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新世界漂流記  作者: さとうマドカ
3/10

準備

地下から巨木を登り切り地上に出た俺は、疲労感からか気が抜けたのか、その場に横になるとそのまま眠ってしまった。

俺が目を覚ましたのは、空腹感からだった。


既に日は落ち、危険が何処に潜んでいるか分からなかったが暗がりの中、周辺の様子を見て回ることにした。

穴の途中で見た化け物の様な奴に出会わないように注意を払いながら。


辺りも地下と同じく自然の森に包まれている様だったが、所々、木々が途切れ開けた場所になっている所もあった。

周囲を軽く見て分かったのは、俺が居た地下の施設は、なだらかな山の中腹辺りに作られ、目印となる様な建物らしきものも無く、ただ地下に掘られた場所の中に建造されただろうという事だった。


「何も無いかぁ・・・」


そう口に出した途端に急激に更なる空腹が襲ってきた。

とりあえず、何でも良いから口に出来る物を探そう。

そう思い直し、俺はもう一度、木々の中に分け入って行った。


きのこでも木の実でも良いから何かないかと月明りを頼りに探し続けていると、少し先の開けた場所に小動物の様な生き物が何匹か居るのが見えた。

ネズミの様な姿をした子犬サイズの、その生き物をどうにかして捕まえる事が出来ないか、そう考えた俺は、息を潜め、木陰から、遠巻きに様子を伺っていた。


少しづつ目が慣れたのか、ネズミ共の姿が明確に見えた。

毛で覆われた姿は、見知った物に見えていたが、よく見えたそれは、全くの別物だった。

前足らしき部分は猿の手のように器用に動き、目が赤く、鼻は潰れて爬虫類の様な顔つきをしている。


(・・・あんな奴ら食えねぇよ)


気付かれないように立ち去ろうとも思ったが


(こいつらは何をしているんだ?)


好奇心が勝ったのか、もうしばらく様子を見ていようと考え直し、しばらくその場に留まる事にした。


森の中の開けた場所で、駆け回っているこいつらが何匹居るのか見定めようとした時、急に開けた場所の真ん中に互いに尻を突き合わせるようにして固まり始めた。


(何だ?何かあったのか?もしかして俺か?)


そう勝手に感じた俺は、気付かれない様に、隠れていた木の上に少しだけ登ってもう一度見つめ直した。

奴らは、体感で二、三分ほど固まって動かなかったが急に、上を向くと聞いた事も無い甲高い叫び声を上げた。


思わず俺は両耳を塞いだが、それと同時に上空から巨大な鳥が何羽も固まりに向かって突っ込んで来た。


鳥たちはカラスの様に黒々とした羽を羽ばたかせ、一羽がまるでハングライダーの様に巨大だった。

が、その巨大な姿は、鳥たちの頭部の異様さに比べれば大した事ではなかった。

その頭部が丸々人間そのものだった。

まるで昔読んだ漫画やゲームに出てくる、人面鳥やハーピーの様で、ただ口元は鳥のくちばしだった。


彼らは互いに喰い合いとでも言うのか、地面から小型のネズミの様な奴らが空から飛び掛かってきた相手に数匹で飛び付くと、地面に叩きつけたそばから頭や喉元にかじり付き、片や空から飛んできたカラスの様な奴らは群れから離れたネズミを空高く連れ去ると空中で仲間同士でついばんでいた。


地上と空中で繰り広げられる惨状に知らず知らず見惚れてしまっていた。


(弱肉強食だ・・・)


激しい戦いが続き、一羽のカラスが低いうなり声のような物を叫ぶと、カラスたちは、空高く舞い上がり、月夜の中に飛び去って行った。

ネズミたちも満足したのか、木々の中に走り去っていった。


月明りに照らされた開けた場所に、カラスとネズミの食い散らかした死骸だけが散乱していた。

※厳密に言えばカラスでもネズミでもない、どちらも化け物にしか見えない。


俺は、奴らの気配が消え去るまで木の上で、静かに潜み続けていた。

耐え難い空腹がやって来るまで。


月が傾き、薄っすらと空が白み始めた頃、死骸が散乱している場所に俺は立っていた。


俺は昔、テレビで見たエスキモーの話しを思い出していた。

北極圏で暮らす彼らは、アザラシを狩猟した時に、その内臓を貴重なエネルギー源として生のまま食べる事が在るという。


「・・・これ喰うのか俺」


見た事も無い生き物のそれも死骸。

ただ、この時の俺は食欲という物に頭の中だけでなく身体の全てが支配されていた。


一心不乱に骨らしきものに残った僅かな肉や落ちている内臓を片っ端から食い漁った。


食べれるだけ食べ、俺の口や体が化け物の血塗れになった頃、太陽が昇り始めた。


「腹壊すよな・・・多分」


今更な事が頭をよぎったが


「考えてもしょうがないか・・・しっかり食ったもんな」


呟いてから、ふと俺が食べれなかった骨や毛だらけの皮に目をやった。


(これ使えるかもしれない)


