そらのそこのくにせかいのおわり(改変版)4.2 < chapter.5 >
機械兵たちを残らず撃破したベイカーとイサナは、互いの身体をガッシリと抱き合い、耳元で何事かを囁き合う。それは一見、互いの戦いぶりを称え合っているようにも見える光景なのだが――。
「クソが! 偉そうに勝ち誇りやがって! この二人は何をしゃべっている!? 音は拾えないのか!?」
「無理だよ。カメラが生きてただけでもラッキーなのに……」
「青いほうは見たことがあるけど、白いのは初めてだよね? 新顔? この前殺したピンクの代わりかな?」
「それよりあの角は何だ!? ついに動物と人間をかけ合わせやがったのか!?」
「鬼畜国家め! どこまで『神』の教えに背けば気が済むんだ!」
「もうあいつら、ニセ人間ですらないじゃん! 家畜以下だね!」
「害獣は殺処分だよ。今すぐ殺さなきゃ」
「うん。殺そう。そう習ったもん」
「そうよ。教科書にちゃんと書いてあったもの。害獣とニセ人間は殺さなきゃダメなのよ」
「よし、次の機械兵を出そう」
「なあ、この間のピンク色みたいに、生きたまま腹を裂いて子宮をぶっ潰してやろうぜ! ニセ人間への見せしめに!」
「もちろんだ! ニセ人間のくせに人間と同じ内臓が入ってるなんて、神への冒涜だもんな!!」
「ニセ人間を許すな!」
「皆殺しだ!」
様々な言葉と共に、聞くに堪えない罵詈雑言を吐き散らかす子供たち。十八人の少年少女は、目にもとまらぬ速度でコンソールを操作する。
接続が切り替えられ、全方位型モニターには別の機械兵の視界が表示された。
「さあ、もう一度だ! ニセ人間のくせに! 僕らに逆らうなんて生意気なんだよ!」
「ぶっ殺してやろうぜ! 一人残らず!」
「ああ! 僕らこそが『選ばれし次世代』なんだ! あんな紛い物の人間なんかっ!」
彼らは、自分たちの発言を心底素晴らしいものと信じている。というより、疑うだけの知識を与えられていない。なぜなら彼らは、何の遺伝子操作もされていない旧世代人類。一歩でも外に出れば問題の病原体に感染してしまう。そのため彼らは、生まれる前からずっとこの施設の中にいる。
外界から隔絶され、安全が確保された施設内で誕生し、感染者で無いことが確認されたごく少数の人間とだけ会話をし――そんな環境で育てば、教えられた言葉に疑問を持てるような頭は育たない。
彼らは『ママ』からこう言われている。
貴方たちは特別。
神様に選ばれた聖戦士。
偽物の人間を駆逐して、世界を正しく導くために生まれた存在。
外界を知らない少年少女にとって、『ママ』の言葉は世界の全てだった。そしてこの言葉こそが、思春期特有の攻撃性と冒険心を満足させつつ、貴重な繁殖用個体を狭い施設内で飼いならすための魔法の呪文である。
『聖戦士』たちはモニター越しに、ゲーム感覚でニセ人間狩りをする。殺せば殺すほど、世話役の『ママ』たちは彼らをほめてくれる。そしてニセ人間がはびこる『外の汚い空気』を吸わなくていい自分たちは特別なのだと、ずっと屋内にいることを誇るようになる。
自分たちが檻の中の繁殖用個体であることすら理解できず、彼らはただただ、世界のすべてに対して優越感を持っていた。
己が残虐で傲慢であることすら気付けない、恐るべき無知の集合体。
彼らの操る機械兵は、再び日本に向けて攻撃を仕掛けた。
三度目の襲撃。今度はさらに数を増やし、同時に百機以上の機械兵を送り込んできた。
だが、この襲撃に怯える者も驚く者もいない。
彼らはマルコが構築した《防御結界》の中で、戦闘準備を整える。
「……皆、『ご先祖様』との話は終わったか?」
イサナの問いに、四人の少女は同時に頷く。
その表情は、十代半ばの少女のものではない。彼女らはすでに、身体の制御権をそれぞれの『ご先祖様』へと委ねている。
