしていた様で、今目立つのは多少の葉っぱとか入ってはいるお湯である。


「…これ、本当にお風呂を用意したと呼べるんでしょうかね?…夢月が私の反応を見るべくわざとこうした可能性も…?…いえ、考えるのはやめよう。入れるだけ感謝しないとですね」


私の目の前に広がっている景色はお風呂ではあるが、そこに浮かんでいるものが葉っぱでありそれが何枚もあって明らかに掃除してないって印象は受けるが、周りは綺麗なので明かにわざとだと思う。


グダグダしていても埒が明かないので此処等で思考停止して風呂に入ろう。













お燐か用意した質の良い茶葉を使った紅茶を一口飲む。

…!?…美味しいじゃん。

…へぇ?お燐も上達してしたんだ。

私も負けていられない。




私の姉さんは、自由放浪過ぎる性格を持った天使のような見た目をした私が尊敬している悪魔である。


私は姉さんとは真逆な性格を持っている。

人見知りが酷く、滅多に喋らない。表情を表には出さず誰にたいしても対等で好戦的。それが私。

まぁ、姉さんの影響を受けてそれなりに自重はして出会い頭に攻撃はしなくはなった。また、身の回りの世話やら家事をするように…これは姉さんの性格から生まれた真逆の思考のせいではあるが…。




そもそも、私の存在は姉さんの妄想が人格を持ったところから始まった。


…最初は、鏡越しとして写し出された幻月の体を奪い、さとりに幻月として近付き、これ以上好き勝手歴史を変えさせない為…さとりを抹殺する為に生み出された幻月とは真反対で冷酷な二つ目の人格であった。



この異常な歴史を戻すべく、時系列と言う運命の因果から生まれたイレギュラーに対抗するために宿った人格。


元々あるだろう歴史を改竄するイレギュラーなさとりに敵対する筈だった存在がこの私なのである。



…ただ、運命の因果と呼ばれる時間と歴史を管理する神の思惑も失敗に終わる。


そう、姉さんが持っている程度の能力が余りにも強すぎたのだ。

それこそ管理する神が想定した私の性格すら書き換えて……今では姉さんを心から慕う性格に…。


更には、私が幻月から分かれる様にして生まれた。


…勿論、姉さんが望めば一つになれるが…それを私がそれを拒むかもしれない。それくらい私はこの生活が好きであると実感する。




ま、こうやって私の生い立ちを説明はさとりと姉さんにしか話してはいない。




…私は改めて私と言うものが生まれてから今に至るまでを振り返っていたところ


「…夢月」


と姉さんから声がかかる。


「何?姉さん」


「…お風呂になにか悪戯でも仕掛けたでしょ??」


…!?

なんでバレたの?!


「…いや。なにもしていないから」


と私は言い返す。


「ほんとに?…お風呂の方からさとりの大きなため息が聞こえたんだけど…??あの溜め息は面倒な事をしてくれたな……って思ったときにだす溜め息なんだけど?」


あっ!?しまった。

そういえば姉さんは人間観察能力が群を抜いてトップクラスに鋭いんだった。……これは失策だった。


対する私は、真逆なためそういうのが不得意で察することが非常に疎い。勿論、心理の読みあいや勘も鈍い。


…直感や狡猾さなら姉さんに負けないんだけどね…。



「うぐっ。…そ、そうだと言ったら?」


「…まぁ、やったからには仕方無いか。でも、これだけは忘れないで欲しいな。…こうして怪我をしていたり、体の何処かが無い状態での悪戯は…するな。とは言わないけど……控えてくれると嬉しいかな。…もしかしたら、更に悪化するかもしれないからさ」


「…判った。姉さん。覚えておく」


「…うん。判ればよろしい」


…と、優しい姉さんは私に微笑みながら許してくれた。…本当に、甘いんだから…”元人間の異端者”さん。人間は嫌いだけど、こういう人間は正直に言って物珍しくて好きだわ。もっと私を楽しませて。








幻月と夢月が会話をしている最中一方で輝夜と永琳は、なにやら難しい顔をして考え込んでいた。



私はお燐と呼ばれるペットから出された紅茶を一口飲みながら、今回の戦闘を軽く振り返ってみる。


…元々の原因は私なんかを迎えにくる月側にあった。

最近の月の政治なんて…地上にいた私にはわからない。

唯一の情報源は永琳しかないもの。

…だけど今回のお迎えに関しては、私は些か不可解なところがあったわね。


…永琳は私に一度も話してくれてはいないけど…私は、あの娘達の事ならあったことがあるもの。


…永琳の教え子達の綿月姉妹。


現状、永琳に次ぐ時期月のリーダー、またはその使者だと言うこと。


…兵器の使用は事前に綿月姉妹の内、どちらかに確認を取ってから使う決まりがあったはず。


…なのに今回は、その事前連絡すらも永琳から密かに聞いていなかった。


これだけで判ることと言えば、現地にいる人物が独断で兵器を許可したこと。…もしくは、月にいる賢者達が永琳やその関係者以外の兵士達皆に密かに伝達されていたのか。…その二つに絞られる。


…あの戦闘で考えられる可能性として高いとするなら後者と考えられるけど…それなら永琳が裏切った時、あの兵士の慌てぶりと兵器を躊躇いながら使う様。

…更には、味方の兵士がいるのに、敵味方両犠牲となる最新鋭のあの爆弾を使ったあれは…どうなるのかしら?


…この事を踏まえるなら事前に知らせを受けていなさそうね。


私の推測通りに考えるならば前者に限りなく近いでしょう。


…後者ならば、永琳が裏切るという予測を事前に立てていないといけないわね。


…必然的に迎えの際の兵器の数は今回の十倍は準備する筈。


万が一抵抗する可能性を踏まえて、地上に降りる前に兵器で地上の妖怪や人間を一掃する。…被害が今回の百倍は広がっていたでしょうね。


……考えたくは無いけどね?



