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東方 夢幻界郷  作者: 聖海龍・ラギアクルス
一章.出会う二人と動き出す運命~紡ぐ絆と縁~
11/34

009.0話 さとり物語 妖怪と月の姫との密談

編集変更点

・以前投稿した話に若干違和感が生じましたので一部消しました。


体のことは世界の真理とかそう言うわけ分からんもんでどうにかかき消されちゃうんだよねってことで要するに…

「村を一つ襲っても問題ないですよね」

結局それを行うためだけの理由付けである。

「(唐突だねえ…どうしたんだい?)」

「いえ、ねえ…勝手ですけど家を作る資材を一から作るって時間と手間がかかるじゃないですか」

「まぁ。確かに。一から作っている時間も今回なさそうだしね」

「そうねー…私はふわふわしてるから完成したら呼んで欲しいのだ」

―いやいや、二人ともそう言うことを言いたいんじゃ無くてですね…

「貴女が言いたい事は、人間の村の家にお邪魔して暮らしたいけど、そんな事が不可能過ぎるメンツだから家だけ奪いたい。違うかしら?」

「…おお。大体合ってます…よ?」

「んー?なんて言ってるのかわからないのだー…って、んん~??」

「さとりの気持ちを把握するなんて流石はおり…ん?」

あ、分からなくて大丈夫ですよ。この件はこっちで対処するので。

どさくさに紛れて知らない娘が一人私達の会話に混ざっていた。

「…??あら?どうかしたのかしら?話を続けて頂戴な?」

「はい。すみませんね。…じゃなくてっ!いきなり会話に混ざってなんですか?!というより貴女は誰なんですか!?」

私は目の前に突然と現れた少女…と言うより羽が生えていた。

それも見覚えのあるシルエットな訳で…

「…自己紹介がまだだったわね。私の名前はスターサファイア。珍しい妖怪の組み合わせだったから何をするのか興味があって混ざってみたんだけど…迷惑だった?」

東方における光の三妖精の一人。

服は青色でその柄は星。

髪は長くその後ろに大きな青いリボンが結んである。

如何にもお嬢様と言える程上品な構えで此方に向けて自己紹介をしたのだった。

「いえ。突然と貴女が現れたので驚いただけです」


話がそれてしまっていたが…この事をどうするのか…流石に都の近くで暴れてしまえば都から陰陽師達が飛んで来て大惨事になるって事なんですよね。

ここは上手く立ち回って家に居候……今、出来ないって潰したばかりの選択肢だった。

「実質十数年位しか使わないような家なので、別になんでもいいんですよね」

「結局途方に暮れているじゃん。作れば早いんじゃないの??」

「結局作った方が良いって事じゃないの??」

「(じゃあ作った方がいいじゃん)」

そうなんですけどね…いやあ〜丁度いいところに都の近くの集落に空き家ができたんですよ。なんででしょうね。

「(……知らない)」

「(……わざわざ心で訊くなし)」

「ま、私が住む家じゃ無いんですけどね」

そう言うとお燐と幻月がびっくりして同時にこっちを見る。

見事にシンクロした様に同時に此方を見た為噴き出しそうになったけどここはぐっとこらえた。

「(私に通用するとお思いでして??)」

…しまった。

「(話を脱線してまで心で言わなくて大丈夫だから早く)」

ハイハイ。


「……」

「(え?どう言うことだい?)」

「私達二人はちょっと都の中に身を置きます。必要な情報が見つかれば直ぐに出ますんで気にしなくていいですよ」

お燐とルーミアさん…特にルーミアさんには無理な話だ。

…だってあそこは首都である。

例外だが、スターサファイアの方だが実際あの様子だと都に行くのは手馴れている様なので話題からは逸らす。


話を戻すが一流の妖怪退治屋が大量にいるいわば敵地だ。

そこに連れてくなんて『処刑場に連れて行く』事と同じである。

「なので二人には待機していて欲しいんです。大丈夫です。頃合いを見て呼びますし定期的にそっちの家にも帰りますので」

「うーん…ついて来ちゃったのは私だし…分かったのだー。その代わり美味しいご飯待ってるのだー」

分かってます、お燐の事も頼みますよ。

お燐のことを頼み都に足を進める。


置いて行ってしまうことに罪悪感を感じていないわけではない。だがこっちの都合で死んでしまったらそれこそ計り知れない罪の責任を背負っていかなければならない。

結局私は臆病だった。


「ねぇ。何しに行くの?」

スターサファイアがそう訊ねてくる。

「そうですね。いうならちょっとした場所にいるお姫様に会いに行くための準備…ですかね」

「お伽話の様な世界だとは思うけど、実際私達の様な妖怪や陰陽師達がいる時点で既に現代の日本とは比べものにならない位逸脱してはいるんだけどね。」

「貴方達、一体何処のヒトな訳?ましてやこれから先未来の出来事なんてそうそう判らない筈なのだけれど…」

スターサファイアがそう独り言を呟く。

それを言ったら、貴女も同じですよ。

そんな事が判る時点で同類だと思いますし。


全幅70メートル以上の道の真ん中に立つと、なんだかすごい目立っているような気がしてしまう。

実際、私のような不審者がいたら目立ってしまって仕方ないのだがまあこの際その事は置いておく。

その上今回は三人連れている。

お昼過ぎ…殆どの人は仕事してるか家にいるかの時間帯だ。

(現代も同様だとは思いますが)

妖怪だってこんな時間に人前には来ないだろう。普通なら…そう普通ならね

それにしても都の大通りだけあって商業店がちらほら見受けられる。

この時代といえば金銭が流通し始めた頃…都では既に貨幣経済の形が出来上がっているはずだ。

なるほど、もう既に金銭を使った商売を始めている人もいるわけか。

金属品や大陸からの品を売っている店の中で多少時間つぶし。


幻月やスターも自らの羽やらを隠す。

因みにあんなに有名だった幻月は今では噂の波に消されている始末。

これを好機に幻月は見た目は普通の少女に見える様に幻術を掛けている様でスターの方も魔法の様なモノで気配を差し替えて少女に見える様になっているらしい。

ただし、一度姿を見られている場合は効果が無いらしい。例えで言うなら大妖怪の封獣ぬえの様な能力に似ているけど…深くは気にしない。

…なにを待つのかって?さあなんでしょうね。


店主は私達のような、よくわからない少女が入って来たことに不審に思っているようだ。

まあ私のような年代の子はこの時代家で嫁修行ですからね。どこの変わり者なのかと奇異な目で見られるのも仕方のないこと。

早めに立場をしっかりさせなければ陰陽師とか妖怪退治屋のお世話になりかねない。

潜入するのは簡単ですけど潜伏するのは難しい…ルーミアさんたちは潜入する時点で大戦争になっていただろうからまだましか。

「お嬢ちゃん、農民の出かい?」

装飾の施された短剣をしげしげと眺めているとがっしりとした体つきの店主が声をかけて来た。

身なりから農民だと判断したのだろう。買いもしないのにずっと居座られても迷惑だと言うことだろうか。

「ええまあ…荷物運びで摂津国から来ました」

「其方のお嬢ちゃん達は其処のお嬢ちゃんと一緒にきたのかい?」

「うん。同じく荷物運びを頼まれて、嫌々だったけど強制的に連れてこられちゃいました」

「私はその荷物運びの現場監督をしていまして…今回はこの娘達と一緒にここを見て回っていたんです」

「嘘を言わないでください」

「捏造が過ぎるんじゃないかなぁ~??」

「二人とも私に酷くないっ!??」

こんな漫才見せつけられて店主も少しは警戒が解かれたようだった。

娘にまで荷物を運ばせるのかと店主の目が哀れみを持った目に変わる。

同情しているのだろう。見た目によらず随分と優しい人みたいだ。

「それにしても都は随分と賑わってますね。いつもこんな感じなら毎日飽きない事でしょう」

実際に賑わっているとかそう言うことは別として情報を引き出す。

密かにサードアイを服の隙間から少しだけ出し店主を視界に捉える。

「確かに…普段よりは賑わっているな《噂じゃすげえべっぴんさんだからなあ…》」

ほうほう、べっぴんさんですか。

もう十分なのでサードアイを隠す。

「(収穫、あったようだね?)」

えぇ。またとない情報でしたから。もうこの店主からは訊く意味も無いでしょう。

「(それもそうね)」

スターさん?何時の間に心を読めるように?

「(貴方達の事を見て少しは学んでいたのよ?凄いでしょ!)」

幻月さん。ここからは作戦の通りに

「(うん。了解)」

「(ちょっと!?無視しないでよぉっ!??)」

ちゃっかりスターさんとも仲良くなっていた事に気付くのはもう少し後の話である。

「きっといいことでもあったんでしょうね。摂津もこんな賑わいがあったらいいんですけど」

「ならお前さんが頑張って綺麗な女になるこったな」

少し冷めた目で見つめる。下心が見え見えじゃないですか。

そんなんだから嫁が出来ないんですよまったく…

幻月さんを見て下さいよ!下心丸出しの此奴を殺したいと……って!…過激すぎにも程が有りますよ!?

