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新世界漂流記  作者: さとうマドカ
10/10

実感

本能的な恐怖は好奇心を凌駕する。

俺は、その事を身を以て学んだ。


地下から聞こえた叫び声は、俺が目覚めてからも、勿論眠る前にも聞いた事が無い性質の者だった。


扉を開け、地上に出たらしく、外気は心地良かったがそれ以上に恐怖心が凄まじいもので、震えが収まるのに暫く時間が必要だった。


落ち着いた状態で、鉄の扉に素手で触ってみたが、何の情報も見る事が出来無かった。


「時間が経ちすぎていると、やっぱり無理なのか・・・」


自分自身を落ち着ける様に声を出してはみたが、身体の震えは収まったものの、声は自分の耳でも分かるくらい弱々しくなっていた。


「・・・たまたま出会わなかっただけなんだよ・・・」


あの広い空間の何処に潜んでいたのかは、分からないが確実に、これだけの恐怖を感じさせる生き物が、あの空間、若しくは坑道に、居た事は間違いない。

その気配に気付かなかった自分の間抜けさと出会わなかった幸運に、その場で膝から崩れ落ちた。


少し考えれば分かる事だ。

あれだけの広い場所、敵らしき生き物が居ない。

なら、確実に何者かの縄張りに違いない。

それを、あのサイクロプスに一矢報いただけの事で、俺は調子に乗り、悠々と良く知りもしない場所を探索していたのだ。


膝を抱え俯きながら、生の実感を取り戻すのに更に時間が必要だった。


気持ちが落ち着きを取り戻し始め、ふと顔を上げた時にさっき迄と違う事に気付いた。


(匂いが違う!)


思わず勢いよく立ち上がり、転げそうになったが、その勢いのまま、松で覆われた森を突き抜けた。


「・・・凄い・・・海だ」


危うく落ち掛ける所だったが、松林を抜けた先の眼前に広がっていたのは大きな海だった。


切り立った断崖の真下に広がる海。

水平線が遠くに見える。


「これ・・・どこだよ・・・」


俺の記憶の中に在る海とまるで違うその景色に、思わず固まってしまった。


・・・もう、どれ位の時間此処にいるのだろう。

眼前の海に衝撃を受け、俺は、そのままその場に座り込んでしまった。

日が傾き始め、辺りがまた夜を迎え始める頃、ようやく俺は、自我を取り戻し始めた気がした。


「綺麗だな・・・」


ようやく落ち着いた中で出た言葉がそれだった。

何処までも続く海に俺はただ感動して、此処が一体何処で、何を目指していたのかすら忘れ、ただ膝を抱え静かに海を見ていた。


海を見ながら夜を迎えた頃、近くに落ちていた松野枯れ枝や松の実を拾い集め、崖の上で焚火を起こした。

周囲に何かいないか警戒はしてみたが、生き物の気配らしき物は感じられず


「ここら辺は、あの地下の奴の縄張り何だろうな」


直感的にでは在るがそう確信していた。

恐らくでしかないが、俺が目覚めたこの世界に限らず、眠る前から当たり前に人間以外の生き物は棲み分けが出来ており、その事を俺たち人間が忘れて過ごしていただけで、今、この人間が居ないこの世界だと生き物同士の縄張りの様な物が明確に分かれており、それを他の種が犯す事は滅多に無く、また必要に応じた縄張り争いも、本能的なルールの下で行われているのだろうと俺は考えた。


「ここでは人間が主人公じゃないんだよな・・・」


眠りから覚め、数種の生き物を目にしたが、人間は狩る側から狩られる側になった事を痛感させられた。


「さて、一休みして明日は海沿いを行くか・・・」


頭の中に色んな出来事が反芻され、目を閉じても中々、眠りに就けなかったが、寝転んだまま夜空を見上げると


「凄い・・・こんなに綺麗なんだ・・・」


この岸壁に辿り着くまで、落ち着いて夜空を見て来なかったせいか、改めて見上げると月明りだけじゃない、星空に感動した。


「文明の無い空は良い物だよな・・・」


誰に言うでもなく、自分の中で感じたままを言葉にすると、とても陳腐に思えたが、それでも


「・・・綺麗な物に善も悪も無いんだよ」


それだけを呟いて、焚火の音と岸壁に打ち寄せる波の音を聞きながら静かに深い眠りに落ちて行った。


目が覚めた頃には、日は昇り切っていた。

焚火の日も消え、辺りには波の音だけが響いていた。


「さて、行きますか」


身体を大きく伸ばし、大きく深呼吸をし、身体を軽く解した俺は、崖沿いを歩き始めた。


ぼちぼちと続いております。

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