…と、私が考えているその隣では、永琳が私と同じように目を瞑りなにかを考えていた。

…私と似たような事を考えているに違いないわね。


私は永琳に声を掛ける。


「ねぇ、永琳?なにを考えているのかしら?」


「少し、月のことについて考えていました」


やっぱりね。あんなことがあったんだし、流石の永琳でも予測が出来なかったようね。仕方無いわ。

私の脳裏に真っ先に思い付いたのは、月の賢者達であった。


「月ね。…全くだわ。相変わらずあの石頭共は…っ!!ホントに呆れに呆れちゃうわ。…一度は私みたくこの地上落ちてみなさいって!…そうすれば、あの石頭達でも少しは柔らかくなって、まともな判断が出来る様になるんじゃないかしらねぇ?…どう思うかしら?永琳?」


思い出しただけでも腹が立つわ。

あの分からず屋の月の賢者達には幼い頃から嫌な思いをしてきたんだから。

気が付いたら考えより後先に口が動いていたのだった。


…月にいた頃はこんな感情なんて沸いてこなかったわね。



私は、月にいる事が辛かったわ。


…私が知る月は、変わらない日々。穢れが無い。変わったことが一切無い楽しくない世界。感情的になる事が殆ど無い世界なの。


私は幼い頃、その当時から姫と呼ばれていた一番上に立つ存在だったわ。…聞こえは良いけど、それは自由を剥奪された悲しい身でもあったわ。

そんな生活が私はなによりも辛かったわ。

…其処で、兵学や剣術、知識を学ぶついでにどうやったら自由になれるかを調べていたの。そうして閃いたのは、罪を犯して地上に堕ちること。

…ただ、その為には月が産み出した最新鋭の処刑すらをも耐えしのぐ位の理不尽な身体だけだった。…そこで永琳に嘘をついてお願いして作らせた蓬莱の薬を飲む事。…蓬莱の薬は地上にあるとされる仙薬であり飲むだけで不老不死となるが、代わりに身体は月では禁忌とされる穢れを一生背負う事になる。…でも、その罪によって月から地上へと堕とされて自由になれるなら…そう思い、そして……。

…この今に至るまでの一連の流れである私の計画であること。


この計画は私だけ、いえ、さとりや幻月の三人しか知らない秘密の事情なの。



「…姫。お気持ちは察しますが、あまりその様なことは…」



…話は戻すけど、私が永琳に月の賢者達に向けた愚痴をこぼすと永琳は、初めて私の本気の愚痴を聞いた様な顔になって私に返した。



…其処まで驚くような事を言ったつもりはないのだけれど…永琳の反応を見るに私の発言は思った以上に聞くに耐えない言葉だったらしく、珍しく言葉を濁して止めに入った。


永琳は誰かを待っているようで、ソワソワしている。


不意に永琳はさとりのペットのお燐に声をかける。

「ねぇ、そこの黒猫…」


敷かれた座布団の上で丸くなっていた黒猫…もといお燐に話しかける永琳。

そう言えば、永琳にはその黒猫の名前を教えていなかったわね。知っているかと思って黙っていたけど…知らなかったようね。次からは予め伝えておかなきゃね。

…永琳…。今度はなにを考えているの??まぁ、大体は予想は出来るわ。


…ふーん?さとりに続いて黒猫にまで興味を示して、そして、地上の変化についての研究材料にしよう。…なんて企んでいるわね?

…全く、根っからの研究者なんだから。自重はしてほしいわ。


「お燐だよ。名前を覚えてくれ。とは言わないけど…出来ればアタイの事を覚えて欲しいな。…ま、それは貴女の自由だし咎める理由もない。…でも、気楽に呼ばれる方がアタイは気が楽だからさ」


「…そう。なら、お燐。貴女の主…さとりはなにをしているのかしら?」


「さぁてねぇ?…アタイは別に嫌味とか、敵対とかしてないし、言っているつもりもないけどさ。もし、そう聞こえちゃったなら先に謝っておくよ」


猫は気紛れって言うし、前々から見ていたけど…オンとオフの切り替えが早いわね。

その上、あの永琳に躊躇なく話せる辺りは私も見倣うべきかしらね?



「別に良いわよ。私もさとりに助けてもらっている身だし、仲間にも助けて貰っているから。…それにさとりの住む場所に成り行きで一時的に匿ってもらった身でもあるからなんとも思っていないわ。…話が逸れてしまったわね。…続けて頂戴」


…永琳があんなことを言うなんて、珍しいこともあるものね。


「…そうかい。なら続けようか。…さっきの永琳さんがアタイにした質問の返答なんだが…知らないんだよ」


「…アタイは訳あって慕ってはいるけど、さとりの行動と行き先までは深くは知らされていないんだ。悪いねぇ……」


…でしょうね。

私の屋敷に来たときも含めてさとりは自由奔放でマイペースな性格に見えた。…かと思いきや、使命感のある様で皆を巻き込まないように妙に気遣ってくれたりと…意外と大雑把だったりする性格だったりするのかしらね?



「…そもそもの話だ。アタイは色々とあって疲れているんだ。だから、こうして横になっていたんだよ。…もし、どうしても知りたいなら、アタイの他に相方の幻月、その妹の夢月に、幻月を慕っている従者のエリスに聞けば良いよ。アタイよりも上手く教えてくれるかも知れないよ?」





「アタイは不器用だからねぇ……。察しが悪いアタイでも判る。あれくらいは放っておいても大丈夫なのさ。寧ろ、外野がなんか言っても逆効果になることが解っているから仕方無く、アタイ達は見守ったり、付き添ったりしているんだ。…判ったかい?」


…永琳の反応を見るに、そういう見方もあるな。って判断したわね?

…いや、待って?私が思うことがあっていればだけど、その見方もあるって、一体誰のことを想像したの??…まさか…私?

ま、まさかね~??

と、思う私だったが其処にさとりの声が何処かから声が聞こえ現実に引き戻される。



「あの、お燐~?居なければ、夢月かエリスさんでも構いません。…少しお湯がぬるいので火力の調節をお願いします~っ!」



あぁ。あれがあの時言っていた手作りのお風呂ね?

楽しみにしていたとはいえ、まさか本当にあるなんて…信じていなかった。と言ったら嘘になるけど…半分辺りは彼女の出任せかもしれないって思っていたしね。

今日くらいは此処に泊まるんだし、さとりの次は私が入ろうかしらね?


「はいはい。今やるから待っておくれっ!!」


「…お手伝いしますね~」


颯爽とお燐とエリスが駆ける。

しかし、それよりも早く先着者の声が響き渡る。


「…さとりぃ~!!このくらいの火加減で良い~?」


「げ、幻月さん!?ちょ、やめ、あつ、熱いですからぁっ!??」


…幻月とさとり。

この二人は、今日のような騒がしい日常を毎日繰り返している訳なの?

見ていて疲れるわね。


「…て、え、貴女まで入ってくるのは聞いていませんからっ?!ねぇ、聞いてます!!わわっ!?ちょっ!??」


と、私が思いに耽っていたら、いつの間にか幻月は、さとりの入る湯に勝手に入った様ね。



二人が騒いでいる様子が容易に想像できるわ。

…だってさっきから、ドンドンッ!…ガバンッ!!


と暴れる音が聞こえてから…


「…キャァッ!?」

「…良いじゃん。これくらい」

「それとこれとは訳が…あぅ…。ちょ、何処を触っ…ヤン!」

「アハハッ!さとりも案外乙女な声が…アゥ!?や、なんぅ!?」

「…私に恥ずかしい思いをさせたお返しですっ!!」

「やンっ!…もうっ!やったなぁっ!?」


………。

………………。

…………………………。





其処から私は風呂場から聞こえる声に耳を澄ませるのをやめたのだった。

途中からイチャイチャモードになるんだもん。

それにね、途中から私はなにを聞かされているの?