―コホン。…さて、情報料とついでに何か買って行きましょうかね。

「(ねぇ、買うんじゃないでしょ?貴女が今から行う行動は強だ―)」

はい、ストップ。

心にもない事を言わないで下さいよ。悪い事じゃありませんし?

「装飾のない短剣ってありませんか?護身用に欲しいんですけど」

「ああ、それならあるが…」

金を持ってなさそうなやつに売りたくないと言う魂胆が一瞬だけ見える。

「…お金がないから渡したくないって雰囲気出ちゃってますよ」

「―流石にばれたか」

そんな露骨に目をそらしたりすればばれますって。

それでよく商売できますね。

まあ私が金なしなのは事実なのでどうしようもないのですがね。

「こんな感じのしか無いんだが、流石にただとはいえねえな」

目の前に短剣…と言うよりは小刀に近いものを差し出してくるが渡すつもりはないらしい。

「……交換ではダメですか?」

「すまんな。この店は金銭以外の取引が原則禁止なんだ」

悪態をつきたくなるのを必死に抑える。

「なら……ごめんなさい」

右腕を店主に伸ばす。

「少し眠ってください」

え?買おうとかなんだとかどうしたって?相手がダメって言った時点で交渉破棄ですよ。ええもちろん証拠隠滅はしますよ。そうじゃなきゃすっ飛んで来るであろう人達に消し炭にされかねないですからね。

声もあげる暇すらなく、大きな体が店の奥に倒れこむ。

なんのことはない。眠ってもらっただけだ。

「やっぱり強奪じゃん。」

違いますぅ~!ただ彼の雰囲気が気に入らなかっただけだから、眠って貰っただけなんですぅ~!!

「(それはそれで結構酷くない??)」

別に刀なんていらないって言って素直に店を後にすればよかったのですけど、折角ですしこういう武器は貰いたいじゃないですか。

「さて、さっさと逃げないとこわい人たちが来てしまいます」

「そうだね」

証拠隠滅と簡単な記憶操作を店主に施し一条南大路と東四坊大路の交差点まで戻った私は途方に暮れていた。

「都に潜伏する方法…どうしましょう」

「誰かの家を襲うとか?」

「それじゃ、先程私が考えていた事と同じです。普通に捕まりますよ」

「それもそうか…」

別に輝夜姫らしき人物は既に存在しているということは分かったから別に都に居座る理由などないのだ。あるとすれば姫の屋敷を探し出すくらいなのだが…

「まだ上流階級の合間でしか噂になっていないとは…情報統制でしょうか」

どっちにせよあまり時間がないのは変わらないだろう。

多分都から出て来た貴族を追いかけていけば見つかる可能性があるのだが…

「せっかく都に来たのになんかパッとしません」

「悪口??」

「ちがうわよ!??」

「ゴメンゴメン。冗談」

「…おい。」

観光くらいしてもバチはあたりませんよね。

後…あんなこと言っちゃったのにまさか数時間でただいまーって無いでしょ。流石に恥ずかしいですし…

「……あ」

…そうだった。なんでわざわざ潜伏するのにそんなこと考えなきゃいけないんだっけ。

私はさとり妖怪だ。わざわざ潜入するのにそんな深いことを考えなくても良かったではないか。

さっき私は人間に何をした?周りにバレないように何が出来た?そうだ、そうだった。

「……成る程、私はだいぶ間抜けだったみたいです」

思わず笑みが溢れる。

先ずは場所を変えなければならない。この体だと少しばかり時間がかかるが、到着まで時間はかからないだろう。 


数時間後…


平城京だからと言って貴族ばかりいるかといえばそう言うわけではない。

彼らに税を納めたり土木工事に駆り出す人材、物や食材の製造など彼らにとって必要不可欠な人も平城京にはいるのだ。

そんな労働階級の人の一つに私古明地さとりはお邪魔している。勿論、幻月も同じく姉妹という身分で此処に住んでいる。

…という設定にしている。

住人は一人、いや、元住人だろう。

独身の男の身柄はさっきまでこの部屋に存在していた。どこにいったのかは誰も知らないし知る必要はないだろう。

(まぁ、簡潔に言えばあの男に成り代わる為に殺しちゃったんだけど…)

それを私が知ってしまったらなんだかかわいそうという感情が生まれてしまいますから。周辺の住人にはちょっと記憶操作。

理由は二つ。

一つ目は『私のような少女達がなぜこの家に住んでいるのか。』と言う疑問を起こさないようにするため。

こうしないと不審に思った誰かが妖怪退治屋を呼ぶかもしれないから…いえ、間違いなく呼ぶでしょうね。

もう一つは…

この家は前から無人の状態だったと認識させておく必要がある。

さっきこの家に少女が出入りしていて疑問を持たないようにしなければならなかったがこっちを行う理由はちょっと難しい。

簡単に言うと、この平城京では籍が作られておりそれを元に正確に税を集めている。

つまり税を徴収しにくる税官が近いうちに必ずくる。その時のために周辺住民にこの記憶を入れておく必要がある。もちろんこの場合出入りしている私が怪しまれてしまうが、それ用の手は打ってある。

「私はここには住んでいない。別のところに住んでいる子供が遊び場にしているだけ」

これをつけておくだけでおそらく大丈夫だろう。後は後々に対処すればいい。

因みにこの噂の前に『ここに住んでいた男は実は美人で可愛い二人の少女だった』と言う噂も付けたのだが…余計だったかな?

最初からそう言う認識にすればよかったんですけど…なかなか人の記憶というのは難しいものです。特に大勢の記憶を初めて操ったのでね…

「さて、まだ庶民の間に噂として生まれていないと言うのは…ちょっと困りますね」

要は、輝夜姫の屋敷の位置が分からないのだ。

貴族の後をつけていってもいいのだが、そう言う貴族には必ず護衛の人達がつく。

それはそれで厄介であるし私の隠蔽が破られることだってあるかもしれない。リスクが大きすぎるのだ。

だからこそ庶民の人達も輝夜姫の屋敷に行くと言う状況が必要なわけだ。

まあ、護衛なしと言ってもあんまり安心できるものではないんですけどね。実際、陰陽師とかに金を払って代わりに行かせるってこともあり得ますし…

数日後、都は庶民も貴族もみんなして輝夜姫の噂で持ちっきりになっていた。

人の噂とは恐ろしいもので噂として広まり始めたものはたとえ事実じゃなくてもあたかも事実のように人の心に刻み込まれていってしまう。

既にここまで広がってしまった噂は何が真実で何が嘘なのかもはや分からなくなっていた。

唯一分かることは、輝夜姫と言う美女がとある屋敷にいると言うことである。

そして男性どもの欲というのはいつの時代も変わらないものだ。

早速行動に移る人が続出しているのであろう。

また、スターサファイアとはあの後別れた。

どうやらそろそろ他の妖精達との約束があるらしく深く追及はしなかった。









しょっぴかれる人が多くなった気がする。

え?私はどうしているかって?そりゃもちろん…

「ご飯できましたけど?暴れてないで用意くらい手伝ってくださいよ」

のんびりと食事の準備をしていますよ。

勿論、妖怪の山の中でですが。

「わーい!」

ほんと…ルーミアさん子供化してきてますよ主に思考が…

「そういえば噂話が凄いことになってるよー」

あら?もうここら辺まで来ているのですか。

いやあ噂の早い事なんのです。

「(……絶対何かしたでしょ)」

え?そんなわけないじゃないですか。噂を誘導するなんて出来ませんよ。私は…あくまで心を読んだりなんだりするだけですから

「気のせい気のせい。」

「まあどうでもいいのだーそれより早く食べようなのだー」

食欲旺盛ですね。あなたさっきまであっちで肉食べてましたよね?あの肉どうしたんですか?

「多分、食べたんでしょ?」

「言われたのだー」

ヒトの台詞を取るモノじゃないですよ。全く…

「(あたいは早く寝たいねえ…)」


早く寝たいって…まだ日は落ちてませんよ?

…ん?お燐?

