旅立ち
施設内を調べることにした俺は、とにかく人工物が無いかを見て回ることにした。
植物だらけの施設内では壁や床を探す事が先ず困難だった。
辛うじて残っていた壁らしき部分は草木の蔓に覆われ、床は樹木の根や苔が生い茂り、何かを見るのは不可能に近かった。
僅かでも人工的な物に触れる事さえ出来れば、少しは何か今の世界の状況が分かるのではないか?
そう考えたからだ。
しかし、人工的に作られたと思われる物の殆どは消失しかかっていた。
「本当に滅んだのか・・・」
ただ、それであきらめる訳にもいかず、せめてこの施設が俺を研究する為の施設なら、何か残っている物はないかと懲りずに探し続けた。
結果というほどの事では無いのかも知れないが、やはりそんな物は見当たらなかった。
一応分かった事としては、この施設自体の広さは、それほどでは無く、念入りに歩いてみて回っても、せいぜい30分程度。体育館程度の広さだった。
あくまで、施設が存在しただろうと思われる範囲だが。
他に分かった発見といえば、俺が寝かされていた場所に生えていた巨木だけが天井を突き破り光が差し込んでいたようにあの時は見えたが、そもそも、この施設自体が地下にあるようで、巨木の様に、様々な木々が天井を突き破っていたり、老朽化か若しくは何者かによって破壊されたせいで、至るとこから小さな光が差し込んでいた。
「地下だとすると地上への出口があるよな」
もしかすると、これだけの年月が経っていれば、埋まっているかもしれないとは考えたが、だとしても出入りする場所というのはセキュリティ上、シンプルで頑丈な作りになっているはずだと考え、改めて扉らしきものを探し直す事にした。
そういった場所なら、人が触れた記憶が何処よりも多く残っている。
・・・筈だった。
どれくらい探し回っただろう.
二時間は体感だが優に越えている気がする。
出口が、どこにも見つからない。
天井から光が差し込む穴と、小さな穴が足元に幾つかあるだけで他には何も、見当たらない。
一体どうやって此処から出ればいいのかあきらめかけたその時。
「あの木だ!」
そうだ。あの巨木をよじ登って行けば上に出られる。思いつくなり迷わず巨木に向かいに木の根元にしがみついた。
巨木に巻き付いた蔓を足場にしながら、登り始めて暫くすると、この木の大きさに気付かされたと同時に驚かされた。
俺が下から見上げていた時には、周囲の木々やこの木の枝に遮られて全貌が見えていなかったがそこまで大した物では無いだろうと推測していた。
だが、実際はとてつもなく高く、ビルの四階ほどの高さまで登った所で太い枝に腰かけて、休息を取りながら、上を見上げても先は見えず。また地上に出れる様子も無かった。
「腹減ったなぁ・・・先は長いかぁ・・・何だアレ?」
休憩しながら周囲の様子を見た時に、不意に何かが動いた気がした。
息を殺し、静かに何かが動いた先を見ていると目線の先にある木々の向こうがうっすらと階段状になっているように見えた。
(もしかして、この施設は何層かに分かれているのか?ん?)
そんな考えが過った直後、とんでもない物が目に映り俺の身体は硬直した。
目線の先に在った木々の隙間から人間の頭部のような物が見え、その下から上半身が見えた気がした。
思わず俺は声を出し掛けたが、その人間のような物は俺が見慣れた物とは全くの別物だった。
ゆっくりと這い出してきたソレは人間の上半身が鼻先(と言っていいいのかは分からないが)に生えた巨大なムカデと言うかヘビと言うべきか。
途轍もない大きさの化け物がズルズルと這いずりながら周囲の様子を見ていた。
(ヤバイ!なんだよアレ!)
咄嗟に口元を両手で塞ぎ、気付かれ無い様に、枝の上で身体を伏せた。
(あんなのが枝を伝って来たら喰われる!)
今、俺の手元に在る武器になりそうな物は木の棒一本。
こんな物で戦える相手じゃない。
急激に逸る鼓動が化け物に聞こえない事を願いながら身動きをせず、じっと見つめ続けて居ると化け物の大きさが見えて来た。
大体ではあったが、電車の車両、一両分よりも長く、鱗のような物が体中を覆っていながら鉤爪の様な虫の足らしき物が何十本と生えている。
人間を丸呑み出来そうな口は真横に大きく広がり、その上に人間の様な物が付いている。
(ヤバイ!ヤバイ!落ち着け!落ち着け!)
混乱しかかっている頭を冷静にしようと必死で気持ちを落ち着かせる為に枝や木の中を這いずり回る化け物の様子に更に集中した。
(あれは疑似餌なのか?)
黙って見続けていると、やがて化け物は何も無いと判断したのか、ズルズルと身体を大きく這いずらせながら、枝と枝の間に消えて行った。
化け物が居なくなってからも暫く動けずにいたが、此処に居るとまたあの化け物が来るかもしれないと思い、急いで巨木の上を目指した。
空腹だったことも忘れ、木を登り続けている最中、幾つかの事が、あの化け物の姿から想像出来た。
あの鼻先の人間?が疑似餌なら誰を釣るものなのか?
恐らく人間か若しくは、それに近い生き物を食べている可能性が在る。
それと、今この世界には俺が見たことも聞いた事も無い生き物が存在しているという事。
この状態のまま外でうろつけば簡単に喰われてしまうかもしれないという事。
あんな化け物がもし他にも居たら・・・。
いや、居ると仮定した方が良い筈だ。
そんな事を考えながら、登り続けていると他の木々の枝が無くなり、この巨木だけが上に向かって伸びている所迄上り詰め、ようやく終わりが見えて来た。
突き出すように生えていた木の枝から地上らしき場所に届きそうな箇所を見つけ、枝の先まで這いずりながら行くと枝先から飛び移り、ようやく一息付けた気がした。
飛び移った場所から枝の隙間に目をやり、下を覗き込んでその高さにぞっとした。
幾つかの枝で何度も休んだとはいえ、よく登り切ったと自分で自分を褒めてやりたくなったが、それよりも、あの時に見た化け物の姿が、目に焼き付いて離れなかった。
身体を無理やりに動かせる物として恐怖心に勝るものは無いのかも知れない。
そんな事を考えながら、自分の服装と腰に差した木の棒を眺め
「身に付ける物とちゃんと武器になる物を探さないとな・・・それと食い物だ」
呟きながら空腹を感じつつ、腰から抜き取った木の棒を手にし、枝の隙間から巨木の生えていた穴の中に投げ捨てた。
少しづつ進めて参ります。
宜しくお願い致します。