「私は悪ふざけする姉さんを止め……遅かった」



夢月はその声に立ち呆け、溜め息をついてから風呂場に向かった。







……は??????????

私は、頭の中が混乱していた。


さとりと幻月は入ったって、既にわかっていたわ。

えぇ。…わかっていたの。



「えーとぉ…その、お風呂、沸きましたよ?」


さとりの言葉がきこえるが今の現状についていけず、私は放心していた。


お燐達が風呂場の様子を見に行ってから暫く経って、さとりと幻月が上がってきたのだがその隣にいたのは風呂場の様子を見に行った筈のお燐やエリス、夢月までが顔を赤く染め、片手にはタオルを持っていた。




「……。様子を見に行ったんじゃなくて?」


私は風呂場に向かっただけのお燐や夢月、エリスまでもが一緒に入ったことに理解が追い付けなかった。


…あの時、様子を見に行くだけだったはず。夢月に至っては仲裁しに行ったからすぐ戻ってくると思ったのに。

まさか、そのまま流されて風呂に入るなんて…。


「…まぁ、こうなりますよね」


「仕方ないじゃん!皆で入った方が楽しいと思ったからさぁ…」


「…アタイは反対しましたよ。原因はさとりなんですからね?」


「姉さんに抗えず、そのまま私は流されるまま入りました」


「…全部、幻月様のせいですからね?責任…取ってくださいよ?」



私の質問にそれぞれ答える。

幻月とさとり。一体風呂場でなにをさせたの??ホント。



「…そ、そう。この話は深掘りすると色々とヤバそうだし、後で聞くわね」


「…そうしてくれると助かります」


「…いやぁ、助かります。じゃないのさ…アタイらに何してくれてんのさ…アンタは酔ったおっさんなのかい?」


「…いえ?私は女の子ですし、表現的におっさんじゃなくてお姉さんですよ?」


「…ツッコむところそこじゃないです」


「…まぁ、夢月様。ツッコむだけ無駄ですよ。…あのお風呂の熱に当てられておかしくなったのは、さとりさんが初めてですし…幻月様には、以前から色々と私達も経験済みですし…ね?」 


とエリスが言うと申し訳無さそうに幻月が口を開く。



「…はへぇっ?!…その…お風呂に入ってイチャイチャしてまでは覚えているけど、えと、お燐達が来てからの記憶が一切無いんだけど…。一体私は、お燐達になにしてたの……?」


「……まぁ、色々と…です」


幻月の質問に目を逸らしながら答える。



「さとりぃ!?…ねぇ、教えてよぉ~!!私のイメージが崩れちゃうぅ~?!」


さとりの肩に抱き付いて泣く。



「……既に手遅れだと思うけど」


私はそう思うのだった。


「……こほん。姫様。…そして、皆様。つもる話は其処までにして頂けますか?」


はっ!?

私としたことが、さとり達の話に流されてしまうところだったわ。

私は…そう。

さとり達がお風呂から上がったら今度は私がそのお風呂とやらを体験したかったの。

いえ?入ったことはあるわよ。今の言葉には語弊が生まれそうね。私が言いたいのは、さとり達が独学で作ったというお風呂に入りたいって、意味よ?勘違いしないでよね?



「…そうね。永琳。助かったわ。で、さとり。お風呂が空いたのよね?」


食い込みで私はさとりに話を続ける。

「…えぇ。そうですよ。といっても話に花が咲いて少し遅れちゃいましたが」


「構わないわ。…永琳、判っているわね?」


「はい。姫様からどうぞ」


「…えぇ。行ってくるわ」


永琳に見送られながら私はさとり達が作ったとされる風呂場に向かった。

さて、どんな

雰囲気のお風呂なのかしらね?実に楽しみだわ。










………。

…………………。

…………………………。






輝夜さんがお風呂に向かい湯船に浸かっている頃。

私はお燐とエリスにお風呂の火力調整を任せてとあるところへ向かった。

勿論、幻月も私の行動は読めておりついてくることになった。

此処で珍しいのは夢月も付き添ってついてきたところだ。理由を私が聞いたところ。

「…特にって言う理由はありません。ただ、姉さんがさとりとどんなところへ行き、どんな経験をしてきたのかをこの目で見たいだけ。…それだけです」


…と返された。

幻月は素直じゃないなぁ~?

…って、言っていましたが実際にその通りで、嘘偽りなく話していました。

…私達が経験した現場を見たい。ただそれだけの理由みたいです。

他は、幻月さんと同じ様に心が途中から読み取れなくなりましたので。

その事に気がついたのか、夢月は私にゆっくりと歩みより

「…私の心を盗み見るなんて…余程私が珍しかったですか?…それとも?」


「いえ?ただ、いつもなら二人で行かせる筈なのに、今回は夢月さんもついてくるのが余りにも突然すぎてつい」


「まぁ、良いです。姉さんに危害が及ばない限りは…。知ってます?さとりさん。心を、そのサードアイで読まれた時。…霊感とか妖力、私達見たいな力がある妖怪が対象な場合、その行動が筒抜けになるんです。…体感的には…胸の辺りが気持ち悪くなる程度。…でも、これだけは判って下さい。安易に使いすぎれば、身を滅ぼします…それも物理的にも精神的にもね?」


「…。ありがとうございます。夢月さん。肝に命じておきます」


「…あんまり駄弁ると姉さんが逆にこの話に興味をもって話が長くなってしまいますから」


「…判っています」


夢月と話し終わり、また歩き出すと幻月が戻ってきている最中だった。


「なぁに、話していたのっ♪」


と、無邪気に私に話しかけてくる幻月。


「いえ。大した話はしてませんよ。私の同族の事をどうするかを考えていたんですよ」


と、軽めに嘘をつくと幻月はがっかりして溜め息を一つつく。そして後ろを向きながら此方に向けて話を続ける。


「そうかなぁ…。遅いからなにしているのと思ったのに…残念。…ま、さとり。人をあんまり疑いすぎちゃ駄目だよ。…あ、駄目って訳じゃないけど…少しは、いや、たまには心から信用してその場の流れに従うのも大事って言う意味だから」

幻月は言い終わると急に回転して私の方を向く。


正直、歩き出すと思っていたからビックリしましたよ。

「…だってさ、さとりは元々他人に気を配りすぎるからさ。…気を張りすぎると余計に心とか体に負担がかかっちゃうでしょ?…ね?…私はそれを心配したんだよ。…判った?」


と、いきなり幻月はこちらを覗き込む様な体勢になる。…腰を低く左腕を後ろに回し、右手の人差し指を口元に立てながら口を開いたのだった。


「…えぇ。勿論。ありがとうございます。幻月。そろころ行きましょう。こうしていたいのはやまやまですが、早くしないと輝夜さんと永琳さんにまた心配をかけてしまいますから」


う。

非常に、ず、ズルいですよぉ!