彼女らの中にいるのは、タケミカヅチによって呼び出された『戦場に散った英霊たち』である。英霊たちの生きた時代は非常に幅広く、最も古い戦士は、なんと縄文時代に村長を務めた男だった。なぜそんなことになってしまったかというと、イサナ以外の四人の先祖には、都合よく呼び出せる『戦死者』がいなかったのだ。
タケミカヅチは軍神である。その能力によって召喚できるものは軍の兵員・兵器・備品、および軍によって徴集・徴用された人・物・生物に限られる。彼女らの先祖が軍にノータッチだった場合、タケミカヅチは何も呼び出せない。
どうにかこうにかそれらしい先祖を見つけて呼び出してみたら、なんと縄文人だった、というわけだ。
五人の中で一番おとなしそうな黄色い髪の少女は、縄文人に憑依され、謎の奇声を上げる。
「ヴォオオオーイッ! オッダラガッソ! バン、ボオオオォォォーッ!」
「だっ……誰か! 誰か縄文時代の日本語が分かる者はいないか!?」
ベイカーの問いに、少女の身体を借りた英霊たちは困惑の表情を浮かべる。
呼び出した張本人であるタケミカヅチも、あまりにも古い記憶であるため、どの集落で使われていた言語か思い出せないらしい。
「く……この状況で、翻訳魔法が通用しない言語圏の人が登場してしまうとは……っ!」
「コミュニケーション、大丈夫かしら……」
「ねえねえ兄貴? この子のご先祖さま、遺伝子操作とか国連決議とか、意味分かってんのかな?」
「いえ、その辺は時代的な問題もありますし、どうにも……。ですが! 詳しい事情は分からずとも、村長としての責任感から、女子供を守ろうとする気概だけは感じられます!」
「さすが兄貴! スーパーポジティブ解釈!」
「ねえやめて? なんでみんなボケ属性なの? 私一人で全員分ツッコミ入れるなんて不可能よ?」
ラナンキュラスは溜息を吐くついでに、手持ちのゴーレム呪符にフッと息を吹きかける。呪符から出現したのは五体の戦闘用ゴーレムである。それぞれ火・水・風・土・雷の属性が付与された、戦闘用ゴーレムの最上位モデルだった。
「特務部隊長? 私は足手まといになりそうだから、この子たちに守っていてもらうわ。私の心配はいらなくてよ?」
「お気遣い、感謝いたします」
この会話を意訳すれば、「私は強すぎて町ごとぶち壊すから、手出しはしないわよ」「そうしてください。俺はまだ死にたくありません」である。女官ラナンキュラスの戦闘力を知るネーディルランド人は言葉の意味に震え上がり、そうではない日本人は『この別嬪さんは非戦闘員なのか』と納得してしまう、なんとも恐ろしい会話だった。
全員、能力相性の良い者と二人一組となり、相方と短く言葉を交わす。
「マルコ、お前は戦わなくていい。ナビに徹してくれ」
「はい。周囲の警戒はお任せください」
「ワ! オダガ! ア! マヅン、ガ! ヴォオオオーッ! ダッ! ンヌーダ!?」
「う、うん? 私、お前、あれ、真っすぐ突っ込んで行こう……? だよね? たぶん……?」
「アカネは援護を頼む」
「了解だぜ、イサナ隊長」
「行くデスよ、ヒスイ」
「うん、シオンちゃん」
たった八人の戦闘要員。その前に立ちはだかるのは、三百を超える機械兵の群れである。
ベイカーは剣を掲げ、カウントをとる。
「五、四、三、二、一……」
マルコが結界を解除する。
同時に飛び出して行く八人。しかし、いくら魔法でガードされていると聞かされていても、真正面から浴びせられる機銃掃射に、イサナ、アカネ、ヒスイ、シオンの四人は脚が鈍ってしまう。
開戦直後に前衛と後衛に分かれてしまうが、これはベイカーの想定内だ。自分たちが先陣を切って大暴れしていれば、そのうちに後ろも追いつく。そう、ベイカーもマルコも優曇華も、作戦を立てた時点ではそう考えていたのだが――。
「ドオオオオオォォォォォーイッ!」
目にもとまらぬ俊足で先陣を切ったのは、なんと縄文人だった。
「何ぃッ!?」
「あの義足、どうなってんだよ!?」
「《バスタードドライヴ》以上の速度では!?」
