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そらのそこのくにせかいのおわり(改変版)4.2 < chapter.6 >

 そのころマルコと優曇華は、自分たちの限界を試されていた。

「ちょ、ま、何!? 何なのこの攻撃!?」

「これ、魔法ですよね!? あのユズカさんという方、魔法を使われていますよね!?」

「なにがどうなってんの!?」

 敵陣を抜けたベイカーとユズカは、くるりと振り向き、同時に両手を突き出していた。

「《雷火》!」

「カンナゲキ!」

 ベイカーが放ったのは火花放電による攻撃、ユズカが放ったのは衝撃波を伴う磁力攻撃である。磁気の反発力で弾き飛ばされ、機械兵バトロイドたちは次々と宙を舞う。そしてドカドカと耳障りな音を立てながら、優曇華とマルコが張った《物理防壁》へと叩きつけられていく。

 同じ雷属性でも、ユズカの魔法能力はベイカーとは異なるタイプである。主に磁力を操る能力者は、ネーディルランドにも存在はするが――。

「彼女も雷獣族でしょうか!? 南方系亜種は電撃よりも磁力攻撃を得意とすると聞いたことがありますが!」

「地球に魔人や獣人はいないって!」

「では、なぜ!?」

「わっかんねえよぉ~っ!!」

 二人は次々に飛んでくる機械兵バトロイドを《緊縛》の鎖で絡めとり、その動きを封じる。そう、ユズカの攻撃では、敵は磁力で吹っ飛ぶだけ。止めは刺されていないのだ。

 どんどん負荷が増していく二人は、嫌な予感に苛まれていた。


 敵を一か所に集めて、動きを止めたら、その後は――?


 チラリと顔を見合わせ、二人は無言で頷き合う。

 《物理防壁》の内側に《魔法障壁》を構築するのと、ベイカーの大技が繰り出されたのはほぼ同時だった。

「くっ!」

「うわあっ!?」

 使用されたのは《神明雷剣・タケミカヅチ》。神の名を冠した最大技だが、市街地ということもあり、今日の出力は控えめである。それでも踊り狂う紫電の雷光は機械兵たちをこれでもかと蹂躙し、すべての機体の内部バッテリーが爆発するまで攻撃が続けられた。マルコと優曇華の二人がかりだから防ぎきれたが、どちらか一人だったら、途中で耐久限界を迎えていただろう。

 落雷の真っ只中でどうにか生き延びた王子と従弟は、恐怖と安堵から、震えながら抱き合っていた。

「お、おお、終わりましたね、優曇華さん……」

「何今の……知らない魔法なんだけど……」

「神の御業です。使用者は隊長ではなく、タケミカヅチという名の軍神です」

「は? マジかよ。タケミカヅチって、じいちゃん家の近所に祀られてるヤツじゃん。実在したの?」

「え? タケミカヅチが祀られて……? 我々の世界に来る神は、地球でのお役目を終えた神であると聞きましたが……まだ地球で信仰されているのですか?」

「みんな普通にお札貰いに行ってるけど? 毎日境内でラジオ体操してる人いるし……?」

「信者がいるのに、地球を留守にして大丈夫なのでしょうか?」

「ダメっぽくない?」

「ですよね?」

 なぜタケミカヅチがネーディルランド人の守護をしているのだろう。非常に大きな問題に気付いてしまった二人のもとに、大技をぶちかました当人が現れる。

「マルコ! 大丈夫だったか!?」

「はい! どうにか! ユズカさんはご無事ですか!?」

「ああ、仲間たちの加勢に向かった。それよりマルコ、創造主の許可が下りたぞ! 衛星落としだ! 日本の衛星以外、全部落とそう!」

「はい!?」

「機械兵は人工衛星経由で送られる電気信号で動いている。中継用の衛星をすべて落としてしまえば、この国はもう二度と攻撃されない!」

「ええ~と……可能なのでしょうか?」

「優曇華のスケボーを使えばな!」

「へっ!? 俺のスケボーで!? どうやって!?」

「タケミカヅチが創造主に確認してれくれたのだが、その曼陀羅図、防御機構をフルスペックで発動させれば、宇宙空間でも活動可能らしいぞ?」

「……ん? ゴメン。俺ちょっと、スケートボードの機能を把握しきれてなかったみたい。スケボーでどこ行けるって?」

「宇宙」

「……マジカルスペースアドベンチャー?」

「その通り。ドキドキワクワク、アゲアゲバイブスで優勝できる流れだな!」

「どうしよう兄貴。俺、もう何言われてるのか全然分からない」

「大丈夫ですよ優曇華さん。私も、雰囲気くらいしか分かりませんから」

 それは何かのフォローになっているのだろうか。ベイカーと優曇華は同時に思ったが、今はスルーしておくことにした。

「で? 宇宙まではどうやって行くの?」

「お前の力を使わせてもらう」

「それも俺? ……ってことは、まさか……?」

「ああ、そのまさかだ。宇宙空間に亜空間ゲートを開けてもらおう」

「いや、あの、俺、ただの墨田区民なんで。宇宙遊泳とかそーゆーのはちょっと……」

「我らと共に、流れ星を見に行こうではないか。其方は四歳の正月、江戸川区鹿骨の鹿島神社を詣でたな? 祖父母と共に参拝していたあの日の姿、我は覚えておるぞ。あの時其方は、『流れ星が見たい!』と願っておったではないか。その願い、今こそかなえて進ぜよう! それも願を掛けた神本人と一緒に見に行けるのだ! なにか問題でも!?」

