第1話 戦士ソナタ率いる、Dランクパーティー
「小説家になろう」、記念すべき初投稿です。
何か声を頂けると、泣いて喜びます。よろしくお願いします。
まさか、ハイオーク2体とは!? マヒデブラの森、西側の奥地にあるコボルトの集落を目指したパーティーは、想定外の敵と遭遇していた。左側に3メートル級、右奥にさらにやや大型の個体。
Dランク3名、Eランク1名、Fランク1名の構成であれば、コボルト20匹程度の集落を潰すのは、難しいミッションではない。しかし相手がハイオーク、しかも2体とあっては、Dランク冒険者の手には余る。
「隙を作って、何とか逃げるぞ!」
リーダーの戦士、ソナタはパーティーを庇うよう、ソードを構えてハイオーク2体と対峙する。ハイオークの皮膚は強靭だ。灰色というのもあって、質感は金属を思わせる。目や口などを突かない限り、決して刃は通らない。そのことは、誰よりもソナタ自身が承知していた。
一方、ハイオークの怪力で振り回されるこん棒は、どこに当たっても一撃で戦闘不能にさせられる。急所に当たれば、命すら危うい。つまり普通に考えれば、戦って良い相手ではない。
左のハイオークが、右手に持ったこん棒を横殴りに振った。ソナタはそのモーションを見て、後方に飛びすさる。左足先をかすめた。着地、バランスを取って、ソードを構え直す。
「サリアは弓で牽制! 刺さらなくても構わない。バーバラ、ファイヤーボールを顔にめがけて撃て! ひるんだところで、反転! いいな!?」
ソナタの指示と同時に、サリアは下腹部に2連射。刹那、遅れてバーバラが2体の顔にファイヤーボールを同時発射。
サリアが下腹部を狙ったのは、気を下に逸らし、少しでもファイヤーボールを回避される確率を減らすためだ。組んで2月足らずのパーティーだが、これくらいの阿吽の呼吸は成立する。
ファイヤーボールが、2体の顔面に命中! を確認したと同時に、パーティーは反転、逃走体勢に入った。幸い、ハイオークの足は速くない。パーティーメンバーと同等か、少し遅いくらいだ。最初に距離を取ってしまえば、十分に逃げ切れる。
10歩ほど離れた後、嫌な感覚がして、バーバラが振り返った。
「ソナタ!」
ソナタが、走っていない。低い苦鳴をあげて炎を振り払おうとするハイオークの前で、中段の構えを崩さない。
「来るな! そのまま走れ!」
先ほど、かすめたこん棒によって、ソナタの足指から中足骨までが骨折させられていた。走れなくはないが、これではハイオークを振り切れはしないだろう。ソナタは決死の覚悟で、時間稼ぎを選んでいた。
治癒士、テドロスはソナタの異変に気付いた。重心のかけ方がおかしい。あれは、左足を負傷しているに違いない。押しつぶされそうな恐怖を振り切り、テドロスはソナタに駆け寄る。
ヒールをかけるには、密着しなければならない。治癒にかかる時間は、おそらく4,5分程度。状況を考えれば、絶望的だ。
サリアが、ソナタに近い方、左側のハイオークに、狙いすまして矢を放つ。目を射抜ければ、戦意を喪失させられるかもしれない。……矢は、顔を覆う指をかすめ、微かに軌道がズレた。額に跳ね返され、虚しく地面に落ちる。
その矢の衝撃で、ハイオークが炎のショック状態から抜け出したのは皮肉だった。眼下にソナタを見留め、ハイオークは状況を思い出した。今、自分は敵と向かい合っている。殺す。
ハイオークは、こん棒を頭上に掲げ、ソナタの脳天に振り下ろす。ソナタは、右側に倒れ込むように避ける。ドコッ! という鈍い衝撃音とともに、飛び散る土塊。駆け寄ろうとしたテドロスは、思わず足を止めた。
地面から引き上げられたこん棒は、下段のまま、横殴りにソナタを襲った。ソナタはソードの腹で受けたが、衝撃を抑えきれない。ソードごと押し切られ、こん棒の一撃はソナタの側頭部に激突した。
ソナタは自分の頭蓋骨が砕ける音を聞き、何かを思おうとしたが、それが形になる前に意識が消えた。
陥没して、赤色と黄色の混じった液体を噴出させるソナタの頭部をぼんやりと見て、テドロスは、もう自分の役目はないと悟った。そして頭上に掲げられたこん棒の次の標的が、自分であると理解した。
バーバラはこの一連の流れを、スローモーションの中で見ていた。テドロスを、助けなければいけない。また同じようにファイヤーボールを放てば、隙を作れるかもしれない。一瞬、テドロスがやられている内に逃げれば、自分は助かる…… と脳裏によぎった。
判断を躊躇している最中、右後方からアーアアが飛び出していくのが見えた。無茶だ! アーアアは戦士LV2、このパーティーでは最弱のFランク。今回の帯同だって、経験を積みたいというから許されただけで、戦力としては期待されていない。
しかしバーバラは、アーアアのスピードに驚愕した。テドロスの前に出ると、振り下ろされたこん棒をソードで受け止める。……続けて見た光景は、信じ難いものだった。
こん棒を突き上げて弾き飛ばすと、アーアアのソードはハイオークの喉を貫通。右側に抜き、ハイオークの頭部はだらしなく前方に垂れ下がり、巨体が崩れ落ちる。
続けざま、一足で後方のハイオークの間合いに入り、右下段から上方に一閃。こん棒を持った右手首を切断した。
ハイオークは右手にヒヤッとしたものを感じ、視線をそちらに移した。自分の右手が失われているのを確認する前に、迫る来る刃の切っ先が目に入った。それが、最後の記憶になった。
アーアアは二体目のハイオークが倒れ込むのを確認して、ソードを鞘に収めた。ゆっくりと振り返り、皆に顔を向ける。そのあどけなさの残る顔は、困惑したように曇っていた。そして口を開くと、ただ一言、
「……すまない」
と、深々と頭を下げた。




