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勇者よ、伝説の剣を手に入れて国を救え

作者: aqri

 伝説の剣ガリスブリアード。かの伝説の勇者、デリストー・タクセンが使っていた大剣だ。王宮の地下に封印されておりデリストーだけが抜いて見せた。

 彼は国を救った英雄だ。他国から攻め入りやすい地形にあった国を守るため戦の前線で戦った。圧倒的な兵力を持った敵国を何度も退けられたのはガリスブリアードあってこそだ。

 この剣は強大な魔力が封印されており、使い手がいることで初めて魔力を開放することができる。その力は強大で一振りで百人をなぎ倒すと言われた。

 国が安泰になるとデリセトーは急に姿を消す。戦いを求めて去ったのだとか、実は戦争で命を落としていたのではないかとか、様々な見解はあるが真実は闇の中だ。

 

 デリセトーがいなくなって二十年あまり。再び国は危機にさらされていた。大昔に封印されたはずの魔王が復活し、魔軍を作り戦いに備えているという噂が流れたのだ。実際に魔王が復活してから天候は荒れ、謎の不審死を遂げる人が増え、皆が怯え始めていた。これを機に他国が再びこの国に進軍してくる可能性は大いにある。

 国王は国内に勅命を出す。誰か、ガリスブリアードを探し新たな勇者となって立ち上がれと。

 伝説の勇者は人々のあこがれだ。この勅命に国内は大いに盛り上がり熱狂した。国外からも腕に自信がある者が集まり、剣を求めた。


 一体デリストーは、剣はどこに消えたのか? 彼の最後を知る者はおらず記録も残っていない。しかしたった二十年前だ、知り合いや戦友は生きているはずだ。皆血眼になって探したが、なかなかみつからなかった。

 というのもデリセトーは無口であまり社交的な性格ではなく、友と呼べる人間がいなかったのだ。戦争に参加した者達は遠くから彼を眺めるだけ、称賛するくらいしか関わりがなかったのだとか。

 国内では強い者こそ剣を持つ資格があると武道大会が開催され、優勝者には以前封印されていた地下への案内と国王が持っている資料の謁見を許されることとなり、腕に自信がある者達はこぞって参加した。

 熾烈な戦いを制し、勝ち上がったのはシャイゼ・ユーバルト。武術、剣術、体術の類が非常に強く頭もいいので戦略の練り方が上手い。少しやりあえば相手の癖や特徴を見抜きあっという間に弱点を見つけて叩きのめすのが早い。弱者に優しい人格者で人気も高い。ハンサムな顔立ちも子供、女性、老人たちから評価が高かった。


「苦しい戦いをよく勝ち残った。余はそなたに敬愛を示す」

「もったいなきお言葉、ありがたく」


国王の言葉にシャイゼは深々と頭を下げる。平民の出であるシャイゼにはまさに空の上の人だ。


「では地下へ案内しよう」

「まさか、陛下が御自(おんみずか)ら……?」

「それだけ大切な場所だ。王家の者しか引き継がないからな」


 そう言うと国王は玉座から立ち上がり、着いて参れ、と言うと歩き出した。驚いた様子のシャイゼは言われたとおり国王の後に続く。

 王宮の長い廊下を歩いていたが、何もない壁の前で立ち止まると国王は数か所こんこんと手でたたく。するとガコン、と音がして扉の形に壁がへこんだ。隠し通路だ。

 お付きの者もなく兵士も一人もついてこない、本当に国王のみが取り扱っている案件なのだとわかり緊張が増す。無言のまま国王に着いて行った。

 長い長い階段を降り、どのくら降りたのかというころようやく階段が終わり広すぎる地下の廊下を進んだ。二人分の足音だけが響き渡る。

 ふいに国王が立ち止まった。一歩右にずれてシャイゼに前が見えるようにする。目の前の光景を見たシャイゼは目を見開いた。

そこには、剣があったのだ。


「陛下、まさかこれは」

「皆が探し求めるガリスブリアードだ。なくなったのではない、ここに再び封印していた」

「何故……?」

「この剣は危険なのだ、触れた者を使い手に勝手に選んでしまう。しかい使いこなせるのは真に強い、本物の強者のみ。世に放り出されれば国を滅ぼしかねない」

「そうか、王宮の地下に封印されているとわかれば剣を求め混乱や戦が起きる。だから事実を伏せていたのですね」

「うむ」


 国王に視線で促され、シャイゼは剣の前に立つ。一匹のハエが飛び回っていたが、鬱陶しいのでナイフを投げつけて壁に突き刺した。深呼吸をして剣を握ると、凄まじい魔力が全身を駆け巡り激痛が走った。


「ぐ、ああ、あああああ!」


 どんな戦いにも怪我にも耐えてきたシャイゼでも、さすがに叫ばずにはいられなかった。全身をバラバラにされるような、肉や骨が一度ちぎれてくっつくようなとてつもない苦痛。激流のような痛みに耐えに耐え、ついにふっと体が軽くなる。痛みはまだあるが。