黄色い髪の少女、ユズカは、両足が義足である。おとなしそうな顔立ちの印象もあって、てっきり後方支援タイプかと思っていた。だが、彼女に憑依した縄文の戦士は、子孫の身体能力と戦闘用義肢ならば、思い切った動作ができると判断したようだ。
小柄な体格を活かし、機械兵と機械兵の隙間にするりと身体を滑り込ませる。
自分から攻撃するでも、仲間の攻撃をサポートするでもなかった。彼女はただ、見事な体捌きで敵陣を『真っすぐ駆け抜けて』いる。
「っ! そうか! さっきのジェスチャー!」
彼女は『自分』『優曇華』『敵』を順に指差し、最後に両手をバンと叩き、すり潰すようなジェスチャーを見せていた。あれはつまり、「俺が敵の背後に回り込む。挟み撃ちにするぞ」という意味だったのだ。
縄文人には科学兵器も魔導式防具も分からない。だからこそ、己の身一つでも勝機を掴めるよう、『地の利』を取ろうとしているのだ。
優曇華・縄文人ペアの動きに気付いたマルコは、ベイカーに提案する。
「作戦を変えましょう!」
「ああ! 俺も向こうに回る! お前と優曇華の二人で盾を!」
「はい!」
ベイカーも縄文人の動きを真似て、機械兵の間を突っ切る。
当然、機械兵はそれを遮ろうとする。しかし悲しいかな、密集陣形が仇となった。前列の機械兵が邪魔で、後列からはベイカーの動きがよく見えないのだ。目の前に現れて手を伸ばしたときには、ベイカーは既に他の機械兵の陰。サッと駆け抜け、その場から姿を消している。
大半の機体は自動操縦なのだろうが、この世界は二十年前、奇病によって全男性エンジニアを失っている。急に働き手がいなくなった社会では、生活基盤を維持することで手一杯だったのだろう。機械兵の挙動は、お世辞にも俊敏とは言えない。ハードウェアとソフトウェア、どちらも開発が立ち遅れているようだ。
たった二人の『すばしっこい人間』に、機械兵たちは面白いように翻弄されている。その様子を見て、優曇華とマルコは同時に唇の端を吊り上げた
機械兵を操作している人間は、『兵法』を知らない。
味方の数が増えるほど部隊運用は難しくなる。素人でも五秒考えれば分かりそうなものだが、射線上に仲間が重ならないよう、常に立ち位置を確認し続けねばならない。失敗した場合を想定し、予備の作戦を最低二つは用意せねばならない。一点に集中砲火を浴びた場合のフォローは、あらかじめよく訓練しておかねばならない。個ではなく群れとして動けるよう、兵員たちの仲間意識を高めておかねばならない。
だが機械兵の動きからは、それらが一切感じられない。一度密集陣形の内側に入られてしまったら、『反射的に手を伸ばして捕まえる』以外の対処法がないのである。機銃を使えば同士討ち。ミサイルを撃てば同士討ち。エンジンカッターを振り回せば仲間に当たり、追いかけようと駆け出せば仲間にぶつかる。
真正面から戦うつもりでいた王子と悪戯小僧は、全力展開した《死骸曼陀羅図》の後ろで同時に吹き出す。
「どいつもこいつも俺様系糞ニートかよ! チームプレー下手すぎ!」
「いや、いけませんね。私はまた、物事を四角四面に捉えてしまっていたようです。イサナさんたちの練度で生き延びて来られたことを、よく考えるべきでした」
「頭数だけ揃えても、使い方が滅茶苦茶!」
「ええ、これでは子供の喧嘩です」
「てゆーか兄貴? こんなクソロボでお子ちゃま攻撃する連中、どう思う?」
「反省を促すべきだと思います。場合によっては、武力を以って」
「全面同意。どこから操作してんのか分かれば、俺が直接行くんだけどなー」
「亜空間ゲートですか?」
「うん。俺、特異体質でさ。どこにでもゲート開けるんだ」
「便利ですね」
「女湯も女子更衣室も覗き放題!」
「優曇華さん、それはいけませんよ。犯罪です」
「えー! 兄貴ちょっとお堅すぎでしょー!」
「いいえ、ちっとも『お堅い話』ではありません」