そう考え、取り敢えず持てるだけの残骸を手に巨木の側に戻ることにした。

巨木の側まで、どうにか骨や皮を両手に抱えながら、辿り着いた、その時。

これまでに経験した事の無いような腹痛に襲われた。

余りの痛みに、その場で膝から崩れ落ち、声を上げる事も出来ないほどだった。


「やっぱり・・・やばかったか・・・」


生肉に内臓、火も通さずに喰うべきでは無かったか・・・。

冷や汗が全身に溢れ出し、その場で転げまわっていたが、やがて痛みが限界を超えたのか、俺の意識は、ぷつりと途切れた。


どれ位の間、気を失っていたのか、顔に何か冷たい物が当たる気がして目が覚めた。

不思議と、腹痛は綺麗に無くなり、辺りが暗くなり始めている事に驚いた。


「えらく長い間、倒れていたんだな」


あんなに痛みが在ったというのにもう消えたのかと不思議に思いながら、自身の腹をさすり


「人体の不思議って奴かな」


と、適当に自分自身を納得させた。

そうこうしているうちに、ポツリポツリと小粒ながら雨が降り始めた。

どこか、雨宿りでもと、巨木の方に目をやり、幾つかの枝の下が雨を凌げそうだと考えた俺は、自分が倒れ込んでいた場所の近くに散らばっていた骨や皮を拾い集め、雨を避けるために歩いて行った。


枝葉の下で、雨から守られながら、改めてアイツ等の骨や皮を確かめてみると、その牙や爪、くちばし何かの鋭さと硬さに驚かされた。

ネズミの牙はまるで鮫の歯のようにギザギザにとがっており、カラスの鉤爪は一本が草を刈る鎌の様だった。

しかし、何より感心させられたのが、ネズミのように見えたあいつの毛皮だった。


かつてのアフリカ大陸にはラーテルという動物が居て、確かイタチか何かの仲間だったように記憶している。

彼らは、その硬い体毛とゴムの様に伸び縮みする皮膚でライオンやハイエナとも渡り合えた小型の猛獣と呼ばれていた。

その皮が正に、この拾って来た残骸とも呼べるものが似ている。


この皮を上手くなめす事が出来れば、充分に衣服というより、防具の様な役割を果たす物になるはず。

その為の道具として、この骨とカラスの嘴、鉤爪は使える筈だ。


早速、作業に取り掛かろうと考えたが、それより何より手元が暗くては駄目だと思い立ち、最優先すべき物が見えた。


“火”だ。


太古の時代から文明の基礎共呼べる、火が無くては話にならない。

そうだ!火だよ。何を生肉なんて喰って倒れてんだよ。

自分の間抜けさに、笑えて気もしたが、同時に気付いた事が在った。


倒れている間、どうして何者にも襲われてないんだ?

あんな化け物がうろついているのに、俺は朝日が昇って暗くなる迄の間、この巨木の側なんて目立つ所で、死臭を放つ骨や皮と一緒に居たのに。


もしかして、この場所か?

この場所は、あいつ等が近づきにくい何かがあるのか?

暫くの間、そんな風に考えながら、巨木を見つめていた。


いつの間にか雨は止んだ様で、それを確かめる様に枝葉の下から出て、巨木の先の方から、空を見上げると、大きな月と美しい星空が広がっていた。


「人が居ないとこんなに綺麗なのか・・・」


思わず、そう呟き目線を、自分の居る山の中腹から下の裾野すそのへやった。

・・・暗闇が広がっていた。

深い森というか、樹海の様に只々暗い森というか、木々が広がり続け、灯りらしき物は、何も見えなかった。


「本当に人は居ないんだな・・・」


そう思った時に、にわかに寂しさと自由を感じる気持ちが込み上げて来た。


僅かな雨だったが、それでも俺の身体に付いた血の跡や、顔周りを綺麗にはしてくれたようで、何だか自然の営みと云うものに感謝する気持ちまでもが沸き上がって来た。


「自由だし、生きてる。・・・今はこれで良い」


決意するように自分に言い聞かせ、火を起こすための枯れ木を探そうと、足元に落ちている鉤爪を拾い上げ俺の手の甲に巻いていた布で骨に巻き付けると再び森の中に入って行った。



思いの外、早く続きを上げております。

よろしくお願いします。

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