「立花団地史上初の宇宙遊泳マンになるの!? 嫌だよ! なんか怖えよ! よく分かんねえけど!」

「ただ星を見るだけではない! 自分の手で流れ星を作れるんだぞ!? それも大量生産だ! 喜ぶがいい!」

「ちょ、待って! 俺の能力なら宇宙に行けるのは間違いないけど! 《死骸曼陀羅図カーカスマンデーラ》なら宇宙でもへっちゃらな最強バリア張れるかもしれないけど! その先は!? 人工衛星なんてどうやって落とすの!?」

「物理的に叩いて」

「叩いて!?」

「マルコの《緊縛》の鎖で、こう……」

 何かをペシッと叩くようなジェスチャーに、マルコは真顔で頷く。

「できますね!」

「できるんだっ!?」

 優曇華の声は完全に裏返っていた。しかし、マルコはそんなことはお構いなしに、自分の中にいる神、玄武からの質問を投げかける。

「優曇華さん、唐突な質問で恐縮ですが、あなたは『玄武』という名の神をご存知ですか?」

「え? あ、うん、知ってるよ? 会ったことは無いけど」

「実は今、玄武は私の守護をしています。その玄武が、あなたと玄武との間に、『えにしの糸』が繋がっていると言っています。ですが、その理由がよく分からない、と。何かお心当たりはありませんか?」

「えー……あー……うん。縁があるかっつーと、一応はある感じ? なのかな? 俺の通ってた高校、電気科のシンボルが玄武だったんだよ。俺、体育祭の応援合戦で玄武の旗振ってたし。旗手っつーの? アレやってたんだ」

「玄武の旗手、ですか……。ゲンちゃん、どうですか?」

 マルコの呼びかけに、玄武はポンと姿を現した。

 突然現れた亀は愛らしく首をかしげると、優曇華の足元をノコノコと歩き回る。

「なるほどね! キミとこの世界が繋がった理由が分かったよ! ゲートが繋がったあの場所、『護国神姫兵団・玄武隊』の本拠地だったじゃない? で、『玄武の旗手』であるキミがゲートを開けるために使った魔力は、玄武ボクが守護するマルコのモノだった。本当だったら絶対に繋がらない世界同士が、たまたま『玄武ボク』の『縁の糸』で繋がっちゃったみたいだね!」

「へ~。そーゆーモンなの? ちょっとチョロすぎじゃない?」

「もちろん、それだけじゃあ無理だよ。亜空間ゲートを開いた瞬間、玄武隊の女の子たちとキミの気持ちがリンクしてたんだと思う。あの瞬間、何考えてたの?」

「えーっと……どこでもいいから逃げ出したい?」

「それ!」

「それ……ってコトはやっぱあの子たち、戦うの嫌だったんじゃんか。強がりやがって……」

「ねえねえ、うーちゃん! キミ、亀好き?」

「うん。好きだけど?」

「ボクと友達になってくれる?」

「いい、けど……?」

「おっけー! じゃあボク、うーちゃんの友達ね! 全力で守っちゃうよ!!」

「ふぁっ!?」

 優曇華の身体が光に包まれたかと思うと、そのいでたちが変化していた。

 王族用にあつらえた堅苦しい衣装から、優曇華が最も好むストリート風のストレッチパンツとオーバーサイズのTシャツへ。足元は硬いソールの革靴から動きやすいスニーカーへ。そして髪型も、王族らしくみせるために魔法で伸ばしていたのだが――。

「おお、さっぱりしたな!」

「もしかして、本当はショートでしたか?」

 前髪はやや長めに残しているが、それ以外はスポーツ刈りくらいのさっぱりした髪型である。

 優曇華は自分の頭に手をやって、しばらく呆然としていたが、やがて何かを思いついたようにニヤリと笑う。

「亀ちゃん、ちょっとリクエストしていい?」

「いいよ、ゲンちゃんって呼んでくれるなら」

「じゃあゲンちゃん。何もかも終わったら、あの子たちの服もさぁ……」

 玄武を抱き上げ、小声でささやく。

 漏れ聞こえたその言葉に、マルコとベイカーも唇の端をキュッと引き上げた。

「いいよ! 服だけじゃなくて、色々全部作れちゃうよ! なんたってボク、これでも創世神の一人だもんね!」

 イエーイ、とハイタッチを交わし、三人と一匹は空を見た。

「行くか!」

「はい!」

「頑張ろうね!」

「おうよ!」

 展開される《死骸曼陀羅図カーカスマンデーラ》。

 次いで開かれる亜空間ゲートに身を躍らせ、三人と一匹は次なる戦場へと足を踏み入れた。


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