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魔法陣設計技師の弟子  作者: もち
1-1 出会い
8/10

 アデールは宿に泊まった事も無かった。糊の利いたシーツに挟まれ、しとしと降る雨が雨樋を落ちる音を耳に、いつもと違う寝床に眠れないなか考えていた。

 今日は日が暮れていたし、家に帰るのは無理だった。だからこうして宿に泊まっているけれど、明日になったら森の家に帰るのかというと、とても微妙な気持ちだった。

 暗闇の中でパッチリと開いた瞳で隣のベットで休む、ルーファスの背中を見つめる。

 そもそもちゃんとお礼をしていない。胸元にある魔道具をアデールは握りしめた。

 夕飯も宿代も全部ルーファスが出してくれた。流石に悪いので、それは返さなくてはならないと思った。

 それに加えてこの魔道具だ。お礼を言うだけで済ましていい事ではないとアデールは思った。

 そしてルーファスの身におきた不思議な出来事。アデールは本来なら、ルーファスを家族の元へ送り届けるはずだった。本当なら家族と楽しいひと時を、今頃ルーファスは過ごしていたのだ。

 何ができると言うわけではないが、一人にはしたくはなかった。これからどうするのか聞く事は躊躇われたが、どうするのか分かるまでは見届けたいと、アデールは考えていた。



「さて、どうしたものかな?」

 朝食を食べ終えるとルーファスは呟いた。宿は朝食付きだったようで、宿の部屋で食事を取った。

 アデールは昨日食べた夕飯の方が断然美味しかったと思いながら、肥えてしまった舌でパンをちびちびと食べていた。

「仕事を探すのかい?」

「そうだなー……、探すと言うか、企業し直す」

「きぎょう?」

「んー、仕事は魔法陣設計技師って決まってるからな。雇われるんじゃなくて仕事の拠点を作りたい」

「でも、お金ないんじゃないのかい? 家に帰ればいくらか僕も蓄えはあるけど、そんなには無いなあ」

 ルーファスは笑って、アデールの頭を乱暴に撫でる。

「出資者を探すさ。生憎、俺は優秀な魔法陣設計技師でね。それをよく知っている相手に手紙でも書くさ」

「その人が昨日あてがあるって言ってたやつかい?」

「ああ、そうだ。昔から色々世話になってたし、今どうしてるかも気になる……。それはそうとアデール」

「なんだい?」

「お前の身の振りなんだが……」

「しばらくは王都にいたい! お金なら少しはあるよ! もし、ルーファスに持ち合わせが無くなっても大丈夫。最悪森で獣を狩ってお金にする、今弓矢を持ってないけど得意なんだ」

 捲し立てるように話すアデールに、苦笑いを浮かべながらルーファスは答えた。

「はは、お金の心配はいらない。あてがあるって言ってるだろ? そんな事よりこれからの暮らしの事だ。王都にいたいなら丁度良いかもしれない。孤児院に行ってみないか?」

「孤児院?」

「そう、モリス大聖堂に付属している孤児院で、俺もそこの出身なんだ。だから俺はモリスっていうんだ。司教様が良い人……だったんだが、今はよくわからないな……」

 口にしてからルーファスは気がついた。息子に子供が三人いるほどの月日が経っているのだ。

 自分を可愛がってくれていた司教様は、当時でもうかなり歳を召されていた。生きているわけがない。

「……ともかくだ、見学にでも行かないか?」

「……別に暮らしに困っていないよ」

「そうかもしれないが……、森で一人で暮らすの大変だろう? それに危険だ。何かあった時に頼れる人がそばにいないのは、心許ないだろう?」

「……」

「見学だけだ。別にそこで必ず暮らさなくちゃ行けないわけじゃない。便箋を買うのに雑貨屋が開くまで時間がある。暇つぶしにさ。そういう所もあるって知っておくのは悪く無いだろう? アデール、そんな顔をするな。暮らす場所を確保するだけだ。会えなくなるわけじゃない」

 アデールの頭を、またぐしゃぐしゃとルーファスは撫でた。

 優しそうに目を細めるルーファスを、アデールは見つめ返していた。そんな顔と言われたが、どんな顔だか見当がつかない。不満でわない。当たり前だと納得できる。

「……わかったよ」


 偏屈な祖母が亡くなった時に、村の人達にも言われていたのだ。王都の大聖堂を頼ってはどうかと。

 アデールはその時も平気だと言ったのだ。年老いた祖母は仕事など出来なくなっていた。そのうえ身の回りの世話もしていたのだ。何も困らないと思った。

 でも実際一年ほど一人で暮らして、一人では生きていくのが大変だと知ったのだ。何かあっても相談すらする相手がいない。自分の行動を監視する人がいない。

 自堕落になっていくのを感じていた。だからこそ仕事を放棄して、あの洞窟にも入ったのだ。

 あのまま森で一人過ごすのは良くない。自分でも感じていた事だ。

 でも納得できても悲しいのだろうとアデールは自分で思った。

 ルーファスの為にできる事は何もないと言われたような気がして。

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