こんな時だけこんな笑顔を出すなんて…!!

なんですか??

恋愛ドラマかなにかですか!?

もぅ、ドキっとしてしまった自分が情けないです。



私の顔を覗き込んでいた幻月は急にシュンとなる。…なぜか今度は私の方を見て静かに笑いだした。



「動揺しないん”だ”ね。…少しは、”い”いじゃん。”スキ”を見せてドキッとしてくれても”さ”ぁ…。…”と”り”敢えずやってみたけど…なぁんか損した気分。…まぁ、そうだね。”さとり”の…フフフッ♪……言う通りに、しよっかっ♪」


意味深に何を強調して……。

~~~~~っ!?


あ、貴女、ゆ、百合好きだったのです!?


「~っ?!…な、なに笑っているんですかぁ!?…い、行きますよっ!!」



私は、幻月さんの言葉に顔が急に熱くなってしまった。逃げ出すかのようにその場から立ち去る。


今の会話で判らないなと思っても追求はしては行けませんよ!?判りました!?



コホン。…そ、そんなどうでも良い話は置いておいて、話を戻しましょう。


現在私達は、ある場所に向かっていた。

一応、この服は一回り大きいのでサードアイも隠すことが出来た。


本当なら、私はもう行ってはいけないところ…なのですがね…。

…ここまで私達が首を突っ込んだのなら、最後くらい結末を知りたいですし。




途中、幻月が『からかってゴメンって…』と、謝りながら近付いてくる。

私は、『別に怒っていませんよ』と苦笑しながら返すのだった。







再生中の左腕を撫でながら空へと飛び上がる。

幻月と夢月も私に続いて飛ぶ。


高く上がった日に照らされて遠くにチラチラと見えた。





「…夢月。あそこが私と幻月。そして、半妖の子を見つけた場所だよ」



「……そうなんですね」


夢月は幻月の言葉に頷きながら周りを見渡していた。


…もう其処まで燃えてしまったんですね…。

でも、私が行くのを止める理由にはならない。


だんだんと炎が大きくなり燃えているものが鮮明になって来る。

ある程度近付いたところでいつもしていたように歩きへと切り替える。


……いつもの癖だ。


「綺麗に燃えてますね…」


「ホントそうだね…。はぁ…」


「どうしたのですか?」


「…いや、私達が戦ったあの戦場。元々は立派なお屋敷…私達が妹紅ちゃんと遊んだ記憶が甦るんだよ」


確かに。

この光景は、私達が妹紅と遊んだ場所だ。


こうして燃え広がっている様子を見ていると、当時の情景が思い起こされる。

幻月さんの気持ちもわからなくない。だけど…


「…そうですね。でも私達はあの時は妹紅の父親…不比等さんにも身分を偽って接していました。…私達は妖。あの方達は人間。本当は交わってはいけない存在なんです。…人情に関わっていては、暮らしていけないと私は思います。解りますよね?」


「…っ。そうだね。判った」



人と妖の存在は生きる年月も思考も全く違う。

妖怪として暮らすなら、いちいち構っていられないのだ。



「さて、行きますよ。踏み止まっては死んだ人達にも失礼です」


「………」


「行きますよ。姉さん。…私達は二人で一人。貴女から生まれたんだから記憶も同じ。判るから」


「…うん」


幻月は渋々承諾してついてきた。

気持ちは痛いほど判りますが、早くしないと輝夜さんと永琳さんを心配させますからね。



奥へと進む内に周りの景色が変わっていく。

高くまで上がった火はその場にあるもの全てを飲み込み盛んに燃え広がっていた。


庭にあった木だったモノも真っ赤な葉っぱをくっつけて風に舞っている。


女中や護衛の武士は逃げてしまったのか、あの炎の中で悶えているのか…


私には解らない。

幻月も珍しく何も言わずに、顔を伏せていた。


「…大丈夫ですか?」


「…うん。聞こえる声を聞こえない様に工夫しているだけだから、気にしないで」


……。

中にやっぱり少しはいるんですね。

ですけど、幻月は助けようとしない。

恐らくは、既に死にかけなのか……それとも致命傷で助けようにも助けられない怪我を負っているのか…。 

どちらにせよ苦痛の声なのは想像に難くない。



「そうですね。判りました。ですけど、何かあったら言って下さい。余計に心配をしてしまいますので」


「……判った」




幻月さんは此処に来てから良くないですよね。

…私も例外なく若干精神に堪える。


「さとり。姉さん。念押ししますが…無理したら駄目ですからね。その為に私がついてきたんですから」


「ありがとうございます」


「ありがと。夢月」


「……礼には及びません。姉さんの友人が倒れたら、悲しむのは姉さんですから。嫌な思いはさせたくない妹なりの我が儘です。…気にしないでください」



「判っていますよ」




私達は、それでも歩み続けた。

さっきのことをまとめると、激しく炎上した家にはもう何もないということしかわからなかった。



「…分かっていましたから。…どうせ、こうなるってことは…」


それでも私はあえてこっちを選んだ。その選択肢に悔いはない。


「本当に?さとり。後悔してない?」


…正直に言うと後悔してますよ。


でも、あそこから助けられる方法なんて無いに等しかったんです。


不比等さんが助けられないなら、せめて、あの妹紅さんに説明したかったんですけど……。


『本当は、もっと良い方法があったのでは?…あんな別れ方って…ありなんですか?』

…こんな問いかけを無意味な問いかけを、心のなかでひたすらに繰り返していた。


これは、妹紅さんに向かっていったのか、それとも私自身へのものなのか…。


「…幻月さん。…妹紅さんと別れる時を覚えてますよね?」


「…うん」


「…どう思います?その、あの不比等さんにしろ、妹紅さんにしろ…こんな別れ方って…ありだと思います?」


自分にも問いかけていた問題を幻月さんにも問いかける。


「……。…難しいなぁ…。…避けられぬ運命。……としか…言えないなぁ…」



幻月さんにも答えられないこの問いかけは自然と炎と一緒に燃えていく。




「…もうどうでもいいや」

私はいつまでも此処にいるわけにいくまいと思い気持ちを切り替えて、未だに燃え盛る藤原の屋敷を飛び去った。


幻月は、途中何かに気付いた様で私には話しかけてきたが、その時の私は何も聞こえておらず、記憶の整理に集中していたのだった。



…もう、あそこに用はない、私の中であそこはただの場所になった。

…忘れてはいけないだろうが…思い出すと非常に辛いのでわざわざ思い出す必要はない。





「………っ」