さっきから足を引き摺っているような…いや、下半身の動きがおかしい。


……少し様子を見る。


「(さとり?どうしたのさいきなり)」

………ああ、そういうことか。

「どうしてお燐はそんなに傷があるのでしょうか?」

毛並みで隠れてしまっていて見え辛いがかなり深めの傷が垣間見えた。

「(えと…ちょっとやっちゃって…)」

あからさまな動揺。戦闘時の記憶が一気に想起される。

「ほうほう、成程。…ねぇ、お燐。貴女、何処か一人で戦闘したでしょ?」

「(へぇっ!?い、いやぁ~それは、そのぉ…)」

「戦う時はもっと気をつけてください」

幻月の注意の追い打ちを掛けようとばかりに私が続けて注意を促す。

「(ふぎゅぅ~。さとりに幻月…ごめんなさいぃ…)」

慣れていないのに他の妖怪と戦ってきたようだ。

…危ないのでやめてほしいと思うけど同時に仕方ないって思ってしまう。

しょぼくれてるお燐を抱きかかえる。別に怒ってるわけではないのですが……そんなに落ち込まなくてもいいじゃないですか。

「(幻月の言葉に便乗して一緒に叱って来たじゃないですかぁ…)」

近くにあった布を傷口の上に被せて固定する。

「妖怪が傷が原因で死んでしまうなんて呪詛を使わない限り平気なんですけどね」

「さとりの言う事に一理あるね。そう捉えるなら逆に妖怪は呪詛が弱点って事になるんだけどね」

「…あぁ。そういう捉え方も有りますか。」

「それはそうと、早くお燐の傷を見てあげないとさ」

―そうでした。幻月さんの対応ですっかり忘れていました。

…誰かが傷付いている所を見ていると結構辛いんですよ。心だってダイレクトに視れるんですから痛みだって共感するときはしますし。

「あれー?怪我してたのかー?」

「あなたが気づかなくてどうするんですか…」

「一緒に居たんじゃなかったの?」

全く、呆れてしまいますよ。

「いないぞー?だって私はあっちを担当していたからなー…あー、だから血の匂いがしたのか…ごめんなのだー」

あっちを担当って、誰もそんなこと―

「十中八九お燐の無駄な心遣いだね」

「(すみません。さとりに幻月。アタイは皆のためにと…)」

勝手な事をされては困りますよ。

私はあなた達と違って血の匂いに異常なまでに鈍感なんですから…

「まったく…私は母親じゃないんですけど…」

「じゃあ母親になって欲しいのだー」

「断ります!」

「でも、皆の事を第一に考えて行動しているよね?お母さんやってても存外様になるんじゃないの?」

「それはそれ!これはこれです!!」

「(さとりが母とか…ないわ)」

「そこまであからさまに否定されると逆に傷つきますよ!??」

「(嘘だよ嘘……というのは嘘)」

「どっちなの?」

「何言っているか判らない答えは止めるのだー」

どっちなのよ。もはや私の寝床に近いよくわからない何かの家。

今日も三人は下らない会話に花を咲かせている真っ最中。

もちろん普段は開けているし中にいても周りとの接触は避けている。

例外を除いて…

因みに夢月の方は、今も修行中の身で…天狗の里でご奉仕の練習を華扇さんと一緒に行っている真っ最中。…余計な事を萃香さんとかから教わらなければいいけど…あの娘。何かと純粋だし?

…それはそうと私達の方だ。その噂話はじっとしていても分からない。

だからと言って外に出てうっかり妖怪とバレてしまってもいけない。この密偵調査する感じ…まるでメタ〇〇アのス〇ークみたいな?

取り敢えず家の窓からこっそりと通り行く人の心や会話を聞くためだけではあるが限定的にサードアイを出して使っている。

噂が広まれば色々な人がその一定の話題に対しての思考を行う。そうすれば本能的に知っていることなどは比較的想起されて見やすくなる。

まあ庶民が知ってるかどうかって言われれば貴族たちより得られる情報量が低いのでなんとも言えないんですけどね。

じゃあ貴族の心はどうかって?貴族の前に妖怪退治屋を倒さないといけないんですよね。

え?じゃあなんで人の心を私が読んでいるかって?

そりゃ…

「……。《……姫の屋敷に行くか》」

おっと、きましたね。通り過ぎる人の心を一瞬だけ捉える。捉えた人物を捕捉、後ろ姿だけだが細かく心を読むには問題ない。

「さとり。」

「えぇ。後を追いましょう。」

余談だが心を『読む』のと『視る』のでは全く違う。

『読む』と言うのは複雑な心理とかそういうのは抜きで表層心理が丁度今考えていることを声として認識する事を言う。これは常時発動型だからどうしようもない。対処法はサードアイへ映らなければ良い。

もう一つの『視る』は相手の記憶や複雑な心理などを全部映像として私が認識することを言う。

こっちは能力のオンオフが効く。こっちはちょっと使い勝手が悪かったりするし燃費も悪いので普段は使わないようにしている。まあ、余程のことがない限り使うことは無いだろう。

えっと…見た目は農民、屋敷の場所なんてどっから仕入れてきたのだか…わからないもんですね。

視界から消えるまで思考を読み続ける。

「なるほど…あまりここから離れてないようですけど…」

「何かで隠されて普段は見えない?」」

……おかしい。ここに来た時しっかりと都の外周は回ったはずだ。

となると妖怪避けの結界かまたは異空間になっているか。屋敷は私たち妖怪には認識出来ないような仕組みで護られているのだろう。

どちらにせよくっついていけば問題は無いはずだ。

「どっちにせよ尾行すれば目的地に付けますよ。」

人間が入れるならその人間を見失わず追いかけていけば結界通過も可能。

「せめて後先考えての行動をしなよ…ってもういないぃ!?全く、待ってよぉ~!」

幻月の話は長くなりそうなので途中で切り上げる。

酷い?いえいえ、幻月は時折過保護と呼べる位に気を使う時があるからそんな事に時間を使っていては日が暮れてしまう。

―でも、どうしてそんなに気を使う様になったのだろうか……そんな事を考えても仕方ないので後で訊ける時に聞いてみよう。

「それじゃ…行きますか」

まだ日は高い。日没までには時間があるけど私には関係ない。あの男があのまま行くというのだ。それを逃すつもりは毛頭ない。

サードアイをフードの中にしまい家の外に出る。 




「ここが輝夜姫の屋敷…」

「何だかここだけ異質な感じ…」

男の後をつけること数時間、目的の建物にたどり着いた。

幻月の言う通りで途中結界のようなものを通過した感じがしたが、私の体に変化はない。おそらく視覚的な結界だったのだろう。

それも、視覚だけじゃなく周りの雰囲気も明らかに異次元過ぎる程澄んでいた。まるでこの場所だけ切り取られているかのように。

目の前に堂々と立っている立派な門構え…高い塀。そして警備の兵と思われる人達。侵入には適さないものだ。

さっさと中に入りたいのだが、足がどうしても止まってしまう。

「あれ?何で止まるの?…怖いの?折角、此処まで来たのに。…まぁ、どうしてもっていうなら無理はしない方が良いよ。…どうする?」

そんな姿を見た幻月は、少し挑発気味に帰るように促し始める。…そこまで心配されるなんて心外です。

…でも確かに、幻月が心配する理由も一理ある。


今ならまだ戻れる。このまま進んで下手をうてば命を落とす。

更にはもう後には引けない極地まで言ってしまう可能性も無きにしも有らずですから。私がそんな危険を冒す理由は?代わりに幻月が行けば済む事です。

―ですが、此処まで付き合ってくれた幻月の本当の想いを無下にする事は出来ないのだから。

……。

……………。


…この私が付き合うんだから情けない姿は見せないでよね?



……まあ戻る気なんて今更ない無い。そもそも、心の内で告白しないでください。周りから意味も無く恥ずかしがっていると勘違いされますので。

「…ありがとうございます。幻月さん。でも、心配無用です。多分、どの道通らなければいけなかったのですしこの計画は私が発案したのだから貴女に任せっきりなんて貴女の友人失格です。ここは嫌でも頼って下さい。」

既に私の意思は決まっている。

「…うん。ありがと。頼りにさせて貰うね」

…顔が赤くなっていくのを感じた。


私なりの告白みたいになってしまいましたね。我ながら凄い事を言ったモノです。


「…じゃあ、進みますよ。」

再び私達は歩み出した。



時は過ぎ……


ある場所の竹林の近く、その奥に一軒の巨大な屋敷がありました。

その屋敷には沢山の部屋があってどれも質素ながら質素ではない。

そういう風な異質な矛盾すらも感じさせず、心置き無くゆったりできる寛容さを備えた部屋でした。




「………」

「………」

「………」


気まずい空気がそんな部屋を支配する。

「……さっきのは見なかったことに」

黒髮のいかにも大和撫子って言った風格の少女が消え入りそうな声で話す。

「すいませんが記憶は、消せないんです…」

慧音さんあたりなら『見なかった事』にすることもできるだろうが私はそうはいかない。

見たものは記憶されるしされたものはいつか無意識の底に沈んでいく。

「……そうね。」

―再び沈黙。

「まさか、タイミング悪く邂逅できるとは思わなかった…。完全に予想外だったしね?あれは事故という事で…」

「―思い出して余計に恥ずかしくなるから、そういう事言わないで頂戴…。」

「…ごめんなさい。」

「そう……判れば良いわ。」

幻月が場の雰囲気を和ませる為に口を挟むも目の前の少女に否定され、押し黙ってしまう。


そして、再びの沈黙。

うーん、どうしてこうなってしまったのでしょうか……

遡る事数十分。


輝夜姫の屋敷が『ごめんくださーい』と言って、真正面から素直に入れるような所では無いってのは重々承知していた。

陰陽師と、どこから雇ったのか槍や剣を持った兵士が巡回、更に犬などで二重三重の警戒網が敷かれている。

物凄い数の見張りですね。

―もし私があそこにいる兵士だったとして…

―いきなり子供が現れて『輝夜に合わせて』…なんていわれてもどの道関係者以外に含まれてしまう訳で。

当然ながら私はその子を申し訳ない気持ちながら逮捕するしかなくなってしまう。

…常人ならまず出来るはずがない。

じゃあ、人じゃなければ良いか?

