悠と濁音
日も傾きかけてきた頃。凛は一階のリビングらしき部屋でもてなされていた。といっても、緑の棒状の野菜だけ。皿を置くと美少女は対面して席に座る。
「まだ自己紹介してなかったね、私は悠、この家で、今は出かけている2人と一緒に暮らしているの、少ないけど家畜とかもいる、私は畑担当だけどね。どう、凛?少しは落ち着いた?」
「うん、ありがとう、さっきはみっともない所を見せてごめん」
「みっともない?なんのこと?怖い思いして泣くのは当然のことだと私は思うよ、何も恥ずかしがることなんてないよ」
そう言いながら優しく微笑みかける。凛はもう一度抱きしめたい衝動に駆られた。
「凛は野菜好きかな?これ、私が育てたやつなんだけど、良かったら食べて、嫌いだったら無理して食べなくてもいいから」
幸いなことに、凛は特に嫌いな食べものはないので、ありがたくいただくことにした。
「美味しい」
味は明らかにアスパラガス、オイスターソースか何かで味付けをしてあるような味だった。
「そう、それは良かった、これはアスハラカスって言う野菜なんだけど知ってるかな?今が旬なの。今はこれで我慢してね、もう少ししたら2人が帰ってくるから、そしたら晩ご飯にしましょう」
アスハラカス?なんだその、丸と点々取った名前は。
「まだ聞いてなかったけどあなたどこから来たの?」
「えーっとそれは、なんというか、地球ってわかりますか?それの日本って国から来たんですけど」
悠が不思議な顔をする、そりゃそうだ、この星は異世界なのだろうから。
「ちきゅう?ちぎゅう、の言い間違いじゃなくて?にほん、というのは、にぼん、のこと?」
何を言っているんだ、悠は。さっきから濁点と半濁点がめちゃくちゃなような。
「えっと、ちぎゅう、って何ですか」
「ちぎゅうは、この星の名前、にぼん、は、昔あった国の名前」
「えーっと、アメリカ、ロシア、イギリス、インドって国の名前聞いたことありますか?」
「少し違うけど、アメリガ、ロジア、イキリス、イント、って国なら昔あったはずだよ」
なるほど、と、凛は思った。どうやら、この世界は国名など固有名詞の濁音、半濁音がめちゃくちゃなようだ、昔は、というのも気になるが、まあ、新しい言葉覚えるよりはずっと楽だからいいか、イキリスって、イキってるリスかな?
「すみません、やっぱりどこから来たかわかりません」
「どこか行くあてはあるの?」
「ありません」
「そう」
少ししょんぼりする凛を見ると悠は机に手をかけ、立ち上がった。
「凛、私たちと一緒に暮らさない?いろいろ手伝ってもらったりもするけど、それに」
悠は凛に近づき手を取ると、微笑みかける
「凛はなんか危なっかしくて心配になる、魔力もないみたいだし、また、狼に襲われたくないでしょう?」
あっ、と気づくと、悠がバツが悪そうな顔をする。
「ごめんなさい、冗談でも言ってはいけないことだった」
凛は手を離すと悠に抱きつく。
「大丈夫です、悠さんのおかげでもう落ち着きました、迷惑かもしれませんが一緒に暮らさせてください」
「もちろん」
耳元で優しく言葉が響いた。二本のバラのような、そんなイメージの匂いが鼻をつついた。
ハデスは最弱は運がいいと言っていた、狼のことは冗談にならないほど怖かったけど、今の状況を思えば、確かに私は世界一の幸運だとも思えた。
濁音とは、ば、が、じ、などの点々、半濁音とは、ぱ、ぷ、ぽ、などの丸
悠が凛の魔力がないことを知っているのは、緑の魔法陣をはつどうさせたときである
二本のバラの意味は、この世界は二人だけ、など
豆知識だがニホンオオカミの最後の目撃は1905年の1月23日とされる