燃え上がる建物に向けて一発だけ弾幕を撃つ。

私の手元を離れた弾幕は真っ直ぐ、真っ直ぐ飛んでいきまだ火の手が回っていない縁側を吹き飛ばした。


「…あっ!?さとりぃ…。貴女…なんて事を…」

その光景をみた幻月は思わず衝撃を受けた様だ。


「……良いんです。もう、私達を怨んでいるだろうと思いますし、もう会いたくもないとも思っているでしょうし」


「…そ、そんな事…は。…ぅ。」


幻月が想うのもそうだ。

吹き飛ばした場所は、私達二人と妹紅さんと初めて出会った場所だったのだ。


「………」


「…姉さん。悔しい気持ちは判りますが、今のさとりさんにはなにも届きません。…諦めましょう」


「………判っているよ。夢月。さとり」



幻月や夢月に映る私の顔はどうなっているだろうか?


相変わらずの無表情なのか…それともなにかしらの感情が表にでているのか。

…手を頬に当ててみる。


それで分かる筈もなく、結局無駄な行為であったとしか結論は出ない。


幻月さんの顔は、悲しみに暮れており、夢月さんは私に似て無表情。…だけど、若干怒りと哀愁がこもっていたように見えたのだった。




私達は少し時間をかけて、今日二度目のただいまをする。瀕死の重症なのは変わりないのであまり無理は出来ない。事実、私の体力はもう限界だった。

幻月は私が入ってから、エリスの事を呼んで何かを話していた。


今すぐでも布団に倒れこんで寝たい。だが、布団は半妖の為に使っているから、暫くは無理。


布団がなくてもいいかと思いなおし、改めて床に寝っ転がった。

夢月の気配がするも何かを悟ったのか、気配が遠ざかる。

…幻月から半分に別れた同じ存在。…だからなのだろうか、姉妹同じく察したのだろう。

ただ、違うのは幻月は雰囲気で察するのが上手いのに対し夢月はまだあったことがない出来事に対して直感で察するのが上手いことである。


話は逸れたが輝夜達は、まだお風呂に入っているのだろう。

奥の方でガヤガヤとした声が聞こえてくる。



私達の帰宅に気付いたのか、ルーミアが隣の部屋から顔を出した。幻月がルーミアと話す声が聞こえる…。

ただ、それに反応する前に私の意識は闇の中に落ちてしまった。

完全に落ちる前に、幻月の笑う声とルーミアさんの溜め息声が聞こえたのだった…。







四時間後……



感覚的にさっき意識が途切れたばかりといった感じ。ですが、体はかなりマシになったのか軽く感じる。




いつの間にか布団に寝かされた体を起こす。多分、意識が途切れる前に聞こえたルーミアさんと幻月さんが寝かせてくれたのだろう。隣には、あの半妖がスヤスヤと寝ていた。


…まだ、起きないのですか。


相当、この子も大変だったのでしょう。


今では緑色にすっかりと変わってしまった髪を撫でる。


外は少し朝日が昇った所であり、時間帯的に午前5時か6時かと思われる。


ふと、意識を外に向けると襖を隔てた隣の部屋から人の気配がした。



体を回し左腕で襖を開ける。



「あぁ~さとりさん。おはようございます~。…よく眠れましたかぁ~?」


エリスさんの優しくマイペースな声が響く。それを、聞き付けて最初にお燐が来た。それに続き、永琳、輝夜と幻月。最後にルーミアさんが来た。

夢月はというと、朝食の為の仕込みとその準備らしく手が離せないとのこと。



月の二人は、私が寝ている間に計三回は入ったらしく、永琳から理由を聞くと姫様が気に入ったらしくこと在ることに入ろうと促すものだからついつい流された。らしい。


なので、今の二人の服装は、お燐とルーミアさん様に買っておいた浴衣に近いものに袖を通している。

一方は青を基調としたモノでお燐様にと買ったのだが、それを、来ているのは輝夜である。

以外にも似合う服装に羨ましくも思えた。


もう一方は黒をベースとしたモノであり、それを着ているのは永琳であった。

どっちも凄く似合っている。


ふと、私が意外そうにしている顔を永琳の方に向けると、不満に思ったのか永琳は口を開いた。


「何かしら?まさか、この色をベースにした服が似合わない。なんて思っていたんじゃないんでしょうね?」


「いえいえ。まさかそんな。永琳さんは青を基調とした奴を選ぶと思っていましたので。ちょっぴり意外だったな~って言うのが一つと。黒でもカッコいい位に似合うって思っただけです」


「…そうなのね。まぁ、そういうことにしておきましょうか」


何がそうなんです??

勝手に解釈されると困るんですが……。

永琳は私の言葉に照れていたが、すぐに表情が戻った。

…切り替えがホント上手いな…。



そんな事をしていると夢月が朝食を持ってくる。


「皆さん。出来ましたよ。…あ、さとりさん。起きたんですね?おはようございます。よく眠れましたか?」


「…えぇ。貴女達のお陰でぐっすりと…です」


「それは、良かった。…さてと、世間話も面白いと思いますが…。それだとせっかくのご飯が冷めてしまいますし…エリスに姉さん。ルーミアとお燐も手伝ってよ」


夢月が作ったご飯は、手の込んだ味付けご飯であった。

「…本当に美味しそうなご飯ですね。これはだれが…?」


「あたいが頑張ったんだよ!」


お燐の自己主張の後、夢月が話してないで早く手伝ってと言われ渋々奥へと消えていく。


その後にお燐の気持ちを軽く読んだ。…なるほど、ルーミアさんに手伝ってもらいながら味付けとか火加減とかを教えたのですね?お疲れ様です。

軽くなので深くは解らないが、若干エリスから叱られていたり、夢月から酷使されて溜め息ついている様子も読み取れた。

…ホント頑張りましたね?私の為に…お燐。


残された私と輝夜と永琳は暫し無言だった。


その後、永琳が最初に口を開いた。


「……それにしても、本当に凄い回復力よね?」


「あはは……。誉めてもなにも出ませんよ」


「…永琳はさとりの事を褒めてないわよ…?」


輝夜の言葉で私ははっとする。

そうだった。永琳は私を研究対象としてもみているんだった…。

今の言葉は褒めているとも捉えても良いけど概ね誉めると言うより、若干皮肉も言われている気が…


「…え?」


「……誉めているわよ。ちゃんと」


…はいはい。

これも嘘ですね。目が泳いじゃっていますし…確定ですね…。




本当ならもう少し静かにしていたかった。

出来ればこのぐちゃぐちゃしたこの気持ちを整理してからゆったりと話していたいのが本音だ。


まぁ……今のうちに、みんなのぬくもりを感じるくらい。良いですよね?

心を落ち着かせるのは、もう少し後でも遅くは無いですし。


