第4話 大精霊のガグルさん
前半はエグゼさん視点です
「許さねぇ……」
暗い森の奥。
勇者に捨てられた俺は恨み言を口に出しながら歩いていた。
「殺す……殺す殺す……」
力を得なければならない。
どうする?
考え、進む俺の前に人影が現れた。
「力が欲しいのか」
誰だ?
「ここの森を管理する大精霊の一人、ガグルだ」
俺はなにも口に出していないのに会話が成り立っている。
俺の思考が読めるのか?
「ああ、そんなことは簡単にできる。……それよりもだ。強い殺気を感じた。復讐したい奴がいるんだろう?」
いる。
勇者だ。
できるだけ苦しめて、生まれてきたことを後悔させてやりたい。
「フフフフ……いい、いいぞ……。私はその感情が大好物だ。気に入った。貴様に力をくれてやろう」
早くよこせ。
「まあ、そう焦るな。すぐにくれてやる」
ガグルがそういった瞬間、視界が暗転した。
直後、なにもない空間に投げ出される。
すると、どこからともなく声が聞こえてきた。
「そこは私の作った亜空間。外と比べて、時間の流れが極めて遅い。……そして実時間で1時間、しかし体感時間では半年、そこから出ることはできない。半年の間は、最強クラスの魔物による蹂躙が行われるだろう。せいぜい耐えてみることだ。耐え切ったとき、お前は力を手にし、最強となる。そのときにまともな精神が残っているかはわからんがな。フフ……フフフフ」
その言葉を聞いても、俺の心にはもはや迷いや焦り、不安はなかった。
魔物を倒し、勇者に復讐するという意思だけが俺の体を支配していた。
「ククク……必ずあのクソ勇者の人生を終わらせてやる……」
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「やばい、終わったかもしれない」
魔導通話機を耳に当てて、勇者様はそう呟いた。
「どうしたんですか」
「起動しない。やっぱこの前風呂で使ったときに壊れたのかも」
「なにやってるんですか」
勇者様はうーん、うーんとしばらく唸った後に、指先で通話機をいじり、もう一度耳に当てた。
「お、ついたついた」
「まったく人騒がせな……」
どうやら何かの魔法を使って修復したようだ。
直せるなら最初から騒がないで欲しい。
「で、エグゼさんにはなんていうんですか? 戻ってこいと?」
「いや、ゴーレムだけよこせと」
「うーわ、最悪だこの人……」
しばらくすると通話がつながったようで、勇者様は満足そうに話し出した。
「えーと、もしもしー? こちら勇者です。エグゼですか」
「エグゼはいない。いるのは私、ガグルだけだ」
「…………」
通話機の向こうから、知らない男の声がした。
それを聞いた勇者様はしばらく黙り、私の方を向いて言った。
「どうしようゼト、エグゼがゴーストバスターズ に出てきた門の神みたいなこと言ってる」
「誰がわかるんですかそのネタ。それより勇者様、よく聞いてみてください。今の声はエグゼさんじゃないです」
「え? マジで?」
勇者様が再び通話機に耳を傾ける。
「えーと、ガグルさんでしたっけ? どうしてエグゼの通話機に?」
「いかにも、私は大聖霊が一人ガグルである。エグゼとやらは今……おっと、ちょうど目覚めたようだな」
「は?」
「すぐわかる。楽しみにしているがいい」
「……えーと、はい。今から待ちきれない気分です」
「フフフ……そうか。それはよかっ……」
ブチッ、ツー、ツー、ツー。
ガグルさんが話し終わる前に、勇者様は電話を切った。
そして、言った。
「ゴーレムは無理そう」