マルコは優曇華の手を取り、まっすぐに目を見て言う。
「優曇華さん、これは大切な話なので、よく聞いてくださいね? 覗きや痴漢の被害者が負う心の傷は一生ものです。一度被害に遭ってしまえば、もう二度と、安心して着替えることも、公衆浴場に出かけることもできなくなってしまいます。加害者本人を恐れることは勿論、被害にあったその場所、その状況自体が、『恐怖の記憶』とイコールで結ばれてしまうからです。ほんの一瞬の悪ふざけで、誰かの一生を台無しにすることは許せません。優曇華さん、これからは、そういうことをしてはいけませんよ? 分ってくれますね?」
「その、えっと……そうなの……?」
「はい。貴方が面白がって笑っていても、貴方から見えないところでは、傷付き、涙を流している女性がいるかもしれません。貴方は、女の子を泣かせて楽しいですか?」
「……楽しくない。女の子は、笑ってるほうが可愛いし……」
「それなら、せっかく素晴らしい才能に恵まれたのですから、それを活かしましょう。手品師やジャグラーのように、自分以外の誰かを楽しませる悪戯を考えるんです。みんなをあっと驚かせて、その後に一緒に笑えるような、面白おかしい悪戯です。どうです? そのほうが誰かに迷惑をかける悪戯よりも、ずっとずっと素敵でしょう? ね?」
「……兄貴、なんでそんなに、ちゃんと叱ってくれんの?」
「はい?」
「母ちゃんは俺のこと産みっぱなしで放置だし、父ちゃんはフラッと出たきり帰ってこねえし、じいちゃんとばあちゃんは『なんでうちの孫は日本人じゃないんだ』って陰でコソコソ言ってるし、学校のセンセーは完全に外国人扱いしてくるし……誰もさ、俺のことなんか、まともに相手してくれなかったんだよ。兄貴、今日会ったばっかなのに、どうしてちゃんと叱ってくれんの? なんで?」
「理由が必要ですか?」
「え?」
「私は、私の従兄弟に幸せになってもらいたいだけです。誰かと一緒に笑えたら、幸せでしょう? 少なくとも私は、貴方と一緒に笑えたら、とても幸せな気持ちになると思います。それでは理由になりませんか?」
「……そ、その……あの……」
「優曇華さん?」
マルコは優曇華の両手をギュッと握りしめ、真正面から優曇華の顔を覗き込んでいる。
優曇華には、兄弟以外の誰かとこんな至近距離で会話した経験がない。そしてそれ以上に、何の屈託もなく「幸せになってもらいたい」と言われたことがショックだった。こんなにも無邪気に他人の幸せを願える人間がいるのかと驚き、その驚愕の余り、脳が情報処理を放棄した。
嬉しさと、恥ずかしさと、言いたいことと、訊きたいことと――あらゆる思いがいっぺんに溢れ、優曇華はその中で、一番大きな思いを口にする。
「お、俺も……兄貴と一緒だったら楽しそうだなって……たぶん……じゃなくて、ゼッタイ……」
赤面しながらうつむく優曇華があまりにも可愛らしく思え、思わずマルコも照れてしまう。
「わ、私たちは、もっと早く知り合えていたら良かったですね……。これまでの分まで、これから取り返していきましょう。ね?」
「う、うん! そうだね!」
こんなハートウォーミングな会話が繰り広げられていることなど知る由もない機械兵たちは、禍々しい髑髏柄の巨大スケートボードに銃撃を続けている。
そして同時に、この厄介な盾に逃げ込めないよう、後続四人への攻撃も強めているのだが――。
「なるほどのう! この妖術、あの南蛮人の言うとおり、鉄砲の弾を弾きよるわ!」
「当たらねえんなら、問題はねえって事ヨ!」
「さすれば、為すべきことは一つ!」
「打って出るぞ!」
それぞれ戦国時代の僧兵、幕末の志士、日露戦争時代の軍人、太平洋戦争時代の海軍将校である。少女たちよりも、機械兵の操縦者たちよりも、彼らはずっと『戦慣れ』していた。
敵が仲間との合流を阻止しようとするのは当然のこと。ならばそれを逆手にとって、自分たちは『合流したくてもできないフリ』をすれば良い。それまでマルコたちのほうへ向かって走っていた四人は、くるりと方向を変え、機械兵たちから離れるように背中を向けた。