「……っ。私も…お腹が空いたので…お願いします」


「判ったーっ!今、さとりの分も用意するから待っているのだーっ!!」


奥にいたルーミアさんが私の声に反応して顔を出し、笑顔でご飯の準備を進めるのだった。



ルーミアさんの後ろで幻月はさとりの表情を見てこう呟く。


「…さとり。…良い表情も出来るんだね?…嬉しく思うよ」


……そう。

幻月からみて、一瞬だけだがさとりが笑みを溢した…。

そんな風に見えたらしい。








閑話休題………








時間はあれから少し経った。

一緒に朝食を食べ、少しゴタゴタが落ち着いたな。…と思っていた次の日、永琳と輝夜は何処かへと居なくなっていた。

…少しは、私達に見送りの挨拶くらいさせて下さいよ。お世話になって親しい会話をした仲なのに…いえ、

『いつか再会しましょう』


という挨拶くらいはしたかったのですが…。


永琳は、これ以上は迷惑は掛けられないと。


幻月は永琳達を見送ったらしい。

その時に永琳は、幻月にこう伝えた。

『なにもしなくても月の人達がここにきてしまう事は、明確だから行き先は伝えないし見送りはいらない』…とのこと。



話は変わるが、輝夜さんが居なくなった後、丸々2日も経った。


今となってはあの戦闘の出来事も徐々におさまりつつあった。


ルーミアさんはその2日の間に私達の家に大穴を開けて何処かへと消え去っていた。

旧友との約束らしく、私達に話すことは無かったようだ。どちらかといったら悪友とも呼べる仲…そんなヒト関係らしい。深くは知らないが。









私達は半妖の子……というか、半妖にした子はまだ目覚めない。出発する前に永琳に診断して貰ったが、どうやら肉体的というよりも精神的なものらしく、それで眠っているとか。


まぁ、ただの人間からいきなり妖怪。それもさとり妖怪だ。少なからず脳や精神に変化やなにかが発生するのも仕方がないものです。


寝かせておけとの永琳の助言をしっかりと守っておくしか私達には出来ないのが、ちょっともどかしいです。



「……これでよし」


寝ているお燐の毛繕いを終えて体を伸ばす。

家の外に出る機会が無いので、最近はこうして暇を弄ぶしかやることが無い。

そうそう。知らないかも知れませんが、私の左腕はあの四時間寝た時に完治しましたのでご心配なく。

知ってる?なら、良いです。余計なお世話でしたね。


ガタンッ。


扉が閉じるおとが聞こえる。

その方角を見ると幻月がお菓子と紅茶を持ってきていた。


「暇でしょ?…なら、久しぶりに駄弁ろうよ。紅茶とお菓子を食べながらさ」


「良い提案ですね。…ご厚意に感謝しますね」


「やだなぁ。…昔ながらの馴染みって奴だよ。私だって最近、暇だからこうして夢月からお菓子作りとか紅茶の入れ方位を学んだんだから」


「…フフッ。そうでしたね。じゃ、ありがたく頂きます」


幻月は持っていたお盆をちょっとしたテーブルに置いた。


早速私は作ったクッキーをつまんで口に入れた。


「…美味しいですね」


「でしょ~?」


無垢な笑みを見せる幻月。


それとは別に私なりの暇を潰す方法を考える。

せめて、本とかあれば良いんですが…今度作って見ようかな。




そんな感じで幻月が作ったクッキーを食べつつ幻月との会話に花を咲かせていると、背にしている寝室の方からガサガサという音がし始める。


幻月も気付いたようで、あっ。と呟く。


「…ついに、貴女もお姉さんか…感慨深いな…」


「茶化さないで下さい」

「悪かったよ。ゴメン」


バッサリと話を切り、起きたのだろう半妖の子の様子を見に行く。



驚かさない様にゆっくりと近付き扉を開ける。


開けた瞬間に扉の向こうから小さく『……ぁ』と聞こえる。


…多分、私と同じタイミングで扉に手をかけたのでしょう。

先に開けられてびっくりしてしまった様ですね。




「……ぁ。ぇと、そのぉ…」



と目の前の少女は恐る恐ると口を開いた。


この様子を見るにあまり表に出ない子なのでしょう。


「…ゆっくりと話して下さい。焦らなくても良いですから」


少女に優しく語りかけた。


「…はい。……。…その、ありがとうございます。…あの時、助けて頂いて」


「…いえいえ。お構い無く」


私は目の前の少女が話しやすいように促す。


「…その、良かったら…お姉ちゃんの名前、聞いても…良いですか?」


「…私の名前は、古明地さとりです。…さとり妖怪という妖怪の仲間です」


と自己紹介をすると少女は首を傾げる。

さとり妖怪の事を知らないのでしょうか?


貴女の胸元にも私と同じサードアイが生えていますけど…気付きそうなものですが…


「さと…り…?よう、かい??…じゃあ、そっちのお姉ちゃんは…?」


「私は幻月。漢字で書くと幻という字に空に浮かぶ月と言う漢字を組み合わせてげんげつって読むよ。種族は…。そうだね。まとめてしまえば妖怪だけど…種族名は妖怪じゃなくて、悪魔かな~」


「…???…あく…ま?…ようかい??……よく判らないけど…お姉ちゃん達は妖怪で、私を助けた力も妖怪なんだよね?」



う~ん?

理解が追い付いていない気がしますね…。



と其処に。


『あたいの存在を忘れないでおくれよ。さとり』


とお燐がいつもの様に私に対しての反論を口にする。


その心の声に反応したのは私以外にもいた。


「……えっ!??誰ぇっ!?…え?猫さん?猫さんが喋ったの!?」


そう言えば、私がこの娘をさとり妖怪にしたんでした。

お燐はその事を知らなかった様で、私に向けて溜め息を一つつく。


『なんだい?知らなかったのかい。…と言うより…さとり。最初に伝えておいてくれないかい?そうじゃなかったらあたいは人型で話したというのにさ』


「すみません。お燐。…まさか、もう其処までさとり妖怪となっていたとは…知りませんでしたので」


その言葉に…ふぅ。と言葉をこぼした。

多分、呆れられているんだろう。

いつもの事だしね?仕方無いさ。…と。


その後、お燐は目覚めた半妖の少女に向けて再び話しかける。


『…まぁ、仕方ないか。…普通は人型以外には聞こえない心の声だしね?…こほん。それはおいといて、あたいの名前はお燐だよ。種族は…いいか。ともかくよろしく頼むよ』

お燐は言葉巧みに簡潔話を締めた。


「…ぇ?あ、ぅ。…よ、よろしくお願いします…お燐さん」


少女はそのお燐の声に恐縮する。

それを察したのかお燐は笑いながら心の声で話す。


『…そんな”さん”付けなんて……そのままお燐で構わないよ。別に嫌じゃないしね』


「…う、うん」



