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そらのそこのくにせかいのおわり(改変版)4.2 < chapter.9 >

 元の世界に戻った玄武隊と絹江を迎えたのは、大音声にがなり立てる緊急放送だった。

〈北極海上空に機械兵バトロイド反応多数! 全戦闘員、出撃準備を急げ!〉

〈軌道計算終了! 落下予測地点、皇居前広場!! 到達予測は二十分後だ!〉

〈勅使河原総司令! 至急発令所にお戻りください!〉

 イサナとヒスイは手近なコンソールを操作し、状況把握に努める。その間、アカネ、シオン、ユズカは装備品の準備を始めている。

「え、ちょ、なにこれ!? 俺たちどうすればいい!?」

「しばらくそこでじっとしていてくれ!」

「あ、うん、了解!」

 ブリーフィングルームの隅でおとなしく身を寄せあうナイル、ロドニー、ベイカー家執事ダージリン。詳しく説明されずとも、緊急事態であることと、敵の襲撃が予測されることだけは分かっている。このような状況では、余計な口出しをして作業の邪魔をすることが一番の迷惑行為だ。

 空気が読める三人は、邪魔にならないよう小声で話し合う。

「これ、隊長が派手にやりすぎたせいで、一番ヤバイ兵器持ち出されちゃった感じなんじゃあ……」

「うん、そんな気がする……」

「さすがはうちのサイトお坊ちゃまです! ただおひとりで世界情勢を書き換えようとは……!」

「え、ダージリンさん、本気?」

「そこ感動するとこ!?」

「他に何がございましょう?」

「本気か……」

「さすがはベイカー家……」

「はい。当家は『ド派手に小粋に、やらかせドッカン!』が家訓でございますので」

 なんてクソ迷惑な家訓だ! という表情を故意に無視して、執事は言葉を続ける。

「お坊ちゃまがご活躍されるためでしたら、私はどのような戦場にも身を投じる覚悟がございます。サイト坊ちゃまが人工衛星を破壊し尽くすまで、微力ではありますが、私も迎撃に協力させていただきましょう」

「えーっと? ベイカー家の執事兼護衛部隊長さん、でしたっけ? あの、失礼ですが、戦闘経験はどの程度……」

 王立騎士団と異なり、貴族の私兵隊は実戦経験に乏しい。主な任務が邸宅の警備やボディーガードなので、実際に剣や魔法を使う機会はほぼないのだ。ナイルはダージリンの身を案じてこの問いを投げかけたのだが、ダージリンは真面目な顔で妙なことを口走る。

「変身ヒーローを少々」

「はい?」

「私、グリーンマンという神の『器』でして。こっそり何度か、世界を救ったりしております」

「あ、そっち系の人ですか!?」

「はい。サイト坊ちゃまとロドニー様に『神』が憑いていることも、すべて把握しておりますよ」

「え、てことは、もしかして戦力的にドンケツって……?」

「頑張ってくださいね、ナイルさん!」

「ちゃんとついて来いよな!」

「え、ちょ、マジでぇ~!?」

 ナイルが天を仰いだところで、室内のモニター画面が一斉に切り替わった。

 それは先ほどの機械兵バトロイドよりもずっと大きく、頑強そうな機体の映像で――。

「……は?」

「なん……なの? え? ちょ、女の子が……」

「なんと、むごい……」

 大型機械兵に包囲され、ピンク色の髪の少女がなすすべもなくなぶり殺しにされていく。

 髪を掴まれて宙吊りにされ、二メートル以上はあろうかという、巨大な剣で腹を裂かれ――。

「……こいつら……何してんだよ。なんで、こんな……」

「内臓、引きずり出してる……?」

「何の目的で、このようなことを……?」

 呆然とする三人に、イサナが言う。

「生きたまま身体を斬り刻む目的は分からない。この映像はひと月前、我々のリーダーが殺害された時のものだ。これを撮影した隊員も、この直後に殺された」

「じゃあお前ら、元は七人チームだったのか?」

「いいや。十二人で一部隊だ」

「……五人しか残ってねえっていうのか?」

「ああ。我々が生き残ったのは、四肢の欠損を理由に、後方に下げられていたからだ。だが、もう我々以外に戦える人間がいない。他の部隊も、概ね似たような状況だ」

「……最悪じゃねえか……」

「そう、最悪だ。今から十分以内にあれが来る。数は五百以上。こちらの戦力は、他の隊と合わせても五十人もいない。勝てる見込みはゼロだ。こんな戦いに無関係の人間を巻き込むわけにはいかない。三人とも、元の世界に帰るなら今の内に……」

「馬鹿野郎! こんな映像見せられて、黙ってられっかよ!」

「相手が数で攻めてくるなら、それこそ俺の出番だよ」

「女子供に逃げろと言われて、素直に逃げ出す男はいませんよ」

「……戦ってくれるのか?」

「当然だろ? 連れて行ってくれ」

 ナイルとダージリンも、イサナの目を見て頷いてみせる。

「……ありがとう……!」

 礼を言う少女には右目がない。

 その意味を知った三人からは、もう、軽口を叩くような空気は消えていた。


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