いや、それだともっと大変な事になる。

摘まみ出される以前にその場で『始末たいじ』されてしまうだろう。

まぁ。私なら上手く出来ていたと思うが今の状況だ。

―もうちょっと前ならこんな手間無く出来たかもしれないけど…

今更、とやかく言っても時間だけが浪費して無駄なので仕方なくいつもの方法に移ることにした。


バレないように強行突破である。

―?

見ている人に伝わらない表現だって?ええ。まあ言ってる意味がわからないという事ですよね……??

大丈夫です。感覚っていうモノはだいたいそんなものですから。

幻月も最初は意味が判らず文句も言っていましたが、今となっては、『あぁそうね。その方法がやっぱし手っ取り早いわね』と同意してくれる様になりましたし。

あの見た目で意外と上手く立ち回るのですよ?私よりも上手い事に嫉妬してしまう程にですが。

話を戻すが、そんな屋敷でもちょっとしたモノの配置ですんなりはいれてしまうモノなのだ。

―いくら高い塀であろうと上がふさがれていない限りは、どんな方法を使ってでも入るのは容易で簡単なのである。

事実、塀の近くに木なんて堂々と立っていたら、『どうぞそこから侵入してください』と言っている様なモノである。

…ただし、それが『ヒト』の領域で思考の回転が速い人に限るのですが…

普通なら『木に登って高い堀を無視して侵入する』なんて誰しも思いつきませんがね。

―ほんと、これ罠なんじゃないんですかね。妖怪用対策のフェイクだと言う可能性が…

―もちろん、そんな可能性があったら既に入るのを諦めていますがね、

私が普段の様に『力の行使』は安易に出来ませんので、私も木を使って恐る恐る侵入する事に。

「警備が甘い…いえ、あえて甘くしてるのでしょうか」

「ううん。多分あそこまで厳重に守られていたら侵入する馬鹿なんていない筈だし、寧ろ侵入されないと高を括って警備なんかむさ苦しいだけだからおいていないんじゃ…」

「…その説が一番濃厚ですね」


まぁ、どっちにしろ好都合なのに変わりはない。

―さて、難関なのはここからです。

使われている家というのは必ず人がいて、大きい屋敷では複数人が必ず活動している。

しかも、狭い室内でだ。

『普通にお邪魔します』…では、あっさりと見つかってしまうだろう。

記憶を書き換えればいいんですけど、その為には一度私の姿を認識させないといけないです。

見つかっちゃダメなのに見つからないと使えない。

さらにここは結界の中。下手に妖怪としての力を出せば一発でバレる。

この事状況を有名な作品のメタ〇〇アのス〇〇クの様に例えるなら…

・敵にバレない様に隠密行動を常時しないといけない。

・変装するには、身ぐるみを剥がさないといけないから、嫌でも敵に近づかないといけない。

・しかし、先程もいった様に一人で巡回しているのではなく複数人で行動している為死角が無い上、見つかったら袋叩きにされてゲームオーバー。

・でもって遠隔でどうにかしようとしても、敵地中では常時熱感知センサーやら監視カメラが動いている状況で対策済み及びジャミングで使用不可。

・変装の為に自分の武器やら何かしらの装置を使おうとした所で、必ずセンサーが反応してしまう。この時点で完全詰みな状況。

所謂、ムリゲーみたいな状況の具現ですね。はい。

そこでいつもの方法。床下から進入である。

いつもってわけでは無いですけど屋根裏を進むよりは安全です。まるでメタ〇〇アの主人公になった様な気分です。まぁ、屋根裏の場合は気をつけないと天井を踏み抜いてしまいかねないんです。下手をすると、それでバレてゲームオーバー。

―なんだかんだ言っている内に無事侵入成功。

…まさか妖怪が人間の様な真似をして此処まで侵入するなんて思ってないだろう。妖怪らしくないといえばそれまでだが文句言う前に固定概念に縛られちゃダメなんですよ。

…早苗?

いえいえ。

その台詞は

『常識に囚われてはいけませんね』ですよ。

東方界では有名な迷言ですね。


心の中でツッコミしていると幻月が冷たい視線を向けて来た。別に何の支障が無いからいいでしょう!?

そんなたわいのない話は置いておいて。

―えっと…どこがお部屋なのでしょう。

人の気配が無いことを確認し板のつなぎ目から家の内を見る。…とまあ、格別何をしたとかそういうことはない。

人気が無いのを見計らって何回も覗き見を繰り返して輝夜姫を探すだけだ。

「ーー」

「……ーー」

屋敷が広いせいでかなり時間を費やしたがようやく姫のいる部屋を見つけた。姫の根拠なんて無い。

だいたいは感覚と記憶のみですけどね。

―さて、話が終わったのか話し声が聞こえなくなる。

複数人と話していた気がしますがなんだったのでしょうか。部屋の中に姫っぽい人以外いないのを確認。

床板の一部を軽く押して上に持ち上げる。

この時代まだ釘や棒などでの木材の固定は行われていない。ほとんど木組みである。

だから床もこうやって下からなら結構簡単に…開く。

この時、私は思った。

…あ、やってしもうた…と。


「もうやだー!求婚してこないで!やりたくない遊びたい!魔法少女みたいに魔法でパパ〜っとしたい!キラリーン(星)みたいに!」


「お邪魔しまー…」

「……あ。」


私が顔を覗かせるのと同時に姫は床に寝っ転がりジタバタと子供のように暴れていた。

しかも、急にキラリーンって…なんというタイミングだろう。

最悪なことに床に寝っ転がってるせいで私達と目線は同じ。さらに私達の方向に向かってである。

その瞬間、時が止まったのは言うまでもなく…時どころか空間すら亀裂が入った気分だ。

「もういっそのこと逃げようかしら…」

「……それは私も同じです。はい。」

ハイライトの消えた目でボソッとそんなことをつぶやく姫…っぽい人。幻月はと言うと、これ終わったわという形でフリーズ中。

「……あ、邪魔しちゃいました?」

いたたまれなくなり戻ろうとする。

一旦仕切りなおさないといけないな。

「いやいやいや!あんた誰!?ってか、どうやって入った妖怪!」

「…こうなるなら最初から堂々と侵入すればよかったかも…」

「それはそれで、厄介になりますからっ!」

な!なぜ妖怪とわかった!私の隠蔽は完璧なはず…少なくとも結界はすり抜ける程度に騙せるのに!

さりげなく幻月さんがボケをかますので間髪入れずに突っ込む。

既にバレていますしこのままの姿勢じゃキツイので仕方なくその場に上がらせて貰う事に。

「あ…あの…えと…」

「―と言うかさっきの…どこまで聞いてたの?」

輝夜姫…ぽい人は恐る恐ると言う風に訊いてくる。

「……ガタガタ暴れ始めたとこから」

「全部じゃないっ!!」

そう叫んだ少女は顔を真っ赤にして俯いてしまった。

まあまあ、そんなに知られちゃまずいもんじゃないでしょ。

人には人それぞれの黒歴史があるのですから。

「……」

「……この空気どうしよっか?」

「…私に聞かないで頂戴。」

「……すみません。」

あれ…まさかみちゃいけないものだったのでしょうか。

私の心配をよそに姫っぽい人もとい姫はずっと黙りっぱなしになってしまった。

そして冒頭に戻るわけだ。


「……まあ、さっきのことは置いといて自己紹介しましょうか」

「…は?」

「この状態でよく切り出せたねぇ…凄いねー尊敬するねー」

このまま黙りっぱなしじゃ嫌なのでさしあたり定型文として、こう切り出す。幻月さんは、棒読みで私を称賛する。ちっとも褒めて無く逆に憐みすら感じさせますけど。

え?話下手?しょうがないじゃないですか。

「私は古明地さとり。ただの妖怪です」

「私の名前は幻月。しがない悪魔だよ」

「……輝夜よ。呼び名は姫でも、好きに呼んで貰って構わないわ」

「じゃあ便乗して姫ということで…」

何に便乗したのかは知りません。

「それ、本日二回目だよ?」

「はて?何のことでしょう?」

「コホンッ!!―それで?その一介の妖怪達が私の元に何用かしら?まさか命を奪いに来た?それとも単純に誘拐でもしに来た?」

何かを探るような目で見つめてくる。

またまた物騒な。確かに妖怪ですけどそこまで物騒ではないですよ。

「(それを世間では物騒と言うんだよ)」

悪口ですか?