『さとり。あたいは、紅茶を入れてくるよ』


「えぇ。行ってらっしゃい」


自己紹介を済ませたお燐は、私の膝の上から降りると人型に戻った。


「…あ、猫さ…ううん。お燐が…」


「アハハ。初めてこの光景を見た人は皆驚くよねぇ。…ゆっくりとさとり達と一緒に少し待っておくれよ。美味しい紅茶というモノを持ってくるからさ」


「う、うん」


と一通り話し区切りが良いと思ったのかお燐は部屋から退室する。


残ったの私と幻月、半妖の少女の三人だけだ。


少し落ち着いた所で私から話を切り出すことにした。

「こほん。…えっと、どの辺りからお話した方がいいでしょうか?」


「…その、えと。まず、色々と話が滅茶苦茶に飛んじゃっているから、判らなくて…。あの、どの話…ですか……?」


…。

色々と話を聞きたい所ですが、現状、最初の話の切り方が不味かったと思う。

そのせいで話の切り方が浮かんでこない。



「……私だと話がややこしくなりそうです」

どうしようか悩んでいた私は、うっかり口にだしてしまった。


「…さとり、任せて」

幻月が私の心境に気付いたのか小声で私に助け船をだしてくれる。

「……すみません。お願いしても?」


「任せてよ」


幻月は私の言葉に頷き、私の代わりに聞いてくれる。


「…ねぇ。…まずは聞きたいんだけど、貴女が此処までで何があったのか…。…私達が出会った後の話とか…。まだあるんだけど、他に私達から説明が必要な所とかがあるかな?」


「あ。え~と。…その、ごめんなさい。出来れば、全部お願いしても…良いですか??」

幻月は半妖の少女に何を私達に聞きたいのかを訪ねてみる。…すると、少女は申し訳なさそうに返した。


「……だってさ、さとり」


ここで私に降るのか…。


…はぁ。


「…えぇ。判りました。良いですよ。…幻月。貴女からも説明をおねがいしますよ?」

「ぅ、えぇ……。…ハイハイ。友人から頼みは断れないし…。…ま、了解したよ~」


気だるそうに幻月は私の誘いを受け入れてくれる。


…少々、気に障りますが…

いつもの幻月だから…仕方無い。…と思いましょう


私は半妖の少女に此処までで何があったのか。貴女の事をどうやって助けたのか。此処はどこなのか。…等々を最初から順々に話していく。

変に隠したりしても逆効果ですし…いえ、隠す必要も無いですね。

大まかに出来事を説明していく。私がさとり妖怪な事…は、自己紹介で話したので私はどんな妖怪なのか、貴女を助けた代償に貴女は妖怪になった事を。

…まぁ、詳細を省きますが色々と話しました。

幻月さんも言葉選びに協力してくれたおかげで質問なくスムーズに話が進んだ。

と言うより、理解が早くて相槌をうってくれるこの子のお蔭で話しやすかった面もあったかもしれない。


「……さとりさんと幻月さんの話。解りやすかったです。…理解が足りているか不安ですけど…つまり私はさとりさんと同じ様に心が読めちゃうって事ですか?」



「いえ、まだ、確証は無いですけど…心を読めるのはさっきのお燐さんの声が聞こえたのが心を読んでいる証拠なんです。…ただ、貴女はまだ半妖なので何処まで能力が使えるかは判らないんですよ」


何か納得したような…悩ましいような…微妙な表情になった。

……私の説明に何か納得がいかないことでもあったのでしょうか?


「うーん。どうだろうなぁ…?たまにお姉ちゃんが考えていることが聞こえる事があるけど…。私がそれを意識してみても何も聞こえないんだ…」


成る程、私の考えていることが聞こえない。…と。


「そうですね。なら、こう考えてはどうでしょう。同じさとり妖怪だから心が読めない。…いえ、どちらかというと貴女がさとり妖怪になったばかりなので心を読む能力を使いこなせてはいないんじゃないんでしょうか?」


私が提示したのはあくまでも同じさとり妖怪だから、心を読めない事を伝えるのではなく能力が使いこなせてないだけで慣れれば私の心を読めるようになれる。…そう優しい嘘をつきました。


…いいえ、強ち嘘じゃないかもしれませんね。

実際にあの娘には私の心が聞こえていました。…意図もせずに無意識で話が進んじゃってますし、事実、私もその事を尋ねずに淡々と会話が続いちゃってますからね。


「…そうなのかなぁ。…うん。判ったよ。お姉ちゃん!」


「そうですか、それなら良かったです。…ただ…」

「んぅ??どうしたの~?お姉ちゃん??」


この娘がさっきから平然と呼んでいるお姉ちゃん呼び。

いつ私が貴女のお姉ちゃんになったんでしょう?



「そのお姉ちゃんって私ですか?」

「うんっ!私のお姉ちゃん以外に何があるの??」


「い、いえ…。別になんにも…」


とふと横を気にすると幻月がニヤニヤしてこっちを見ていた。


「………なんです?幻月さん。言いたいことがあるのならで口で言ってください」


「いやね~。遂にさとりにも妹が出来たと思うと…感慨深いなぁ~って思ってさ」


「茶化さないでください!」


「ゴメンって!」

「……全く」


隙があればこうやってからかう…。


「あの…楽しいお話中すみません…。その、さとりさん」


恐る恐ると私達の会話に入って来た半妖の娘は私に声をかける。


「…あ、すみません。…えーと、別の話に夢中になってしまい」


「…ううん。良いよ。続けて」


「…そうですか。判りました。…では、貴女に単刀直入に訊きます。…貴女はどうしたいですか?」


「たんとー…ちょくにゅ~??……う、う~ん。えーと、どうしたいって…どういう…?」


私からの問いかけに戸惑う。

それは、そうですよね。どうしたいか?…だけを聞いたって、回答に困るのも当たり前ですよね。


「…すみません。言い方が悪かったですね。…さっきの質問は、私と一緒に来ませんか?って意味なんです。貴女がもし嫌でしたら、私達は無理にとは言いませんので。…貴女の判断に任せます」


「さとり。…それって」

私のこの言葉に察した幻月は、言葉少ないながら真剣な表情で訊いてくる。



「そうですよ。幻月さん。貴女が思う通りだと思います。…でも、もう決まっていますから。悔いは無いです」


「…はぁ。そういう問題じゃないんだけど…。今に始まった事じゃないし別に気にしないけどね。ま、さとりが決めたのならそれに従うって決めているから。それじゃ私からは異議無~し!…ってね?」



「ありがとうございます。幻月さん」



幻月さんは言わずとも察してくれましたが、見ている皆さんは判らないですよね?簡単に説明するとこの娘に委ねたのはこれからこの娘が歩む道の他、私達の命も委ねたのも同然。


