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神の恩恵

───1───


 ギルドへの再登録に家探し、果ては片付けとバタバタ忙しかった初日を終え、翌朝。

 湖畔の近くに赴いた俺は、とある日課を消化している真っ最中である。


「…………はっ!」


 その日課とは、何を隠そう剣術の鍛練だ。


「よくやるわよねー、あいつ。 もう一時間はずっと剣振ってるわよ。 私には真似出来ないわ」


 なんてものぐさな奴。

 それで冒険者をよく名乗っていられるものだ。

 呆れて物も言えない。

 まぁ────


「そういえばラミィちゃんってあんまり鍛練しないよね。 たまにはソーマさん見習ってやってみたら?」


「嫌よ、めんどくさい。 だってスキルさえあれば、必要以上の鍛練なんてやる必要ないもの。 やるだけ無駄よ」


 有用なスキルが使えるなら話は別だが。

 

 スキルとはいわば神の恩恵だ。

 神の恩恵とはすなわち、人智を越えた力。

 神の叡知であり、後天的な天賦である。

 故に、どんなスキルであろうと有用であれば、それ一つで戦況は覆る。

 それこそ最もメジャーな直剣スキル、鋼通しですら相当な驚異だろう。

 なんたって鎧通しさえ使えば、なまくらな剣で鋼を斬り裂けてしまうのだから、戦闘で使われたら恐ろしくてたまらない。

 鎧なんて意味なくなるからな。

 羨ましい限りだ。


 ……それはそれとして。

 

「──イグベルト流が三の型…………つむじ風!」


「おぉぉ……」


「う、嘘でしょ。 なによあの速度、本当にあいつ私よりランク下な訳?」


 やっぱりそうだ。

 この感覚間違いない。

 スピードと反応速度が以前ほどでは無いにしろ、戻ってきている感じがする。

 

「ふわぁ、すごぉい! 今の見た、ラミィちゃん! とっても速かったね! こう……ビュンッ、ビュビュンって!」


 あそこで瞳をキラキラさせているチョロイ子が、俺に好意を向けているせい…………お陰で。


「ま……ままままま、まぁ? わ、私ほどじゃないけど、それなりに強いんじゃなぁい? 私ほどじゃないけど!」


 ほう、良い度胸だ。

 どれ、丁度良い。

 本格的にギルドの仕事を始める前に一つ試してやるとしよう。


「随分な言い種だな。 けどそこまで言い切るって事は、それなりに強いんだろ? なら俺がいっちょ相手してやる。 かかってこいよ」


「はぁ? なんで私がそんな事しなくちゃいけないのよ。 冗談じゃ……」


「なんだお前、あれだけ生意気な事言ってたくせにもしかしてビビってるのか? はっ。 あーだこーだ言ってたが、所詮はガキだな。 自分の腕によっぽど自信が……」


「んな! ななな……なんですってー!」


 こいつはこいつでリアとは違う方向でチョロいな。

 こんなすぐに釣れるとは。


「良いわよ、やってやろうじゃないの! 腕試しでもなんでも付き合ってやるわよ! 私をバカにしたツケ、絶対払わせてやるんだからー!」


 どの程度の実力か、見定めさせてもらうぞラミィ。




 ───2───


「覚悟しなさいよ、ソーマ! 今からあんたをけちょんけちょんにのして、吠え面かかせてやるんだからね! もう泣いて謝っても許してあげないんだから! 聞いてんの、バカソーマ!」