「(悪口言ってないし。ただ、そういうモノだという事を言いたかっただけ~)」

なんて失礼な。いくら私でも常識的な事は重んじているつもりですから。

「なんていうか…風に乗って流れてきただけです」

「私は、それに付いて来ただけです。」

「……陰陽師に突き出すとしましょう」

流れ作業で部屋を後にしようとする姫。

「…すいません。調子に乗りましたあああ!」

「嘘です!嘘っ!!だから本当に連れてこないでくださいぃ!!?」

正座体勢からのバク転土下座である。

幻月は輝夜姫にスライディング土下座を綺麗に決めた。…痛く無いのでしょうか?普通畳で遣ったら火傷するかもって思う位に熱いですし。切り傷になる位の切れ味にも変わっちゃいますからね。

そんな事より、陰陽師を呼ぶ?いやいやいや!冗談じゃありません!!ここの護衛ときたら絶対ヤバい人達だらけじゃないですかー!!やだなー。

「…はぁ。―んで、あなたたちは本当は何をしにきたわけなの??」


『貴方のこの後を知ってます。なので協力しましょう』

…なんて言っても絶対信じないし下手したらこの場で潰される。

…はて、どうしたらいいものか。

「…貴女に会いたかったし、話もしたかったから」


間違ってはいないけど、正解ですらないような事を幻月は述べた。


「……まさかあんたそう言う気があるの?」

???

…はて?

『―そう言う気?』…一体なんのことでしょう。

急に意味のわからない事を口走る姫。その顔は驚愕と若干の軽蔑と…何故か期待が入り混じった表情だった。

「あの…意味がわからないのですが」

「さとり。多分、これは勘違いではあるけど求婚しにやってきたと捉えているんじゃ…」

「あ、いや!その、そうよ!そっちの悪魔娘、良く分かったわね。でも、気にしなくていいわよ。多分私の勘違いだと思うし…」

…ならいいんですけど。何がいいのかは知らない。…というかよくわかりましたね?

「(あの表情を見れば一目瞭然だよ。実際に輝夜姫は求婚を何度もせめられたって話だったし。多分今の時点でかなりの数の人が来たかと…)」


成程。


「―とにかく!妖怪達なんかに来られても、私が困るの!…別に大した用じゃなければ今すぐ帰って!」

「…理不尽過ぎない?」

「うっさいわよ!其処の悪魔!!」

えー…なんで不機嫌になるんですか。

それにこんなことを言っても信じないってのに…あー仕方ないですね。もうどうにでもなってしまえ。

「……月が綺麗ですね」

「はい?」

「いきなりそういう事言っちゃうんだ。へぇ~?」

…違う。断じてあっちの意味じゃない。

まだ、外は日があり明るい。その上今日は新月だ。

月など見えるはずもない。じゃあこの言葉は…姫なら分かるだろうか。

何かを考えるような表情をしていた姫であるがいきなり顔が赤くなった。

「ほら、言わんこっちゃないあっちの意味だと誤認しちゃったじゃん。……もう、単刀直入にいっちゃいなさいよ」

あれえ?なんか反応が違う。あーまさかそっちの意味で捉えました?

というか、なんで幻月さんが今度は切れているのですか?訳が分からないなぁ…

でもって…そっちの意味を姫は知ってたんですか。

へえ…以外。

「…いやあ、姫ほど美しいのであれば、きっと『月に住む兎』も私のように『姫を連れ去ろう』と此処までくるのでしょうねぇ~?」

その言葉を言った途端、さっきまでの真っ赤な顔が今度は真っ青になる。同時に、体が震えだした。心拍数上昇、私への警戒レベル二段階上昇といったところだろう。

「あ、あなた!な…なんでそれを!」

姫の右手が腰の方に伸びる。黒髪に隠れて見え辛いがどうやら護身用の武器でも持っているのだろう。

「ふ~ん。持っている武器は夜盧月光神やとのつきよがみ…月の神を元に創られた神剣と謳われる逸品だね?そんな神殺しが出来る武器を持っているという事は、その為に持って来たと捉えて良いのかなぁ??」

「…なんて洞察力。…じゃなくて、其処まで知っているなんて敵ながら見事ね。そこまでして私を月に還したいのかしら??」

と幻月さんの言葉に意表を突かれ同様するもすぐに体制を立て直し警戒を強める。下手したらその場で切り刻まれんと言わないばかりの物腰だった。

「なんでと言われましても…問題の本質はそっちじゃないので、今回は黙秘させていただきます」

「何よそれ!答えになってないじゃない!」

答えにしてないのですから当たり前ですよ。

…後、あまり大声を出したら人が来ちゃいますから。

「何が目的?言っておくけど私を連れ戻そうってなら…」

「容赦しないわよ…ですか」

「容赦しないわよ…かぁ」

「…っ!?」

二人同時に口から出される言葉。

輝夜姫が話そうとしていた後に続く言葉であるが。

まあこんなことくらいは私も幻月も心を読まなくてもわかる。

変な誤解をされているようなのでここらで訂正。

「私は逆です。姫に協力を申し立てにきたんです。後、友達になりたかったってのがちょっとだけ」

姫が警戒心を緩めた様子はない。

当然でしょう。あんなので警戒を解くなんてよほどのお人好しくらいですからね。

「……それで私が乗るとでも?あなたたちが嘘をついているかもしれないじゃない」

「嘘をつくもつかないも、明確に証明することなんて出来ないでしょう」

「ましてや心読めるならそんな心配いらないとは思うけど、貴女はできないでしょ?」

「―そう、悪魔の証明ね…なら…」

「「―ですが、私はあなたの意思を尊重しますよ。…もし、あなたが関わってこないでと言うならそうしますし、今、ここで死んでくれというなら…」」

「いまここで死んで差し上げましょう」

「いまここで死んであげるよ」

ここは冗談抜き。こうでもしないと絶対に信用なんてしてくれないですからね。

…此処までもアドリブだったが、幻月もそれに準じていてくれて心から、信頼出来ていると今更思った。

「……わかったわ。貴方達の事は未だに信じることはできないけれど…友達の方なら喜んでなってあげても良いわ」


なるほど、まずは友達からってところですか。


「ええ、どうせ求婚とか、しょうもないことしか、最近話してないんでしょ?」

「あー…わかる?」

「疲れが顔に出てますよ」

「それも、先程の黒歴史が垣間見てしまう程に」

「それは言わない約束でお願い」

「…ゴメン」

 


先程の警戒心は解かれ友達感覚で話し始める私達。

意外と会話が上手いと改めて思ってしまう。

因みにこの世界における輝夜姫は、とっても話し上手に聞き上手。

会話しても周りの皆から飽きられる事が無いと評判。

(でも、この話は幻想郷という場所が出来上がってからになりますが…)



話を戻すがやっぱりとため息をついて姫は私の前に静かに座り直した。

「うーん…どこぞの人たちがしつこいのよね…」

「心中お察しします」

この後二時間ほど愚痴を聞かされたのは言うまでもなく、私達も愚痴を軽くこぼしたりと言った感じで、お互いの距離感はかなり縮まった。


「へえ…ラピュ◯の雷ねえ…面白そうじゃないの。似たようなのがあったわね~。…確か月の兵器に」

「物騒ですね…もちろん自爆装置はありですよね」

「勿論あるわよ」

「あるんだ…そんなモノは、現実世界には絶対に有り得ないと思っていたから…ジ〇リの世界感もあって興味が湧いたなぁ…」

「フフッ。なら、今度見せてあげましょうか?…いつになるかは判らないけど…約束はしておいてあげるわ」

「ホントっ!?ありがとう!!!」

「話の方向性がどんどんと愚痴からあらゆる世界線へとトリップしちゃっていますね…。まぁ、楽しいから別にいいですが。」


…まあ一部愚痴が変なトークに変わってしまったのはこの際、省略しておこう。






輝夜視点… 


不思議な少女ね。


古明地さとりへの第一印象はそんな感じだった。

つかみどころがなくなにを考えてるのかわからない。その上部屋の中でもフード付きの外套という地上じゃ見ることが出来ないと思われた服装。

その少女に付いて来た天使の様な見た目をした悪魔だと言う少女


幻月と言う名前も珍しく、果てにはさとりにボケをかましたり、その上時には真相をついてきたりとどうにも真意を掴めない変わった雰囲気を持っている。

幻月の第一印象ははっきりいって驚きを超えた怖さだった。

いきなり部屋に入ってきたかと思えば気まずそうに帰ろうとする。私にも落ち度があったかもしれないけど、あの反応は迷うわよ。

それを汲み取ったかのように幻月はすかさず自然とツッコミを入れる。聞いていて全く言ってい良い程、飽きない二人組だと私は思うわ。

それに二人からはほとんど妖力が出ていないようだが、妖怪と悪魔である。

言えばしっかり白状してくれたから、どうというわけではないんだけどね。

それを踏まえてみると今まであったことのある妖怪とは全く違う。

…あえて言えば人間が妖力をまとった…そんな異質なものを二人は持っているという謎の組み合わせにひたすら違和感を感じる。


それにしても…まさか協力を持ちかけてくるとは。

どこまで知っている?いや、何者なのか?