それこそ、最悪の場合、この娘がもし有無も言わせずに妖怪にさせた私達を恨んでいるのならば、この娘が私達を殺したい。…って思ったならそれを今行動に移しても良いし、私達は抵抗せずに殺されても構わないって意味合いでもあるんです。実質、死刑宣告みたいなモノですね。…でも、それは仕方無い事なんです。実際の責任は私達なんですから。…責任として…償うって事で…最悪、死んでも良いんですから。

…いえ、悲観的になってはいけないですね。

そうしたらまた、幻月さんから説教を受けてしまいます。此処は我慢するとしましょう。


「…それで、どうなのかなぁ?あなたはどうしたいの?」


幻月さんが、ゆっくりと尋ねる。


「い、嫌じゃないです!寧ろ、助けてくれて感謝していますからっ!!」


「…本当に良いんですか?…怒っても良いんですからね?私は…いえ、私達は、貴女を地獄の底よりも酷いところに連れて行ってしまったのかもしれないんですよ?」


「…さとり。いくらなんでも言い過ぎなんじゃ…」


「ううん。大丈夫です。幻月さん。…確かにですけど、さとりさんの言うことも判ります。もしかしたら、私は人間だった方が良かったのかもしれない。…人間だった方が、もしかしたら良い待遇が待っていたのかもしれない。…ですけど、良いんです。…これで。……だって、私…。…人間だった頃の記憶が…あんまり…覚えていないんです…。…でも、私が覚えてなくても、身体が感覚的に覚えているというか…なんというか…。…人間だった頃は…嫌な気分しか感じてなかったんです」


成る程。ようするに人間の頃の方が今の状況よりも酷かった可能性があると。


人間だった頃を思い出そうとしても思い出せない悔しさなのか…それとも微かに残る感覚が嫌で仕方無いのか…顔をしかめていた。

…それを本人が気付いていないという事はそうとうなモノだろう。


「……ねぇ。さとり。思ったんだけどさ…。その娘みたいな感じに、自分の行動すら無意識で全く気付かない妖怪っていたよね?」


「…幻月さん。…それって、まさかこの娘は私の妹の古明地こi……」


私がいいかけた所で扉が開いた。


「さとり、幻月。…そして、目覚めたその娘も。お待たせしたねぇ~。アタイが入れた、紅茶持ってきたよ~」


とお燐が入れた紅茶をお盆に乗せて持ってきた。

…ちゃっかりと自分の分も作って持ってきていた。


「あ、お燐。お帰りなさい」


「ありゃ、お話の途中でしたか?…もしかして、タイミング…悪かったですかねぇ?」


「…ううん。大丈夫。寧ろタイミングが、良かったと言えるべきかな」


「そうなのかい。…まぁ、それなら、アタイが入れた紅茶で一息しましょうよ」


「…そ、そうですね。…判りました。積もる話は追々話すとして、幻月さん。…お燐。そして、その…えっと…」



私が皆の名前を呼ぶ中で、一人だけまだ私達に名前を明かしてない事に気付き、口が閉じてしまう。



私が呼びづらそうにしている様子をみて目の前の少女は、一度う~んと唸ってから此方に向けて口を開いた。


「………こいし」



「「「え??」」」

その一言に、お燐は純粋な疑問。私はその逆。驚愕と感嘆の混じった声。幻月は、二人とは違い歓喜と安堵のこもった声を上げてしまう。



「私の名前はこいし!!名乗って無かった!ゴメンね!!」


お、覚えていたのですか!?というか、何その偶然!


「こいしって言うんだね。宜しくね!」


お燐は、紅茶を一口啜る。

その後に此方をゆっくりと向いた。


「…さとり。まさかとは思ったけど、名前をあの娘から聞いていなかったんだね?」



「え?あ、ま、まぁ。そ、そういうことに、なりますね?…忘れていましたよ」


上手い嘘が着けず、結局いつも通りのうやむやな回答になってしまう。


「ふ~ん。珍しい事もあるもんだねぇ。…いつものさとりならまず先に名前を聞こうとするというのにさ。…変な所で気遣いするんだねぇ…」


「…ほっといて下さい」


「はいはい」



私の冷たい態度に呆れながら紅茶を飲み始めるお燐。


「…あの二人はいつもの事だからほっといて良いから。…取り敢えず、改めて、宜しくね?こいしちゃん?」


そんな会話をしていたらいつの間にか幻月さんはこいしと改めての挨拶を交わしていた。

いつもの事で片付けて欲しくないものです。全く。


「…えー。挨拶が遅れましたが、私はさとりです。改めて宜しくお願いしますね?」


「はい!宜しくお願いします!!」


「あ、そうでした。敬語をわざわざ使わなくても良いですよ。…私もさん付けはいりませんので、貴女が呼びたい名前で読んでもらって構いませんよ。私も同じ様に呼びますから」


あまり堅苦しいのは好きではない。特にこれから同じ屋根の下で過ごすなら尚更である。


敬語はいらないって言われてなにやら迷っているみたいだ。私とは対照的にこの娘はかなり表情豊かだ。

「判ったよ!お姉ちゃん!!」


「ふ、再びそう言われるとは……」


この前にもこいしにそう呼ばれた。


…が、恐らくその時はまだ無自覚だったんでしょう。

意識せずに話していたのだから仕方無いと致しましょう。


「ほ~ら。いい加減認めちゃいなよっ♪こいしは、貴女の妹だってね?」


「良いじゃないか。どうせ、あの娘は私達の家族になるんだ。…なら、アンタの妹って事にしちゃえば良いし、妹って事なら名字の古明地を取って古明地こいしって事にしてしまえば、一躍有名になるかもねぇ?」


「ちょっ!?…こ、こらっ!また勝手な事を言い出して…!幻月!お燐!!」


「……えっ!?良いのっ?!やったぁ~!!!」


あの、私はまだ良いとは一言も言っていませんが…いや、駄目ってことも絶対にあるはずないんですけどね。

それに…あんなに眩しい笑顔をしていては、断れるわけ

無いじゃないですか。

これを断るって血も涙もない冷酷野郎ですよ。

「それじゃ……今日は豪華な食事にしますか」


「えっ!?やったぁ~!!」


「なんで、お燐が喜ぶのさ…」


「…同感です。…では、こいしが家へと住む記念として豪華な食事の為の準備のために一旦皆を集めておきましょうか」


「さんせ~い!!」



「別に貴女の記念日じゃないのよ??」


お燐がはしゃぐのは勝手だけど…これはこいし誕生記念の祝いであって貴女のじゃ無いのよ?

…判っているのかしら??



私は、はしゃぐお燐を見ながら薄々そんな事を思いつつも、祝いの為に今はいない私達の仲間を呼ぼうと歩くのだった……。

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