転生と最弱
ボタンを押したが何か変化が起きることはなかった
「あれ?ちゃんと押したはずなのに」
「どっち押したの?」
サイド・トライセップスのポージングのハデスがポージングを崩しこちらを向いた。
「最弱の方を押しました」
「うっそ、まじか、最弱を選んだのは君で二人目だね、じゃあ、転生始めるね」
そういうと、ハデスは手を凛の方に突き出す
「あの、このボタンの意味は?」
「特にないよ、そういうのあった方が面白いでしょ」
「悪趣味ですね」
半分呆れる凛。
「言語とかはわかるようにしとくね、そんじゃ、向こうで頑張ってね」
・・・
・・・・・・
不思議な感覚、具体的には、目を開けているのに何も見えない、無重力のような浮遊感、金縛りにあったみたいに体が動かない。
ドサッ
「いてっ」
背丈の低いやわらかい草の生えた地面に叩きつけられた。
体も動くし目も見える。起き上がり、周りを見渡す。ヘンゼルとグレーテルに出てくるような恐ろしい森という感じもなく、光が差し込まないぐらい木が生い茂るわけもなく、言ってしまえば見たことのある森の中という感じだった、初めて見る植物や、きみの悪い生物がいるわけでもなく、木が歌い出したりなんてこともなかった。
「あ、あれ、たらの芽だ、小さい頃おばあちゃん家で食べたな」
周囲には、たらの芽、ふきのとう、ぜんまい、など春の山菜がいくつか見られた。
「しかし、あれだな、本当に異世界なのだろうか、日本に戻ってきたのでは?いや、そんなわけないか、ハデスは魔法がどうとかも言ってたし」
色々考えたが、とりあえず、たらの芽を手に取り、少し歩くことにした。ハデスのいうことを信じるなら、今の私は運がいい!
ガサガサ
近くの草むらが、不気味に揺れる。凛は思った、普通はここで魔物に襲われる流れなのだろう、だが、私は運がいいのだ、きっと、茂みから絵に描いたような美少女が現れ私を助けてくれるのだろう、もしくは、美少女のケンタウロスが現れてヒロインの私を背中に乗せて颯爽とこの森を抜けるのだろうか。少しツンデレなツインテール魔女っ子に助けられてもいいな
グルルルル
「へ?」
きっとこの時私は誰が見ても一目でわかるマヌケヅラをしていただろう、期待はあっさりと裏切られ、目の前でうなる真っ黒な狼のような大型の動物に睨みつけられ、凛は腰を抜かした。
「え、うそ、運がいいって話じゃ」
怖い、怖い、心の中で何度も叫ぶ。正常な思考を保つことはできなかった。ジリジリと近づいてくるツノの生えた3メートルはあるであろう黒い狼、うなる口元からは粘性のあるよだれがたれている。
狼は凛の目の前までくると、なんの躊躇もなく左腕にかじりついた。
「え、う、あーーー!」
今まで感じたことのない激痛、ショック死しないのが不思議なぐらいだ、身体中からあらゆる体液が分泌される、耳元で、自分の腕を食らう狼の咀嚼音が聞こえる、グチャ、ボキ、一音一音が耳に入るたび元々正気を失ってる自我がさらに狂っていく。あれ?なんでこんなことになってるんだっけ、あれ? 意識が遠のいていくのを感じる。視界が赤みを帯びてきた。こんなことなら最強にしとけばよかった。
プツリと凛は意識を無くした。
サイド・トライセップス➡︎ボディビルダーの決めポーズの一つ、トライセップスとは上腕三頭筋のこと
たらの芽、ふきのとう、ぜんまい、これらは春の山菜、このことから凛はこの世界の今の気候は春であると仮定