 ラミィがこちらに向けた剣をブンブン振り回してぶちギレているが、俺は一向に構わずブロードソードを身体に馴染ませる。

 勝負というのは剣を交える前から始まっているもの。

 実践では精神を揺さぶられた方が負ける。

 戦いにおける数少ない心理の一つだ。

 この時点で俺は一歩リードしていると言って差し支え無いだろう。

 あんな精神状態でどこまでやれるのやら。

 ある意味見物だ。


「リア、こっちは準備できた。 いつでも良いぞ」


 言うと、頷いたリアは右手を真っ直ぐ突きだし、制止。

 そして、俺とラミィの顔を見渡した次の瞬間。


「では……始め! です!」


 勢いよく天へと腕を上げた。

 模擬戦開始の合図である。


「先手は貰ったわよ、ソーマ!」


 たわけか、あいつは。

 声を出したら折角の不意打ちが無駄になるだろうが。

 なってないにも程がある。

 しかもばか正直に正面から突っ込んでくるとは。

 舐めてんのか。


「おりゃあ!」


 ラミィは俺の顔面に向かって突きを放つが、攻撃は丸見え。

 剣で弾く必要もない。


「あっ、避けるな!」


 無茶を言う。


「避けなかったら死ぬだろうが」


「チッ!」


 なかなかどうして、頭の切り替えは悪くないようだ。

 避けられるや否や、リアは回転斬りへと咄嗟に変更。

 俺の首筋を狙う。

 この程度なら簡単に避けれるが、もし避けたら次は恐らく盾を当てにくる筈だ。

 ならここは……。


「甘いな」

  

 ギインッ。


「くっ!」


 剣と剣が重なり火花が散り、やがてラミィの剣が弾かれた。  

 まさか今のを防ぐとは思わなかったのか、ラミィは後ろに跳び小盾を構える。  

 が、俺に攻撃を許すのは悪手としか言えない。


「次はこっちから行くぞ」


「ふん! 来てみなさい! あんたの攻撃なんか、全部私が防いで…………きゃあっ!」 


 たった一回の突きで、ラミィは盾を弾かれてしまった。


「一撃で剥がされた!? スキルでも無いのになんて威力の突きよ! でも勝負はまだここから……!」


 しかし思いの外根性のあるラミィは直ぐ様態勢を整え、攻撃に備えようと盾をもう一度構えようとした。

 だが、今一つ遅い。


「震脚!」


「かはっ!」


 盾を構える寸でのところで放たれた俺の蹴りが、ラミィの腹部に直撃。

 ラミィは球のように転がっていく。


「ラミィちゃん!」


「が……あ…………な、なによ今の蹴り……。 全然見えなかった……」


 ほう、案外やるな。

 内臓にも衝撃を与える蹴り技、震脚を食らってもまだ立つか。

 ならその根性を称えて、少しサービスしてやろう。

 

「これじゃあ勝負にならないな。 お前ももう限界なんじゃないか?」


「ふざけんじゃ……ないわよ! 私はまだ……! うぅ……」


 何がまだやれる、だ。

 生まれたての子ジーカみたいに足をガクガクさせてる癖して。


「今のお前じゃ俺には勝てない。 それくらいわかるだろ」


「そんな事は…………ッ」


 ここまで実力差をまざまざと見せつけられては、いかにラミィと言えどもが認めざるを得ないのだろう。

 ラミィは悔しそうに歯軋りを湖畔に響かせた。


「だから一つチャンスをやる。 俺を倒せるチャンスをな」


「チャンス……?」


「なんでも良い。 俺にスキルを一撃当ててみせろ。 そしたらお前の勝ちだ」


「!」


 明らかなハンデだが、それに反論する体力はもう残っていないらしい。

 ラミィは足に力を入れると、最後の力を振り絞って武器を構えた。


「後悔するんじゃないわよ」


「ああ」


 一言そう呟くとラミィは首筋のアザ。

 刻印を煌めかせてスキル発動の準備をする。

 そして────


「なら……受けてみなさい! これが私のとっておき!」


 勇猛果敢に飛び出したラミィは、間合いに入った刹那、スキルを発動させた。


「パリング……!」


 まず彼女が放ったのは、突き出した小盾による衝撃波。


「ッ!」


 その衝撃波はなかなかの威力で俺の剣を弾くほど。

 強制的にパリィしてしまう初動技なのだろう。

 かなり強力な技だ。  

 とっておきというのも頷ける。

 更にラミィは続けて二段階目の技。


「アッパー!」


 アッパーの名に恥じない飛び上がり斬りをやってみせた。

 これがリザードマンのような人型魔物やBランク以下の冒険者、騎士団所属の低級騎士程度の相手なら通じるだろう。

 しかしこの程度のスキル、俺には通用しない。


「よし、これで! ……え、嘘。 なんで今のが当たらな…………かはっ!」


 ラミィが気が付いた時には、既に地面に叩きつけられた後だった。

 首筋には切っ先が突きつけられている。

 ここから逆転はまず不可能。


「まだやるか?」


「え、遠慮しとく……」


 ラミィは両手を上げて降伏のポーズをとるしかなかった。

 

「勝負あり! 今回の模擬戦は、ソーマさんの勝ち!」

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