「おお、剣を扱える素質があったようだ。はは、良かった良かった」


 先ほどまでの重々しい雰囲気とうって変わって軽い笑いとなった国王に、シャイゼは疑問を感じ苦痛に顔を歪めながら国王を見る。


そして、目を見開いた。

 国王の周囲には不気味な黒い影のような、霧のようなものが渦巻いているのだ。剣を持った今ならわかる。これは「魔力」だ。それもとてつもない量の、とんでもない質のおぞましい魔力。はっとして剣を見れば、剣からもまったく同じ魔力を感じた。

 国王はニタニタと不気味に笑っている。


「一体どういうことだ? と思っているだろうから教えてやろう、愚者よ。国王という立場はと~っても暇なのだ。良い暇つぶしと言えば戦を愛でることくらいだ。人が大勢死に、勝手に英雄を祀り上げ、人殺しを正義とした娯楽になっていく国を見るのが唯一の暇つぶしとなる」

「陛下……?」

「てきとうに戦の種を撒いておけば勝手に戦を始めるがそれではつまらんから画期的なアイテムを作ってみた。それが勇者にしか使えない伝説の剣だ。そういう設定は皆飛びつくからな。剣には二つお楽しみ要素をつけておいた。一つは俺の魔力を注ぎ込んでいるから無限に魔力が使えること」


 魔力が無限。そんなことができる人間がこの世にいるとは思えない。シャイゼは嫌な予感に汗が噴き出る。


「もう一つは、使い手は魔人化が進むことだ。今この瞬間からお前は人間ではなくなっていってるぞ」


 ニヤニヤと嗤う国王の言葉通り、シャイゼの爪はすでに真っ黒だ。ひ、と息をのんだ。


「一度触れれば剣を使っていなくても魔人化は進む。止める方法はただ一つ、特別な血を剣に(すす)らせる事だ。この世には呪いや魔族を浄化する巫女の家系が息づいている。強大な力を持ち、代々戦士になる輩が多いようだから戦っていれば一人二人はひっかかるであろうよ。この国にはいないがな、全員俺が殺しておいたから。さあ探せ、その血筋を殺していけ」


 ようやく理解した。戦はすべて仕組まれたもの。魔王復活の噂も勇者も剣も人々を熱狂させるための仕組みの一つに過ぎない。すべては、この国王を……いや、魔王の快楽の為に作られたシナリオなのだ。

 一体いつからこの国は魔王に支配されていたのか。いや、もしかしたら。


 この国を作ったのは魔王なのかもしれない、暇つぶしの為に。


「さあ戦え勇者よ。お前は戦う事で人を保っていられる。デリストーもそうだった」

「き……さま……!」

「嫌ならやらなくていいぞ、魔人化が進むだけだ。最終的にどうなるかはお前もさっき見ただろう」


くい、っと顎で示されたのは先ほど殺したハエ。

ハエ……?

姿を消したというデリストー。戦が終われば戦う相手がいない。まさか。

その事実に、シャイゼは頭を掻きむしる。魔人というからてっきり人の姿をしていると思った。しかし、実際は。


国を救うために剣を探した。

自分を救うためには血を探さなければならない。


「うわあああああああああああ!」

「あはははは」




 伝説の勇者、シャイゼ・ユーバルト。彼は素晴らしい勇者であった。魔王軍と戦い、進軍してきた他国と戦い。自ら危険な戦いに身を投じ、倒した敵の数は数百とも数千ともいわれている。あまりの強さに畏れを抱いた他国は撤退した。

 それと同時にシャイゼは姿を消す。戦っている時のシャイゼは人とは思えない強さがあり、口数も少なく近寄りがたい雰囲気があった。戦いが終われば次の戦いを求める鬼気迫るその姿は、仲間であってもどこか恐ろしさを感じる程だ。戦いの中でしか生きられない人間なのだろうと噂された。

 戦争が終わり平和となった今、シャイゼがどこで何をしているのか知る者はいない。

 平和な時代が訪れ、国王は欠伸をした。


「また退屈になってしまった。そろそろ違う要素を追加するか。光の戦士の一族とかなんかてきとうに作って、剣を使えるのはその一族だけとか言うと選民思想が生まれて面白いかもしれない。相手を見下す阿呆が増えるかな」


 国王(まおう)の周囲をぶんぶんとハエが飛ぶ。それを的確に指でピン、と弾けばすぐ近くの蜘蛛の巣へとひっかかる。あっという間に蜘蛛が近寄って来てハエを糸でぐるぐる巻きにしてしまった。


「うるさいなあ、仮にも百戦錬磨の伝説の勇者がギャーギャー騒ぐな、みっともない」


蜘蛛が、ゆっくりと食事を始めた。


END

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