こんなあからさまな誘導に引っかかる軍人はいない。が、機械兵の操縦者たちは、本当にただの素人だった。彼らの動きを『勝てないと思って逃げ出した』と判断し、二十数機が陣から離れ、彼らを追う。
これにより、状況は八対三百から四対二十へ。これなら一人で相手にする数はたったの五機でいい。敵を十分に引き付けたところで、四人は攻勢に転ずる。
「食らエエエエエェェェェェーッ!」
「そこだっ!」
「チョロすぎだぜ!」
「オラオラオラオラオラアアアァァァーッ!」
機械兵に関する知識は少女たちが、効率的な戦い方は英霊たちが知っている。少女と先祖の能力がピタリと噛み合い、二十機の機械兵はあっという間に機能停止に追い込まれた。
操縦者たちがこの四人の戦闘力を脅威に感じたころには、既に次の作戦が始まっている。
四人は近くのビルに駆け込む。
操縦者側からは、連続した戦闘を回避するため、装備と呼吸を整える時間稼ぎのように見えた。だが彼らの動きをよく観察すれば、その可能性はゼロであると気付けたはずだ。
彼らの動作には一切の無駄がない。つまり、体力の消耗を最小に抑えているということだ。
十分な余力があって、あえて遮蔽物の裏側に姿を隠す。これを罠と見抜けない愚か者の末路はひとつである。
機械兵の中で、屋内戦に特化した十二機が建物内に突入する。これは本体内蔵型の機銃に加え、小型のエンジンカッターを一丁ずつ装備している。
英霊たちの狙いはこれだった。
「来たぞ赤音沢! 俺に続け!」
「了解、御剣!」
「檜出殿! 我らは後備えを!」
「相分かり申した、紫園寺殿!」
彼らが隠れたのは、東京タワー近くのオフィスビルの一つだった。狭いエントランスから続くのは細い通路のみ。どの部屋に入るにも、階段を上るにも、まずはこの細い通路を通らねばならない。数の優位性を活かせない状況に追い込まれたことにも気づかず、機械兵は通路の奥へと進んできた。
と、通路を曲がったところでアカネとイサナを発見。二人に向かって突撃する。
二人は真正面から迎え討ち、先頭の一機を撃破。すかさずすぐ後ろに迫る二機目への攻撃を開始する。
その隙に、ヒスイとシオンは一機目の装備していたエンジンカッターを奪い取る。
「いかがなものか、紫園寺殿!」
「いいぞ! 使えそうじゃ!」
「これなら、某らの得意な形に持ち込むこともできようぞ!」
「ああ! 儂らの時代にも鉄砲はあったが、どうにも好かん!」
「まったくもって!」
紫園寺は戦国時代の僧兵、檜出は幕末の志士である。銃と大砲はあったが、やはり慣れた武器は刀や薙刀なのだ。
「御剣殿! 交代じゃ!」
「赤音沢殿! 後ろへ!」
エンジンカッターで武装した紫園寺が前列に出た。
金属製の扉や自動車の躯体を切断できるエンジンカッターなら、同じく金属の塊である機械兵も攻撃できるはず、という発想だ。
はたして、彼らの予想は正しかった。
イサナとアカネが電気銃を撃ち、ほんの一瞬動きが止まったところに紫園寺がエンジンカッターを突き立てる。すると機械兵の装甲はあっけなく貫かれ、盛大に火花を散らして爆発、機能停止した。
電気銃だけで完全停止させるには何発も撃ち込む必要がある。しかし、エンジンカッターで止めを刺せれば――。
「いける! いけるぞこれは!」
「檜出殿も、早うそ奴から!」
「応とも!」
二機目の機械兵からエンジンカッターを奪い取り、檜出は紫園寺と並び立つ。
狭い屋内でも使用できるよう、小型軽量設計にしたことが裏目に出た。機械兵にしか扱えない大型兵器と違い、これは少女の細腕でも十分に取り扱える武器である。
狭い通路の奥まで入り込んでしまった機械兵は、いまさら後退もできない。前から順に一機ずつ、電気銃&エンジンカッターの必殺コンボで駆逐される破目になった。