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第3話 仲間の死を糧にする者

ユニークスキル『仲間の死を糧にする者』が、読者に明かされます。

 リーダー、ソナタを失ったパーティーは、アーアアも含めて帰路についた。ソナタの亡骸は、テドロスが背負っている。敵に襲われるリスクを考慮すれば、亡骸は放置か、その辺りに埋める方が合理的かもしれない。しかしソナタとメンバーとの関係が、それを許さなかった。装備品は、少しでも軽くなるよう、全て外してある。

「どうして! 弱いフリをしてたの!?」

 唐突に、バーバラが口火を切った。言いたい事は、山ほどある。助けてくれた感謝。あの強さの理由。戦士レベル2のステータスは偽装なのか。訓練や戦闘中の動きは、演技だったのか。そうだとしたら何故、……ソナタを見殺しにしたのか!?

 目を閉じ、アーアアは静かに首を振った。

「いえ、弱いフリなんかしていません。あれが僕の、正真正銘の実力です」

「嘘! じゃあ、あのオークを葬った剣技は何!?」

「あれは、僕のスキルです。普段の実力ではありません」

 アーアアの説明を要約すると、こうだ。追い詰められた状況になると発動し、一瞬だけ普段の何倍もの能力を発揮できる。スキルの発動は自動で、アーアア本人にはコントロールできない。あのタイミングで発動したから、ソナタを救えなかった。

 この話は、嘘だ。状況と照らし合わせて辻褄は合うが、スキルの内容も発動条件も違っている。アーアアの持つスキルは、


『仲間の死を糧にする者』


 一緒に組んでいるパーティーの誰かが命を落とすのが、発動条件だ。死んだ仲間の職業、ステータス、スキルの全てを受け継ぐことが出来る。さらに受け継いだ瞬間から2分間、ステータスが倍になる。

 Dランクの上位にあったソナタのステータスが倍になったなら、能力としてはBランクに相当する計算になる。ハイオークくらいなら、軽く圧倒できて当たり前だ。

 アーアアは、このスキルの秘密を、誰にも明かさないと決めていた。明かせば、警戒されるに決まっている。仲間が死ねば疑われるだろうし、そのような成長を疎ましく感じる者もいるだろう。

 バーバラは、とりあえずは納得した。勇者特有のスキルに似ているけれど、勇者以外が持つ、同じようなスキルがあっても不思議ではない。ただ、どこか釈然としない。嘘を吐いているようには思えないけれど、何かを隠していそうな気もした。しかし結果として助けてもらった身としては、これ以上の詮索は不躾ぶしつけに思えた。

 サリアはふと、「ではあの『すまない』は、何だったのだろう?」と考えた。自分で発動をコントロールできないスキルなのだから、アーアアに落ち度はないはずだ。いったい、何に対しての謝意だったのだろう?



――――ハイオークのこん棒で、ソナタが落命した場面。


 アーアアは、ソナタの命が尽きるのを確認した。瞬時に、全ての色が消え去る。ソナタの職業、ステータス、スキル情報が浮かび、「YES」を選択した。これによりアーアアは、戦士LV19となり、2分間のブーストに突入する。色彩が戻る。

 次は、テドロスが狙われている! アーアアは、地面を蹴った。未体験のスピードに、自身も驚く。上手くテドロスの前に立てたのは、半分は偶然だ。

 ソードで受けたこん棒の衝撃は、稽古中にソナタが加減して打ってくれていた程度だった。これが全力なら、問題ない。瞬時に、アーアアは現時点での格の違いを察し、勝利を確信した。

 こん棒を突き上げ、最速でモーションに入れる刺突しとつを選ぶ。ハイオークの耐久性が未知数であったため、点に力を集約するという理由もあった。ソードの先端は、難なく喉を貫通。鈍い衝撃が伝わってくる。この強度なら、問題ない。

 二体目のハイオークと対峙し、少し考える余裕があった。もしも一太刀目を凌がれたなら、次の攻撃を受けるリスクがある。まずはこん棒を持つ右手を斬り落とし、圧倒的な優位を作る。


「剣を振るなら、覚悟を決めろ……」


 アーアアは、心の中で呟いた。決意を込めた剣筋は、右手首を切断した。ほとんど、抵抗は感じなかった。クリティカルだ。

 二体目のハイオークは、二振りで決着がついた。アーアアから、張り詰めた緊張が解ける。そして先ほど浮かんだソナタのスキルを思い出して、切ないような、苦笑するような、複雑な気持ちになった。

 スキル『よく通り、よく伝わる声』。そう言えば、ソナタの声は聞き取り易かったし、どんな状況でもよく通った。戦闘向きではないが、リーダーとしては有効なスキルだ。根っから、良いリーダーだったんだな。

 振り返ると、ただ茫然とするパーティーの姿があった。


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