終始一貫の無表情なうえ、意図も分からない交渉を持ってくる。

また、終始表情豊かな悪魔の方も意味が分からない気遣いや、ここでボケる意味があるみたいな雰囲気で平然とボケては彼女に自然と突っ込まれるある種芸人紛いな事をしだす。

全く持って先程の不思議やら変わった雰囲気というのは言葉は、すぐに撤回され予測不可能な謎の二人組扱いになるのにそうは時間はかからなかった。

―少なくとも敵ではないって事は確かよね。

だって、そんなんならもうとっくに私は捕まってるでしょうし。

月の奴らがこんなまどろっこしいことなんてしないでしょうし。

……多分ね。まぁ、私の知り合いならもしかするとだけども。

信用はできないけど、信頼はできるってとこかしらね。

あと話してて楽しいし。

まさかガンダ○を知ってるとは…

今度月から持ってきたプラモ見せようかしら。組み立ててないけど。

更には、悪魔の娘が興味深い話をしてくれたわ。

何でも、メタ〇〇アと言う物語に出て来るその機械が、あの月で開発中だった戦闘歩行型戦車とそっくりそのままだという事に。

また、その他にもアー〇〇ンとかラ〇〇〇〇ター言う凄い奴。

これは、私の知らない技術を兼ね備えた次世代の戦闘機や戦車があるらしくて其処から撃ち出されるのは弾薬も必要ない無制限のビーム。

戦車の場合は弾薬が必要無く、無制限に撃ちだせるビームや、狙いを定める事で自動追尾する事が可能である爆発するレーザーを撃ちだせるらしい。

全く持って、レベルが違う瞬間だったわ。とても面白い娘だと改めて思ったわね。

と言うか、月の文化は二人は知ってるのに、月人でも無ければ、月の人と接触した事すらないなんて…嘘かと思ったけど結局は全部本当だったし。

この子達、もしかして…?

「あの…食事の方は?」

え?ああ、さっきから呼ばれてたわね。

「じゃあちょっと待っててくれるかしら?」

全く、楽しい時間はあっという間なんだから…どうしてくれようかしら。

部屋に再び戻るとさとりは逆立ちの状態で待っていた。

服の裾が少しだけめくれ上がっているが少しだけで収まってるのが不思議である。

どうなってるんだか…

「……」

「突っ込まないんですか?」

人の家で何してるのかと思えば突っ込んで欲しかったのね…

もう一人の方はと言うとその姿に呆れて物を言えない位に呆れかえっている。この冷え切った状況に私は唖然とした。

「突っ込んで欲しいなら…」

そう言い、私はさとりの無防備なわき腹に肘打ちをかます。

グヘっと変な呻き声を上げてさとりが倒れる。

「馬鹿じゃないの…」

と幻月は憐みの眼をさとりを見つめてそう呟いた。

「悪は去った…」

倒れてるさとりを床に開いた穴に落とす。

ドスッ!

「あ。」

そういう音がした。その瞬間

「……酷すぎませんか?」

と穴から一陣の風が吹き、気づいたらさとりが座っていた。幻月は、呆然としていた。

何?私が悪い訳?…まぁふざけてやっただけだし悪気は一切無いけどね。

「ごめんごめん」

思いっきり腰にめり込んだはずなのにもう動けるなんて……それに早い。相当強いわねさとり……

それに汚れたそぶりもない。おそらく地面に落ちる前に復帰したのだろう。

「ねえ、折角だしお風呂でも入る?」

「え?お風呂あるんですか?」

―あるわよ!

いくら地上の人が風呂入る習慣ないからって月も無いなんて事は無いわよ。むしろ風呂は一家に一部屋よ。

「あー…遠慮します」

聞いといて結局入らないんかい!

「入ればいいじゃん!」

「ここはボケておかないといけない気がしてですね…」

「つまらないわね」

「面白さを求めちゃ終わりだと思ってるんで」

なーにいってるんだか。

全く不思議系フリーダム系のキャラは要らないってのに。

そういえばなんでさとりはお風呂を知っているのかしら。

この時代はまだ風呂なんて…

「風呂なら作ったことありますよ」

ボソッと言った一言に私は驚愕することしか出来なかった。

「え?作った?お風呂を?」

「うん。なんか簡素的にではあるけど、あれでも立派なお風呂なんだよね。」

「ええ、まあ…その通りですが…」

本当にこの子は何者なのだろう。

日も沈み、月のない闇が辺りを覆う時間になった。

普段なら月明かりだけで十分な部屋も、今日ばかりは何も見えない。

「それじゃあ…私はこれで、御暇させて頂きます」

「それじゃあね~♪」

蝋燭の小さな光の中でさとりと幻月は話の隙間をついてそう切り出した。

「あら?帰っちゃうのかしら?」

別に泊まっていけばいいのに。私が許可を下せば普通に出来るのだけれど。

自由奔放な子なのね。

「こちらにも帰る場所がありますので」

「ゴメンね。泊まりたい所なんだけどこっちにも家族の様なヒトがまっているからさ」

そう言ってさとりはするりと立ち上がる。

幻月は申し訳なさそうに話しながらゆっくりとさとりの後を追うようにして歩いていく。

…服の隙間からコードのようなものがちらりと見えた。

コード…なんのための?

その後ろから付いていった幻月の背中から白い羽みたいなものが見えた…きがする。

私、今日疲れているのかしら…?

疑問が次から次へと湧いて来るが、それを聞く気までにはならなかった。

「…帰る場所ね」

私の帰るべき場所は…あそこなんだけど…本来なら…ね。

あ、いいえ。もうあそこには帰らないって決めたんだから。

「そうそう、さとり。ひとついいかしら?」

それなら、使える駒は少しでも多い方が良い。

…友達を駒って呼ぶのは少々酷かもしれないけど…私に協力するっていっていたもの。容赦はしないわよ。

「はいはい、なんでしょうか?」

床板が外れ空いた穴から顔を覗かせながらさとりが聞いて来る。

相変わらずの無表情。なんかこう…表情ないのかしらね。

「貴方に協力の意思があるなら、今後もここにきてちょうだい」

「OKェ~♪」

次は幻月が答える。

私はさとりに声を掛けたつもりだったのだけど…まぁ、良いわ。

最初に私から断っていながらこんなことを言ってしまうのもなんである。

だが、敵でないなら味方につけていても良いだろう。後は話し相手。

「承知しました。これからも宜しくお願いしますね」

「敬語じゃなくていいわよ。それに姫じゃなくて輝夜でいいわ」

「……え?」

「はぇ??」

顔には出ないものの目が驚いている。

幻月の方はまるでアホの子みたいな返事をする。

こんな顔が出来たのね。新しい発見ね。

さとりは…うん。無感情ってわけでは無いのね。よかったよかった。

「姫って名前じゃなかったんですか?」

「ちがあああああう!」

なんだその名前!輝夜が苗字で姫が名前だと思ってたの!?…なに?天然?!

「じゃあ、苗字?」

「それもちがあああう!!」

苗字でもそんな名前にする親はいないでしょ!??一番先に馬鹿にされるわ!―何?二人とも天然な訳!??

「だって…ねえ」

「言わないと…さぁ」

なにが『だって…』よ?何が『言わないと』…よっ!?なにがおかしいのっ!?

え!?私がおかしいとでもいうの!?ねぇ!??

「……私の本名は蓬莱山輝夜よ!」

「なら、ホント最初からそういってくださいよ」

「もう少し早く言ってくれたら、私達もこうは訊かなかっだのに…」

結局、私が悪いみたいな言い方になってるじゃないっ!ああもう!

「まあまあ、不老不死とはいえ怒ってばっかじゃ体に悪いですよ」

あんたが言うなああああ!

「せっかく可愛い顔が台無しになっちゃうし…」

あんたらが原因ですぅ!わたしは怒りたくて怒ってないからぁぁ!!

…ふぅ。

でも、ま…月にいた頃より楽しいのは確かね。

―ならさっさと準備しないと。

…まずは手駒を増やすとこから…


 



 

さとり.視点

 



さてさて、困ったものです。

「どうやって帰ろう…」

「うん。考えて無かったなぁ…もぅ。なんなら最初から考えて置けばよかったよぉ…」

屋敷から出る方法を考えていなかった。

幻月の言った通りとなってしまった。

失敗しましたね。

これは…後先考えずにやってしまった代償ですね。はい。

それに夜だからでしょうか。警備も一段と厳しくなってます。

建物から出たらまず間違いなく見つかるかもしれません。

いくら新月で暗いからといっても蝋燭の光はどうしようもないですし…

仕方ないです。ここは正面突破で行きますか。

「想起…」

正気!??

と幻月が喚くも遅い。

止めていた妖力を解放し、サードアイを服の中から出す。

その夜、輝夜姫の屋敷は戦場になった。

幻月も巻き添えに輝夜姫の屋敷を大脱出してから13時間と40秒

未だに警戒態勢は解かれていない。

「いやあ…少し暴れすぎました」

「(暴れすぎってレベルじゃない気がするんだけど…)」

「ホント、あれは正直馬鹿野郎と言っても不思議じゃないから。」

そうですか?私はただ塀を壊して周辺にいた兵士を一時的に無力化しただけですよ。

「(その無力化の仕方が実力行使過ぎんだよぉっ!?)」

まあ後遺症が少しだけ残ってしまったかもしれませんが…

「(そういう次元の問題じゃないわいっ!)」

静寂な部屋に、猫の鳴き声と私の声に幻月の声と心の声の両方が交互に響いた。。

事情を知らないものが見れば猫と話す謎の少女と思われてしまうがあいにくここにそういうヒトはいない。

「ところで、ルーミアさんまだ帰ってこないのですか?」

「(うん、昨日の夜にふわふわーっと出かけたっきりだよ)」

「今頃、絶賛迷っている最中なんじゃないの?」

「そうですね。一理あります…」

「(いや、納得する箇所が何処にも存在して無いよぉ~??)」

ルーミアさん不在でも私は構わないのですが、今まで一緒だった人が急にいなくなると心配になってしまいます。

「「それは一理あるねぇ(それは一理あるなぁ…)」」

私の勝手な主観ですけどね。

一人と一匹は両方同時に同じ事を言う。

「常闇妖怪にも都合があるのでしょう」

「(お、珍しくそう呼んだね)」

珍しいですかね?

あ、そうか。普段私、ルーミアさん呼びだったのか。

「ただ、ルーミアさんって名前を口に出すのが面倒になっただけでしょ?」

「それもありますが…」

「(納得しちゃダメだろ…)」

お燐と幻月のボケ&ツッコミが追い付かない。

流石に限度があるのでこのまま流す事にする。

「まあ、気にしていても気が滅入るだけなので気にしないことにしましょう」

私達はこれからあの人のところに行かなければなりませんし。

「(あたいはここで待ってた方がいいのかい?)」

「そうね、待ってた方が安全よ」

私のせいで警戒度は上がってるでしょうからお燐でも妖怪と見抜かれる可能性が高い。

「(じゃあそうする)」

「それ以前に私達が暴れなければこういう事にもならなかったんだけどね…」

それはもう終わった事だし考えてもしかたない。

近くに置いてあったコートを羽織りいつものお出かけ態勢になる。

お燐に色々と家のことを頼み、まだ少しひんやりとした空の中に私は飛び出す。

飛ぶといってもずっと飛ぶわけではない。少ししたら降りる。

今回はちゃんと正規の手続きで入るからだ。

手続き…うん、手続き…語弊ですね。

耳元で風を切る音がちょうどいい音色を奏でる。まだ私の好きな音色を奏でる楽器がないこの時代では数少ない楽しみです。

ですが今回はそこまで遠くまで飛ぶわけではないので早々と楽しみはおしまい。

ここからはひたすら隠すことに集中する。

姫の屋敷は、やはりというべきか物凄い警戒態勢になっていた。

これ平城京の兵団の半分はいますよね。

「おい!子供達は帰れ!」

普通に入ろうとすると門兵に首根っこを掴まれた。首が締まる。

幻月は、首根っこを掴まれじたばたする。

これじゃまるで本当に子供みたいです…じゃなくてですね。

…こいつは本当に乱雑に人を扱うものだ。

―ですが、この人達はどうやら普通の人間みたいですね。

昨日の爆破から考えて陰陽師とか妖怪退治屋とかを警備に付かせると思ったのですが…

動かせる人員がこのくらいしかいなかったってことでしょうか。

…まぁ、あれだけ騒いで暴れれば陰陽師達や兵士たちもただでは済まなかったでしょうね。

かなりの兵士たちが負傷して、動けなくなったのでしょうね。

…いずれにせよ、私には好都合です。

「輝夜姫に、古明地さとりと幻月が来たと伝えて下さい」

昨日の今日だ。輝夜姫だって覚えているはずだ。

まさか、覚えて無いとか言わないでしょう。

そうなったら大事に繋がるのは確定になってしまうが。

じゃあ、なんで最初の方にそう言って入らなかったか…

そりゃ初対面の…一庶民でしかない私が輝夜姫に合わせてくださいなんて言っても門前払いでしかない。

この例えは前にやったから、見たい方はかなり戻って探してみて下さいね。

―だが、今の私は輝夜の知り合いで十分通る。

あまり褒めらえた事ではないが一度知り合ってしまえばこんなもんである。

しばらく困惑していた門兵が伝言のために建物の方へ走っていった。

しばらくすると血相を変えた兵がまた走ってきた。

そこまで血相を変えますか普通……

「も、申し訳ありません!直ぐに案内します!私に付いて来て下さい!」

ちょ…輝夜姫、何吹き込んだんですか?

ど、どう考えても脅しかけてますよね!?

更には身分上力無い人だから、余計恐怖を感じただろう。

可哀そうに…とは微塵も思いませんでしたけどね。

兵の後に続いて建物の中に入る。

ここからだと、昨日私が壊した壁がよく見える。

周辺の木々も巻き込んで地面ごとえぐれているあたり。

…少しやりすぎてしまったなと後悔する。

「(後悔しても遅いんだからさ。それに私言ったよね?輝夜姫が一番の被害者だって。友達なって初日に暴れられる気持ち考えた事ある??)」

…ごもっともです。

幻月の言う言葉は大体わかる。友達になったばかりの幻月が居たとする。

その人がいきなり人の敷地内でいきなり爆薬を起爆させたり、壁屋根を破壊し始めたり、更には家の人を巻き込んでの大乱闘をし始めたら、もう怒るどころかそれを通り越して呆れてから笑いしか出来無くなる。

そうしているうちに敷の中から女中さんに案内が変わっていた。

一応、建物の構造は昨日床下から見たのでなんとなく覚えている。

…だがそれを踏まえても部屋数が多すぎる。

いや、よくよく見てみれば部屋数というより襖で区切られている。…と言った方がいいのだろう。

しばらく女中に続き廊下を進んでいくとあの部屋に前に着いた。

もちろん私は従うだけ。

ここで変な事をして面倒な事になってしまうのは御免です。

特に私はこの時代での人間の作法なんて全く知らないですし。

襖が開かれると奥に凛々しい姿の姫が、これまた威厳のある雰囲気を流しながら佇んでいた。

「三人だけで話がしたいから、誰も入れないで頂戴」

輝夜姫の言葉に女中は恭しく礼をし、下がった。

襖が閉められ人の気配が消える。

同時に威厳を姫として放っていた輝夜の気が抜ける。雰囲気が一気に変わった。

「…で?…昨日は随分と賑やかだったわね?お二人さん??」

「ええまあ…ちょっとやり過ぎました」

「私は半強制参加させられ、気分は最悪です」

「そうなの。でも、二人がやったのは事実。もぅ、本当!!…そのおかげでここがもぅ大騒ぎだったんだからね!」

大変だったと身体中でアピール。

その上語彙力すら無くなる程体で力説し始める。

そんなに凄かったんですか…ちょっとやり過ぎましたね。

「(ちょっとじゃないでしょうが!!)」

ごめんなさいごめんなさい。肝に銘じておきますので勘弁してください!

私は、初めて幻月が最も怖いと思った瞬間だった。

彼女、敵に回した視点で訊いているとこの様に怖かったのですね…身をもって知りました。

…これからは気を付けて接していかないと…

「…まぁいいじゃないですか。何とかなったと思いますし。それよりも早く本題へと入りましょうよ」

まだ不満があったみたいだが、私がタイミングを潰してしまったが為に、言い損ねてしまったのだろう。

むすっとした表情のまま彼女がきりだす。

「一応確認だけど、ここに来たってことは『そういうこと』であってるのよね」

「私に百合っ気があるって事…あ、嘘です嘘です。すみません。冗談です。その、貴方が月へ帰るのを阻止するという手伝い…ですよね?」

「わかってるならちゃんと言いなさい」

「ふざけてないで、ちゃんとしてよぉ??でないと、死ぬよ?」

怖い怖い。いきなり刀を突きつけないでくださいよ。

更には昨日の恨みだと言わないばかりに幻月からも何時でも殺れるオーラが漂ってい居た。

「言っておくけど、これでも剣術は出来る方よ」

へえ、そうなんですか。あれ、でもその持ち方…剣術にしては持ち方とかが不自然だ。

「あら?幻月の方も私と同じ様な殺気をとばしているけど…もしかして、昨日の?」

「―そうだよ。ホント。昨日は散々でしたよ~…止める間も無く色々と暴れ、終いには私も犠牲になる羽目に。一応、まだ根に持っているんだからね?」

「フフッ。なら、いざとなったら私と貴女で此奴をボコボコにしましょ?」

「OK~♪二度とこんな事が出来ない位に痛めつけてやりましょう!!」

「いや、その、あの時の事は本当に反省していますので、そんな嬉しそうに此方に向けて武器とか向けないで下さい。はい。お願いします」

怒りのレベルがガチだわ。

一歩対応を間違えたら二人でボコられる未来が見える…

そんな事は置いておいて。

「近接戦闘…どっちかっていうと軍隊に近くないですかそれ」

体を構えた刀の軸線に入れるような足腰の運び方。そして刀の持ち方……完全に近接戦闘向けだ。

「ああ、分かるのね。そうよ、月にいた頃仕込まれたの」

それなら刀をそのようにして構えるのも納得です。

その構え本来はナイフなのですが…まあ刀でも出来なくはないのですね。

「私もそんな感じの戦闘技術なら出来るよ」

「これはまた厄介な相手になりそうですね」

「同感ね。」

輝夜でさえここまで綺麗に出来るのだ。もし相手が正規兵であればシャレにならないでしょう。

幻月の方も顔が引くレベルで判る。

前世記憶で言えば海兵隊クラスと思ってもいいでしょう。

「でも、貴方はそれを承知なのでしょう?」

「ええ、そうですよ」

「多少は勝算はあるだけなんだけど…それしか突破口がないかな?」

ちょうどそこに女中がお茶を持って来た。

話の途切れるタイミングを計って来たのだろう。

有能な女中さんですこと。

「じゃあまずは、状況整理からね」

出されたお茶を飲んで一息ついた輝夜が状況を語ってくれた。

二ヶ月後、島流しの期限が切れ月の民がお迎えに来るそうだ。

地上に流された理由はもちろん不老不死の薬を飲んでしまったからという事でここら辺は私の知識と一致する。まああまり役に立つとは思えませんが…

因みに不老不死の薬の名前は『蓬莱の薬』

元々の名前の『蓬莱』とは中国にて伝わる伝承の名から取っているらしい。

その不老不死の薬の話は元の輝夜姫から来ているんですが、これまた話が違くなるんですけど、元の話ではその薬をおじいさんに渡すその後月へと帰る。それが『お伽話の輝夜姫』

…なんですけど、この世界での輝夜姫は、その薬を月で先に飲んでから始まるのが『この世界における輝夜姫の物語』です。

この話の発端はその薬を飲んだ事から始まるんです。

不老不死というその状態が月の世界で重罪なんですねこれが。

その罪を背負い流刑として不自由な地上へと落とされる。

『この世界の輝夜姫』は小さな子供から始まるのではなく、18歳位の見た目から始まっているのを忘れてはいけない。

そうして、ここに居るのはあの輝夜姫ではない『月へ帰るのを絶対拒絶する輝夜姫』というある意味別人である。

そうした世界での輝夜姫がある位だからそれに協力する従者もいる訳で…

その世界の噂でしか無いのだが、付いて来た月へ帰る為の兵士と共に輝夜の一番の従者は、輝夜の目的を達する為なら何でもする所存である。

更には、計画により月へ連れ戻しに来た兵士全員裏切り全てを皆殺しにしてまで地上に留まり逃亡生活をしだすと言う。

まさに、輝夜に付き従う従順な従者もいる訳だ。

ただ、月の兵力はどのくらいで来るのか。それだけはわからないとの事だ。

大まかな予想でいいから尋ねてみたものの、私の問いに輝夜は渋い顔をした。

「多分、二個中隊くらいかしら」

パッとしませんね。

「いえ、多くてもそのくらいなの。ただ、装備が…」

「まぁ、それ以上言わなくても判るよ。試作って所でしょ?」

装備?装備ってどういうことでしょうか?

「…えぇ。それもあるわよ。実践投入するのは判らないけど…少なくても9、10台から…最大18台最悪25台以上使うかも…」

とんでもない情報どうもありがとうございます。

「うぁわぉ…訊いているだけで絶望的情報だねぇ…」

「それに、ここだけの話よ。あまり詳しくはわからないけど、銃とか戦車とかいろいろよ…それでも今の所実践投入はまだされていなかった筈だから…もしかすると使ってくる可能性も…って言っても、具体的に話せないから、わからないか…」

「え、ええ…そ、あ、あの…銃とか戦車って…」

中隊クラスで戦車とかですか…機械型歩兵部隊でしょうか?それとも海兵隊の戦車もどきな輸送車?

でもって、試作とは?もしかすると未完成という意味でしょうか?

「気にしなくていいわ。ただ、貴方も勘づいているか判らないけど、試作だから壊れやすいのは確実ね」

そうですか……まあ確かに詳しくはわかりませんよ。詳しくは…ですけど。

「へえ…そうですか。別にいいですけどそれを込みで逃げる作戦とか考えてますよね」

「まだ二ヶ月あるんだしまだいいじゃん」

「当の本人が考えなくてどうすんのぉっ!??」

ほら、幻月さんも余りにも計画性が無さ過ぎて反論してますし!!

楽観視しすぎですよ!何も考えてないってどう言うことですか!?

…まあ確かに後二ヶ月あるのは事実でしょうけど。

「一応、向こうに話のわかる人が一人いるわ。その人に協力してもらうの」

つまりは細かいことは全く考えてないと…

まぁ、実際に不確定要素が多いのであまり細かく決められないのも事実ですし…

「(其処は、ホラ、輝夜の従者が何とかしてくれるでしょ?ああ見えて完璧で冴える頭脳を持っているんだから、そのような状況に陥ってもなんとかできそうだからじゃない?)」

あの従者なら確かに輝夜の手を煩わせず対処出来そうですね…

―って言うか戦車とか出してくる相手にどう立ち回ると…

まぁ、輝夜さんの方は多分その従者が柔軟に対応してくれるから放置でOK。

この辺り私は私で準備しないとですけどそれはそれで大変ですし、完全に対策は出来ないでしょう。

「まあ、その事はいいです。後は迎えの連絡とか…ってくるんですか?」

「ええ、一応来るわ。地上の人たちには理解すらできないでしょうけど」

そんな高度な技術があるのですね…

理解できないか…

それもそうだ。

そもそも、月の民の名前は例え日本語で呼んでいても実際は発音出来ない程のレベルの発音の仕方をするから、地上の民では到底理解出来ない訳である。

それが正しければ確かに、あの幻想郷の賢者が月に進行してまで欲しいがままにした理由もわかります。

ただ、協力者がいるなら、私はどこで何をすれば…

…なんて。

まあ、ある程度予想はつきますけど。

「じゃあ…私は、」

私の問いかけを遮るように輝夜が手を出す。

「お迎えが来た時に逃げるのを手伝ってくれれば、いいわ」

少し、苦悶の表情を浮かべながらそう呟いた。

それ、結構危険なやつですよね。

「―でも、貴方が危ないって思ったら私に構わずすぐ逃げて」

それほどまでに危険な相手なのだろう。

まあ戦車とか銃とか使ってるみたいですしそれなりに強いのであろうことは想像がつく。

「……」

「大丈夫です。死ぬ気は微塵もないです。それに…」

「対処法なら任せて。軽く蹴散らすし、差し違える気も微塵も無いよ。それに…」

それにと聞き返して来そうな雰囲気。

「私達をあまり舐めないでくださいね」

「私達の力を甘く見ないでよ~」

自分でも驚くようなほどの気が流れる。

幻月さんなんてもろ出してしまっているじゃないですか…

流石に流し過ぎると外にいる人にバレてしまうのですぐに引っ込める。

「え……ええ。貴女達がそこまで言うなら」

私の気に思うことがあったのか少し考えていた輝夜はそう頷いた。

「それに…打つ手がないわけじゃありません。相手が生きている生物なら望みはありますし、幻月さんと一緒なら無敵と同じです。」

「そうそう。大船に乗った気でいて頂戴よ。最悪、さとりとんpコンビネーションで敵を次々と無双しちゃんだからっ♪」

その後も少しの間屋敷にとどまって話をしていたが、貴族がお見合いに来てるとのことで私は帰ることにした。

屋敷を後にしてから数十分。なにやら後方から誰かがつけてくる。

こんな私を尾行するなんて誰でしょう。

幻月が先に気付いて私に教えてくれたお陰で気付く事が出来たのだが…

まさか先ほどお見合いに来ていた人でしょうか?

―ですが私は裏手から屋敷を出たから顔は見られていないはず…

サードアイを使って確認してもよかったが、むやみに力を使うのは愚策と考えやめる。

「おや…前から兵団…?」

「ありゃ?囲まれちゃったようだねぇ…」

どうしようか悩んでいると前の方から貴族の兵と思わしき集団がやって来た。

あれ…もしかして後ろから来てる人達って…あ…挟まれた?

気づいた頃には私の前後に槍とか弓を持った人達がたくさん立っていた。

戦闘態勢ではないようですし、本気で攻撃はしてこないのでしょうけど威圧が凄い。

「あの…私達に何か用でしょうか?」

「用が無ければ、早く帰りたいんだけど…」

その中の一人、どうやらいかにも貴族ですと言った格好をした人が歩み寄ってきた。

「ふむ、これほどの人数で囲まれてながら全く怯えぬとはな…それにそんなに怖がらなくても良いぞ?別に連行するとか捕まえにきたのではないからな。」

なにが言いたいのでしょう。それより前に本当に誰でしょう。

私はこんな人物知らない。

突然来た貴族の人は私達の事をじっと見つめ押し黙る。

しばらく続き、私達が呆れの眼をしたころに突然笑い出し、口を動かし始めた。

「…ふむ。ククッ!ハハハッ!!黙ってしまって申し訳ない。余りにも珍しかったのでな。それにしても実にお主らは肝が備わっているではないか!…気に入ったぞ!!おっと、申し遅れたな。我が名は、藤原不比等。お主達に興味が湧いた。故に一緒に来て貰いたいのだ。」

と名乗り出たのは、あの有名な藤原不比等。

嘘ですやっぱり私、知っていました。

…だって、いずれは輝夜と殺し合う仲となる筈の藤原妹紅の父親であったからだ……


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